2025年7月14日月曜日

経験価値マーケティングを思い起こさせたパフェ体験

 流通マーケティング学科の丸谷です。70回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行なっていくのか)を専門分野にしていますが、流通マーケティング入門も担当しており、マーケティングに関する事例も収集しています。

 

美しいフォルムのパフェ

 私はケーキ屋さん巡りが趣味でしたが、コロナ禍以降はイートインのお店が減少したこともあり、出来立てのスイーツを食べられるパフェ屋さんを頻繁に訪ねるようになっています。コロナ前より通っている定期的に通ってパフェの奥深さをいつも感じさせてくれるアサコイワヤナギ、食べるときの演出も楽しい上野毛のラトリエアマファソン、関西発チョコですが東京でもチョコの奥深さを感じさせてくれる東京駅のショコラティエパレドオール、自宅から近く数回に一度なるほどとうなる組み合わせを堪能できる西荻窪のの台湾風パフェが有名な金木犀茶店、名店シンフラがある志木駅近くに最近開店したCOLOLIEまでかなり幅広い多様な個性のお店がパフェを提供しています。今回はこ数回訪ねている南砂町にあるKUNON Baking Factoryで最近再び注目を集めている経験価値マーケティングにまつわる体験をしたのでとりあげたいと思います。

 

経験価値マーケティングの代表的研究者であるシュミットは、体験を意識的にデザインし、顧客価値を向上させることを提唱し、「経験」 を軸に企業がマーケティング戦略の構築や目標を定めるためのツールとして「戦略的経験価値モジュール(SEM)」を提示しました。このモジュールでは、経験価値の構成要素を、「SENSE (感覚的経験価値) , FEEL (情緒的経験価値)THINK(知的経験価値) , ACT(行動的/肉体的経験価値) , RELATE (関係的経験価値)」の5つに分類し、これらの要素を長沢・大津(2022)はキーワードや例をあげてわかりやすく示しています。

今回のパフェ屋さんでの体験から得られた経験価値を、上記の5つの価値に当てはめて私なりに考えてみました。

SENSEにあたるのが、パフェの美しさです。私の写真は技術が高いとは言えないですが、それでもパフェの写真を見ると、今回のパフェの造形が素晴らしいことはわかるはずです。パフェにとってインスタ映えすることは今や最重要なことかもしれず、素敵な写真をみるだけでいつも癒されてしまいます。

パフェのメイン食材クラウンメロン

FEELにあたるのが、素材の豪華さです。今回のメイン食材であるクラウンメロンは非常に高価な食材であり、店主の久野さんがその食材のすばらしさや豪華さについて教えてくれました。私はかつて愛知県の大学で勤務していた際に、静岡のメロン農家の息子さんがゼミ生だったので、クラウンメロンのすばらしさや豪華さについては個人的にも伺っていましたので、テンションがあがりました。

 THINKにあたるのが、店主さんの地元静岡の食材へのこだわりです。クラウンメロンだけではなく、店主さんは静岡の食材にこだわっており、前に伺った際にも出身地の食材にこだわってるのが非常に素敵だなと感じ、ファンになりました。

 

パフェの味を変化させる名脇役のワサビ

ACTにあたるのが、味変のトッピングとして用いるワサビを自身ですって適量トッピングする過程です。実際にワサビをするのは大変ですが、自身てすったワサビからは愛着も感じられますし、ワサビのすりかたやわさびのすった部分ごとの細かい味の違いが実感できました。

 RELATEにあたるのが、季節ごとに新たな経験をできる各回定員3人の限定した取り組みを継続的に行うことでこだわりパフェのコミュニティを構築しているといえます。

パフェの提供には1時間以上かかり、定員も各時間帯3名となっているため(前は4名だったみたいですが、今回3名でした)、予約が必須ですが、非常に魅力的な経験をできるお店でパフェを通じた素敵なコミュニティで楽しい時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。次回(7月12日から8月9日までの予定のようです)提供の「みしまマンゴーとスパイスのパフェ」も早速予約させて頂きましたが、素材を栽培する様子やパフェ提供過程を紹介するインスタグラムを拝見しながら楽しみにしています。


レトロな雰囲気が素敵な砂町銀座商店街

 お店自体は住宅街にありますが、すぐ近くにあるレトロな商店街である砂町銀座商店街も非日常的な空間で、有名なおでん屋さんもあり、お勧めです。

                  (流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎)

2025年6月30日月曜日

大学ってどんな場所?とある東経大教員の思い出話

 

こんにちは。東京経済大学経営学部の講師をしております,岩田聖徳と申します。


教員の日常を発信しよう!ということなので,ゼミの紹介と,「大学」という場所を伝えるための個人的な思い出話をしてみようと思います。


ゼミって何?

