2023年11月13日月曜日

イギリス北部商都リーズ近郊のアズダのスーパーマーケット事業発祥地を訪ねて

流通マーケティング学科の丸谷です。61回目の執筆です。私は「グローバル・マーケティング論」を専門としており、海外でどのようにマーケティングを行うかについて研究しています。今回は前回(2023925日公開)に続き、イギリス出張報告第2弾として、北部商業都市リーズについてとりあげます。イギリスはイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つに分かれ、イングランドは9つのリージョン(地域)に、リージョンは州に分かれています。リーズが属するヨークシャー・アンド・ザ・ハンバー・リージョンも5州に分かれており、リーズは5州の1つであるウェスト・ヨークシャー州の州都です。首都からの距離や街の成り立ちを考えると、リーズは仙台くらいのイメージでしょうか?

ロンドンからリーズさらにアズダのスーパーマーケット事業発祥地への経路

リーズはイングランド北部ウェスト・ヨークシャー州の州都であり、産業革命後はイングランドの東西を結ぶリーズ・リヴァプール運河の東の起点として発達した都市です。中心部にあるリーズ駅へは、イギリスの首都ロンドンの北への玄関口であるキングスクロス駅から高速鉄道で北へ2時間半弱かかります。こうした地理的な特徴を活かしてプライベートブランドを販売するお店が日本にもたくさんあるマークスアンドスペンサーや私の研究してきたウォルマート傘下として小売第2位にもなったことがあるアズダという現在でもイギリスの主要小売企業の発祥地となりました。

マークスアンドスペンサー1号店(ペニーバザール店)

マークスアンドスペンサーは1884年にリーズ市内中心部に現在もあるカークゲート・マーケットに、マイケル・マークスがペニーバザールという名の小さな店を開くことが発展の基盤を築きました。同社はプライベートブランドの質が高く、食品、衣料品、家庭用品などの高品質のプライベートブランドを幅広く提供し、日本でも北海道から鹿児島まで現在でも同社のプライベートブランドを販売する店舗があるほどです。

マークスアンドスペンサーが展開する高級スーパーフードホール
同社は総合的な品揃えの大型店とともに、イギリスの主要都市に日本でいえば成城石井のような高級スーパーを大型店の2倍以上の600店以上展開しています。イギリスの物価は現在非常に高く、日本円の安さもあって、私もマークスアンドスペンサーの食品には何度もお世話になりました。ネットにも注力していて日本でもイオンと提携し話題のネットスーパーであるオカドのイギリス法人の50%の株式を2019年に取得しました。
運河沿いの本社アズダハウス
アズダはリーズ駅の南にある運河を渡って徒歩5分の場所に本社アズダハウスを現在も構えています。
サウス・エルムサル駅
同社はライフワークとして研究しているウォルマートが1999年から2020年まで株式を保有してきた企業です。ウォルマートに買収された頃にはテスコに次ぐ第2位の小売チェーンでしたが、セインツベリーとアマゾンに逆転され第4位となっています。当初牛乳生産や流通の事業を営んでいましたが、1958年にアスキス(Asquith)スーパーマーケットをリーズから電車で30分のサウス・エルムサル(South Elmsall)駅から徒歩8分くらいのポンテクラクト(Pontefract)に出店し、後にイングランド北部から全国チェーンを構築していきました。
アスキススーパーマーケット1号店
現在では1号店の跡地はホームバーゲンズ(Home Bargains)というディスカウントストアチェーンが店舗を構えています。ホームセンターの横の図書館の隣には現在イギリスでシェアを伸ばしているハードディスカウントストアのアルディが店舗を構え、道を挟んだ正面にはアズダのスーパーマーケット(Moorthorpe店)が営業していました。 

なお、ウォルマートは現地でガソリンスタンドチェーンなどを展開するEGグループに20212月にアズダの株式売却を完了し、英国市場から撤退済みです。私はグローバル・マーケティング研究において不十分と考える撤退や事業縮小の重要性を踏まえて、撤退や失敗した市場であるドイツ、韓国、日本、ブラジル、アルゼンチンなどの成功できなかった市場へも機会があれば訪問し、撤退戦略や事業縮小戦略についても検討しています。今回のリーズ訪問での経験は撤退や事業縮小を考えるために非常にいろいろなヒントを与えてくれました。

(文責:流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎)

 








