2024年7月22日月曜日

特別企画講義「鉄道で考える社会インフラ整備・管理の未来」のご紹介②


 経営学部の三和雅史です。

 今回のブログでは、5/20のブログで紹介した特別企画講義「鉄道で考える社会インフラ整備・管理の未来」について、講義の様子を報告します。

 特別企画講義「鉄道で考える社会インフラ整備・管理の未来」は、7/19に無事、最終回を迎えることができました。今回の講義では、鉄道会社,あるいは国の機関から計13人の講師をお招きしました。これが2年前なら「○○殿の13人」をモチーフとしたチーム名を付けたいところでしたが、今年の「光る〇」の世界観とはギャップが大きいので、諦めました。13人の講師は、多くが鉄道会社の鉄道部門の部長や課長という立場であるため、災害発生等の異常時に急遽職場を離れられなくなるような事態の発生を想定しながらの授業運営となりましたが、幸い、何事もなく予定通り終了できました。現在、受講生にアンケートへの回答を依頼しており、その結果については、別の機会にご紹介できればと思います。

  今回の講義で対象とした社会インフラを支える仕事は、大きく「インフラをつくる仕事」,「つくったインフラによりサービスを提供する仕事」,「インフラを守る仕事」の3つに分けられます。13人の講師による講義の内容は、各々が多岐にわたるものでしたが、主なキーワードを当てはめて以下の図のように整理しました。 


インフラをつくる
 鉄道・運輸機構では新幹線や都市鉄道の建設が進められ、また東京メトロでも地下鉄延伸の他、駅改良や新駅設置が進められています。一方、地方での新しい路線の建設は、近年では殆どありません。「つくる」には、まちづくりや、これと一体になった鉄道整備も含まれ、阪急,東急の講師からは、まちづくりと鉄道整備への投資が住民,来街者,鉄道利用者を増やし、その収益が更にまちづくりに生かされるという好循環による地域,鉄道の発展の歴史が紹介されました。まちづくりの考え方は時代と共に変わり、東急と広島電鉄の講師からは、現代では単に便利になればよいのではなく、幸福感の向上、well-beingといった人間中心の観点が重要だという話がありました。「移動」が「幸福感」をもたらすという新しい考え方は、鉄道の価値の再定義につながるかもしれません。

つくったインフラによりサービスを提供する
 鉄道会社が線路に列車を走らせてお客さんや荷物を運ぶという最も基本的なサービスに「安全」,「安定」,「快適」,「便利」といった価値が合わせて提供されます。全ての講師が講義の中で触れた「安全」は鉄道輸送において最も優先される価値です。JR四国の講師からは利用しやすいダイヤの導入や他交通機関との連携について、また江ノ島電鉄の講師からは混雑緩和のための工夫等が、「快適」,「便利」といった価値を高める取組みとして紹介されました。大きな投資をしなくても既存インフラの有効活用により価値を高める手段がまだまだあるというのは、大変興味深いことです。物流を担うJR貨物においても、トラック,海運といった他輸送モードとの連携が進んでいます。社内,業界,地域との連携,協調によって構築した新しい枠組みに、新技術を組み合わせた相乗効果により、サービスレベルを一段も二段も上げていこう、というのが最近の流れのようです。

インフラをまもる
 設備老朽化,労働力不足,収入減少,災害激甚化という近年の課題との関係が特に深いのが、「まもる」仕事です。13人の講師の半分以上が土木,線路関係の方だったこともあり、「まもる」に関する様々な現状,課題,取組みが紹介されました。最も現場に近い目線で紹介下さった京阪電鉄の講師からは、「切れ目なくまもる」をキーワードに、線路の管理を社員が24時間,365日リレーして「切れ目なくまもる」こと、また夜間の線路内作業では徹底した時間管理と作業中に起きる様々なトラブルを想定した準備により、翌朝の始発列車から始まる毎日の運行を「切れ目なくまもる」こと、災害発生時には被災現場を速やかに復旧して鉄道事業の継続を「切れ目なくまもる」こと等が、現場社員の使命感や仕事のやりがい、達成感と共に語られました。また、どの会社からも「鉄道をまもる」、更に「鉄道をまもる社員をまもる」ために、新技術の開発,導入を進めていることが紹介されました。

 そして、これら3つの仕事を国として監督すると共に、各社の現状や社会動向を踏まえ、より実効性の高いルール(基準)を策定,更新してインフラの維持,発展を支えているのが、国土交通省です。

 3つの仕事は、いずれもインフラの維持,発展に欠くことができませんが、各々で様々な課題を抱えています。これを解決するために、講義では「新技術」,「協調,連携(社内,業界,地域)」,「職業の魅力と働きやすさ」,「制度,仕組みの見直し」,「価値創造(低環境負荷,幸福感)」といったキーワードが挙げられました。私は、これらのキーワードと東京経済大学の4学部での学び,知識とは、大いに関係があると考えます。
 例えば、「新技術をどこに導入するとよいか?」という問いには、費用対効果の分析が必要ですから、経済や経営の知識が有効です。「社内,業界,地域との協調,連携をどのように進めるとよいか?」、また「職場の魅力,働きやすさをどのように発信するとよいか?」という問いには、コミュニケーションに関する知見が重要です。「鉄道の新しい価値を創造するには?」という問いには、新たな価値の可視化,数値化,言語化が必要なので、全4学部の知識が活用できそうです。更に、これら全てに関係する様々な制度,仕組みの構築には、法学の知識も必要になるでしょう。このように、東京経済大学での学びや研究の成果は、社会インフラのような技術と社会にまたがるシステムにおける課題の解決、そして未来の創造に大いに生かされる可能性が高いというのが、計13人の講師による講義から導かれた1つの結論です。
 本ブログは経営学部のブログなので、改めて経営学部の観点でまとめます。
 以上では社会インフラを対象として話をしてきましたが、人類が解かなくてはならない課題のほとんどは、例えば環境問題にしても、多様な知識を動員し、融合させないと解くことができないものばかりです。学生の皆さんには、経営学部で学ぶ知識も、多様な分野の知識と重なり合うことで、問題解決やイノベーションの発生につながるという世界観やアイデンティティを是非持ち続けて欲しいと思います。