ゼミというのは,少人数で教員とともに研究をする授業のことを指します。


例えば私のゼミでは,「R」という統計ソフトを活用して,経営・財務に関するデータの分析を行っています。


経営学部では,ゼミ研究報告会というものが毎年開催されるのですが,今年もそれをターゲットにゼミ生と研究テーマを出し合っています。


現在の岩田ゼミは,私と4人の受講生で学習・研究を進めています。


数あるゼミの中では人数が少ないほうですが(※さらなる応募を歓迎します!)


この規模だと教員に聞きたい放題,という状況なので,教員とガツガツ議論がしたい!という意欲的な学生さんにとってはむしろ都合がよいかもしれません(笑)




写真は,ゼミ生で研究テーマを持ち寄って意見を出し合っているときの風景です。


昨年から継続履修の上級生が新顔の2年生たちに背中を見せて議論してくれるので,大変頼もしく思っています。


大学ってどんな場所?

大学生活について,あまりピンと来ない受験生の方もいると思います。私も,高校生のときには大学がどういう場所なのか,全く分かっていませんでした。


受験勉強も,なんか沢山暗記しなきゃいけないし,模試の成績が良い友達を見ると焦るし,正直あまり好きな時間ではありませんでした。


強いて言えば,こういう人間が「もっと大学で研究したい!」「大学院行くからもう一回受験勉強する!」という180度回転をしたのが大学という場所であるということを,受験生の皆さんにお伝えしたいですね。


語弊を恐れずカンタンに言うと「興味あるものを好きにやったらいい」というのが大学の勉強です。


授業計画も大きなルールはありますが,数ある選択肢の中から何を選ぶかは皆さんの自由です。


この自由さが,大学1年生の岩田くんにはすごく刺さりました。


ある会社の経営戦略の話を深く聞きたければ専門の先生に質問に行けば教えてもらえるし,ふと法律の話を聞きたくなったらその授業を取ればいい。


先生方はご自身の専門の(※難解な)話をワクワクした表情で話されていて,大学というのは素敵な空間だなあと思ったのを覚えています。理解できたか否かは別の話ですが。


ゼミでの研究って?

また,「研究」という活動が楽しかったです。


誰も答えを知らないものを探しにいく,という知的作業に大学生の岩田くんはワクワク感を覚えました。


特に,東経大は2年生からゼミで研究活動に打ち込むという選択ができる,ゼミに特に力を入れている大学です。


これは一教員の感覚ですが,凄く良いことだと思っています。大事なことなので赤字にしてアンダーラインを入れました。


自分の考えたことを他の学生や教員と詳しく議論してみることで,自分の考え方のどこが他人と違うのか,説得力のある主張をするために何が足りないか,ハッキリ見えてきます。


学生さん目線でも,この体験があるか無いかで,学習意欲が一気に違ってくると感じています。


一教員として私が心掛けているのは,一人でも多くの学生さんに,なるべくなら1年生の最初の時点から,この知的作業のワクワク感や他者の考え方との違いによる「違和感」を感じられるように,講義やゼミを行うことです。


そのためには,教員である私自身の知識もアップデートしなければいけません。ちょうど近々,研究報告のために海外の学会に行ってきます。


そのあたりの話は次回更新にて。


(文責:経営学部専任講師 岩田聖徳)



2025年6月16日月曜日

2025年度も、経営学部ブログがはじまります!

こんにちは。

東京経済大学経営学部で教員をしている鴇田です。


今年度も、経営学部の魅力や日々の学びの様子をお伝えするブログを再開します。

2025年度は、二週間に一度、月曜日に更新予定です。どうぞよろしくお願いします!