2023年9月25日月曜日

コロナ禍後初の海外出張イギリスのコストコなどを訪ねる

流通マーケティング学科の丸谷です。60回目の執筆です。私は「グローバル・マーケティング論」を専門としており、海外でどのようにマーケティングを行うかについて研究しています。大学の年2回ある長期休みに海外現地調査のために出張してきました。このブログでは、米国、インド、中国、チリ、ペルー、ブラジル、ケニア、ガーナなど、多くの国々での出張について取り上げてきました。今回は、20202-3月にガーナでの調査を行った後、コロナ禍開始後初めて海外に出張したので、イギリス出張についてお話ししようと思います。私の研究対象は、かつて日本では西友を傘下に持っていた世界最大の小売企業ウォルマートです。ウォルマートの世界中の店舗を調査してきました。最近では、ウォルマートに次ぐ第2位の売上高を誇るコストコについても研究しており、今回はコストコのイギリスの店舗とその競合他社について取材してきました。

 

コストコ・レディング店の外観

コストコがイギリスに進出したのは、日本に進出する5年前の1993年です。当時、イギリスでは小売業の出店に厳しい規制がなされるようになり、大手小売企業であるテスコやセインツベリーなどもその規制に従いながら、店舗をさらに増やそうとしていました。そのため、外資であるコストコの出店は容易ではないと考えられていました。しかし、コストコは会員制倉庫型店舗として進出を許可され、これが彼らの利点となりました。一般の小売業者が抱える都市計画に基づく規制が適用されないことが決定され、立地の制約が少なくて済んだのです。実際、ウォルマートがイギリスに参入した際に買収したテスコやセインツベリーのライバルであったアズダも規制に苦しんだため、買収された後も、イギリスでの成功が難しかったとされています。

イギリスのコストコ出店順、出店日及び出店地域

コストコは現地規制をうまく回避し、30年間で29の倉庫店を展開し、閉店することなく成長してきました。結果として、2021年までの時点でアメリカ、カナダ、メキシコに次ぐ第4位の倉庫店数を持つ小売企業となりました。将来についても、20238月の現地調査の間に14店舗の大規模な出店が報道されるなど、事業エリアを拡大する計画とみられます。

今回の現地調査でも、コストコが規制を回避するための工夫が見受けられました。コストコの会員カードは海外でも有効であり、イギリスでの利用も可能ですが、会員になる条件が厳しく(詳細は、https://www.costco.co.uk/membership-individual-questionsを参照)、書類の審査も厳格です。このようなチェックはコストコの競合他社である卸売企業でも行われており、私が訪れた店舗でも入店自体が難しかったです。今回の現地調査で実際に訪れたコストコ・レディング倉庫店では、入店時に店員の方よりいくつか質問があり、情報を手書きで記入するなど、日本やアメリカの店舗に比べて厳しく、普通の小売業とは異なる取り組みが見られました。このチェックはかつて日本に進出していたプロ向けの卸売企業マクロで行われていたものに似ていました。

コストコ・レディング倉庫店の立地

今回の訪れたコストコ・レディング倉庫店は2002年に開店し、ロンドンのパディントン駅から電車で25分の場所にあります。レディングは繊維産業が盛んで、大学もあります。この地域は交通が便利で、伝統的な産業や大学が立地しており、東京経済大学の立地する国分寺市に似た環境です。

コストコに隣接する場所に設置された風車

コストコ・レディング倉庫店は風力発電の風車が隣接してあり、周囲には大型ホームセンターや他の大手小売企業が多く出店しています。平日の朝にもかかわらず、コストコのガソリンスタンドには行列ができ、ガソリンはイギリスのコストコでも人気の商品であり、29の倉庫店のうち19店舗にガソリンスタンドが併設され、増加してきています。事前の調査で、コロナ禍の影響で他の企業が品揃えを減らした食料品の売り場を増やしているという情報を得ました。店内を確認すると、生鮮品の品揃えが充実しており、イギリス産の商品に重点を置いていることがわかりました。また、複数の国から商品を輸入し、多国籍企業からの仕入れにも力を入れていることが確認できました。これについては、現地調査を行わないと理解が難しい側面もあり、海外調査の価値を再認識しました。

