2025年8月19日火曜日

訴求する相手は誰?

2025.08.19

経営学部の本藤です。

夏休み真っただ中ですが、最近の大学生はインターンシップが2年生の夏休み頃から始まる会社も増えてきて忙しそうです。


今回はマーケティングの考え方を少し紹介してみたいと思います。
みなさんは「この商品を売ろう」と考えた時に、最初に何を考えるでしょうか?

メーカーがマーケティングを考えるとき、最初に「この商品は誰に評価されるのだろうか?」ということを考えます。これがマーケティング戦略の大前提となる「ターゲティング」です。
違う言い方をすれば、「この商品の価値を最も分かってくれるのは誰だろう?」ということです。つまり、売りたい商品の価値が伝わる人を明確にすることから始まります。
なかには、ありとあらゆる人類全員をターゲットととしているケースもあるにはありますが、それではお客様の気持ちに刺さるブランド・メッセージが考えられず、消費者を動かすことは難しいケースがほとんどと言っていいでしょう。
(みなさんも「みんな好きです」のうちの一人として愛を語られてもピンときませんよね。「あなたが好きです」と愛を語られるからグッとくるのではないでしょうか)


メーカーが発売する商品のターゲットを検討する際に、従来は単純に「使う人」を想定して検討されているケースが多かったのですが、近年ではもう少し厳密に考えるようになってきています。

みなさんの自宅にシャンプーは何種類ありますか?お風呂には、自分専用のシャンプーがありますか?
それとも家族みんなで1つのシャンプーを共用していますか?
家族でひとつのシャンプーであれば、きっとそのシャンプーを購入する人はお母さんであるご家庭が多いかもしれませんね。
つまり、「使う人」のひとりである母親が、家族を代表してドラッグストアで価格を見ながら商品選択を行って購入することになります。


でも最近は、それぞれの髪質やヘアスタイルに応じて、お風呂には家族一人ひとりのシャンプーが置かれるようになりつつあります。そうなるとシャンプーを購入する人は誰でしょうか?
母親が代理購買するケースもあれば、自分で選ぶという人もいるでしょう。
高校生であれば、部活や塾で忙しくて、「お母さん、私のシャンプーが終わりそうだから買っておいて」とお願いすることもありそうです。
となると、その依頼を受けたお母さんは、ドラッグストアに行って、「自分の子供に適したシャンプーはどれだろうか?」と考えつつ、価格表示を見比べつつシャンプーを購入するかもしれません。


つまり、使う人(ユーザー)と買う人(ショッパー)が異なることがあるのです。
そんな状況をメーカーは想定して、ショッパーに焦点をあてたマーケティングを検討しなくてはならないと考えるようになってきています。
ここで考えなくてはならないのは、その商品に添えるメッセージです。
例えば、「思春期男子の臭いを抑える!」というように代理購買をする人が気にしている問題意識に訴えかけるようなメッセージです。「朝のセットが楽になる」とか「死ぬほど傷んだ髪を1週間で修復する」というメッセージは、どちらかというとユーザーに対してのメッセージですから、ショッパーに伝えるべきメッセージとして工夫することも大切な視点になってきます。


最終的な購入者であるお母さんの意思決定を促せるように考えて、店頭で商品の紹介をすること。これが「ショッパー・マーケティング」と呼ばれるアプローチです。

このようなユーザーとショッパーが異なるケースは、意外と多かったりします。
乳児用紙オムツのエンドユーザーは赤ちゃんですが、ショッパーは赤ちゃんのママです。
シニア用紙オムツのエンドユーザーは要介護の高齢者ですが、ショッパーは介護する人です。
風邪で寝込んでいる母親のために、父親が風邪薬を買いに行くこともあるのですが、この場合は、ショッパーは看病をする人で、ユーザーは病気で寝込んでいる人になります。

その結果として、エンド・ユーザーが、「これは私のための商品だ!」と思ってくれれば、その後は商品指定しての代理購買になっていくかもしれません。
プロモーション(販売促進)を考えるにしても、ブランディング(ブランド育成)を考えるにしても、まずは、最初の購入をしてもらわなければ話が始まりません。そのために、どんなことを思案すべきか企業は常に考え続けています。

文責:本藤貴康

2025年7月28日月曜日

試験、成績評価と統計学の視点

 経営学部で企業金融論や経営統計を担当している木下です。


学期末には定期試験とその後の成績評価がありますが、試験や課題を作るときに(統計学を理解している)教員が何を考えているのか、をお話します。


理想的な成績評価とは、極めて優秀な学生、優秀な学生、そうではない学生をまんべんなく見分けがつけられるようなものです。そのため、難しい問題から簡単な問題を広く出題することになります。平均値、標準偏差、四分位点といった統計学のツールを使ってこれらをコントロールしているわけです(しようとしているが、完ぺきにはできない)。

また、時間制限のある定期試験だけではその日の調子次第でミスをすることもありますし、時間をかければ正しく解答できる能力と、時間制限内に速く解答できる能力の両方を評価する必要があるでしょう。そこで、日々の課題と期末試験の両方で成績評価を行うのです。

平たく言えば、学生の学習成果が適切に反映されるような試験と評価方法を教員は考えているのです。成績評価を行った後に、100点の学生と0点の学生だけになってしまったら、それは学生の潜在的な学習成果を抽出するような試験にはなっていない、と考えられます。

ですが、一見いびつに見えてもそれが望ましい結果である可能性はあります。その理屈を後述します。


言うまでもないことですが、成績評価の分布以外の観点から重要な懸念事項があります。それは大学で学んだことや試験で出題された問題が、実社会において本当に有益な内容になっているかどうか、です。どのような能力が現代社会において有用なのか、ということは正確なところは誰も分かりません。実際に社会で生み出された価値を観測できれば、学習効果を測定できますが、そんなデータの収集は困難ですし、社会は変化しますから、再現性のある測定は不可能に近いものです。

データ分析においては、トレーニング用のデータとテスト用のデータを別で用意しなければ再現性に関して信憑性が薄れてしまう、という話があります。トレーニング用のデータに当てはまるようにモデルを作ったとしても、それは過剰当てはめの可能性があるのです。一方で、トレーニング用のデータとテスト用のデータに分けてしまうと、トレーニングに使えるデータが少なくなってしまってもったいないという見方もできます。そのため再現性とトレーニング効率にはトレードオフ(一方を重視するともう一方を犠牲にする)があるのです。これは理論上必ず生じるもので、統計学ではその調整方法が日々研究されています。

大学では、担当教員が授業内容を決定し、成績評価もその教員が行います。これは上記のデータ分析と同様の観点から考えると、特定の教員の授業内容に対する過学習が生じていて、それを評価している可能性があります。したがって、再現性という観点からは望ましいものとはいえないかもしれません。

さて、では何故このような方法が採用されているのか、を考えてみましょう。これは極めて簡単な理屈で、専門家である教員こそが授業内容と評価方法の両方に関して精通していると考えられるから、です。

ある試験において、ある問題の正答率がゼロだったとしましょう。これは、教員の作問や授業が悪いのかもしれませんし、学生の理解が悪いのかもしれません。

このときに、教員と学生のどちらが実社会に関する情報を持っているか、という観点に立つと、やはり教員の判断を重視することになるでしょう。では、授業を行う教員と試験を行う教員を別にする、という案はどうでしょうか。これにはやはり再現性とトレーニング効率のトレードオフ問題があります。これらの総合的な観点から、現状の大学ではトレーニング効率と教員の専門性が重視されて、担当教員に一任する、という方法が受け入れられていると考えられます。

学生から見ても、他の教員から見ても何が重要なのか分からない、専門性の高い(高いように見える)分野であるほど、教員が好き勝手できてしまう、という問題が生じてきますが、その話は専門家に譲ることにします。


制約のある問題では必ずトレードオフの問題が生じます。例えば、80点以上を合格、と決めてしまうと優秀な学生だけを採用できる一方で、採用できる人数が減少したり、不安定になったりします。また、数学の配点を上昇させると、それ以外の科目を相対的に軽視することになります。上述のような、授業と成績評価における再現性とトレーニング効率のトレードオフがあるように、最終的には上手くバランスをとるための程度問題の評価が重要になります。

こういったロジックは、有限の予算における投資における企業選択、企業の従業員の採用活動等においても同様に使うことができます。


このような様々な対象に関する評価方法、その裏側にある(損得に関する)人間行動のメカニズム、情報のやり取り、意思決定のロジックを学ぶのが経営学部の一連のカリキュラムです。身近なテーマの延長線上にあるロジックですが、落とし穴に落ちないための思考の訓練や、程度問題を適切に評価するための技術の習得によって様々な意思決定を有利に進めることができるのです。


                                      木下 亮




2025年7月14日月曜日

経験価値マーケティングを思い起こさせたパフェ体験

 流通マーケティング学科の丸谷です。70回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行なっていくのか)を専門分野にしていますが、流通マーケティング入門も担当しており、マーケティングに関する事例も収集しています。

 

美しいフォルムのパフェ

 私はケーキ屋さん巡りが趣味でしたが、コロナ禍以降はイートインのお店が減少したこともあり、出来立てのスイーツを食べられるパフェ屋さんを頻繁に訪ねるようになっています。コロナ前より通っている定期的に通ってパフェの奥深さをいつも感じさせてくれるアサコイワヤナギ、食べるときの演出も楽しい上野毛のラトリエアマファソン、関西発チョコですが東京でもチョコの奥深さを感じさせてくれる東京駅のショコラティエパレドオール、自宅から近く数回に一度なるほどとうなる組み合わせを堪能できる西荻窪のの台湾風パフェが有名な金木犀茶店、名店シンフラがある志木駅近くに最近開店したCOLOLIEまでかなり幅広い多様な個性のお店がパフェを提供しています。今回はこ数回訪ねている南砂町にあるKUNON Baking Factoryで最近再び注目を集めている経験価値マーケティングにまつわる体験をしたのでとりあげたいと思います。

 

経験価値マーケティングの代表的研究者であるシュミットは、体験を意識的にデザインし、顧客価値を向上させることを提唱し、「経験」 を軸に企業がマーケティング戦略の構築や目標を定めるためのツールとして「戦略的経験価値モジュール(SEM)」を提示しました。このモジュールでは、経験価値の構成要素を、「SENSE (感覚的経験価値) , FEEL (情緒的経験価値)THINK(知的経験価値) , ACT(行動的/肉体的経験価値) , RELATE (関係的経験価値)」の5つに分類し、これらの要素を長沢・大津(2022)はキーワードや例をあげてわかりやすく示しています。

今回のパフェ屋さんでの体験から得られた経験価値を、上記の5つの価値に当てはめて私なりに考えてみました。

SENSEにあたるのが、パフェの美しさです。私の写真は技術が高いとは言えないですが、それでもパフェの写真を見ると、今回のパフェの造形が素晴らしいことはわかるはずです。パフェにとってインスタ映えすることは今や最重要なことかもしれず、素敵な写真をみるだけでいつも癒されてしまいます。

パフェのメイン食材クラウンメロン

FEELにあたるのが、素材の豪華さです。今回のメイン食材であるクラウンメロンは非常に高価な食材であり、店主の久野さんがその食材のすばらしさや豪華さについて教えてくれました。私はかつて愛知県の大学で勤務していた際に、静岡のメロン農家の息子さんがゼミ生だったので、クラウンメロンのすばらしさや豪華さについては個人的にも伺っていましたので、テンションがあがりました。

 THINKにあたるのが、店主さんの地元静岡の食材へのこだわりです。クラウンメロンだけではなく、店主さんは静岡の食材にこだわっており、前に伺った際にも出身地の食材にこだわってるのが非常に素敵だなと感じ、ファンになりました。

 

パフェの味を変化させる名脇役のワサビ

ACTにあたるのが、味変のトッピングとして用いるワサビを自身ですって適量トッピングする過程です。実際にワサビをするのは大変ですが、自身てすったワサビからは愛着も感じられますし、ワサビのすりかたやわさびのすった部分ごとの細かい味の違いが実感できました。

 RELATEにあたるのが、季節ごとに新たな経験をできる各回定員3人の限定した取り組みを継続的に行うことでこだわりパフェのコミュニティを構築しているといえます。

パフェの提供には1時間以上かかり、定員も各時間帯3名となっているため(前は4名だったみたいですが、今回3名でした)、予約が必須ですが、非常に魅力的な経験をできるお店でパフェを通じた素敵なコミュニティで楽しい時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。次回(7月12日から8月9日までの予定のようです)提供の「みしまマンゴーとスパイスのパフェ」も早速予約させて頂きましたが、素材を栽培する様子やパフェ提供過程を紹介するインスタグラムを拝見しながら楽しみにしています。


レトロな雰囲気が素敵な砂町銀座商店街

 お店自体は住宅街にありますが、すぐ近くにあるレトロな商店街である砂町銀座商店街も非日常的な空間で、有名なおでん屋さんもあり、お勧めです。

                  (流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎)

2025年6月30日月曜日

大学ってどんな場所?とある東経大教員の思い出話

 

こんにちは。東京経済大学経営学部の講師をしております,岩田聖徳と申します。


教員の日常を発信しよう!ということなので,ゼミの紹介と,「大学」という場所を伝えるための個人的な思い出話をしてみようと思います。


ゼミって何?

ゼミというのは,少人数で教員とともに研究をする授業のことを指します。


例えば私のゼミでは,「R」という統計ソフトを活用して,経営・財務に関するデータの分析を行っています。


経営学部では,ゼミ研究報告会というものが毎年開催されるのですが,今年もそれをターゲットにゼミ生と研究テーマを出し合っています。


現在の岩田ゼミは,私と4人の受講生で学習・研究を進めています。


数あるゼミの中では人数が少ないほうですが(※さらなる応募を歓迎します!)


この規模だと教員に聞きたい放題,という状況なので,教員とガツガツ議論がしたい!という意欲的な学生さんにとってはむしろ都合がよいかもしれません(笑)




写真は,ゼミ生で研究テーマを持ち寄って意見を出し合っているときの風景です。


昨年から継続履修の上級生が新顔の2年生たちに背中を見せて議論してくれるので,大変頼もしく思っています。


大学ってどんな場所?

大学生活について,あまりピンと来ない受験生の方もいると思います。私も,高校生のときには大学がどういう場所なのか,全く分かっていませんでした。


受験勉強も,なんか沢山暗記しなきゃいけないし,模試の成績が良い友達を見ると焦るし,正直あまり好きな時間ではありませんでした。


強いて言えば,こういう人間が「もっと大学で研究したい!」「大学院行くからもう一回受験勉強する!」という180度回転をしたのが大学という場所であるということを,受験生の皆さんにお伝えしたいですね。


語弊を恐れずカンタンに言うと「興味あるものを好きにやったらいい」というのが大学の勉強です。


授業計画も大きなルールはありますが,数ある選択肢の中から何を選ぶかは皆さんの自由です。


この自由さが,大学1年生の岩田くんにはすごく刺さりました。


ある会社の経営戦略の話を深く聞きたければ専門の先生に質問に行けば教えてもらえるし,ふと法律の話を聞きたくなったらその授業を取ればいい。


先生方はご自身の専門の(※難解な)話をワクワクした表情で話されていて,大学というのは素敵な空間だなあと思ったのを覚えています。理解できたか否かは別の話ですが。


ゼミでの研究って?

また,「研究」という活動が楽しかったです。


誰も答えを知らないものを探しにいく,という知的作業に大学生の岩田くんはワクワク感を覚えました。


特に,東経大は2年生からゼミで研究活動に打ち込むという選択ができる,ゼミに特に力を入れている大学です。


これは一教員の感覚ですが,凄く良いことだと思っています。大事なことなので赤字にしてアンダーラインを入れました。


自分の考えたことを他の学生や教員と詳しく議論してみることで,自分の考え方のどこが他人と違うのか,説得力のある主張をするために何が足りないか,ハッキリ見えてきます。


学生さん目線でも,この体験があるか無いかで,学習意欲が一気に違ってくると感じています。


一教員として私が心掛けているのは,一人でも多くの学生さんに,なるべくなら1年生の最初の時点から,この知的作業のワクワク感や他者の考え方との違いによる「違和感」を感じられるように,講義やゼミを行うことです。


そのためには,教員である私自身の知識もアップデートしなければいけません。ちょうど近々,研究報告のために海外の学会に行ってきます。


そのあたりの話は次回更新にて。


(文責:経営学部専任講師 岩田聖徳)



2025年6月16日月曜日

2025年度も、経営学部ブログがはじまります!

こんにちは。

東京経済大学経営学部で教員をしている鴇田です。


今年度も、経営学部の魅力や日々の学びの様子をお伝えするブログを再開します。

2025年度は、二週間に一度、月曜日に更新予定です。どうぞよろしくお願いします!



このブログの目的は、「東京経済大学経営学部では、どんな学びがあるのか」「どんな雰囲気の中で学生たちが過ごしているのか」を、少しでもリアルに、高校生や受験生の皆さんに届けること、です。



大学案内のパンフレットやWebページにある情報だけでは伝えきれない、日常の風景や、学生・教員のリアルな声をお届けしていきます。



東京経済大学経営学部には、


🌸「経営」「マーケティング」「会計・ファイナンス」などの専門的なコースがあり、 


🌸学んだ知識を活かして考え、行動する「実践力」を身につける授業が数多くあります。  



たとえば、企業の経営者や実務家の方を招いての授業、ビジネスプランを練るグループワーク、実際に企業と協力して行うプロジェクト型の授業などもあります。  


私自身も、春からの授業を通して、学生たちのエネルギーにたくさんの刺激をもらっています。

新しいことに挑戦する姿や、ちょっと緊張しながらも手を挙げて発言してくれる姿に、毎回「これからが楽しみだな」と感じています。  


このブログでは、執筆を担当する先生の専門分野のお話や、ゼミでの活動、そして学生の頑張りなどを、

経営学部の教員がリレー形式で交代しながら投稿していきます!


「経営って難しそう…」 

「マーケティングってなにをするの?」

 そんなふうに思っている方にも、 

「ちょっと面白そうかも」「やってみたいかも」と思ってもらえるような内容を発信していけたら嬉しいです。  



次回からは、具体的な授業の取り組みや学生の声も紹介していく予定ですので、ぜひ楽しみにしていてくださいね。  



それでは、2025年度もどうぞよろしくお願いします!



  (文責:鴇田彩夏)

2025年5月5日月曜日

映画『ボサノヴァ~撃たれたピアニスト』素敵な音楽と南米現代史に触れられる秀作

 流通マーケティング学科の丸谷です。69回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行なっていくのか)を専門分野にしているので、グローバル・マーケティングにおいて重要である海外事情について学習できる映画について紹介してきました。

© 2022 THEY SHOT THE PIANO PLAYER AIE – FERNANDO TRUEBA PRODUCCIONES CINEMATOGRAFICAS, S.A. – JULIÁN PIKER & FERMÍN SL – LES FILMS D’ICI MÉDITERRANÉE – SUBMARINE SUBLIME – ANIMANOSTRA CAM, LDA – PRODUCCIONES TONDERO SAC. ALL RIGHTS RESERVED.

 今回は2025411日にヒューマントラストシネマ渋谷他で公開された南米ブラジルとコロンビアを舞台にしたアニメーション映画『ボサノヴァ~撃たれたピアニスト』について取り上げます。この映画はブラジルを代表する音楽であるボサノヴァの才能あるピアニスト、テノーリオ・ジュニオルが1976年に軍事政権下アルゼンチンの首都ブエノスアイレスに演奏のために訪れた際に、軍部による不当な拘束の末銃殺された事件について、作家が取材していく様子を、アニメーション映画として描いています。

© 2022 THEY SHOT THE PIANO PLAYER AIE – FERNANDO TRUEBA PRODUCCIONES CINEMATOGRAFICAS, S.A. – JULIÁN PIKER & FERMÍN SL – LES FILMS D’ICI MÉDITERRANÉE – SUBMARINE SUBLIME – ANIMANOSTRA CAM, LDA – PRODUCCIONES TONDERO SAC. ALL RIGHTS RESERVED.

この作品の共同監督であるフェルナンド・トルエバと、ハビエル・マリスカルは、キューバ革命前後のニューヨークを舞台にシンガーとピアニストの悲恋をアニメーション映画『チコとリタ(2010)』で描いた経験があり、今作も社会背景と音楽のバランスが絶妙のバランスで描かれています。なお、『チコとリタ』84回アカデミー賞の長編アニメーション部門にノミネートされました。

© 2022 THEY SHOT THE PIANO PLAYER AIE – FERNANDO TRUEBA PRODUCCIONES CINEMATOGRAFICAS, S.A. – JULIÁN PIKER & FERMÍN SL – LES FILMS D’ICI MÉDITERRANÉE – SUBMARINE SUBLIME – ANIMANOSTRA CAM, LDA – PRODUCCIONES TONDERO SAC. ALL RIGHTS RESERVED.

今作は知る人ぞ知るピアニストと軍事独裁政権下という社会背景のバランスの描き方が絶妙であり、今やレジェンド級になっている一流ミュージシャンのインタビューや、演奏も取り入れることで非常に豊かな作品となっています。

なお、今作で用いられた知る人ぞ知る実在の人物に焦点を当て社会背景を浮き彫りにする手法は、監督の過去作の『あなたと過ごした日に』(経営学部ブログ(202274日)で紹介)でも用いられていました。この手法は魅力ある人物を理解していく中で、その人物が生きた時代背景についても好奇心を持てるという意味で非常に有効なのであり、現在放送中のNHK大河ドラマでも用いられています。大河ドラマでは、「蔦屋重三郎」という知る人ぞ知る実在の人物に焦点を当て、描かれることが少ない江戸時代の庶民が置かれた状況について示しています。

私は決して今作の題材となったボサノヴァなどの音楽に詳しいわけではないです。しかし、ブラジルを訪れた際に聞いたボサノヴァの名曲については記憶があり、作品の随所で使われています。ボサノヴァのいい感じのゆったり間が作品の描く世界観と非常にマッチしており心地よく鑑賞できる作品でした。社会背景となっているアルゼンチンやブラジルの軍事政権下での人権弾圧に関しても学べる内容にもなっており、南米に関心のある皆さんにはお勧めの作品です。

(文責:流通マーケティング学科 丸谷雄一郎)






2025年3月10日月曜日

欧州大陸でコストコの出店ペースが唯一早いスペイン

 流通マーケティング学科の丸谷です。68回目の執筆です。私は「グローバル・マーケティング論」を専門としており、海外でどのようにマーケティングを行うかについて研究しています。年2回ある授業休止期間を利用し、海外現地調査のために出張してきました。このブログでは、米国、インド、中国、チリ、ペルー、ブラジル、ケニア、ガーナ、英国など多くの国々での出張について取り上げてきました。今回は昨年8月にスペインにて現地調査してきたの取り上げます。

スペインマドリード郊外ラス・ローサス倉庫店の外観

コストコはアメリカ出身で会員制の倉庫型店舗を海外にも展開しています。同社の国際展開は他の企業に比べてゆっくりで、市場機会をどん欲に求めるというよりは、石橋を叩いてわたるペースです。私はこの進出ペースを、漸進的(ぜんしんてき)という表現で表しています。同社のヨーロッパの展開での展開は1993年にコストコの前身の会社が既に進出した母国アメリカの旧宗主国でつながり強いイギリス以外ではこれまでなく、2014年のスペイン進出が大陸出店ということでは初めてとなります。それ以降2017年アイスランドとフランス、2022年スウェーデンと少しずつヨーロッパでも出店国を拡大していますが、各国の出店ペースはゆっくりで、出店後の時間があまりたっていないこともありますが、フランスがパリ周辺に2店舗目を出店した以外は1店舗のみです。2014年進出のオーストリア19店舗、2019年進出の中国では7店舗なので、ヨーロッパの出店ペースがゆっくりといえるでしょう。

コストコのスペインにおける店舗

 スペインは出店ペースがゆっくりなヨーロッパの中では出店ペースが唯一早くなっています。1号店は2014510日にスペイン第4都市南部アンダルシア州セビリアでした。2-3号店は2015年と2000年に首都マドリードに、4号店は2021年にバスク州ビルバオに、5号店は20249月にアラゴン州サラゴサに開店し、今後2025年バレンシア州パレルナ、2026年アンダルシア州マラガに出店予定です。地元報道によればコロナ禍でこれでも少し遅れているようですが、上記出店が順調に進むと仮定すれば、スペインの主要7大都市であるマドリード、バルセロナ、バレンシア、セビリア、サラゴサ、マラガ、ビルバオのうち、バルセロナを除く6都市に出店することなります。

 今回はマドリード近郊の3号店ラス・ロハス店にうかがいました。基本的な品揃えは維持しつつも、食が豊かなスペインだけあり、同じヨーロッパのイギリスと比較しても、肉魚野菜の生鮮三品の充実は明らかでした。オレンジなど自国産の柑橘類やオリーブに関してはいうまでもなく、肉では大人気のイベリコ生ハム、魚ではスペイン出身のオルティス社のマグロなどを品揃えし 、日本の寿司に近い寿司を店内調理でちょうど大量に作っていました。 

食文化の豊かさをスペインの特徴に適用した店内

 ちなみに、スペイン小売で圧倒的シェア1位のメルカドーナは食品スーパーのみを展開する企業であり、1990年代の独自規制の影響もありますが、売り場を改めて細かく観察して、1次産業が強く、食文化が豊かなスペインの特徴を反映しているとも感じました。

(文責:流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎)