2019年6月24日月曜日

ニューヨーク・ソーホーのアマゾンが展開する新型店舗を訪れて


流通マーケティング学科の丸谷です。30回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行っていくのか)を専門分野にしているので、海外に出張に行くことが多く、このブログでもインド、チリ、中国、ペルー、ブラジルの出張の模様をこれまで取り上げてきました。

昨年の10月のブログでは、2017年度より科学研究費を頂いて行っている「ネット小売普及以降の小売国際化現地化戦略モデル構築のための研究」というテーマの研究のために訪れた、アマゾンの有人店舗のうち、シアトルで訪れた無人コンビニ『アマゾンゴー』とアマゾンサイトで評価が高い本を販売する書店『アマゾン・ブックス』についてとりあげて好評だったので、今回は3月のニューヨーク出張で訪れた別の2形態の店舗『アマゾン・4スター』と『アマゾン・ポップアップストア』について取り上げます。

世界のネット小売を牽引してきたアマゾン・ドットコムは1994年米国ワシントン州シアトルにて創業し、現在も本部を昨年取材したシアトルにおいています。同社は米国以外にも現在14カ国向けにネット小売を展開しており、今回取材したニューヨークは世界経済を牽引する都市というだけではなく、地元住民の反対で撤回されましたが、ニューヨーク市クイーンズ地区ロングアイランドシティに第2本社を置くことを一度は決めたほど重要な拠点の1つです。

ニューヨークの絶景(最新穴場絶景ポイント:ブルックリン橋前の1ホテルより)
アマゾン・4スター(Amazon 4-Star)は20189月にニューヨークのマンハッタン島の流行発信地区であるソーホー地区に初出店した業態です。店舗の周辺にはMOMA(ニューヨーク近代美術館)のデザインストアやベストセラー作家がイベントを行う有名ブックカフェがあり、世界最先端都市ニューヨークにおいてもトレンド発信基地になっている場所です。

ソーホーの隣ノリータの有名ブックカフェ
業態としての特徴は、ネーミング通り、アマゾンの顧客がネット上で示しているカスタマーレビューで星4つ以上を獲得した商品を選定して取り揃えることにあります。

出入口では満足度測定器がお出迎え
カスタマーレビューを利用するという点では、アマゾン・ブックスと同じですが、商品の種類が異なり、本も一部ありますが、同社が展開するアレクサなどのAIスピーカーやキンドルなどの電子書籍リーダー、ホームアンドキッチン商品及び玩具など実際に触れてみて良さがより伝わる商品を品揃えしています。

主要な商品であるホームアンドキッチン商品
主要な商品である玩具
特に重さが重要な鍋や調理家電、ちょっとした便利さを提供する調理器具などに関しては、いくら何キロと書かれていても、実際に現物を持たないと使い勝手が想像しにくいなと店舗で実際に展示されている商品をみて感じました。

また、実際の商品の使い勝手に関しては、微妙な声の反応が見たいスマートスピーカーやページのめくり心地が見たい電子書籍リーダーにもいえるので、こうした店舗はネット小売を補完する存在として今後も重要だといえます。ゾゾスーツが話題になった割にはうまくいっていないのも着心地といった微妙な感覚の問題があるといえ、ネット小売を中心に展開しているからこそ提案できる、実店舗(じつてんぽ) といえそうです。

微妙な感覚といえばヘッドホンも
今回新たな業態ということでもう1つ訪れた「アマゾン・ポップアップストア」は予想よりもこじんまりしていました。こちらは上記の実店舗の強みをアマゾンが自社ブランドで展開する商品販促に使ったお店であり、販売ではなく期間限定の宣伝ブースという感じでした。取材した店舗はニューヨークの中心のマンハッタン島ではなく島からでた郊外のクイーンズのクイーンズセンターモール(Queens Center mall)の中の人通りが多い場所にありました。