テスコエクストラのカーブサイドピックアップ

今回はコロナ禍開始後最初の現地調査ということもあり、日本以上に進む非接触への取り組みも注目していました。レディング駅の反対の北側から少し離れた場所に立地したテスコでは、高齢者の方がクリックコレクト・グローサリー(ネット予約し店舗駐車場に設置された倉庫から出してもらい受け取る)の駐車スペースに次々に入ってきていました。日本でも少しずつ普及はしていますが、アルディ、リドルなど万引き防止を重視した厳しい取り組みを行っているディスカウントストアを除けば、コンビニに至るまで、セルフレジの普及状況は大手小売企業に関しては進んでいるように見えました。

(文責:流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎)



2023年8月14日月曜日

アジア市場経済学会第27回全国研究大会を開催

流通マーケティング学科の丸谷です。59回目の執筆です。今回は2023年7月8日-9日の2日間アジア市場経済学会第27回全国研究大会を開催したので、大学の重要な役割である研究成果の共有の手段である学会全国大会での活動について取り上げていきます。

学会開催場所を知らせる看板
私はグローバル・マーケティング担当の教員ですので、マーケティング関連の学会とともに、ラテンアメリカやアジアといった地域別で区分された学会の会員でもあります。多くの学会は地域別に行われる部会と呼ばれる研究を年に数回、全地域を対象にした全国大会を年に1回行い、上記の活動を通じた成果を幅広く社会に還元するために学会誌を発刊するというのが基本になっています。

私が今回実行委員長を仰せつかり開催したアジア市場経済学会も地域を2つに分けて東部と西部に分かれて数回部会で研究報告を行い、学会誌(アジア市場経済学会年報)を発行し、かつては紙での印刷が中心でしたが、現在では多くの学会と同様に、ネット上で誰でも容易に見れるようになっています(上記学会についての詳細は。アジア市場経済学会 (jafame.jp)を参照)。ちなみに、最新号では査読と呼ばれる学会員による掲載の可否を含むチェックを経て、アジアの市場での活動を研究対象とした8本の論稿が掲載されました。

コロナ禍になって以降学会の多くはZoomによるオンライン開催が主流となり、アジア市場経済学会もここ数年は対面での開催はされていませんでした。Zoomでの開催も参加のし易さというメリットもあるのですが、学会後に学会報告を踏まえた非公式の交流や意見交換が減るというデメリットは大きいです。特に経験やつながりの少ない若手研究者にとっては特定の領域の主要研究者と人脈ができるというメリットは大きく、私も院生の頃にできたつながりから専任の内定を頂いたり、分担執筆の機会を頂いたり、メリットを多く享受してきました。今回退任される会長から対面での開催をしたいので実行委員長になって欲しいという申し出があった際にも、諸先輩が若手研究者だった私のために培ってきた伝統を思い浮かべました。

学会の全国研究大会を開催するのには多くの学内の関係者の皆様の協力が不可欠であり、改めて東京経済大学の手厚い支援を実感することになりました。私が窓口となっている研究課に学会開催をしたいと相談すると、研究課を中心に体制が組まれ、日程や会場の設定など準備が進められ、1カ月前には当日までの準備や当日の運営に関係のある多くの部署の皆様を集めた会議も行われ、かなり細かい各部署とのすり合わせが行われました。

実際の運営に関しては実行副委員長をして頂いたかつての所属先で私のTAをしてもらっていた現在は学会の中心的存在の一人である先生が多くを担われ、私は大学側との交渉や会場となる本学所属教員しか担当できない主に会場管理を担いました。
学会開催の様子

学会が始まると活発な議論がなされ、当日参加の方もかなりあり盛り上がりました。特に、懇親会は久しぶりの対面ということもあり、例年ないぐらい活発な懇親がなされ、2時間の時間めいっぱい盛り上がり続けていました。この光景は昨年9月に行った久々のゼミ合宿の感じとも似ており、対面での開催のメリットを強く感じ、それなりに大変でしたがやってよかったという充実感が得られました。
懇親会の様子
大学の教員は教育者と同時に、研究者でもあり、学会は研究活動の1つの重要な手段であるので、今回は学会開催について取り上げました。
文責:流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎









2023年6月26日月曜日

都庁近くの工学院大学図書館との相互利用が開始されたので利用してみました

 流通マーケティング学科の丸谷です。58回目の執筆です。今回は2023年6月5日(月)より本学と包括連携協定を結ぶ工学院大学と図書館の相互利用が始まったということで、早速利用してみました。

