2019年10月28日月曜日

エコツーリヅムってなんだろう?


お久しぶりです。
この3ヶ月ほどは論文の締め切りで首が忙しさで回らず
それが終われば、寝違えで物理的に首が回らなくなってしまった石黒です。

本来であれば、ゼミ合宿での調査結果をお話しする予定でしたが・・・
残念ながら台風の影響で今年は沖縄に行くことができませんでした。
そのため、今回は合宿での調査にも関わる「エコツーリズム」について話したいと思います。

エコツーリズムとは、これまでの消費型の観光とは違い、自然環境や歴史文化を対象に、それらを体験・学習するとともに、地域の自然環境や歴史文化の保全に責任を持つ観光です。
観光業で得られた収益を、環境保護、地域産業・文化の保全に還元していくことで、自然環境の保全・地域の活性化を両立させていくことが目的です。

沖縄でも、エコツーリズムは盛んに行われています。
代表的なのは、サンゴ礁の保全を目的としたダイビングツアーです。
サンゴ礁の生態を学びつつ、サンゴ礁に負担のかからないダイビングを体験、学習することができます。
こうした新しい観光業が広がっていくことで、サンゴ礁を自然環境として保護しつつ、観光資源として多くの観光客を呼び続けることができます。
自然環境保護と、観光業の持続的発展ができるわけですね。





しかし、前回指摘したように観光業からの収入が増え続けているにも関わらず、沖縄の平均収入はほとんど伸びていません。
エコツーリズムにおいて重要な目的であった「地域の活性化」が実現されていないのではないでしょうか?
実は、エコツーリズムが自然環境の保護ばかりに目を向けてきたのが一つの原因かもしれません。
エコツーリズムという言葉を知っていた人も、地域活性化、地域振興についてはあまり知らなかったのではないでしょうか?

ここに沖縄観光業のねじれが起きている気がします。
自然環境の保護と、地域住民に収益を還元していくためのエコツーリズムの実現が必要と言えます。
頑張ってゼミ生に研究してもらい、新たな?原点回帰の?エコツーリズムを提案できれば良いのですが。

文責:石黒督朗


2019年10月25日金曜日

小売ビジネスの構造改革 第一幕!

2019.10.21

経営学部で流通論を担当している本藤です。
寒さが急にやってきましたね。受験生も大学生も体調には十分に配慮したい季節を迎えています。そんな季節の曲がり角の10月10日に、小売業界の曲がり角を示唆するニュースがセブン&アイから発表されました。

セブンイレブン1000店を閉鎖・移転、百貨店を3割閉鎖、GMSを2割閉鎖・譲渡、更に従業員数も2022年度末までにヨーカ堂で1700人、そごう・西武で1300人をリストラ!


利益主義を貫いているセブン&アイの本領発揮と言える構造改革方針です。同社は純利益では今期過去最高の利益を計上しての発表です。

この経営発表は、小売ビジネスの今後の方向性に大きな示唆を与えるものです。
実は、小売ビジネスで日本よりも5年は先を歩んでいるアメリカでは、世界最大の小売企業であるウォルマートが「店舗数減少×売上伸張」という実績を今年度計上しています。
ウォルマートは、昨年対比で357店舗閉鎖して、売上高を昨年対比145億ドルも増加させていて、既存店売上伸長率を昨年対比でほぼ倍増させる実績になっています。※既存店:開店してから1年以上が経過した店舗


これまでは、小売業は立地が勝敗を分けると考えられていて、狭域商圏業態と言われているコンビニ、ドラッグストア、スーパーマーケットは特定エリアに集中的に出店するドミナント戦略を展開してきました。それは、生活者が選択する店舗は「最も近い店舗」になる傾向が強く、また物流効率も上がることからエリア・ドミナントを志向してきました。多くの生活者にとって「近い」ということは、店舗数が「多い」ということと同じ意味なのです。そのため不採算店があってもトータルで利益を出していけるモデルでした。

しかし、今回のニュースは小売業界全体が志向してきたドミナント型ビジネスモデルに大きな波紋を及ぼす一石になると思います。

このセブンやウォルマートが志向し始めた利益率重視への転換には、Amazonをはじめとしたネット通販ビジネスの台頭が大きな影響を与えていることは間違いありません。翌日には自宅まで配達されて、在庫対応できる商品数はとてもリアル店舗が対応できるレベルではなく、欲しいものを品質、機能、価格で比較しながら購入できるのですから、リアル店舗の社会的機能を変えていく必要が出てきます。その機能転換が始まっていると考えられます。


ウォルマートでは、オムニチャネル戦略として、ネットで注文した商品をドライブスルーで受け取れるオンライン・グローサリー・ピックアップの対応店舗が2100店舗を超え、自宅まで配達するオンライン・グローサリー・デリバリーの提供店舗が800店舗を超えました。

