2022年3月28日月曜日

新・北海道現象を起こすかコーチャンフォー

 流通マーケティング学科の丸谷です。49回目の執筆です。今回は北海道発の注目複合書店チェーンのコーチャンフォー(Coach&Four)を取り上げます。店名は4頭立ての馬車を意味し、書店、文具、ミュージック、飲食という4分野を組み合わせた複合書店を北海道で6店舗展開した後、2014年に多摩ニュータウンの最新開発地域の東京都稲城市の京王相模原線の若葉台駅の近くに道外初店舗を出店しました。

コーチャンフォーの北海道での店舗網
 私は若葉台駅のとなりの永山駅近くに20年間住んでいたこともあり開店時注目したのですが、北海道の物産を取り扱うといったニュースを聞く程度で忘れていました。コロナ禍で海外調査もできないことが確定する中で、コーチャンフォーに関する大ニュースが入ってきました。8年ぶりの道外2号店を今度は近年開発が進むつくばエクスプレス研究学園駅から2キロの場所に202210月に道内外併せて8号店として出店することが決まったそうです。
コーチャンフォー若葉台店周辺の状況

 アマゾンなど書籍のネット販売普及にコロナ禍という状況を踏まえると、複合書店チェーンは厳しい状況に置かれている中、なぜだろうと考え調べてみると、同チェーンは大手複合チェーンでは唯一二桁成長を果たしていることが分かりました。日経MJが毎年調査し紙面で公表している第49回日本の専門店調査業種別書籍・文具部門(2021811日紙面より)では、14位にランクインし、3大都市圏出身以外のチェーンでは、新潟出身でありながら1990年代から蔦屋書店を関東でもフランチャイジーとして多く展開するトップカルチャーに次いで2位であり、独自店名で複合書店を展開するチェーンとしてはトップです。大手複合書店チェーンが軒並みマイナス成長に陥る中、地道な努力を積み重ね、トップ20の中で唯一12.6%の売上増を達成していたのです。

 コーチャンフォーを展開するリラィアブルは1978年にミスタードーナツのフランチャイジーから飲食事業を立ち上げ、1990年に書籍販売、1992年にCD販売、1997年に文具・雑貨事業と取扱商品を拡大し、1997年に現在のコーチャンフォーの基盤となる巨大複合店舗1号店を札幌に開業しました。同社が1号店開業当時の北海道はバブル経済崩壊のダメージを受け北海道経済を支えてきた北海道拓殖銀行が破綻し大変な状況でしたが、同社は2001年に同社が最初に事業を開始した釧路に2号店を出店して以降2011年までに道内に6店舗(札幌3店舗と釧路、北見、旭川各1店舗)を出店し、書籍・文具販売では北海道最大の複合店チェーンとなりました。今回取材したのは2014年に7店舗目として初めて道外に出店したコーチャンフォー若葉台店です。

コーチャンフォー若葉台店の外観

 コーチャンフォー若葉台店が出店する京王相模原線若葉台駅周辺は多摩ニュータウンの中でも近年開発が進む地域であり、駅北口には家電量販店のケーズデンキとヤマダ電機、ホームセンターのユニディ、ドラッグストアのツルハドラッグなどの量販店だけではなく、医療モールのクリニックモール若葉台やテレビ朝日若葉台メディアセンターなど巨大施設が乱立していました。コーチャンフォー若葉台店は駅から徒歩圏内ではあるが605台駐車可能な巨大駐車場を確保できる駅から少し離れた場所にあり、車社会北海道出身らしく同社が北海道でも標的としている自動車で来店するファミリー層を意識しているようです。今回実家に用事がありついでに週末で賑わう店舗を訪れたのですが、親子連れだけではなく、祖父母と孫の組み合わせの来店も目立っていました。

十分に取られた通路幅

 巨大な店舗内は通路がかなり広くとられており、座り込んで絵本に集中するお子さんや並んで本を選ぶ孫子のペアもいたのですが、容易にすれ違えるようになっていました。

見やすい陳列

 

しっかり印刷された表示

 本棚をみて特徴的だったのはPOPであり、最近多い手書きPOPは全く見当たらず、印刷された表示が分かりやすく、棚の内容を分かり示し、棚の置き方も棚のテーマを見て棚を見ると推薦本が見やすく上段に置かれると同時に、下段にはかなりマニアックな本もしっかり置かれていました。取り扱っているテーマはやみくもに幅広くするのではなく、標的としているファミリー層を意識しているようであり、大学教員である私が専門書を見に行く丸善やジュンク堂ととも、趣味の本が多い幅広くラインナップされている蔦屋書店などとも異なっていました。

コーチャンフォーのランキング

 私の専門に近い分野では、今話題のSDGs、格差問題、街づくりに関係するデザイン系の本などに関しては少し硬い本やバックナンバーまでかなり充実していました。コーチャンフォー独自の文庫のランキングが123位という中途半端な数まで示されているのも興味深かったです。

成城石井セレクション

 本以外ではかつては文具では本同様用途ごとの展示がなされると同時に、特集的にちょっとマニアックな商品も広いスペースをとって展示されていました。かつて人を集めたと考えられる音楽のコーナーではアーティストごとの見やすい陳列が特徴的であり、食のコーナーでは北海道の物産が多く展示されると同時に、提携する成城石井の商品が多く並んでいました。カフェに関してはドトールが入っており、ドトールの展開は旭川店と北見店に次いで3店舗目です。

  小売業界ではバブル経済崩壊後に全国で最も厳しい状況に置かれた北海道札幌に本社を置く小売上場企業の強さに注目が集まり、北海道現象という言葉がはやったことがあります。その代表が規模拡大を目指し島忠の買収合戦で話題となった家具・インテリア製造小売のニトリとホーマック(現DCMホールディングス)や若葉台店にも買収譲渡引き受けを繰り返し全国チェーンとなったドラッグストアのツルハホールディングスでした。複合書店業界が厳しい状況の中で、今度は規模以外の要素で北海道から関東へ出店地域を拡大する同チェーンの動向に注目していきたい。    

                   文責:流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