2024年9月9日月曜日

小売業態の同質化

 2024.09.09

流通論を担当している本藤です。今日は小売ビジネスについて軽く紹介してみます。
興味のある人は、小売店舗でいろいろと考えながら売場を見てみてくださいね。

小売業というのは生活者にとって最も身近なビジネスです。家族で暮らす自宅を考えてみると、おそらくスーパーマーケットが最も利用される小売業態だと思います。一人暮らしだとコンビニエンスストアかもしれませんね。そのほかに馴染みのある小売業態としてはドラッグストアやホームセンターを思い起こす人が多いと思います。

それぞれの小売業態は、店舗経営に必要な商圏人口が異なります。研究調査の方法や対象地域によって研究結果は異なりますが、だいたい以下のようなイメージです。

スーパーマーケット・・・・・1万人
コンビニエンスストア・・・・3000人
ドラッグストア・・・・・・・7000人
ホームセンター・・・・・・・5万人

これらの小売業態は最寄性が強いので、自宅や勤務(通学)先、最寄りの駅前やバス停前などの日常の生活動線を前提にして、「より近い」店舗が選択利用される傾向があります。それぞれの業態の強さを考えてみたいと思います。

業態の強さをどのように考えるかですが、利用頻度が多いほど顧客接点が増えるので、最も利用頻度が多いスーパーマーケットには強みがあります。ただし、家庭消費(ファミリーユース)が大半を占めるスーパーマーケットは、なかなか利益率の高い高額商品を購入することは少ないのが実情です。

大学生や高校生だと最も頻繁に使うのはコンビニエンスストアかもしれません。ただし、客単価という意味では、お弁当だけとか飲み物だけで買い物を終わらせてしまう人が多く、より多くの利用者がいないと大きな売上を確保することは難しい点は否めません。

ドラッグストアはどうでしょうか?この業態は私の専門分野なので贔屓目に見てしまう点を差し引いても、将来性が最も大きな業態だと考えています。コンビニエンスストアやスーパーマーケットほどの来店頻度には及びませんが、個人消費(パーソナルユース)の商品を数多く扱っています。化粧品や医薬品以外にも、シャンプーや歯磨きのような日用品も最近では家族共用ではなく個人個人で選択利用するケースがほとんどです。これらの商品は品質や機能を評価して高くても買う人がいるので、高価格帯の商品が利益貢献しています。そのためドラッグストアは上場企業全社の営業利益が黒字になっています。

郊外大型店が主流のホームセンターは、高齢化と都市部回帰の社会構造変化が影響して厳しい経営環境にあります。特に、店舗利用が週末に偏りがちなので、頻繁に購入するペットのおやつなどはスーパーマーケットやドラッグストアにマーケットを奪われています。そうなると顧客接点がさらに減少していってしまう傾向が強まります。ただし、ホームセンターのDIY用品などは他業態で扱えるものではなく、競合が真似できない商品を持っている点は強みになります。

このなかでスーパーマーケットとコンビニエンスストアは食系チャネルと呼ばれていて、食料品を中心とした品揃えで集客しています。このため来店頻度が増える傾向があります。しかし、近年ではドラッグストアでも来店頻度を引き上げるために食品を増やしています。九州エリア中心のコスモス薬品、岐阜中心のゲンキー、浜松の杏林堂など超大型店舗で売場の大半を食品が占めるドラッグストアが強さを発揮しています。売上トップのウエルシアも食品を多く扱って来店頻度の向上を図っています。

そして、スーパーマーケットでも薬局併設タイプが一般的になっていて、日用品の売場も拡充しているチェーンも増えてきています。その結果スーパーマーケットとドラッグストアはどんどん同じような品揃えになってきています。

これは商圏設定が重複しており、それぞれ近隣生活者の家計シェアを奪い合っているから生じる傾向なのです。これまではスーパーマーケットは週2回、ドラッグストアは月に2回と使い分けされていたのですが、共働き世帯が増えており、タイパ(時間的効率性)を意識する世帯が増えると、どちらか一方で買い物を済ませることができるのであれば、ワンストップ・ショッピングで済ませたいと考えるからです。そうなると、ドラッグストアが食品を拡充して顧客接点を増やそうとするのは自然の流れになります。

この商圏設定は近年「狭小化」がどんどん進んでおり、各業態ともにより小さな商圏でも事業を成立させられるような取り組みが重ねられてきています。狭小商圏が進むということは、これまで以上に小売業態間の差はなくなってくる可能性が高くなります。そして、これらの最寄型業態は店舗からの宅配サービスも導入して、より生活者の「近く」にアプローチをかけています。おそらくここにネット販売業者との連携も加わると、近い将来「何屋さんか分からない」ほど小売業態の違いは不明瞭になっていくことが考えられるのです。

選ぶ楽しみを提供できる店舗はリアル店舗として存立基盤を築けるのですが、生活必需品を補充するだけの買い物であればリアル店舗としての存続は厳しくなっていくかもしれません。

文責:本藤貴康