工学院大学「学術情報センター 工手の泉(新宿キャンパス)入口

図書館のホームページによると、
本学在学生・教職員等は、工学院大学「学術情報センター 工手の泉」(新宿キャンパス・八王子キャンパス)を以下の通り利用することが可能です。
■利用できる方:本学の学部学生・大学院生および専任教職員、図書館長が認めた方
■利用期間:在学・在籍期間
■利用可能サービス: 館内閲覧 、図書の貸出(延長なしの2冊・2週間)、 データベース等の利用(館内利用のみ、一部使用できないものがあります)
■利用方法:直接訪問し「利用カード」を提示  ※初回利用時に、学生証(または教職員証)の提示及び申請書を記載することで「利用カード」(単年度ごと要申請)が発行されます 
とのことだったので、早速利用してみました。

初めての利用であったため、図書館の方に利用カードの申請をお願いしました。申請を待つ間に東京経済大学からの利用状況を伺うと、6月13日時点で私が一人目とか思いきや、二人目とのことでした。

発行頂いたカード(氏名を記入し利用開始しました)
経営学部ブログで紹介したいのですがと事情を説明すると職員の方が快く館内を案内してくれました。

館内は改装されたばかりとのことでとてもきれいであり、学習スペースも非常に充実していました。食事はできないそうですが、館内にはいい感じの自販機もあり、水筒やペットボトルも持ち込み可能だそうです。
リラックスしながら学習できる空間

パソコンなどを置いて学習もできる空間

自販機も設置されています

新宿都庁近くの高層ビル街という好立地を考えると、本学の学生さんにとって就活の空き時間に資料を調べたりするのにも利用できそうです。
新宿都庁近くの高層ビル街という好立地の工学院大学

館内にある資料についてもご案内頂いたのですが、文系の大学である本学とは異なる工学系の大学の特徴がしっかり現れており、JDreamⅢに代表されるデータベースも利用できるそ
うです。
データベースの説明の資料
個人的には隣接分野の商業建築の分野の資料や工学院大学の卒業論文や修士論文が見れるのも非常に興味深ったです。詳細はぜひご覧いただきたいのですが、私のゼミ生もとりあげているようなカフェの空間に関する研究や街づくりに関する研究も多くみられ、本学の学生さんにとってもプレ卒論に当たる研究ノートや卒業論文のテーマを考えるうえで参考になりそうです。
商業建築系の雑誌も見られます


理系大学ならではの卒業論文や修士論文も館内閲覧できます

私は本学の図書館や大学周辺の充実した環境についてはこのブログでも度々取り上げてきました。学業を行う上で環境は非常に重要です。その点本学の図書館は素晴らしいですし、非常に多様な取り組みを行っています。

とはいえ、一大学では限界もあることも事実です。そのため、本学では多摩アカデミックコンソーシアム(詳細はhttp://www.tku.ac.jp/tku/society/tac/を参照)を周辺大学と組織し、各大学の特徴を活かした補完的な関係を築いてきました。実際、私はグローバルマーケティングの担当教員なので、英文資料が豊富な国際基督教大学の図書館などの資料を取り寄せるなど非常に助かっています。

今回の相互利用の開始はそれぞれの大学の良さを活かした形での有用な連携だと考えます。
ぜひ都庁近くのおしゃれな図書館を一度利用してみてはいかがでしょうか?
(文責:流通マーケティング学科 丸谷雄一郎)






2023年5月8日月曜日

東京経済大学へのバスでのアクセスがより便利に

 流通マーケティング学科の丸谷です。57回目の執筆です。東京経済大学の授業もコロナ禍で一時期は全面オンラインとなりましたが、コロナ禍が終焉に向かうにつれて少しずつ日常を取り戻しつつあります。そんな中4月から改善されたことがあります。それは大学へのバスでのアクセスです。

東京経済大学前バス停に近づくCocoバス

 大学への行き方としては、国分寺駅から徒歩というのが一般的です。しかし、教員である私は授業の準備に際して、書籍やパソコンなど多くの荷物を持ち帰る必要がある場合も多いです。そんな際に役立つのがバスなのです。東京経済大学の東側には京王バスのバス停が以前よりありました。しかし、本数はかなり少なく朝夕もほとんど変わらず30分に1本程度でした。