このように、共働き世帯が増えている現代において、時短支援型のビジネスモデルは大きな社会的価値を提供する時代へと変遷しています。

ダーウィンが語った最も有名な明言がありますね。
「生き残る種とは、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは変化に最もよく適応したものである」
これはセブンイレブンを育て上げた鈴木敏文名誉顧問の「コンビニは変化対応業」という言葉と合致します。


ダーウィンは、こんな言葉も残しています。
「一時間の浪費をなんとも思わない人は、人生の価値をまだ発見していない」

これはビジネス・ビジョンにも、私たちのライフ・ビジョンにも示唆を与えます。


文責:本藤貴康(流通論、流通マーケティング演習、アカデミックコンパス担当)
本藤ゼミブログ(http://hondo-seminar.blogspot.com/

2019年10月21日月曜日

初めてのケニアで見つけた日本発の取り組み


流通マーケティング学科の丸谷です。32回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行なっていくのか)を専門分野にしているので、海外に出張に行くことが多く、このブログでも米国、インド、中国、チリ、ペルー、ブラジルの出張の模様を取り上げてきました。

新興国のネット小売というテーマで文部科学省から2017年度から頂いている科学研究費による研究の関連取材で、ケニアへ現地調査に行ったので、そこで見つけた小さな日本発の取り組みについてとりあげます。

ケニアの詳細については、私がケニアを訪れていた95日よりネットフリックスで配信が始まった「あいのり アフリカン・ジャーニー」(詳細はあいのりホームページ(https://www.ai-nori.net/)を見ると分かりやすく説明されています。

ケニアは貧富の格差が大きい発展途上国ですが、M-PESA(エムペサ)と呼ばれる携帯電話やスマホを使った画期的な電子送金システムなどの新たな事業によって注目される国です。
ケニアの街中にあるM-PESAの窓口
ナイロビは首都ですので、道路事情などは地方よりは整備されているようですが、舗装されていない場所も多い中で、ネットに関してはかなりしっかり整備されており快適に動画も見られました。

ケニアの実業界では地理的歴史的に関係が深く石油危機以降財力を高めたアラブ系資本、植民地支配時代から定着したインド系資本(印僑)、スマホなどにおいて強大な国力を背景に市場を席巻する中国系のビジネスが街中を席巻しています。

私の主要研究分野でもフランスのカルフールが店舗流通を近代化したり、ネット小売との連携を進めたり、店舗からのデリバリー・サービスを実施するなど、トヨタ、ホンダ、コマツ、マキタなど機械系製品を除くと日本の存在感は強いとはいえない。そんな中で2つの小さな日本発の取り組みに触れる機会を得たので紹介します。
カルフールが現地提供デリバリー・サービスの説明
1つ目の日本発は「やきうどん」です。やきうどんはある丸亀製麺などを展開する外食のトリドールが20153月にケニアナイロビの中心街に、照り焼きチキンをメインメニューとした飲食店「Teriyaki Japan」(テリヤキ・ジャパン)を開店した際に導入しました。 

手際良く焼きうどんを作る様子
丸亀製麺自体は2016年にはケニアに設立したトリドール・ケニアの店舗営業権を現地企業に委譲し、事実上撤退しましたが、店舗自体は2店舗体制での営業を続けています。現地の物価に対して安いとは言えない金額のため、すぐに多店舗展開することは難しいと考えられますが、取材に伺った際にも一定数の現地のお客さんが来ていました。焼うどんを作る店員さんの手つきはよく、味も普通においしかったです。

経営を引き継いだ企業のマネージング・ディレクターと現地調査コーディネーターTOMOさんと3人で
もう1つはJICA協力隊員だった五味哲也氏、NPO法人視覚障害者国際協力協会の金治憲氏、視覚障碍者援護協会の皆様の尽力により技術が伝達され、その後定着しつつある視覚障碍者の方による指圧です。ケニアでは彼らにより指圧の普及が図られ、マチャコスの視覚障害者学校での鍼灸マッサージのコースを立ち上げ以降、着実に人材が育成され、日本からの指圧が定着しつつあるようです。

今回ケニアの現地調査のコーディネーターを依頼したTOMOさんが盲目であん摩・指圧の技術を習得したケニアの人たちのグループ(ASAAVIC)を支援しているというお話を伺い、早速指圧を依頼しました。

TOMOさんらによる現地での指圧普及の取り組み
最初は社会貢献という気持ちもありましたが、実際施術して頂くと非常に技術レベルは高く、現地道路事情が厳しく疲れたがたまることもあり、一日おきに頼むことになりました。ぜひケニアで疲れた方にはおすすめです(関心がある方は指圧普及に取り組むTOMOさんまで(tomo.tsukahara7@gmail.com)。
                  (文責:流通マーケティング学科 丸谷雄一郎)




