2019年11月25日月曜日

「先生、質疑応答でどうしていいかわかりません!」:よい質問の考え方・対応の仕方

 経営組織論・ケース分析などの講義を担当している山口です。
 12月14日(土)13時から行われるゼミ合同報告会まで、残り3週間を切りました。
 報告の練習で、意外と難しいのが「質疑応答」です。質問する側は、「この報告に何か質問がありますか?」と言われても、なかなか手が挙げられなかったり、報告する側は、どんな質問が来てもその場で臨機応変に対応するのが難しかったりします。「質疑応答でどうしていいかわからない」という人は意外と多いのではないでしょうか?
 そこで今回は、質問する側・質問に答える側の両方にとって役に立つ「質問の考え方」について書いていこうと思います。
 
 今回皆さんに伝えたいことは二つです。

1.質問や議論の目的は、報告の曖昧な点を聞くことで、理解を深めたり、よりよい研究にするための方向性を見出していくことにある。報告者を「攻撃」するのではなく、より良い研究にするための方法を一緒に考えていくという姿勢が重要。

2.質問は「情報の問い」「意味の問い」「論証の問い」の3タイプに分けられる。質問する側/答える側は、その質問がこの三つのどれにあたるかを意識すると、質問をしやすくなるし、答えやすくなる。
 
 以下では、これらについてみていきます。(今回の内容は、野矢茂樹『大人のための国語ゼミ』(山川出版社)をもとにまとめました。興味のある人は、こちらの本も読んでみてください)

1.クイズ


 まず、皆さんの質問力を把握するために、以下のクイズを解いてみましょう。
 
クイズ 次の文章に対する質問を考えてみてください。

(1)菱の門をくぐり、姫路城の中核部分に入ると、そこから天守に向かうまでに「いの門」から始まり「いろは」順に15個もの門が作られていた。

(2)日本人は全員が日常的に英語を使えるようになるべきだ。だから、小学校の英語教育をもっと充実させなければならない。

 どうでしょうか?何か質問を考えられましたか?


2.質問の考え方


 今の段階では、質問が思いつかなかった人もいるかもしれません。また、質問は考えられたものの、自分の考えた質問が「よい質問」かどうかがわからない、という人もいるでしょう。
 では、よい質問とは何でしょうか?よい質問を考えるためには、どうすればよいのでしょうか?
 まず、「よい質問とは何か」ですが、そもそも研究報告で質疑応答を行う目的は、「報告の曖昧な点を明らかにし、発表者と聴衆の双方が理解を深める」ことにあります。したがって、こうした目的を達成できるのが「よい」質問です。
 よい質問を考えるためには、質問には「情報の問い」「意味の問い」「論証の問い」の三つのタイプがあることを知っておくとよいでしょう。

(1)情報の問い
 これは、相手の言ったことに対して、「もっと知りたい」と思ったことを尋ね、さらなる情報を引き出す質問です。情報の問いには、「より詳しく知りたい」という質問と、「関連する話題をさらに知りたい」という質問があります。
 例えば、「ユニクロの服が安いのは低コストで生産できる体制を構築したからだ」という意見に対して、「低コストで生産できる体制とは具体的にどういうものか?」を聞くのは「より詳しく知りたい」質問。「生産体制以外にもコスト削減の工夫をしているのか?」を聞くのは「関連する話題をさらに知りたい」質問です。

(2)意味の問い
 これは、相手の言ったことの意味がよくわからないとき、それを尋ねるものです。意味の問いには、単にわからない言葉を尋ねるというものだけでなく、相手の言っていることがあいまいな時により詳しい説明を求めることも含まれます。
 例えば、「アップルがスマホ事業で成功したのは、それまでにない革新的な製品を出したからだ」という意見に対して、「成功」とはこの場合何を意味するのか?売上の拡大か、利益率の向上か、それとも違う意味かを聞いたり、ここでいう「革新的」とはどのような意味かを聞いたりすることなどが意味の問いに含まれます。

(3)論証の問い
 これは、相手の言ったことを理解はできるが納得できないときに、「なぜそう考えるのか」を尋ねる問いです。
 例えば、「公園にごみ入れは置くべきではない」という意見が出されたときに、あなたがその意見に納得できないのであれば、「どうして?」と根拠を尋ねたくなるでしょう。このように、相手の意見に独断的なところはないか、論理に飛躍はないかを確認するのが、論証の問いです。
 
 もちろん、これは大まかな分類であり、一つの質問が複数のタイプにまたがる性格を持つこともありえます。ここで重要なことは、厳密な分類をすることではなく、質問にはこうした三つのタイプがあることを念頭に置くことにより、文章やプレゼンのどこに注目し、どんな質問をすればよいかが考えやすくなる、ということです。

3.質問の三つのタイプを知っておくことの意義


 さて、ここで、上記のクイズをもう一度解いてみてください。三つのタイプの質問のどれにしようか考えることで、質問が思いつきやすくなったのではないでしょうか?
(解答例はこのブログの最後を見てください)
 
 質疑応答では、この三つのタイプのうちどの質問をしてもかまいません。ただ、研究報告に対する質問で、一番重要なのは「論証の問い」です。なぜなら、研究報告とは、論文(ある問題に対する自分の意見を、論拠に基づいて述べた文章)にまとめようとしている内容を、他者の前でプレゼンして意見を聞き、改善の方向性を考えるためのものだからです。意見に独断的なところがあったり、論理に飛躍があったりするのは致命的です。質問を考える際には、まず論証の問いがつくれるかどうかを検討してみるとよいでしょう。
 
 逆に、報告者(=質問される側)は、質問にはこの三つのタイプがあることを押さえておくことにより、自分の報告のどこが質問されそうかを予測することができます。例えば、報告の中で難しい専門用語などを使っていれば、その意味を聞く「意味の問い」が出される可能性が高くなるでしょうし、斬新な意見を出せば、なぜそのような意見が成り立つのかを聞く「論証の問い」が出される可能性が高くなるでしょう。このように、質問のタイプがわかっていれば、事前に質問を予測して、あらかじめ対策を講じることができるようになり、報告のレベルが向上します。
 質問ができるようになることは、実は研究のレベルアップにもつながるわけです。

4.研究の「ノウハウ」を学ぶ意義

 
 これまでみてきたように、よい質問をしたり、よい質問を予測して自分の研究レベルを向上させたりするためには、それなりの知識やスキルが必要になります。
 ところが、「質問がうまくできない」と思っている人の多くは、「質問の仕方」について本を読んだり人に教えてもらったりして学習しようとはあまり考えないようです。
 これがスポーツになると話は別で、普段本をあまり読まない大学生でも、高校生の時に部活でテニスをやっていた人が、テニスの本や雑誌を読んでスキルやゲームの展開の方法を調べたり、上手な人のやり方を見て学んだことがあるという話はよく聞きます。
 ゼミで研究をしていて、何か問題にぶつかったときにも、テニスなどのスポーツと同じように考えればよいのではないでしょうか。
 
 論文を書くことは、関連する分野の本を読み、自分の意見を考え、自分の意見の根拠となるデータを調べ、文章にまとめる・・・という複数の作業の集合体です。その一つ一つの作業は、これまでフレッシャーズ・セミナーやゼミで学んできた「本の読み方」「問いの立て方」「批判の考え方」「情報収集の仕方」「文章の書き方」などのスキルが使えることばかりです。それは、テニスの試合が、ラケットの持ち方や振り方などの基本的動作や、ゲームのルールに関する知識、試合の時の立ち位置や攻め方の知識など、複数のスキル・知識の集合体によって可能になるのと同じです。
 もしそれらのスキルや知識の使い方がわからないならば、「論文の書き方」に関する本もたくさん出ています。東経大の図書館で「論文 書き方」で検索すれば、124冊もの本が出てきます。パラパラとめくってみて、自分に合った説明が書いてある本をみたり、実際に優れた論文を読んでみたらいいと思います。

東経大図書館での「論文 書き方」の検索結果(一部)

 
 私からみると、東経大生は、勉強において何か問題に直面したときに、先人たちの考えた同じような問題の解決策を調べ、それを参考にしながら問題を解決していくのが苦手なように見えます。
 勉強であれスポーツであれ、より高い成果を出すためには、自分の頭で考えるべきことと他人の力を借りて効率よく解決すべき点を分け、自分の頭で考えるべきことに集中的に時間・労力を投入できるようにすることが重要です。
 私としては、ゼミでは、「要点をつかむための本の読み方」や「論理的な文章の書き方」などの基本的なスキルの習得においては先人たちの知恵を最大限借りつつ、経営学の専門知識の吸収力・適用力を高め、「自分の頭で考える」ことの中身をより専門的なものにしていきたいと思っています。

クイズ解答例
(1)菱の門とは何か?(情報の問い)・姫路城の中核部分とは何か?(情報の問い)・なぜ15個もの門が作られたのか?(情報の問い)

(2)なぜ日本人は全員が日常的に英語を使えるようになるべきだと考えるのか?(論証の問い)・日本人全員が日常的に英語を使えるようにするために、なぜ小学校の英語教育を充実させなければならないと考えるのか?(論証の問い)

参考文献
野矢茂樹(2017)『大人のための国語ゼミ』(山川出版社).

文責:東京経済大学経営学部准教授 山口みどり