このブログの目的は、「東京経済大学経営学部では、どんな学びがあるのか」「どんな雰囲気の中で学生たちが過ごしているのか」を、少しでもリアルに、高校生や受験生の皆さんに届けること、です。



大学案内のパンフレットやWebページにある情報だけでは伝えきれない、日常の風景や、学生・教員のリアルな声をお届けしていきます。



東京経済大学経営学部には、


🌸「経営」「マーケティング」「会計・ファイナンス」などの専門的なコースがあり、 


🌸学んだ知識を活かして考え、行動する「実践力」を身につける授業が数多くあります。  



たとえば、企業の経営者や実務家の方を招いての授業、ビジネスプランを練るグループワーク、実際に企業と協力して行うプロジェクト型の授業などもあります。  


私自身も、春からの授業を通して、学生たちのエネルギーにたくさんの刺激をもらっています。

新しいことに挑戦する姿や、ちょっと緊張しながらも手を挙げて発言してくれる姿に、毎回「これからが楽しみだな」と感じています。  


このブログでは、執筆を担当する先生の専門分野のお話や、ゼミでの活動、そして学生の頑張りなどを、

経営学部の教員がリレー形式で交代しながら投稿していきます!


「経営って難しそう…」 

「マーケティングってなにをするの?」

 そんなふうに思っている方にも、 

「ちょっと面白そうかも」「やってみたいかも」と思ってもらえるような内容を発信していけたら嬉しいです。  



次回からは、具体的な授業の取り組みや学生の声も紹介していく予定ですので、ぜひ楽しみにしていてくださいね。  



それでは、2025年度もどうぞよろしくお願いします!



  (文責:鴇田彩夏)

2025年5月5日月曜日

映画『ボサノヴァ~撃たれたピアニスト』素敵な音楽と南米現代史に触れられる秀作

 流通マーケティング学科の丸谷です。69回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行なっていくのか)を専門分野にしているので、グローバル・マーケティングにおいて重要である海外事情について学習できる映画について紹介してきました。

© 2022 THEY SHOT THE PIANO PLAYER AIE – FERNANDO TRUEBA PRODUCCIONES CINEMATOGRAFICAS, S.A. – JULIÁN PIKER & FERMÍN SL – LES FILMS D’ICI MÉDITERRANÉE – SUBMARINE SUBLIME – ANIMANOSTRA CAM, LDA – PRODUCCIONES TONDERO SAC. ALL RIGHTS RESERVED.

 今回は2025411日にヒューマントラストシネマ渋谷他で公開された南米ブラジルとコロンビアを舞台にしたアニメーション映画『ボサノヴァ~撃たれたピアニスト』について取り上げます。この映画はブラジルを代表する音楽であるボサノヴァの才能あるピアニスト、テノーリオ・ジュニオルが1976年に軍事政権下アルゼンチンの首都ブエノスアイレスに演奏のために訪れた際に、軍部による不当な拘束の末銃殺された事件について、作家が取材していく様子を、アニメーション映画として描いています。

© 2022 THEY SHOT THE PIANO PLAYER AIE – FERNANDO TRUEBA PRODUCCIONES CINEMATOGRAFICAS, S.A. – JULIÁN PIKER & FERMÍN SL – LES FILMS D’ICI MÉDITERRANÉE – SUBMARINE SUBLIME – ANIMANOSTRA CAM, LDA – PRODUCCIONES TONDERO SAC. ALL RIGHTS RESERVED.

この作品の共同監督であるフェルナンド・トルエバと、ハビエル・マリスカルは、キューバ革命前後のニューヨークを舞台にシンガーとピアニストの悲恋をアニメーション映画『チコとリタ(2010)』で描いた経験があり、今作も社会背景と音楽のバランスが絶妙のバランスで描かれています。なお、『チコとリタ』84回アカデミー賞の長編アニメーション部門にノミネートされました。

© 2022 THEY SHOT THE PIANO PLAYER AIE – FERNANDO TRUEBA PRODUCCIONES CINEMATOGRAFICAS, S.A. – JULIÁN PIKER & FERMÍN SL – LES FILMS D’ICI MÉDITERRANÉE – SUBMARINE SUBLIME – ANIMANOSTRA CAM, LDA – PRODUCCIONES TONDERO SAC. ALL RIGHTS RESERVED.

今作は知る人ぞ知るピアニストと軍事独裁政権下という社会背景のバランスの描き方が絶妙であり、今やレジェンド級になっている一流ミュージシャンのインタビューや、演奏も取り入れることで非常に豊かな作品となっています。

なお、今作で用いられた知る人ぞ知る実在の人物に焦点を当て社会背景を浮き彫りにする手法は、監督の過去作の『あなたと過ごした日に』(経営学部ブログ(202274日)で紹介)でも用いられていました。この手法は魅力ある人物を理解していく中で、その人物が生きた時代背景についても好奇心を持てるという意味で非常に有効なのであり、現在放送中のNHK大河ドラマでも用いられています。大河ドラマでは、「蔦屋重三郎」という知る人ぞ知る実在の人物に焦点を当て、描かれることが少ない江戸時代の庶民が置かれた状況について示しています。

私は決して今作の題材となったボサノヴァなどの音楽に詳しいわけではないです。しかし、ブラジルを訪れた際に聞いたボサノヴァの名曲については記憶があり、作品の随所で使われています。ボサノヴァのいい感じのゆったり間が作品の描く世界観と非常にマッチしており心地よく鑑賞できる作品でした。社会背景となっているアルゼンチンやブラジルの軍事政権下での人権弾圧に関しても学べる内容にもなっており、南米に関心のある皆さんにはお勧めの作品です。

(文責:流通マーケティング学科 丸谷雄一郎)






2025年3月10日月曜日

欧州大陸でコストコの出店ペースが唯一早いスペイン

 流通マーケティング学科の丸谷です。68回目の執筆です。私は「グローバル・マーケティング論」を専門としており、海外でどのようにマーケティングを行うかについて研究しています。年2回ある授業休止期間を利用し、海外現地調査のために出張してきました。このブログでは、米国、インド、中国、チリ、ペルー、ブラジル、ケニア、ガーナ、英国など多くの国々での出張について取り上げてきました。今回は昨年8月にスペインにて現地調査してきたの取り上げます。

スペインマドリード郊外ラス・ローサス倉庫店の外観

コストコはアメリカ出身で会員制の倉庫型店舗を海外にも展開しています。同社の国際展開は他の企業に比べてゆっくりで、市場機会をどん欲に求めるというよりは、石橋を叩いてわたるペースです。私はこの進出ペースを、漸進的(ぜんしんてき)という表現で表しています。同社のヨーロッパの展開での展開は1993年にコストコの前身の会社が既に進出した母国アメリカの旧宗主国でつながり強いイギリス以外ではこれまでなく、2014年のスペイン進出が大陸出店ということでは初めてとなります。それ以降2017年アイスランドとフランス、2022年スウェーデンと少しずつヨーロッパでも出店国を拡大していますが、各国の出店ペースはゆっくりで、出店後の時間があまりたっていないこともありますが、フランスがパリ周辺に2店舗目を出店した以外は1店舗のみです。2014年進出のオーストリア19店舗、2019年進出の中国では7店舗なので、ヨーロッパの出店ペースがゆっくりといえるでしょう。

コストコのスペインにおける店舗

 スペインは出店ペースがゆっくりなヨーロッパの中では出店ペースが唯一早くなっています。1号店は2014510日にスペイン第4都市南部アンダルシア州セビリアでした。2-3号店は2015年と2000年に首都マドリードに、4号店は2021年にバスク州ビルバオに、5号店は20249月にアラゴン州サラゴサに開店し、今後2025年バレンシア州パレルナ、2026年アンダルシア州マラガに出店予定です。地元報道によればコロナ禍でこれでも少し遅れているようですが、上記出店が順調に進むと仮定すれば、スペインの主要7大都市であるマドリード、バルセロナ、バレンシア、セビリア、サラゴサ、マラガ、ビルバオのうち、バルセロナを除く6都市に出店することなります。

 今回はマドリード近郊の3号店ラス・ロハス店にうかがいました。基本的な品揃えは維持しつつも、食が豊かなスペインだけあり、同じヨーロッパのイギリスと比較しても、肉魚野菜の生鮮三品の充実は明らかでした。オレンジなど自国産の柑橘類やオリーブに関してはいうまでもなく、肉では大人気のイベリコ生ハム、魚ではスペイン出身のオルティス社のマグロなどを品揃えし 、日本の寿司に近い寿司を店内調理でちょうど大量に作っていました。 

食文化の豊かさをスペインの特徴に適用した店内

 ちなみに、スペイン小売で圧倒的シェア1位のメルカドーナは食品スーパーのみを展開する企業であり、1990年代の独自規制の影響もありますが、売り場を改めて細かく観察して、1次産業が強く、食文化が豊かなスペインの特徴を反映しているとも感じました。

(文責:流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎)










2025年2月17日月曜日

先生、起業したいけれど何から始めていいかわかりません!:経営学を活用したビジネスのつくり方

 経営組織論担当の山口です。今回は、私が研究している新規事業創造の話をしたいと思います。

 最近、東経大でも「起業したい」という学生が増えてきました。しかし、起業したいという人に「どんなビジネスをしたいの?」と聞くと、「それはまだ決まっていません」といわれることも多いのです。

 では、どんなビジネスをするかをどうやって決めればよいのでしょうか?