2019年10月7日月曜日

「先生、問いの立て方がわかりません!」:考えを深めるための問いの立て方

 経営組織論・ケース分析などの講義を担当している山口です。
 9月19日から後期の授業も始まり、現在2~3年生のゼミ生たちは、12月14日(土)に開催される経営学部ゼミ合同報告会に向けて、論文執筆(あるいは研究報告プレゼンの準備)を進めているところです。

ゼミでのグループワークの様子

 さて、大学生が書く「論文」とは、どのようなものでしょう?そして、論文を書くにあたり、大学生が苦労するのはどのような点なのでしょうか?今回は、この問題について考えていきたいと思います。

 まず、論文とは、
「(1)与えられた問い、あるいは自分で立てた問いに対して、
(2)一つの明確な答えを主張し、
(3)その主張を論理的に裏付けるための事実的・理論的な根拠を提示して主張を論証する」
文章です(戸田山, 2012)。


 この定義からわかるように、論文執筆の出発点は「問いをたてること」です。経営学部では先生から問いが与えられることはほとんどありませんので、経営学部の学生が論文を書く際には、まず「どんな問いを立てたらよいのか?」を考えなければなりません。
 
 しかし、論文を書くプロセスで、この「問いをたてる」ことほど、得意な人と苦手な人に二極化するプロセスはありません。問いを立てるときに苦労する人とは、どのようなタイプの人でしょうか。また、それを克服するためには、どうしたらいいのでしょうか。

 一言で言えば、問いを立てるときに苦労する人とは、「自分の知らないことについて問いを立てようとする人」です。
 え?と思うかもしれません。知らないから問いを立てて研究するのであって、知っていることについて問いを立てても仕方ないと思うでしょう?
 それが間違いのもとなのです。

◆問いの立て方に対する「誤解」


 例えば、次のようなクイズを考えてみましょう。
 あなたは、AとB、どちらが良い論文になりそうな問いだと思いますか?

A タピオカドリンクはなぜこんなに流行しているのか?
B タピオカドリンクが流行したのは、日本で台湾旅行や台湾の食に対する人気が向上したためだといわれているが、本当か?

 あなたはどちらを選んだでしょうか?
 なんとなく、Aのほうが、どんな結論が出てくるかわからなくて、面白そうに見えるかもしれません。実際、過去の山口ゼミの傾向を見てみると、圧倒的に多くのゼミ生が最初はAのような問いを立ててきます。しかし、これまでの山口ゼミの研究を見る限り、Aのような問いの立て方をしたグループは、Bのような問の立て方をしたグループよりも論文を書くのに苦労することが多く、質の良い論文が書ける可能性も低いというのが実情です。

 なぜでしょうか?
 実は、Aのような問いの立て方をすると、自分で答えを考えるのではなく、「答え探し」をしてしまう傾向が強くなるのです。ネットや本などを探して、どこかに書いてある答えを見つけたら、そこで研究終了。その答えにとらわれてしまい、「本当にそうだろうか?」と自分なりの答えを考えることが難しくなってしまいます。その結果、こうした研究では、ありきたりの、どこかで聞いたような意見しか出せなくなってしまうことが非常に多いのです。
 さらに、Aのような問いを立てた場合、ネットや本などを見て答えが見つからないと、もうお手上げです。答えが見つかりそうな問いを求めて、何度も問いを立て直し、いつまでたっても問いが決まらない・・・というループにはまる場合すらあります。こうなると、もう論文は書けません。

◆考えを深めるための問いの立て方


 では、このような悲惨な状態に陥らないようにするためには、どうしたらいいのでしょうか?
 私がおすすめする解決策は、Bのように、「自分が答えを知っている問題について問いを立てる」ということです。これまで授業やバイトなどで見聞きしてきた経営学の理論や企業の事例について、何か違和感がある、納得できなかった、ということがあれば、それがベストです。

 私のゼミでは、過去に、流通マーケティング入門などの授業を通じて「企業が広告をするのは当然のように考えられているが、本当に広告は必要なのか?」という違和感を持ち、それをベースに「広告をしないという方針を掲げつつ、売上が業界トップレベルになったZARAの売上増加戦略」を研究し、「売上増加に広告は必ずしも必要ではない」という結論を出した学生がいました。
 彼女の論文が面白くなったのは、彼女が最初から「広告は必要ない」という答え(世間の『常識』を鵜吞みにしない、彼女なりの意見)を持っていたためでしょう。

 このように、良い(面白い)論文を書くためには、最初から自分が答えを持っていることが重要です
 もちろん、最初は問いの答えがわからない場合もあるでしょう。その場合には、例えば「タピオカドリンクの流行について調べたいなあ」などという漠然としたテーマが決まった時点で、それについて、これまでに何が言われてきたか(これを「先行研究」と呼びます)を調べてみましょう。できれば、ネット上にある雑誌記事などではなく、経営学の論文を見つけるのが望ましいです。(ネット上にある雑誌記事の分析は、論理が甘すぎることが多く、批判的思考の練習にあまりならないので・・・※)
 論文や雑誌記事が見つかったら、Bのように、そこで書かれている理由をまとめ、「それは本当か?」という形で問いを立てればOKです。こうすれば、少なくとも先行研究を鵜呑みにすることはなくなり、先行研究は「本当ではない」もしくは「本当だ」という自分の意見を考えることができます。(「そんなのでいいのか?!」と思うかもしれませんが、上記の論文の定義の(3)にあるように、きちんとした根拠に基づいてある主張が正しいかどうかを示すのは、皆さんが思うより大変です)
 また、いきなり自分なりの意見(=タピオカドリンクが流行している理由)を考えるのが難しくても、「先行研究の問題点を考える」というステップをふむことで、その問題を克服するという方向で、意見を考えられるようになるかもしれません。

 以上をまとめると、以下のようになります。
Aのような「謎解き」型の問いを立てると、どこかにある「答え探し」をしてしまい、独自性のある面白い論文にならない
Bのような形で問いを立てると、「研究=答え探し」と誤解してしまうことが少なくなり、「その問題に対する自分なりの主張を提示する」という、論文の目的に近づきやすくなる

◆まとめ:なぜ大学のゼミで研究をするのか?


 最近は、大学でも「実践的なことを学びたい」というニーズが高まっています。その「実践的」な学習の中に、必ずしも「研究」は入っていないように思います。しかし、研究は、社会で仕事をしていく上で必要な「実践的」能力と無関係なのでしょうか?
 私たち大学教員が、ゼミで研究(ゼミ論文の執筆や研究報告プレゼンの作成など)を行うのは、別にゼミ生全員に、研究者になってほしいと思っているからではありません。研究を通じて、
他人の意見を鵜呑みにせず、自分が専門とする経営学の観点から物事をとらえなおし、自分なりの意見を考える力」、
自分の意見を、根拠に基づいて説得的に伝える力
を身につけることができると考えているからです。
 現在、日本企業の競争力はかつてに比べて低下しているといわれています。そうであるとすれば、今後日本企業が競争力を向上させ、より高い成果をあげるためには、従業員一人一人が従来のやり方を鵜呑みににせず、自分が専門とする観点から物事を捉え直し、自分なりに企業活動をどうしていけばよいかを考える力を身につける必要があるのではないでしょうか。
 ゼミで研究をすることを通じて、ゼミ生がどんな産業の、どんな企業に就職した場合にも活用できる、そうした力を身につけてもらえればと思っています。

(文責:東京経済大学経営学部准教授 山口みどり)


※先行研究として、雑誌記事よりも論文のほうが望ましいことは、上記のBの問いをみても明白です。Bの問いは、日経トレンディネットの記事(2018年8月7日)に書かれていた「タピオカドリンクが流行したのは、台湾旅行や台湾の食に対する人気向上や、消費者の健康に対する意識向上により、健康に良い中国茶を提供する専門店とその主力商品のタピオカミルクティーに注目が集まったことである」という記述に基づいて作りました。
 しかし、台湾旅行や台湾の食に対する人気向上が理由だったら、別にタピオカドリンクに限らず、他の台湾らしい食が人気になってもおかしくないはずです。また、健康に対する意識向上が流行の理由だというのも、なぜもっと健康に良さそうなものではなく中国茶だったのか、という疑問が残ります。
 このように、雑誌記事の分析の中には、じっくり考えるまでもなく「これはタピオカドリンクが流行した理由として不十分だ」とわかってしまうものも多く、そもそも先行研究として取り上げる意味がないばかりか、批判的思考法の題材としても物足りない、という問題があることが多いので、論文があればそれを先行研究として取り上げることをお勧めします。

参考文献
苅谷剛彦2002『知的複眼思考法』講談社.
戸田山和久(2012)『新版 論文の教室』NHK出版.
野矢茂樹(2006)『新版 論理トレーニング』産業図書.
3冊とも、論文の書き方についての本です。どれもお勧めで、言っていることが大きく変わるわけではないのですが、読む人によって、どれが「刺さる」かは変わってきます。私には、野矢先生の本の第11章「論文を書く」が「刺さる」のですが、皆さんも自分に「刺さる」本を見つけてみてください。