2021年9月13日月曜日

タイトル通りとてもやさしいスパイが主人公の映画『83歳のやさしいスパイ』

 流通マーケティング学科の丸谷です。45回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行なっていくのか)を専門分野にしているので、グローバル・マーケティングにおいて重要である海外事情について学習できる映画について紹介してきました。

今回は現在公開中のチリ映画『83歳のやさしいスパイ』について取り上げます。この映画は第93回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされました。今回取り上げる『83歳のやさしいスパイ』はドキュメンタリー作品でありながら、タイトル通り、やさしさの中に考えさせられる側面のある作品でした。

79日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
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作品の主人公セルヒオは妻を亡くしたばかりのやさしい83歳の男性です。彼は新聞広告の募集を見て、入居者の虐待を探るためにスパイとして、老人ホームに入居し、話は彼が伝える克明な報告に沿って進みます。当初、携帯電話の扱いにも苦労しますが、眼鏡型の隠しカメラを駆使し、暗号を使って老人ホームでの潜入捜査を続けますが、話を聞くうちに入居者たちの良き相談相手となっていくという内容です。

 

器具の扱いに苦労するスパイである主人公
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この映画の更なる魅力はある程度恵まれた環境にある老人たちのそれぞれの事情をやさしく包み込むような主人公のやさしさにあります。出てくる入居者の中に、私の亡くなった祖母と非常に似た感じの女性がいました。彼女は私の祖母同様認知症となり、記憶が徐々に抜け落ちていきます。自分の変化に戸惑い泣いてしまうシーンは祖母の晩年を想い出させ、沁みました。やさしいスパイである主人公は認知症が進む彼女に、スパイの利点を活かしつつ、彼女に寄り添った対応をします(詳細は作品をご覧になってください)。

映画をご覧になれば多くの方が、入居者の中に自分の祖父母や親戚に似た境遇の方を見つけられるのではないでしょうか。日経BPヒット総合研究所上席研究員品田英雄氏が指摘されているように(日経MJ202172日付)、宮藤官九郎さん脚本で最近話題となった『俺の家の話』と世界観はかなり似ています。宮藤さんは演劇出身ということもあり、上記作品も描かれるテーマに社会性があり、主役だけでないキャストの個性に加えて、プロレスと能との対比を組み入れる一工夫のバランスが秀逸でした。このドキュメンタリーも老人ホームというテーマに社会性があり、出てくる入居者の方々は皆個性にあふれ、スパイでの侵入という一工夫が重くなりがちな雰囲気を和らげています。
入居者に寄り添う主人公
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緊急事態が延長され、コロナ禍映画館に行くのは難しいですが、鑑賞できる状況になったら感染対策を行った上で、タイトル通りとてもやさしいスパイが主人公の映画『83歳のやさしいスパイ』をご覧になられてはいかがでしょうか?

文責:流通マーケティング学科 丸谷雄一郎