 ここで問題になるのは、「事業の新規性」です。つまり、誰もがすぐ思いつくようなビジネスは、事業計画自体は立てやすいのですが、既にどこかの企業が手掛けていることが多いため、競争に巻き込まれやすく、利益が上がる状態を作るのが難しくなります。

 他方で、まだ誰もやったことのない新規性の高いビジネス(イノベーションなど)は、競争もないので利益は獲得しやすいかもしれませんが、誰に何をどのように売ればよいかを0から考えなければなりませんし、実際にどれだけ売れるかの見通しも立たないので、事業計画が立てづらくなります。

 このような問題の解決策は、経営学のアントレプレナーシップ研究(起業家研究)やイノベーション研究という領域で検討されてきました。その中で最近注目されているのが、ヴァージニア大学ダーデンスクールのサラスバシー教授による「エフェクチュエーション」の研究です。これは、「新市場創造のような、何から手を付けてよいかわからない不確実性の高いビジネスをいくつも実現してきた起業家は、どのような思考パターンで起業しているのか?」を明らかにしようとしたものです。

 そこで今回は、エフェクチュエーションの研究が、「起業したいけれども、何をしたいかわからない。何から始めていいかもわからない」という人たちに対して、どのような示唆を与えてくれるかを、みていきたいと思います。


1.エフェクチュエーションとは何か?

 従来のアントレプレナーシップ研究では、「全く新しい事業や市場のようなイノベーションを生み出せるのは、特別な資質を持っている人や、特別な機会に恵まれた人だ」と考えられてきました。サラスバシー教授は、これに対して「本当か?」と疑問を持ち、アメリカで何社も起業している起業家27人の調査を通じて、彼らの起業の意思決定には共通のパターンがあることを発見しました。

 つまり、将棋に定跡があるように、起業のための思考にも定跡があることを明らかにしたのです。この起業の定跡のことを、サラスバシーは「エフェクチュエーション」と名付け、この定跡を学べば、誰でも新しい市場を創造できると主張しました。

 エフェクチュエーションの特徴は「高い不確実性に対して予測ではなくコントロールによって対処する」点にあります。

 簡単に言えば、これまでにないイノベーティブな製品・サービスを売ろうとしたときに、それを誰が買ってどのように使ってくれるかを事前に正しく予測するのは不可能です。そこで、起業家たちは、買ってくれそうな人を予測するのではなく、むしろ今できること(=自分がコントロールできること)や今協力を頼める人との関係を積み重ねることを通じて徐々に顧客を増やしていき、その結果、当初予想もしなかったような新しい市場を作りだしている、というわけです。

 エフェクチュエーションの主な内容は、以下の5つです。

起業の定跡:エフェクチュエーションの5原則


手中の鳥の原則:目的に合わせて手段を選ぶのではなく、今とれる手段に合わせて目的を作る


許容可能な損失の原則:利益最大化の方法がわからないときは、損失が許容範囲におさまる行動を選ぶ 


レモネードの原則:予期せぬ事態が起きたら、それをうまく活用してチャンスにする


クレイジーキルトの原則:関与してくれる人を増やし、それらをつなぎ合わせてビジネスを作る


飛行機のパイロットの原則:将来を予測できないときも、その状況でできることを積み重ねて望ましい状態を作る


2.エフェクチュエーションによる新市場創造の事例

 エフェクチュエーションの5原則が起業とどうかかわるのか、イメージしづらいと思いますので、ここでは、実際に新市場を創造して起業した事例を通じて、5原則が起業プロセスでどう使われているかを説明しましょう。

 取り上げるのは、ピアノメーカーの調律師から転身して起業し、新しい市場を創造した、ピアノクリニックヨコヤマの横山彼得さんの事例です。

(以下の事例は、Youtubeの横山さんのインタビュー動画「良い音が音楽好きな子供を育む~調律師・横山彼得~」に基づいています。起業に興味がある人にはこちらの動画もおすすめなので、是非検索してみて下さい。)


(1)横山さんがピアノショップを開業した経緯(レモネードの原則・飛行機のパイロットの原則・許容可能な損失の原則・クレイジーキルトの原則)