アマゾン・ポップアップストア
アマゾンも注目する世界の最先端都市ニューヨークには最新トレンドを反映したお店が多くあり、常に入れ替わっていきます。今回の取材は南米出張の時差調整もかねての短期間でのものでしたが、昨年9月に訪れた際に気になり、今回宿泊したブルックリンのウィルアムズバーグのホテル周辺にもスケッチブックプロジェクトと呼ばれノートサイズのスケッチブックを購入して、好きなデザインのスケッチブックを作り展示を頼めば展示してもらえるという参加型アートギャラリーやジーンと呼ばれるブルックリン・アート・ライブラリー、ジーン(ZINE)と呼ばれる小冊子を世界中から集めて販売するジーン専門書店、サクラブラマンジェなど和の要素を取り入れたデザートを出す専門店などが隣接してあり、とても刺激的な体験をできた。


ブルックリン・アート・ライブラリー
マンハッタンを一通り回ったら、次はブルックリンやクイーンズにも足を延ばしてみることをお勧めしたい。
(文責:流通マーケティング学科 丸谷雄一郎)



2019年6月17日月曜日

ドラッグストア業界が変わる?

2019.6.17

経営学部の本藤です。
梅雨の季節が始まりました。念のため傘を持ち歩かなくちゃいけなくて面倒な季節ですね。(でも今日は夏日(汗)。不思議な天候で体調不良です(+_+))

僕の大雑把な研究領域は、流通とかマーケティングという営業系に焦点をあてています。
このマーケティングというのも、メーカーが商品をつくって、卸売業が運んで、小売業が販売するという流通チャネルを戦略的にコーディネートするってことで、僕の研究データは、ドラッグストアの販売データを利用することが多く、この業界の動向には常にアンテナを張っています。


そこで最近気になってる経済ニュースが「ココカラファインをマツモトキヨシとスギ薬局が争奪戦を展開!」です。

実は、ドラッグストア業界は、この合従連衡が常態的に起きています。
先述のニュースで登場するココカラファインも、セガミメディクス、セイジョー、ジップドラッグ、ライフォート、スズラン薬局、メディカルインデックスなどのドラッグストア・チェーンの合併を起源としています。実は、この他にも中小チェーンを継続的に加え続けています。
昨会計年度まで業界トップのウエルシアについても、今会計年度でトップに躍り出たツルハについても同様です。地域密着型の中小チェーンが経営統合して今の売上高を飛躍的に拡大させてきています。

上場企業間では、マツモトキヨシがミドリ薬品を、ウエルシアが寺島薬局とCFSコーポレーションを経営統合や買収したというような経緯もありますが、近年では未上場企業の子会社化が基本的な業界再編の流れでした。

しかし、今回のココカラファイン争奪戦はレベルが違います。イメージとしては、コンビニ業界であればローソンとミニストップが一緒になるような話。あれ?分かりづらいですかね(笑)

基本的には、上場ドラッグチェーンは、食う側であって、ココカラファインのような大手チェーンを取り込めるなんて、業界各社は想定もしていなかったと思うのです。だから、「マツキヨとココカラが業務資本提携の相談を始めました」というニュースリリースが行われたら、即座にスギ薬局(スギHD)が「それがありなら私も手を挙げます」という展開になったようです。でもって、話をしていくうちにココカラ争奪戦だった話に3社が統合する話も選択肢に入ってきて、業界に甚大な再編をもたらす可能性も出てきたようです。


これまでのドラッグストアの業界再編は、足し算的な合従連衡が多かったんですよね。
どこかの地域チェーンを大手チェーンが組み込んでいくような。それで売上が加わって、仕入れ交渉力(バイイングパワー)を強化して、安く仕入れたり条件をよくしたりっていう感じです。

ここに来て無視できない要素があるんです。
それがIOT(モノのインターネット)だったり、生活者のライフログ(生活全般のビッグデータ)だったりの収集・活用が、AI時代に不可欠な取り組みになってきています。
となると、商品開発、広告、物流、営業、販売など様々なシーンでビッグデータを活用することになり、小売業のデータの価値が飛躍的に高まっています。
つまり、より多くの店舗を保有するチェーン、より多くの顧客を持つチェーンの戦略的価値が、売上高や店舗数とともに急上昇することを意味するのです。


足し算だった統合や合併が、掛け算になるような環境変化が起きています。

文責:本藤貴康(流通論、流通マーケティング演習、アカデミックコンパス担当)

