2021年3月22日月曜日

スターバックス・コーヒー・ジャパンの多摩地区における新たな取り組み

 流通マーケティング学科の丸谷です。42回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行なっていくのか)を専門分野にしているので、海外に出張に行くことが多く、このブログでも米国、インド、中国、チリ、ペルー、ブラジル、ケニア、ガーナの出張の模様を取り上げてきました。しかし、コロナ禍で海外出張はしばらく難しそうなので、これまでやろうと考えていてできていなかった日本に進出している外国企業について取材しています。今回はスターバックスコーヒーの日本における最近の取り組みのうち、大学に立地する多摩地区で行われている工夫について取り上げていきます。

 スターバックスに関しては、2016年に同文舘出版より出版した『小売&サービス業のフォーマットデザイン』という拙著において「カフェ業界」を取り上げた際に、今やサードウエーブコーヒーの日米の代名詞となった丸山珈琲(過去の丸山珈琲取材に関してはhttp://tkubiz.blogspot.com/2017/12/blog-post.htmlを参照)とブルーボトルコーヒーを取材した際に取り上げて以降継続的に注目し取材してきました。

スターバックス・コーヒーの日本進出は1995年で北米以外初の海外進出であり、アフターヌーン・ティーやキハチ(KIHACHI)の展開で飲食での実績があるサザビー(現サザビーリーグ)社と合弁で参入しましたが、2014年にはサザビーリーグ社との合弁を解消し、スターバックス・コーポレーションの完全所有子会社となっています。完全子会社後は米国本社との一体感をさらに強めながら、20155月には最後の未出店県鳥取県に出店を果たしています。

 1つ目にとりあげるのは、スターバックスコーヒーnonowa国立店での取り組みです。このお店は聴覚に障がいのある従業員を中心に、主なコミュニケーション手段として手話を採用したサイニングストアで、この国立店が5店舗となるそうです(その他にマレーシア2店舗、アメリカ1店舗、中国1店舗)。

スターバックスコーヒージャパンnonowa国立店の外観

 店内に入ると、すぐに目に入ったのが多くの手話での会話を促す工夫と実際に手話で会話する顧客の姿でした。注文しようとレジに向かうとレジ前に手話での会話を促すPOPがあり、レジにも実際にどのように手話で注文するか書かれたPOPがありました。

手話での会話を促す手書きPOP

 今回の注文では、注文カウンター担当者はたまたま健常者、受け取りカウンター担当者は、視覚障害者だったのですが、商品受け渡しの際には店内に整備された番号が出る電光ボードを使うのかなと思いレシートの番号を確認して待っていたのですが、お客さんが並んでいなかったこともあるのか、1つ1つ商品を掲げて示し商品を渡した上で、私が返すのを忘れそうになっていたソイラテ注文用者を確認するための小さなボードを、小さな箱に戻してください指示を分かりやすく身振りで行ってもらいました。

受け取りを容易にする電光ボード

 店内にも聴覚を使わずに視覚で確認できる様々な工夫がなされており、このお店の位置づけを示し、自社の取り組みをアピールするための工夫がなされていました。

並ぶ際の足元の店内サイン

取材も多いので人権配慮の注意のためのPOP

2つ目にとりあげるのはスターバックスコーヒー西東京新町店での取り組みです。この店舗の取り組みは地域に愛されてきた老舗「珈琲館 くすの樹」にあった樹齢約300年のクスノキ(西東京市保存樹木)を保存し、伝統を意識しつつ新たなコミュニティの中核となるための工夫です。

スターバックスコーヒー西東京新町店の外観

「珈琲館 くすの樹」は食べログでも3.5越えの高評価(3.56)を獲得する老舗喫茶店であり、2019415日に閉店するまで、昭和、平成の40年間地元で愛されていました。老舗喫茶店の閉店に関しては、20203月のこのブログでもゼミでの相談などで協力して頂いていた吉祥寺のナローケーズ、moi、近江屋の老舗三店舗についてかつて取り上げました。こうした老舗喫茶店はお店の雰囲気を構成する空気自体がお客さんのそれぞれの想い出、例えば私の場合には就活やその前後の不安や悩みを語る学生さんの姿とつながっており、かけがえのない場所として記憶されています。

今回の取り組みはこうした想い出の場所をリニューアルしつつも維持したことに強い意味があり、スターバックスが掲げるサードプレイス(自宅と職場以外にくつろげる第3の場所)というコンセプトにも合致した取り組みといえます。

くすのきの説明

訪れて最初に目がいくのが「珈琲館 くすの樹」の象徴ともいえる樹齢約300年の「クスノキ」であり、このクスノキにインスパイアされて建築された店舗は、ドライブスルーやペットとの来店といった現代的ニーズに対応しつつも、スターバックスが2017年の『京都二寧坂ヤサカ茶屋店』開店以降進める現地へのより強いリスペクトが現れる店舗の建築の流れに即したものでした。店内の天井は高く、内装も木の温かみを強く打ち出した雰囲気でした。

 

しっかり整備されたドライブスルー・レーン

 
愛犬との散歩に対応した外の席の様子

 グローバル・マーケティングでは、世界中で同様の取り組みをすることによって効率性を求める標準化(世界的標準化)と各市場にきめ細かく対応することによって現地での顧客満足を追求する現地化(現地適応化あるいは適合化)をいかにして両立するのかということと、世界に展開するからこそ獲得できる知識やノウハウをいかに活用するのか(知識やノウハウの相互移転)が重要です。

今回取り上げたスターバックスコーヒー・ジャパンの2つの店舗での取り組みは標準化された店舗の全都道府県出店完了と日本進出を支えたきた日本企業との合弁解消後の取り組みであり、nonowa国立店の取り組みは、世界中に展開するチェーンだからこそ可能である外国の先行ノウハウの導入事例ですし、西東京新町店の取り組みは、標準化の後に重要視している現地化の取り組みです。

緊急事態宣言が解除されたタイミングで感染対策をしっかり行いつつ、大学からもそう遠くない多摩地区でのグローバル・マーケティングの2つの新たな取り組みの場所に足を延ばしてみてはいかがでしょうか。

                (文責:流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎)