2014年3月11日火曜日

見えるものだけでなく、見えないものも。

春が待ち遠しいところですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。
経営学部の森岡です。 

今日は少し、自分の研究(のさわり)についてお話しようかと思います。 

私の専門は、「マーケティング論」です。
皆さんの中にも、「マーケティング」という言葉を耳にしたことのある人もいらっしゃることでしょう。マーケティング論とは、マーケティングに関する研究を行う領域を指す言葉です。なんだか小難しく聞こえるかもしれませんが、端的に述べれば、モノ(サービス)とお金を「交換する」ときに生じる様々な現象を研究しようとするのがマーケティング論であると言うことができるでしょう。 

ですので、例えば、ある企業が、他社よりも多くの利益を獲得するために自らのブランドを構築・強化したり、多くの顧客の手に届くように流通業者を選定したり、広く顧客に知ってもらおうと広告を行ったりすることは、マーケティングの1側面と考えられます。他方で、それらに反応して、ブランド価値の高い商品を選んだり、ネット上で買い物をしたり、さらには、店舗でよく広告をされている商品を目に留めて購買したり、というような消費者や顧客の行動もまた、マーケティングの別な側面と見なされるものです。

このように、マーケティングは、売り手と買い手がそれぞれ参加することによってはじめて成立する現象です。ですので、それを対象とするマーケティング論を専門とする研究者もまた、(いずれをより重視するかは別にしても)そのことを常に頭のどこかに置いています。

そして、「交換」を念頭においてみると、売り手と買い手が表裏一体になっていて、そのいずれに対する理解もマーケティング論では欠くことのできないものであると分かります。その上で、概して言えば、「なぜ交換が生じるのか?」「交換がうまく生じるにはどうすべきか」というような課題に取り組むのがマーケティング論です。

さて。前置きが長くなってしまいましたが、私自身の研究について。 
(少しだけ)天の邪鬼な性格のためか、「なぜ交換が生じるのか?」というマーケティング論の研究課題をひっくり返して(?)、「なぜ交換が生じないのか?」ということに強い興味を抱いています。 

確かに、交換が生じる状況を特定することは重要なことだと考えています。今、目の前で起こっている状況をうまく説明したい。そのような思いに基づく当然の行動です。他方で、交換が生じるということは、その裏側では、「交換がうまく生じていない」という、すぐには目に見えない現象も生じています。私自身が、注目するのはこのあたりです。

では、それに該当するのはどういう状況でしょうか。交換について多様な現象があるのと同じくらい、交換が生じないことに関する現象も様々あります。例えば、消費者が自分でモノを作ってしまうことも、交換が生じないことに関連する現象の1つです。お菓子好きの人が、一生懸命ケーキを作ると、ケーキ屋で売れるはずのケーキが1つ売れなくなってしまいます。バイク好きの人が、自分で愛車を修理したりすると、バイク修理工の仕事が1つ減ってしまいます。

もっと単純にこういうことも考えられます。ある小売店で売り物として並べてあった商品が、心ない消費者に盗まれてしまった…万引きもマーケティングに関連する重要な現象の1つです。もしくは、企業の人たちが長年かけて作り上げてきたブランドを、悪徳企業がそのまま真似をして、偽物を作って売ったり、それを知っている消費者が、偽物ブランドを購買したりすると、本物のブランドの商品は、それだけ消費者との交換を少なくしてしまう可能性が生じます。

概して、これまでのマーケティング論は、「見えている」交換に焦点を合わせていて、交換が起こらないこと、つまり、「見えないもの」に焦点を合わせることはあまり多くありませんでした。ですが、売り手と買い手が表裏一体であるのと同じくらい、交換と交換が起こらないこともまた、マーケティング論で考慮されるべき重要な表裏一体でしょう。

見えることは、それに関連するデータをすぐに集めることができたり、直感的にも理解されやすいことでしょう。しかし、見えないことは、見えることを把握するためにも重要なことだと考えています。 


最後に。 
あの大震災からちょうど3年。私が大学教員になったのも3年前です。震災から復興の歩みと私自身の大学教員として歩みは、今後も常に同じです。見えるものだけでなく、見えないところまで、真の意味での復興が進むことを心より願っています。


文責:森岡耕作(経営学部専任講師:マーケティング論他担当)