2025年5月5日月曜日

映画『ボサノヴァ~撃たれたピアニスト』素敵な音楽と南米現代史に触れられる秀作

 流通マーケティング学科の丸谷です。69回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行なっていくのか)を専門分野にしているので、グローバル・マーケティングにおいて重要である海外事情について学習できる映画について紹介してきました。

© 2022 THEY SHOT THE PIANO PLAYER AIE – FERNANDO TRUEBA PRODUCCIONES CINEMATOGRAFICAS, S.A. – JULIÁN PIKER & FERMÍN SL – LES FILMS D’ICI MÉDITERRANÉE – SUBMARINE SUBLIME – ANIMANOSTRA CAM, LDA – PRODUCCIONES TONDERO SAC. ALL RIGHTS RESERVED.

 今回は2025411日にヒューマントラストシネマ渋谷他で公開された南米ブラジルとコロンビアを舞台にしたアニメーション映画『ボサノヴァ~撃たれたピアニスト』について取り上げます。この映画はブラジルを代表する音楽であるボサノヴァの才能あるピアニスト、テノーリオ・ジュニオルが1976年に軍事政権下アルゼンチンの首都ブエノスアイレスに演奏のために訪れた際に、軍部による不当な拘束の末銃殺された事件について、作家が取材していく様子を、アニメーション映画として描いています。

© 2022 THEY SHOT THE PIANO PLAYER AIE – FERNANDO TRUEBA PRODUCCIONES CINEMATOGRAFICAS, S.A. – JULIÁN PIKER & FERMÍN SL – LES FILMS D’ICI MÉDITERRANÉE – SUBMARINE SUBLIME – ANIMANOSTRA CAM, LDA – PRODUCCIONES TONDERO SAC. ALL RIGHTS RESERVED.

この作品の共同監督であるフェルナンド・トルエバと、ハビエル・マリスカルは、キューバ革命前後のニューヨークを舞台にシンガーとピアニストの悲恋をアニメーション映画『チコとリタ(2010)』で描いた経験があり、今作も社会背景と音楽のバランスが絶妙のバランスで描かれています。なお、『チコとリタ』84回アカデミー賞の長編アニメーション部門にノミネートされました。

© 2022 THEY SHOT THE PIANO PLAYER AIE – FERNANDO TRUEBA PRODUCCIONES CINEMATOGRAFICAS, S.A. – JULIÁN PIKER & FERMÍN SL – LES FILMS D’ICI MÉDITERRANÉE – SUBMARINE SUBLIME – ANIMANOSTRA CAM, LDA – PRODUCCIONES TONDERO SAC. ALL RIGHTS RESERVED.

今作は知る人ぞ知るピアニストと軍事独裁政権下という社会背景のバランスの描き方が絶妙であり、今やレジェンド級になっている一流ミュージシャンのインタビューや、演奏も取り入れることで非常に豊かな作品となっています。

なお、今作で用いられた知る人ぞ知る実在の人物に焦点を当て社会背景を浮き彫りにする手法は、監督の過去作の『あなたと過ごした日に』(経営学部ブログ(202274日)で紹介)でも用いられていました。この手法は魅力ある人物を理解していく中で、その人物が生きた時代背景についても好奇心を持てるという意味で非常に有効なのであり、現在放送中のNHK大河ドラマでも用いられています。大河ドラマでは、「蔦屋重三郎」という知る人ぞ知る実在の人物に焦点を当て、描かれることが少ない江戸時代の庶民が置かれた状況について示しています。

私は決して今作の題材となったボサノヴァなどの音楽に詳しいわけではないです。しかし、ブラジルを訪れた際に聞いたボサノヴァの名曲については記憶があり、作品の随所で使われています。ボサノヴァのいい感じのゆったり間が作品の描く世界観と非常にマッチしており心地よく鑑賞できる作品でした。社会背景となっているアルゼンチンやブラジルの軍事政権下での人権弾圧に関しても学べる内容にもなっており、南米に関心のある皆さんにはお勧めの作品です。

(文責:流通マーケティング学科 丸谷雄一郎)