 横山彼得さんは、ピアノメーカーに勤務する調律師でした。メーカーの調律師は、1日に何件ものお客さんをまわってピアノの調律を行います。しかし、「もっと時間をかけて1台1台をしっかりメンテナンスしたい」と考えた横山さんは、27歳で独立しました。

 ところが、ピアノのメンテナンスをしっかり行うには、高度な調律技術が必要です。そこで横山さんは、当時はお客さんも少なかったため、一流の調律師の仕事方法を学ぼうとコンサート会場の楽屋口などに張り込み、ホールのピアノの調律に来た調律師さんに「仕事のやり方を見せてください」とお願いしたりして、調律技術を高めていきました。

 そうして技術を高めていくうちに、横山さんの顧客にもピアノ教室の先生が増えていき、その先生たちから「生徒さんのピアノがいい音になるように調律してほしい」と頼まれるようになりました。そこで生徒さんの家に行ってみたところ、「なんでこんなピアノを買ってしまったんだろう」と思うような、非常に良くない状態のピアノに立て続けに出会うことになりました。

 「調律だけではいい音にするのが難しいピアノを使っている人が多い」という予期せぬ事態に直面した横山さんでしたが、こうした調律の限界にめげず、むしろ「調律のもっと前の段階で、良い音のするピアノを提供できないか」と考え、神奈川でピアノショップを開業することにしました(→レモネードの原則・飛行機のパイロットの原則)

 さらに「ショップを出すからには、いいものを置きたい」と、ヨーロッパのピアノをメインに仕入れることにしました。ところが、当時の横山さんにはそれを仕入れるだけの財力がありません。そこで、色々なピアノ輸入元にかけあって、一定期間ピアノを貸し出してもらって売り出すことにしました(→許容可能な損失の原則・クレイジーキルトの原則)


(2)ピアノ教室を構想した経緯(手中の鳥の原則)

 こうしてピアノショップを開業した横山さんでしたが、しばらくたつと、また新たな問題が出てきました。せっかくピアノを購入してピアノを習い始めたのに、数年ですぐやめてしまう子供たちにたくさん出会うことになったのです。「どうしてすぐにやめてしまうのか?せっかく習い始めたなら、一生涯楽しく続けてほしい」と考えた横山さんは、調律の仕事をする中で、生徒さんと先生を注意深くみていくことにしました。

 まず、生徒さんについては、調律に行くお客さんの中で、すぐピアノをやめてしまう人たちと長く続いている人たちには、どのような違いがあるのかをみるようにしました。その結果、長く続いている人には「小学校低学年からピアノを始めて、5~6年生、もしくは中学の早い段階で、ショパンやベートーヴェンなどの名曲を弾けるようになっている」という共通点があることがわかりました。

 次に、ピアノの先生については、ピアノ教室の発表会の調律に行く中で、小さい子供の生徒しかいない先生(つまり、生徒が大きくなるまで習い続けていない先生)と、子供から大学生・大人まで幅広い生徒がいる先生がいることに気づき、これらの先生の間の違いを調べました。その結果、小さい子供の生徒しかいない先生は、先生自身があまりピアノを弾いていない傾向があることがわかりました。

 このようなことがわかるにつれ、横山さんは「よくピアノを弾いていて、音楽的な良い音で弾ける先生を集めて、子供たちが長く続けられるピアノ教室をつくろう」と考えるようになりました(→手中の鳥の原則)


(3)ピアノ教室を開業した経緯(許容可能な損失の原則)

 そこで、まずはピアノショップの一角に防音室を作り、ヨーロッパ製のアップライトピアノを1台置き、ピアノ教室用の場所を確保しました(→許容可能な損失の原則)

 それから、ピアノの先生を募集する広告を出しました。1回目で50人ほどの応募者があり、履歴書で30人に絞った後、面接とピアノを実際に弾いてもらう試験を行いました。その際には、信頼できるピアノの先生に立ち会ってもらい、4人を採用しました。

 最初は生徒がなかなか上達しないなどの問題もありましたが、色々試行錯誤するうちに、1年目20人、2年目40人、3年目60人・・・と生徒が増えていき、店の片隅の一部屋ではレッスンが回らなくなったので、マンションの一室を借りてレッスン室を増やしました。25年たった現在では、ピアノ教室のための建物を借りて5つのレッスン室を設け、それぞれに異なるヨーロッパ製ピアノをおくようにしています。生徒も、神奈川・東京・埼玉・千葉はもとより、福島、滋賀県などの遠方からも来るようになり、全部で100人くらいの生徒が集まっているそうです。


(4)事例のまとめ

 この事例において、調律師だった横山さんは、ピアノの調律(メンテナンス)と、ヨーロッパのピアノを扱うピアノショップ、ピアノ教室を組み合わせることで、「生涯音楽を愛する子供が育っていくのをサポートする総合ピアノサービス」の新たな市場を作り出しました。

 ここでのポイントは、横山さんが最初から、「ピアノの調律とピアノショップ、ピアノ教室を組み合わせて、生涯音楽を愛する子供を育てるサービスをつくれば、儲かるだろう」と予測して、これらのビジネスを始めたわけではないということです。調律をする中での様々な顧客との出会いが、横山さんの「生涯音楽を愛する子供を育てるにはどうすればよいのか?」という問題意識を生み出し、進化させ、最終的にこのような独自の市場を作り上げたのです。


3.起業したい人が大学で経営学を学ぶ意義とは?

 さて、この事例を読んで皆さんはどのような感想を持ったでしょうか?「自分にできることを積み重ねることで、意外と手堅く起業できるんだな」、「問題意識をもって日々の仕事をすることが、起業につながることもあるんだな」と考えた人もいるかもしれませんし、中には「あれ?起業は、別に経営学を知らない調律師さんでもできるの?じゃあ、大学の経営学部で学ぶ意味は何だろう?」と思った人もいるかもしれません。

 確かに、起業自体は、特に資格が必要なわけでもないので、誰でもできます。しかし、起業を「うまく」行うためには、それなりの知識・スキルが必要ですこれは、エフェクチュエーションの研究で、何社も起業している熟達した起業家は、将棋のプロが勝つための定跡を習得しているのと同様、起業の定跡を身につけている、と指摘されている通りです。

 さらに、エフェクチュエーションの理論は、起業したいが何をすればよいかわからない、という人に対し、「儲かる機会」は「探す」ものではなく、自分の強みを活かし、今できることから行動を始めることで「作り出す」ものだ、という示唆を与えてくれますこれは常識的に考えていたのでは決して出てこない考え方でしょう。このような、起業を「うまく」行うための知識・スキルは、大学で学んでおいた方がよいと言えます。

 東経大の経営学部では、1年次では市場予測に基づいて戦略的にビジネスを計画していくオーソドックスな方法も学びますが、2年次以降は今回ご紹介したような、オーソドックスな方法の真逆を行くような最先端の方法も学びます(授業だけでなく、例えば私のゼミでは、ゼミ生の希望があればこのような理論を学ぶことができます)。これらの両極端の理論を含む様々な理論を学ぶことの意義は、それらを「手中の鳥」としながら、起業したい皆さんが自分で理論を組み合わせ、自分なりのビジネスのつくり方を確立していけるようになる、ということです。

  東経大の経営学部では、起業を「うまく」行うための知識・スキルを獲得できるようサポートするカリキュラムとして、2025年度から、アントレプレナーシップ養成プログラムが開講します。是非これを活用し、社会をよりよくするビジネスを作っていっていただければと思います。

 (東京経済大学経営学部准教授 山口みどり)

2025年2月10日月曜日

ゼミ選びのポイント(小木ゼミ通信 Vol.46)

 マーケティング論、ソーシャルマーケティング論、消費者問題を担当しています、小木紀親です。46回目のブログとなります。


 最近、消費者問題のなかで、金融教育を教えることもあり、株、株主優待、投資信託、不動産などを中心とした投資全般を実践しつつ(節税などを含めた税システムなども)、それを授業にも活かしております。結論的には、最終的にはタマ(資金)をたくさんもっている輩の方が勝てるんだなと身も蓋もないことを思うのですが、一般的に投資をしたい人は、まずは徹底的な節約で資金を貯めつつも長期的に運用するのが良いかなとひとりごちている由です(個人的見解ですので、そのあたりはご了承ください)。

 そんな中、24年末にスタートした「カブアンドピース」のビジネスモデルには、24年の中でもっとも唸った出来事のひとつでした(私は、すでにふるさと納税、電気、ガスなどで参加)。到ってシンプルなビジネスモデルだけど、やはりビジネスは行動力がものをいう世界だとM澤氏から学びました。たいへん勉強になりました。

 さて、今回は、季節柄、ゼミ選びのポイントを中心にお話しします。最後に、小木ゼミ通信も掲載します。


◆ゼミ選びのポイント

 そろそろゼミ選びの時期になってきましたね(経営演習・経済演習・総合教育演習は、本年度は3月17日、18日、19日が選考日で、エントリーはその前にあります。お忘れなきよう、自分でチェックして下さい)。コロナ時期には、小木ゼミのオープンゼミ(3回ほど開催)になんてほとんど来なかったのですが、今年になってゼミ連さんも頑張ってくれたからでしょうか、2020年~2023年の各5名ほどから、今年は15名ほどの1年生が来てくれました(別に個人面談は10名ほど行いました)。ようやく通常運転に戻ってきたような感じです。

 なんだかんだ言って、ゼミ選びはとても大切だと思います。おそらくこの記事を見ている1年生は問題ないのでしょうが、見ていない多くの無関心層にも是が非でもみてもらいたい!という想いを込めて、私が思う、ゼミ選びのポイントのベスト3を紹介したいと思います。


【第3位】:「やりたい(勉強したい)領域か、やりたい研究か」です。学生のゼミ選びをみていると、とにかくこれしか見ていないという感じです。この点は、とても大事ではあるのですが、私にとっては1・2番ではないですね。

【第2位】:「先生やゼミの雰囲気が自分にあっているか。耐えていけるか。」です。長くゼミを続けていくためには、先生との相性、ゼミとの相性はとても大事です。どちらかというとやりたい領域よりもはるかに大事かもしれません。だからオープンゼミや経営学部ゼミ研究発表会に行って自分の目で確かめることが重要なのです。

【第1位】:「自分が成長できるゼミか、自分を成長させてくれるゼミか」です。これは、2位とも連動する話ですが、自己成長が適うゼミをぜひ選んでほしいと思います。

2月末には各ゼミの入ゼミ試験方法がTKUポータルにアップされます。入ゼミ選考(面接など)は、各ゼミ3月17日~19日のどれかになりますが、小木ゼミは、毎年中日に行います。したがって、今年は3月18日(火)9:30~行います。応募者は、エントリーシート及び成績表のコピーを持参して来て下さい。のっぴきならない用事がある場合は、Zoomでの参加を許可するかもしれません。小木ゼミについては、シラバス、アカコンや経済学部ゼミ資料、流マ入門テキスト、さらにはXやインスタでも見ることができますので、いろいろと情報を集めて下さい。ちなみに、小木ゼミは、40名マックス(男子6名/女子34名)の大変元気なゼミです。

2月末 ゼミ選考方法 TKUポータルでアップ
3月中旬 TKUポータルで希望エントリー登録(これを忘れないように!)
3月18日㈫9:30~(教室未定:チェックのこと) 小木ゼミ 入ゼミ選考日

考える時間は残りあとわずかです。本当にゼミ大切です!春休みは、バイトや遊びだけで過ごすのではなく、十分に悩んでゼミ選びしっかりとして下さい。


◆小木ゼミ活動報告

この時期は、ゼミは基本オフですが幾つか活動成果があがっています。

国分寺物語

こくぶんじ写真コンクールの審査及び表彰式に参加します。

西こくぶんじ・お土産プロジェクト

12月末に、西国分寺駅にて、アンビー提供のお菓子を小木ゼミが販売するという試みを行いました。どうやら来年度からは、常設的な取扱いになりそうです。

東京都・消費生活への若者提言

東京都の依頼を受けて、東京都の消費生活への提言を、小木ゼミの2年生が都庁でプレゼンします。そのための活動をいまも進めております。こういうスポット的な活動も行います。


Xmas会、幹部交代式、OBOG会が開催

11月末はNAGAOKAプロジェクトの社長プレゼン、12月初旬は西武信金アイディアコンテスト本選、経営学部ゼミ研究発表、多摩大学AL祭招待ゼミ発表と行いました。

また、12月18日にはXmas会、1月18日役員交代式&OBOG会など、多くのイベントが開催されました。とりわけ、幹部交代式は、なかなか見ごたえがあり、さらにOBOG会は15名を超えるOBOGが参加してくれて、楽しく過ごせました。こうやってみると、ゼミ活動はかなり忙しかったですね。3月の卒業生追い出しと、ゼミ選考もありますが、1月中旬から3月中旬までは、しばしの充電・休息期間です。


小木