大学の東側に隣接する東京経済大学前バス停

 4月以降このバス停(現東京経済大学前バス停)に小金井市コミュニティバスCocoバスが停車するようになったのです。東京経済大学の住所は国分寺市となっているのですが、実は東の一部は小金井市にかかっています。4月からルート再編により、Cocoバスのルート内となり、京王バスと時間帯により分担して運行するようになりました。その結果として特に日中の運行本数が増える結果となったようです(Cocoバス再編の経緯などに関して詳細は小金井市のホームページに公開されている情報(https://www.city.koganei.lg.jp/kurashi/482/buss/chiikisetumeikai.files/saihenkeikaku.pdf)をご参照ください。

 

貫井前原路線の路線図(⑱が大学もよりバス停)

Cocoバスは午前9時23分の第1便から午後7時23分の第25便まで25分ごとに運行しています。実際利用してみると、バス自体はこれまでの京王バスと比べて小さくなったのですが、通常混んでいない路線であるため利用には問題を感じませんでした。特に大学から駅への帰りの利用においての使い勝手はとてもいいです。それ以外の時間帯には京王バスも走るので以前よりかなりの増便になっています。

なお、Cocoバスには循環バスであるため、東京経済大学への行きでは時間がかかるというデメリットがあります。このデメリット自体は京王バスだけの運行の際とはかわっていません。行きのアクセスに関しては東京経済大学から数分歩いた場所に、武蔵小金井駅や国分寺駅からの京王バスが停車する「東京経済大学入口(旧JR車庫前)」というバス停もあり、特に武蔵小金井駅からに関しては本数も多いので便利です。

少し離れていますが便利な東京経済大学入口バス停

せっかく改善されたアクセスも利用率が悪いとルート自体が変更されたり、本数が減らされてしまうかもしれません。荷物が重い時、天候が悪い時バス、あるいは疲れてしまった時バスを一度利用してみてはいかがでしょうか?

(文責:流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎)

 

2023年3月20日月曜日

広島市、和歌山市、岩手市の顧客ニーズへ寄り添うコストコ商品取扱店の取り組み

 流通マーケティング学科の丸谷です。56回目の執筆です。私はグローバル・マーケティングを専門として研究を行ってきました。私は世界3位の小売売上高を誇る企業であるコストコから商品を仕入れ販売するコストコ商品再販店に注目し調査しています。

 コストコ商品再販店はコロナ禍で急拡大し、既にコストコが出店済みの東京都や大阪府といった大都市から未出店県であることにビジネスチャンスを見出した長崎、佐賀といった地方にまで急拡大しており、2023130日に公開したブログでは宮城の塩釜水産物仲卸市場内の店舗を取り上げました。

 前回はコストコ商品の再販を主な事業としている店舗を取り上げましたが、今回は自動車販売店にコストコ商品販売店を併設した広島市のアルプス・コーポレーションのセレクトショップと、コストコ商品の仕入れを一定程度行いつつも、その他の商品も同時に販売している店舗である和歌山市のフレアマーケット(fleamarket)について取り上げます。

 アルプス・コーポレーション(Instagram – alps corp. - アルプスコーポレーション)が運営するコストコ商品再販店(セレクトショップ)はコストコ広島倉庫店(MAZDA Zoom-Zoom スタジアム 広島に隣接)から近い広島市中心部と広島市郊外(広島修道大学や広島市立大学が立地)を結ぶ広島高速4号線の出口である広島ジャンクションからすぐのところに立地しています。東京でいえば東京都立大学の周辺に近い感じです。

 私は広島市中心部からバスに乗って取材に出向いたが、広島高速4号線は山の中をとにかく突っ切るようになっており、自動車で行き来する分には便利だが、気軽に行けるかという少し不便な立地であり、都市郊外の顧客ニーズに対応したといえるかもしれない。

アルプス・コーポレーションの外観(自動車販売店にコストコ商品再販店を併設)
 コストコ広島倉庫店は2013年3月13日とだいぶ以前に開業していますが、同社がコストコ商品再販店を開業したのは2021年10月18日であり、前回取り上げた宮城県の事例と同様に、東京下北沢に同年5月4日に開業したストックマートに影響を受けての開店だそうです。
 
冷蔵品を1個単位で小分け販売

 店舗内で印象的だったのは1個単位での小分け販売でした。上記写真のように、冷蔵品は家庭用冷蔵庫をうまく用い、必要な場合には顧客自身が明けて取り出す方法で販売していました。
フレアマーケットの外観

 2店舗目に紹介するフレアマーケットは、JR和歌山駅からバスで11分さらに徒歩10分(約800メートル)の場所に立地し、公共交通機関を使用してのアクセスは広島の店舗に比べても決して良いとは言えない場所です。しかし、幹線道路沿いに立地しており、仕入れ場所となっているコストコ和泉倉庫店からは約40キロの場所に立地しています。

  コストコ商品を相対的に小規模な店舗で取り扱う場合、宮城の店舗も、広島の店舗も当てはまるのですが、会員となって頻繁に通うのは大変ですが、仕入れ先として考えれば遠くはないというのが出店場所として成立しうる条件となっているようです。フレアマーケットはこの条件に当てはまっており、自動車での移動距離が40キロといのは絶妙の距離ということになります。

コストコ商品とともにアパレルも販売



ディナーロール1個20円で販売

 お店は姉妹で運営されており、コストコ商品の定番商品のディナーロール、マフィンなどの他に、アパレルや関西のコレアンタウン大阪鶴橋のキムチも取り扱っているそうです。ディナーロールは1個単位で小分け販売しており、半分など小分けしている事例は散見されますが、ディナーロールを1個単位で販売しているのは初めてみました。

 コストコ商品を品揃えの一部として組み込んでいるお店は全国規模で拡大中であり、コスコ(長野のドラッグストアチェーン)、グッディ(山口や九州に展開するホームセンター)、ビッグプロ(盛岡市中央卸売市場に隣接した会員制倉庫型スーパー)など増加しています。

盛岡市中央卸売市場に隣接するビックプロの外観

 上記の店舗はセレクトショップやフレアマーケットと比べると巨大な店舗であり、品揃えに関しては小規模なコストコ商品再販店に比べて多く、地域経済への影響といった意味ではコストコ商品の再販を主な事業とするコストコ商品再販店よりも大きいといえます。

コストココーナーは店舗の一部だが店舗規模が大きので、アイテム数は多数。

 コストコの店舗展開は私が研究してきたウォルマートやそのライバルのカルフールなどに比べて漸進的であり、買収などではなく1からの出店を地道に直実に行っており、日本でも同様です。

 コストコ商品を取り扱う多様な形態のお店は、漸進的展開を出店戦略のセオリーとするコストコが生み出した消費者のニーズやウォンツを自社の事業としてうまく取り組んで事業化し、コストコを補完する存在として定着しつつある事例といえます。

 これまでも他社のプライベートブランドを店舗がない地域で品揃えに組み込む事例は多く、最近では高級スーパー成城石井のプライベートブランドが地方において品揃えされているのを確認しましたし、私がコロナ禍になる直前に訪れたガーナの地元スーパーが英国の食品スーパーのプライベートブランドを販売しているのを確認しました。

 今回取り上げた事例は、コストコの高付加価値のプライベートブランド「カークランド」やコストコ向けに大手メーカーがパッケージングした1個当たりなら安い商品を、コストコの漸進的店舗展開戦略ゆえに十分に届けることができていない消費者に届ける補完的役割を果たす取り組みといえます。

 実際取材してみてコストコ商品再販店の多くは、自身の顧客とSNSを通じたきめ細かい情報のやり取りや店頭で集めた顧客の要望に、コストコ自身よりもきめ細かく対応しているように見えました。

 特に自身もコストコと同様に会員制であるビックプロが、1つ1つ集めた顧客の要望と、それにどのように対応したのかを伝えた店頭に置かれたノートには目を見張りました。今後も全国で開業が予定されているコストコ商品再販店やコストコ商品取り扱い店を利用してみてはいかがでしょうか?

(文責:流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎)

2023年1月30日月曜日

宮城県塩釜水産物仲卸市場内に開店したコストコ商品再販店

流通マーケティング学科の丸谷です。55回目の執筆です。私はグローバル・マーケティングを専門として研究を行ってきました。私の主な研究対象は世界最大の売上高を誇る小売企業ウォルマートですが、ウォルマートも苦戦した日本市場で継続的に成功しているのが世界でもウォルマート、アマゾンに次ぐ第3位の売上高を誇るコストコです。同社は20221027日現在世界13か国・地域(台湾を含む)に、店舗や売り場面積の差はあるもの標準化された1つのフォーマットで842店舗を展開しています。海外展開は北米、英国、東アジア(台湾、韓国、日本)への出店をゆっくりと進めた後、2009年のオーストラリア出店以降若干積極的となり、スペイン、フランス、アイスランド、中国、ニュージーランドと出店国を拡大し、202210月には北欧初のスウェーデンにも出店を果たしましたが、あくまでも出店は先進諸国にほぼ限定されています。

