2022年7月4日月曜日

コロンビアの庶民に尽くした偉大な父に翻弄されながら成長する息子の物語

流通マーケティング学科の丸谷です。51回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行なっていくのか)を専門分野にしているので、グローバル・マーケティングにおいて重要である海外事情について学習できる映画について紹介してきました。

若き日のコロンビアの庶民に尽くした偉大な父

今回は2022720日に東京都写真美術館ホールやイオン日の出、イオンシネマ春日部などイオン系列全国9館で公開される南米コロンビアを舞台にした映画『あなたと過ごした日に』について取り上げます。この映画はコロンビアで人権擁護家として知られるゴメス博士とその息子エクトルの物語であり、息子エクトルが父との思い出を描いた小説が原作となっている。

物語の舞台はネットフリックスで放映されてドラマ『ナルコス』で麻薬カルテルの本拠となったコロンビア第2の都市メデジンである。このように聞くと何かバイオレンスな映画と勘違いされてしまいそうだが、この映画は『ナルコス』で描かれた時代の少しの前の語り手でもあるエクトルの幼少期に当たる1970年代初頭から始まり、最後の部分で1980年代半ばにひどくなった少し暴力的な描写もあるが、大部分はコロンビアの山岳地帯の地方都市の日常の描写に充てられている。

コロンビアの地方エリートである家族

保守的な地方都市のエリートして育った博士は医師や大学教授として活躍するだけではなく、コロンビア国立公衆衛生学校を設立した人権指導者となり、取り残された庶民のために実用的な公衆衛生プログラムの開発に尽力したが、彼のこうした行動は地方エリートの利権に抵触するために自身と同じ出自の保守派に嫌われ、保守派が支配する大学を追われたりしながらも、庶民のために尽くす姿勢を貫いている。

父を尊敬する息子

 特に息子の視点で進むエピソードのうち印象的なのは博士の正義感が現れたシーンである。エクトルが周りに流されてユダヤ人の家の窓に石を投げて壊すシーンへの対応に表われており、博士は溺愛する息子をユダヤ人の家に連れていき、しっかりと謝罪させている。

 この映画の魅力は多くのコロンビアを扱った映画で描かれる部分とは異なる。コロンビアを扱った多くの映画が、同国において命が軽く扱われる状況について描いてきた。この映画はそれに対し、軽視されてきた庶民のために尽力する父を単なる偉人として描くのではなく、個性的ゆえに欠落した部分に翻弄される息子の視点からユーモラスに描いたところにある。専門家は私も含め欠落した部分があるが、息子の視点から欠落した部分も愛情をもって描くことで、どこか憎めない側面が垣間見え物語に厚みが出ている。バイオレンスイメージが強いこれまで公開されたコロンビア映画とは異なる側面を繊細に描いた作品として、ぜひご覧いただきたいコロンビア映画である。

(文責:流通マーケティング学科 丸谷雄一郎)