本藤ゼミブログ(http://hondo-seminar.blogspot.com/









2019年6月12日水曜日

「先生、この本に何が書いてあるかわかりません!」:ポイントをおさえつつ正確に内容を「要約」するための読書法

 経営組織論・ケース分析担当の山口です。
 6月に入り、山口ゼミでは6月30日に慶應義塾大学で行われるRIP中間報告会(慶応大学・青山学院大学・東洋大学・日本大学・千葉商科大学・東京経済大学(森岡ゼミ・山口ゼミ)の6大学7ゼミ合同報告会)に向けて、チームごとに研究テーマを考え始めたところです。
 研究テーマを考える際に、ゼミ生たちがぶつかる壁は二つあります。一つは、「先生、参考文献がありません!」というもの(→この解決策は、以前こちらのブログで説明しました)。もう一つは、「先生、参考文献はあったけれど、難しくて内容がわかりません!」(あるいは、なんとか読んだけれど、内容を誤解している)というものです。
 そこで、今回は、せっかく見つけた文献の内容を「正しく理解」するための読書のコツを解説します。(今回の記事の内容は、野矢(2017)を参考にしながら書いています)

1.本の内容を正しく理解するためのコツ:「問い」を意識して読む


 今回言いたいことは、「問いを意識して読む」、これだけです。
 東経大の学生は、「この本の第1章を読んで要約しなさい」と課題を出せば、「大変だ!」などと文句を言いつつも、「なんとなく重要そうなところ」を要領よく抜き書きしてまとめてきます。パッと見、感心するくらいよくできているものもあります。
 ところが、「で、この章にはどんなことが書かれているの?」と聞くと、答えられないのです。

東経大の教員になって以来10年以上、私は「なぜこういうことになるのか?」がわかりませんでした。「要約ができる=内容が理解できている」だと思っていたのです。ところが、一昨年から1年生向けの入門ゼミ「フレッシャーズ・セミナーb」の授業を担当するようになり、1年生15人の要約レポートを毎週添削しているうちに、あることに気づきました。

「この人たちは『問い』を気にせず読んでいる!」

「問い」というのは、その文章の出発点となる問いかけです。どのような文章でも、何か「こういう問題について書きたい」という問題意識が出発点となって、書かれています。それが、ここでいう「問い」です(この記事も、「東経大生に本を読めるようになってもらうにはどうしたらよいか?」という問題意識が出発点になっています)。
私のフレセミの受講生たちは、その「問い」を全く意識せずに(つまり、その文章がどんな問題を扱ったものか意識せずに)、重要な部分を抜き出そうとしていたのです!
これが、どんなに無謀なことか、わかっていただけるでしょうか?
よく、「要約というのは文章の枝葉を切り取り、幹=中心的主張を抜き出すことだ」と言われます。しかし、そもそも「幹」とは何でしょう? 
「幹(中心的主張)」とは、その文章の「問い」に対する筆者の「答え」です。問いが分からなければ、幹が何かなどわかりようがないのです。

出所:野矢(2017)145頁


2.「問いを意識して読む」とは?

 
 「問い」についてイメージを持ってもらうために、以下のクイズを考えてみましょう。

クイズ あなたが、友達Xから、自分の一番仲のいい友達Aについて、「Aさんってどんな人?」と聞かれたとします。XはAと会ったことがなく、どんな人であるかを全然知りません。あなたは、どう答えますか?


 さて、あなたは今どんなことを考えたでしょうか?
 まず、Xに、Aのどんな点について伝えようか、と考えませんでしたか?
 例えば、「XはAの外見について聞いているのだろうか?」「それともAの性格について聞いているのか?」「それとも外見・性格両方か?」「外見についてだとすれば、何を説明しよう?身長?髪の長さや色?顔が誰に似ているか?」「性格だとすれば、どんな特徴を説明すればいいだろう?」などなど。
 つまり、Xからの質問に対して、「Aのどんな点を伝えたらよいだろう?」という「問い」を立てて、それに答える形で「Aさんって、○○な人だよ」と伝えているわけです。

 このように、人は何かを伝えようとする時、まず「問い」を立て、その答えとして「中心的主張(一番伝えたいメッセージ)」を作っていきます。
 皆さんが大学で読むようなテキストや専門書を書く人も、同じです。例えば「経営学についての教科書を書く」というとき、著者は「何を伝えれば『経営学』について最もよく理解してもらえるか」という問いを立て、それに答える形で文章の内容を考えています。
 だからこそ、文章を読む時に、「その文章の『問い』は何か?どういう問題に答えようとしているのか?」を意識すると、その答えとしての「中心的主張」はどこなのかが特定しやすくなるわけです。

3.問いを意識した要約の例


 実際に、「問い」を意識した要約をやってみましょう。今回要約の題材として取り上げるのは、フレッシャーズ・セミナーaの私の担当クラスで1年生が読んでいる『影響力の武器』という本です。

 この本は、「人を意のままにコントロールする方法」について検討している社会心理学の本です。具体的には、「相手に『イエス』と言わせる要因とは何か?それをどのように活用すれば『イエス』と言わせられるのか?」という問いへの答えが書かれています(人をコントロールする方法などというと、なぜ経営学の授業でそんなヤバそうな(笑)本を読むのかと思うかもしれません。しかし、企業にとっては、「この商品を買ってください」と提案した時に、顧客に「イエス」と言わせられるかどうかは、売上を左右するとても重要な問題です。そのため、この本は経営や広告、マーケティングに携わる多くの人に読まれているのです)。
 この本では、「相手に『イエス』と言わせる要因」として、6つの心理学的ルールが取り上げられていますが、ここでは、その中の一つである「希少性の原理」について、「普通の」要約と、問いを意識してまとめた要約を比較してみましょう。どちらが内容を理解しやすいか、考えてみて下さい。

(1)普通の要約
 私(著者)はかつて、それまで全く興味がなかったモルモン教の教会堂を、急に見学したくなったことがある。ある新聞記事で、その教会堂には普段は信者以外立ち入り禁止の区域があるが、教会堂改築後の今だけは、信者でなくてもその区域を見学可能になると書かれていたのを見たときである。
 私(著者)が、それまで全く興味のなかった教会堂を急に見学したくなった理由は、「数日後には入ることができなくなってしまう区域に今行かなければ、二度と立ち入るチャンスはない」という点にあった。もうすぐ見ることができなくなってしまうために、ほとんど興味がなかったものが、どうしようもなく魅力的に思えてしまったのである。
 手に入りにくくなるとその機会がより貴重なものに思えてくるという原理を、希少性の原理という。私たちが物事の価値を判断するときには、希少性のルールが強力に作用する。そのため、「イエス」を引き出す承諾誘導のプロたちも、当然この力を利用している。中でもおそらく一番簡単な使い方は数量限定のテクニックである。ある製品の供給が不足していて、いつまで残っているか保証できないと消費者に知らせるのである。数が限られているという情報は、本当のこともあればでたらめの場合もあった。しかしいずれの場合も、消費者にその製品が希少であると信じ込ませ、それによって目の前にある商品の現時点での価値を高く見せることができた。
 数量限定と同じようなテクニックに、「最終期限」戦術もある。「独占・特別・公開・終了・間近!」という映画の宣伝のように、販売促進のプロは、客に対して最終期限を設定し、それを公にする形で、以前はだれも興味を示さなかったものに興味を覚えさせることができる。
 承諾誘導のプロたちは、希少性の原理を巧みに利用し、頻繁かつ広範に、さまざまな形で私たちに影響を及ぼしている。希少性の原理の力の源は、主に2つある。1つはおなじみのもので、私たちが近道に弱いという点につけこむものだ。たいていの場合、入手しにくいものは簡単に手に入るものより良いものだということを私たちは知っている。そのため、入手しやすさを手がかりにすれば、商品の品質を迅速かつ正確に判断できる。もう一つは、何かを手にできるチャンスが減ると、自由も失われるが、私たちは既に得ていた自由を失うのが我慢できないということだ。

(2)問いとそれへの答えを意識した要約
 希少性の原理とは何か?希少性の原理とは、手に入りにくくなるとその機会がより貴重なものに思えてくるという原理である。一般に、ある品物の数が少ないか、少なくなりつつあるなら、それだけその品には価値があることになる。例えば、これまで全く興味がなく、訪れようという気になったことがない教会堂でも、普段は立ち入り禁止の区域が一般開放され、その期間があと数日で終わるとなると、見学する価値を感じ、行ってみたくなったりする。極端な場合、不鮮明な切手や二度打ちされた硬貨など、通常は廃棄される理由となる欠陥が、希少性と結びつくと、価値を生む美点となる。
 では、「イエス」を引き出すプロである承諾誘導の専門家たちは、どのように希少性の原理を使っているのだろうか?代表的な方法は2つある。第1に、数量限定戦略である。これは、もっとも明瞭に希少性の原理が使われているもので、ある製品の供給が不足していて、いつまで残っているか保証できないと消費者に知らせるものである。この戦略では、数に限りがあるという情報が本当であってもでたらめであっても、消費者にその製品が希少であると信じ込ませ、それによって目の前にある商品の現時点での価値を高くみせることができる。
 第2に、数量限定に関連した「最終期限」戦術である。これは、それができる時間が無くなりつつとあるというだけで大して関心もないことを行ってしまうという人間の傾向を利用したものだ。「独占・特別・公開・終了・間近!」という映画の宣伝のように、販売促進のプロは、客に対して最終期限を設定し、それを公にする形で、以前はだれも興味を示さなかったものに興味を覚えさせることができる。
 なぜ人は、こうした希少性の原理に従ってしまうのか?希少性の力の源は主に2つある。第1に、それに従えば、通常効率的かつ正確な判断が下せるからだ。たいていの場合、入手しにくいものは簡単に手に入るものより良いものだということを私たちは知っている。そのため、入手しやすさを手掛かりにすれば、商品の品質を迅速かつ正確に判断できる。第2に、人は自由を失うことが我慢できないからだ。手に入れる機会が減少するということは、私たちが自由を失うということだ。そうなると、人は何とかして自由を保持できるように行動する。


 どうでしょうか?両方とも、同じ本の同じ部分を同じ分量で要約したものなのですが、「問い」を意識してまとめた要約のほうが、「著者が何を言いたいか」が頭に入ってきやすかったのではないでしょうか?(ちなみに、下線を引いた部分が「問い」です)

4.「問い」を意識した要約のメリット

 
 このような要約をすると、
木を見て森を見ず(なんとなく重要そうな部分はわかるけれども、結局何を言いたいかはわからない)」ではなく、
木を見ることで森の全体像を理解できる(重要な部分の理解を通じて著者が言いたいことがわかる)」読み方ができるようになります。
 
 その理由は以下の3つです。
・文章のそれぞれの部分で、なぜその話をしているのか(どんな問いについて検討しているか)が見えやすくなる
・問いがわかるので、「中心的主張」が何かを特定しやすくなり、本の重要な部分とそうでない部分のメリハリをつけて読めるようになる
・ある問いから次の問いへのつながりが可視化され、文章の各部分の間の関係も見えてくる→文章の構成(全体像)が捉えやすくなる

 もちろん、本には、必ずしも「問い」が疑問文の形で明示されているわけではありません。したがって、問いを意識した読み方をするためには、「ここで取り上げられている問題(トピック)は、さっきまでと同じだろうか?」「もし違うとすれば、ここではどんな問題について議論しているのか?」と、常に考えながら読んでいく必要があります。
 ただ、問いが疑問文で明示されているかどうかに関わらず、著者は必ずどんな問題をどのような順番で取り上げるかを考えて書いているので、それを読み手のほうも意識して読んであげればいいわけです。

5.「具体例は要約に入れない」など、要約のハウツーは役に立つか?


 さて、ここで書いてきたことは、いわゆる要約のハウツーとは全然違います。
 確かに、要約のハウツーでは、「具体例は削除しなさい」など、「よい要約」をするための細かなルールが列挙されており、一つ一つはわかりやすいです。
 しかし、私はあまりそうしたルールは気にしなくていいと考えています。というのは、後で自分が要約を読み返した時に、具体例がないために何の話をしているのか理解できなかったら、要約した意味がないと思うからです。
 重要なのは、自分がその文章の内容を理解できるように要約することです。
 そもそも、大学で要約など「本を読むトレーニング」をするのは、自分が研究したいテーマについて、必要な文献を、自分で読んで理解できるようにするためです。自分の好きなことを自由に追求するための「武器」を身につけてもらうのが目的なのです。
 であるならば、単に「手っ取り早く点数をとるために、要約ルールに従って、内容はよくわからないけれども要約レポートは完成させる」という「点数をとる=他人に評価される」ためだけの勉強はあまり意味がありません。
 どうせ要約するなら、本の内容について知識を深めたり、自分の読解スキルを向上させたり、後から本の内容を手早く思い出せるようにまとめておくなど、「自分のため」になるような方法でやってもらいたい、というのが、教員としての希望です。(恐らくそのほうが、やる意味を感じられるでしょうし、結果的に評価も高くなるでしょう)

6.まとめ:フレッシャーズ・セミナーaは「武器」の宝庫!


 今回は、「ポイントをおさえつつ正確に内容を要約するための読書法」について解説しました。東経大では、「フレッシャーズ・セミナーa」という1年生向け授業があり、1クラス15~19人程度の少人数で、こうした本の読み方や、わかりやすい文章の書き方など、大学で経営学を学ぶのに必要な「基礎的スキル」を先生にみっちりトレーニングしてもらえる環境が整えられています(ちなみに、もし今回解説した要約のトレーニングに興味がある場合、1年生なら2期に履修できる「フレッシャーズ・セミナーb」の私の担当クラスや、2年生以降なら私のゼミで、こうしたトレーニングを受けることができます)。
 
 このような本の読み方や文章の書き方のトレーニングは意外と効果があるようで、フレセミの最初と最後では、受講生が書く文章の形式・内容が見違えるように変わります。私のクラスの場合、「難しい!」と文句を言われつつも(笑)このトレーニングをきちんと行った年は、20人足らずのフレセミのメンバーの中から、ほぼ必ず1~2人の成績優秀者(その学年の成績TOP20)が出るほどです(もちろん、たまたま優秀な人が私のクラスに来てくれたおかげなのですが、彼らも最初から要約や文章の書き方がきちんとできたわけではありません)。

 確かに、「大学生にもなって本の読み方?文章の書き方?」と思う人もいるでしょう。しかし、高校までは、ほとんどの人が経営学の専門書など読んでいませんし、論文・レポートを書いたり研究発表のプレゼンをしたことがある人だってほとんどいないわけです。私がこれまで見てきた限りでは、最初からビジネスプランの作成などの「実践的」な内容に取り組もうとした人よりも、1年生の時にしっかり基礎的スキルを身に着けた人ほど、自分の入りたいゼミに入り、自分の好きな研究をしています
 考えてみれば、どんなプロフェッショナル(経営者や公認会計士や税理士など経営学に関するものだけでなく、プロスポーツ選手やプロの音楽家などを含む)でも、基礎的なスキルのトレーニングを軽視する人はいません。彼らは、基礎的なスキルを無意識に実行できるくらいまで完璧に習得しているからこそ、実戦でより高度な戦術に集中でき、高い業績を上げられるのです。
 皆さんが、大学で経営学を学ぶ最終目的は、「経営学を使って社会のさまざまな問題を解決できるプロフェッショナル」となることです(東京経済大学経営学部のディプロマポリシー参照)。そのための基礎的なスキルのトレーニングを、大学入学後の早い段階でしっかり行い、社会で活躍するためのさまざまな「武器」を身につけられるようにしていきましょう!

参考文献
チャルディーニ(2014)『影響力の武器:なぜ、人は動かされるのか 第三版』誠信
  書房.
野矢茂樹(2017)『大人のための国語ゼミ』山川出版社.

(東京経済大学経営学部准教授 山口みどり)

2019年6月2日日曜日

海外でシティポップがきてます!(小木ゼミ通信 vol.32 TFT健康ランチ発売!、成績優秀賞など)

 マーケティング論、ソーシャルマーケティング論担当の小木です。32回目の投稿です。

 ◆海外でシティポップがきてる!


 先日、古くからの友人で、レコード針で世界独占の㈱NAGAOKAの長岡香江社長と話していた時に、「小木さん、いま世界を中心に、中古のアナログ(円盤)レコードの人気が高まって、あるいは昔のレコードを懐かしむ層がレコード針を購入するようになっているんですよ」と言っておりましたので、ここ最近の中古レコードの売上状況を調べてみることにしました。

 確かに中古レコードはぐーんと売上が伸び、しかも購入している人は、主に外国の方で、とりわけ1980年代の日本の「シティポップ(City pop)」がお気に入りで購入していることがわかりました。シティポップはいまや世界中で大ブレイクしているのです。

 そもそもシティポップとは、洋楽に多大な影響を受け、都会的なイメージ(大人の恋など)と、洗練されたおしゃれなサウンドを前面に押し出した、日本で独自に進化した音楽です。具体的には、私の大好きな山下達郎、竹内まりや、荒井由実(松任谷由美)、大瀧詠一、大貫妙子、寺尾聰、来生たかお、杉山清貴、角松敏生などなどがその代表格にあたります。

 私は、こうしたシティポップのメインストリームの中にあった1980年代の音楽シーンを彩る、林哲司・作曲の数々がとても好きです(「SEPTEMBER」、「悲しい色やね」、「悲しみが止まらない」、「思い出のビーチクラブ」、「セプテンバー物語」、「北ウイング」、「ふたりの夏物語」、「雪に書いたラブレター」など)。「おっ、これ好き」と思った曲は、調べてみると、はずれなく林哲司さんの曲です。

 その後、シティポップは定番化し埋もれる形になりましたが、2010年頃から、海外で再評価の動きが高まってきたのです。そして現在では、日本のシティポップのレコードをコレクションするマニアが世界中に増え始め、ネットオークションなどの取引だけでなく、レコードを買うためだけに、東京や大阪までやってくる外国人も現れているようです。『Youは何しに日本に?』(テレビ東京)でも、日本で80年代のシティポップのレコードを探す外国人旅行客が紹介されていたのは、記憶に新しいところです。特に、竹内まりやの「プラスティック・ラブ」はネット上で数千万回を超えて視聴されていますし、大貫妙子の「SUNSHOWER」や大瀧詠一の「A LONG VACATION」などのアルバムは、海外で超人気のレア商品となっています。

 こうしたシティポップ再評価の動きは、いまや国境を越えて、レコード針の売上にも波及し、音楽ムーブメントとして成長を続けており、クールジャパンの一角を担っているのですね。


 さて、今回の小木ゼミの活動は次の通りです。

◆2019年夏 TFT(Table For Two)健康ランチ やります!

2019年夏も、小木ゼミ×TFT×東経大生協による、TFT健康ランチを発売します!

 TFTとは、先進国の肥満と開発途上国の飢餓を同時に解決しようとするNPO法人・Table For Twoの取り組みです。TFT健康ランチを購入していただくと、寄付額20円が開発途上国の子供たち給食一食分として寄付されます。

 2019年夏のメニューは、何回かの試食会を経て、次のものに決まりました!


2019年6月24日~28日 「選べるトッピング!豚キムチ丼」400円(380円+寄付額20円)
2019年7月 1日~ 5日  「とろたま!ネギトロ丼」430円(410円+寄付額20円)

 試食会でいただきましたが、とってもおいしかったです。
 ぜひ、ご購入ください!

 小木ゼミ生は、6月末の発売時期に向けて、POPなどの作成、宣伝活動に忙しくなりそうです。


◆小木ゼミから2名の成績優秀者選出

今年も小木ゼミから、成績優秀者が2名出ました。これで、ゼミ創設以来、12年連続の成績優秀者の選出です。受賞者の皆さん、おめでとうございます!小木ゼミをやりがら、成績優秀賞とは、うーん本当に立派!これからも頑張ってください。


◆その他(ゼミスタート、国分寺物語など)

4月より新生小木ゼミはスタートしています。今年は、4年生13名、3年生13名、2年生11名でのスタートです。2年生は戸惑いながらですが、懸命に食らいついているようです。3年生はゼミ運営と個人研究で大変そうですがしっかりやっています。4年生は就活も終盤戦でよい成果報告も届き、多くの学生が就活を終えています。それぞれ頑張ってほしいと思っています。

 「国分寺物語」班(他のブログを参照のこと)では、何やら大きな動きがあったようです!今後、こちらでも紹介していきますが、秋に実りある成果が出るように頑張っているようです。乞うご期待!応援よろしくお願いします。

                            小木