出所)コストコが提供するデータなどに基づいて作成。

 出店に際しては、同社の日本法人ホームページでは出店計画を明示し、物件情報が欲しいというメッセージとともに、高所得層マーケット、半径10kmの人口が50万人以上、企業が多い地域、敷地面積10,000坪以上(ガスステーション用敷地を含む)、建築面積約4,500坪、半径10km=人口50万人以上、用途地域=準工、商業、近隣商業(売り場面積1万㎡超)、駐車場収容台数800台以上、車のアクセスの良い物件、購入・定期借地(40年以上)・建貸といった明確な基準が提示しています。実際コストコの人気が高まるにつれて、多くの自治体が上記の条件を充たすために多様な取り組みを行っています。コストコ側がかなり有利な条件で出店交渉を行える状況になってきているようです。

 しかし、コストコは引く手数多の状況でも世界の同社の出店戦略同様に、日本においても現状では無理な出店を行っておらず、出店ペースは比較的ゆっくりです。そんな状況で2022年になり急激に増加しているのが、コストコ商品の再販店です。こうした動き自体はコストコの展開する業態が会員制のホールセールクラブ、すなわち卸売店舗というだけにコストコから仕入れて再販売すること自体は不思議ではなく、従来からコストコフェアといった催事の展開や売り場の限られた場所をコストコ商品の再販に利用する動きはありました。

 私が今回注目したのは2021年以降拡大し、2022年になりその地域が急激に拡大しているコストコ商品が売り上げの多くを占める再販店の拡大です。2021年までは一部の企業がコストコ未出店県や大都会の隙間に店舗を出す程度でしたが、出店地域が東北から鹿児島まで広域となり、複数店舗を展開する事例も散見されるようになりました。

 今回は宮城県の塩釜水産物仲卸市場内に開店したコスト商品再販店である「グッドリテイル」について取り上げます。 

塩釜水産物仲卸市場の外観(入口付近にグッドリテイル開店を知らせる看板があります)

 

仲卸市場内の一番奥の14号売場に立地する店舗
 コストコ商品販売店はコストコに比べてアイテム数が限られる、単位当たり価格は高いといったデメリットはあるもの、利用者にとって店舗が近く小規模ゆえに買い物がし易い、会費支払いが不要、一部商品ではばら売りも行うなどの大きなメリットを与えています。出店の条件を厳しく管理しているコストコ側にとっても、商品自体の購入数は伸びますし、将来のファンを獲得する意味合いもありそうです。 

ジャパン交通代表横井氏

 今回快く取材に応じてくださった店舗の出店を行ったジャパン交通代表横井氏によれば、コロナ禍の行動制限で本業の貸切バス事業が厳しい折、店舗が立地する仲卸市場の前にキッチンカーを出店後、今回のコストコ再販店を出店した14番売場の横の7号売場でこだわりのコーヒーが人気の「アンダードックカフェ」を出店することになり、空いていた隣の敷地に当時以前このブログでも取り上げた東京下北沢で既に人気となっていたコストコ商品再販店を開店することになったそうです。

 今回取材させて頂いたグッドリテイルから仕入れ先であるコストコ富谷倉庫店は自動車で40分くらいの場所にあり、仕入れに毎日行くことは可能な距離ですが、なかなか個人で店舗に行くとなると大きな店舗での買い物やその後のレジ清算の時間も含めて考えると半日がかりになってしまうため、頻繁に行くことは難しいようです。そのため、開店後まだ時間がたってはいませんが、土日には平均250人程度の来店があるそうです。他の店舗同様コストコのオリジナル商品のパンなどが人気だそうですが、それ以外の商品でもコンビニより安く販売が可能なダノンのオイコスブランドのヨーグルト1個を買われていくお客様もいるようです。コロナ禍という厳しい状況の中で、コストコからの適度な距離を活用した地域活性化にもつながる地方のやる気のある経営者の新たな取り組みの話をうかがいとても励まされました。

 なお、同様のコストコ商品販売店として、東京経済大学の最寄駅国分寺駅からバスで1本の府中駅の近くにも、2022830日に2020年から既に下北沢で店舗を営業してきたストックマートが2号店を出店しました。こうした戦略はグローバル企業の展開をうまく利用した興味深い取り組みであり、機会があれば利用してみてはいかがでしょうか?

(文責:流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎)