2021年12月23日木曜日

金融庁・TEIJIN MIRAI STUDIOを吉田ゼミが訪問

 吉田靖です。このブログはほぼ2年ぶりです。

現在本学では、感染症対策を十分行いながら、ゼミ教育の一環として学外施設の訪問なども可能になっています。

11月に経営学部吉田ゼミでは霞が関の金融庁と、金融庁があるビルの3階にあるTEIJIN MIRAI STUDIOを訪問しました。

(金融庁入口にて撮影)

金融庁フィンテックモニタリング室の徳永さんには、昨年度もゼミの授業に来て頂いて、金融リテラシーと金融庁の業務、特にフィンテック関連の講義をして頂いたのですが、今回はなんと金融担当大臣室をゼミ生で訪問しました。といってもこの日は大臣はいらっしゃらなかったのですが、室内で記念写真まで撮って頂きました。その写真は非公開ですのでご了承ください。下の図はあくまでもイメージです。金融行政の最前線の現場を感じることができました。

その次に同じ霞が関コモンゲート3階のTEIJIN MIRAI STUDIOを訪問し、帝人グループの最先端技術の数々を紹介して頂き、目にし、手に取り、乗りこなし(?)、多角化と研究開発の重要性を実感しました。

 そして何よりも、説明して頂いた方のプレゼンテーションの見事さに感服した時間となりました。私が最初に就職した会社ではAI等の最新技術の展示会への出展の担当もしていましたので、懐かしい雰囲気も感じていました。

 

TEIJIN MIRAI STUDIOにて徳永さん(右)と記念撮影(本当はゼミ生も写っています)

(注:撮影の瞬間だけマスクを外しています) 

従来、吉田ゼミでは毎年夏にゼミ合宿を、札幌、福島、神戸、富山などで実施していたのですが、2020年度および2021年度は中止となっています。今回は久しぶりの学外で、特に3年生にとってははじめての学外でのゼミでした。 今後も感染症対策に注意しながらゼミ活動を実施して参ります。

 経営学部教授 吉田靖(よしだ やすし)

https://researchmap.jp/yasushi_yoshida

 

 

2021年12月20日月曜日

映画『夢のアンデス』:チリ軍事独裁政権の遺した新自由主義の負の側面について描く

流通マーケティング学科の丸谷です。47回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行なっていくのか)を専門分野にしているので、グローバル・マーケティングにおいて重要である海外事情について学習できる映画について紹介してきました。

(c) Atacama Productions - ARTE France Cinéma - Sampek Productions - Market Chile / 2019

今回はグローバル・マーケティング論で毎年取り上げている南米で初めてOECD加盟を果たし先進国となったチリ経済の負の側面について描いた映画『夢のアンデス』について紹介します。本作は19731990年のチリピノチェト軍事独裁政権の遺した新自由主義の負の側面について描いたドキュメンタリー映画です。

チリのピノチェト軍事政権は1970年に世界で初めて自由選挙により誕生したアジェンデ社会主義政権を、1973年にクーデターにより倒したことにより始まりました。政権樹立後、同国の経済は米国シカゴ学派によって世界初の本格新自由主義経済政策が導入され、1990年国民投票による無血の民政移管後もその経済政策は継承されています。この経済政策は経済成長をもたらす一方、格差拡大をもたらし、軍事独裁政権下を負の側面をしっかり検証しないままにしてきました。

パトリシオ・グスマン監督はアジェンデ社会主義政権の取り組みとそれを倒したクーデターに関して描いたドキュメンタリー映画『チリの闘い三部作』撮影中にピノチェト軍事政権により逮捕・監禁されました。その後国外に持ち出した撮影済みフィルムをもとに映画を完成させ、社会的名声を得ました。しかし、彼は名声と引き換えにチリでの撮影は当然軍事政権下では不可能となりました。

彼は民政移管後も母国の外から軍事独裁政権の負の影響について描き続けています。本作は2010年の『光のノスタルジア』、2015年『真珠のボタン』に続く3部作の第3弾です。『光のノスタルジア』では未だに軍事独裁政権下で連行され行方不明となった人々の亡骸をチリ北部の大半を占める広大なアタカマ砂漠に探す人々を、『真珠のボタン』では民政移管後、軍政政権下の政治暴力の真相解明を恐れた当時の関係者による、行方不明者の亡骸を砂漠よりも広大の海に投げ捨てたことを描いています(上記に2作に関しては、後藤雄介(2016)「〈時評〉宇宙(そら)と砂漠と海と──チリ映画『光のノスタルジア』・『真珠のボタン』が描く歴史への問い」『歴史学研究』、944号、19 - 26ページが非常に参考になりました)。

広大なアンデスとチリの首都サンティアゴ
(c) Atacama Productions - ARTE France Cinéma - Sampek Productions - Market Chile / 2019

3弾の本作は軍事政権下に作られた新自由主義が継続する状況と当時の政治暴力を未だに自己肯定しようとする人々の姿を国土の東側にある広大なアンデスと関連付けて描きました。こうした手法はチリの特徴ともいえる外界との隔絶といった状況を、チリ国外から母国を見る監督の視点と重ねる効果を生み、外から見るからこそ維持できる客観性を担保しています。

今もデモを撮影し続ける映像作家パブロ・サラス氏
(c) Atacama Productions - ARTE France Cinéma - Sampek Productions - Market Chile / 2019

本作では広大なアンデスの映像を差し込みつつ至る軍事政権時代から現在までの状況を概観します。その後に、軍事政権下もチリに残って軍事政権の政治暴力の映像を撮り続け、1990年国民投票による無血の民政移管以降について今もデモを撮影し続ける映像作家パブロ・サラス氏の活動に焦点をあてることによって、民政移管後継続する世界初の本格新自由主義の導入の結果生じた格差の拡大という課題について目を向けさせます。

グスマン監督は既に本作でも一部示した格差が固定されている現在のチリについて若者がスマートフォンで撮った映像を合わせた作品を制作中だそうです(日本経済新聞2021105日夕刊記事)。80歳となった巨匠が現在をいかにまとめあげるのか次回作も楽しみです。

なお、について描いた秀作としては、マーケティング的手法を導入した選挙による民政移管を描いた『NO』があります(20151019日の経営学部ブログで取り上げています)。こちらは本作に比べると見易く、国民投票により民政移管を成し遂げたチリらしさを描いた作品です。合わせてご覧に頂くことをお勧めします。

                   文責 流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎

2021年11月1日月曜日

ブルーボトルコーヒーによる前橋中心市街地での活性化に向けた新たな取り組み

流通マーケティング学科の丸谷です。46回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行なっていくのか)を専門分野にしているので、海外に出張に行くことが多く、このブログでも米国、インド、中国、チリ、ペルー、ブラジル、ケニア、ガーナの出張の模様を取り上げてきました。しかし、コロナ禍で海外出張はしばらく難しそうなので、これまでやろうと考えていてできていなかった日本に進出している外国企業について取材しています。今回はブルーボトルコーヒーの日本における最近の新たな取り組みについて取り上げていきます。

ブルーボトルコーヒーに関しては、2016年に同文舘出版より出版した『小売&サービス業のフォーマットデザイン』という拙著において「カフェ業界」を取り上げて以降継続的に注目し取材してきました。ブルーボトルコーヒーはサードウエーブコーヒーのフロントランナーのカフェチェーンとして米国では有名であり、海外進出の最初の国として日本を選択し、201526日に東京都江東区清澄白河にロースタリー&カフェとして開店した。その後は同年36日には青山にカフェのみの店舗を、2016325日にはJR新宿駅新南口に開業するNEWoMan3号店を出店し、以降店舗網を拡大し、今回取材した前橋の白井屋カフェは24店目となります。

ブルーボトルコーヒー白井屋カフェの外観

今回わざわざ取材を行った理由は今回の店舗が初の地方都市前橋への出店だからです。ブルーボトルコーヒーの立地へのこだわりは強く、工場跡地の焙煎所付の1号店、表参道のブランドショップの2階という大都市中心部の単独店舗、新宿という巨大ターミナル駅直結の商業施設、六本木の緑豊かな美術館が多く立地する周辺の商業施設、ワークショップスペースを設置した中目黒、羽田ともつながる新幹線停車駅品川駅商業施設アトレといったように、都会の中のえりすぐりの場所にこだわってきた。関東の最近の店舗20号店も渋谷の中でも感度の高い顧客対象のアパレルショップが集まるエリア内にある北谷公園内の店舗です。

北谷公園内に立地するブルーボトルコーヒー渋谷カフェ

こうした傾向は関西出店を開始して以降も続いており、20183月の関西初出店は築100年を超える伝統的な京町家をリノベーションした店舗、神戸元町旧居留地、京都南禅寺近くのいけばな発祥の地六角堂といったように、立地を厳選しながら展開を進めてきた。

ブルーボトルコーヒー京都六角カフェ

こうした立地に応じた店舗展開は米国と同様の手法であり、コーヒーへのこだわりは変えないが、それ以外に関しては立地ごとにブルーボトルの価値観にあった意味のある出店を意識してきたと考えられる。結果的に従来は関東では東京、神奈川、関西では京都、神戸、大阪といった大都市に出店都市は限定されてきた。

今回出店した前橋はこれまでの立地とは全く異なる。前橋は群馬県の県庁所在地ではあるが、正直県内でも新幹線が止まらない取り残された感じの印象の街である。今回の取材においてもJR前橋駅前にはマクドナルドが鎮座し、少し離れた中心地市街地の商店街は昔ながらの感じで、地方都市のさびれた感じが漂う。郊外のショッピングモールに客を奪われたのだと容易に推測できた。ちょうど取材したのが週末だったこともあり、イベントを行い集客しているようだが、イベント参加者以外の人はまばらであった。

イベントで集客する商店街

前橋への出店が発表されて以降、都会の洗練されたイメージのブルーボトルコーヒーがなぜさびれた地方都市に出店するのかずっと気になっていた。出店場所は202012月に老舗旅館を再生したこだわりのデザイナーズホテルである白井屋ホテルの敷地内である。この再生事業には地元出身のジンズホールディングス社長の田中氏がかかわっているなど、調べると面白そうな情報が出てきた。だからといって納得できたわけではなかった。

白井屋ホテル外観

そんな中ようやく緊急事態制限も解除され、早速取材してみて少し納得できる部分もあった。点だけで見ていると実感できないのだが、前橋市は「水と緑の健康都市宣言」を行っていることにも表れているように、広瀬川の流域であり、ブルーボトルコーヒーの面する馬場川通りの横には水路があり、遊歩道として憩いの場になっている。       

馬場川通り横の遊歩道

この川沿いにはブルーボトルコーヒー以外にもカフェが立地しており、川沿いを歩いて散歩していくと商店街にぶつかる。商店街に入るとすぐに今回ブルーボトルコーヒーに限定スイーツを提供している地元で菓子店「和む菓子なか又前橋本店」があり、店頭には若者が数人訪れていた。

和む菓子なか又前橋本店

地元菓子店とコラボしたスイーツとそれに合うとお勧めされたコーヒー

ブルーボトルコーヒー自体は非常にこじんまりしており、イートインスペースも若干あるが、テイクアウト主体の店舗であることがわかった。店内を少し観察していると、地方ならではとも思える光景が目に入った。若い子供連れの親子に店員が積極的に話しかけ、コーヒーを入れる特徴的な部分を写真に収めようとする際には店員がピースサインで嬉しそうに応じていた。大部分の店員さんもとにかくお客さんとコミュニケーションをとろうとしており、多摩ニュータウンにあるスターバックスの郊外店の風景を思い出させた。 

こじんまりした店内の様子

店内と周辺取材後おなかもすいたので、こだわりのデザイナーホテルのラウンジで、ブルーボトルコーヒーとホテル内のフルーツタルト専門店がコラボで開発した10月まで期間限定のグレープフルーツとコーヒーのタルトを頂いた。

       

ホテル敷地内のタルト専門店とコラボで開発した限定タルトをホテルラウンジで

ラウンジ内の空間は独特の都会的な雰囲気で世界観が作りこまれており、この地域のランドマークとなる可能性は感じられた。今回の地域活性化に向けた新たな取り組みの成否によっては、ブルーボトルコーヒーの出店地域の拡大の可能性があるだけに今後も注目していきたい。                

                  文責 流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎 


2021年9月13日月曜日

タイトル通りとてもやさしいスパイが主人公の映画『83歳のやさしいスパイ』

 流通マーケティング学科の丸谷です。45回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行なっていくのか)を専門分野にしているので、グローバル・マーケティングにおいて重要である海外事情について学習できる映画について紹介してきました。

今回は現在公開中のチリ映画『83歳のやさしいスパイ』について取り上げます。この映画は第93回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされました。今回取り上げる『83歳のやさしいスパイ』はドキュメンタリー作品でありながら、タイトル通り、やさしさの中に考えさせられる側面のある作品でした。

79日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
© 2021 Dogwoof Ltd - All Rights Reserved

作品の主人公セルヒオは妻を亡くしたばかりのやさしい83歳の男性です。彼は新聞広告の募集を見て、入居者の虐待を探るためにスパイとして、老人ホームに入居し、話は彼が伝える克明な報告に沿って進みます。当初、携帯電話の扱いにも苦労しますが、眼鏡型の隠しカメラを駆使し、暗号を使って老人ホームでの潜入捜査を続けますが、話を聞くうちに入居者たちの良き相談相手となっていくという内容です。

 

器具の扱いに苦労するスパイである主人公
© 2021 Dogwoof Ltd - All Rights Reserved

この映画の更なる魅力はある程度恵まれた環境にある老人たちのそれぞれの事情をやさしく包み込むような主人公のやさしさにあります。出てくる入居者の中に、私の亡くなった祖母と非常に似た感じの女性がいました。彼女は私の祖母同様認知症となり、記憶が徐々に抜け落ちていきます。自分の変化に戸惑い泣いてしまうシーンは祖母の晩年を想い出させ、沁みました。やさしいスパイである主人公は認知症が進む彼女に、スパイの利点を活かしつつ、彼女に寄り添った対応をします(詳細は作品をご覧になってください)。

映画をご覧になれば多くの方が、入居者の中に自分の祖父母や親戚に似た境遇の方を見つけられるのではないでしょうか。日経BPヒット総合研究所上席研究員品田英雄氏が指摘されているように(日経MJ202172日付)、宮藤官九郎さん脚本で最近話題となった『俺の家の話』と世界観はかなり似ています。宮藤さんは演劇出身ということもあり、上記作品も描かれるテーマに社会性があり、主役だけでないキャストの個性に加えて、プロレスと能との対比を組み入れる一工夫のバランスが秀逸でした。このドキュメンタリーも老人ホームというテーマに社会性があり、出てくる入居者の方々は皆個性にあふれ、スパイでの侵入という一工夫が重くなりがちな雰囲気を和らげています。
入居者に寄り添う主人公
© 2021 Dogwoof Ltd - All Rights Reserved
緊急事態が延長され、コロナ禍映画館に行くのは難しいですが、鑑賞できる状況になったら感染対策を行った上で、タイトル通りとてもやさしいスパイが主人公の映画『83歳のやさしいスパイ』をご覧になられてはいかがでしょうか?

文責:流通マーケティング学科 丸谷雄一郎

2021年7月26日月曜日

ブログをきっかけにオンライン講演会で講演

流通マーケティング学科の丸谷です。44回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行なっていくのか)を専門分野にしているので、海外特にラテンアメリカに関する情報を得るために普段から映画をよく見に行っており、このブログ(2020127日月曜日「2つの映画祭でラテンアメリカ映画三昧」)でも映画祭を訪れた際の出来事を紹介しました。今回はこのブログがきっかけで頂いたオファーに対応した講演会について紹介します。

私はメキシコで生まれ、ラテンアメリカ地域を対象に研究を行っていることもあり、ラテンアメリカ関係の講演会のお仕事なども頂くのですが、今回は上記のブログをご覧になった京都外国語大学のラテンアメリカ研究所(IELAK)の方からの講演会の依頼でした。

京都外国語大学は学内に在京都メキシコ名誉領事館、在京都ニカラグア名誉総領事館、在京都グアテマラ名誉領事館、京都ラテンアメリカ文化協会といったラテンアメリカ関連の組織を置くなど、ラテンアメリカとの交流には積極的な大学として有名です。

ラテンアメリカ研究所は1980年に設立された京都外国語大学メキシコ研究センターを前身とし2001年には「京都ラテンアメリカ研究所」(2016年「京都外国語大学ラテンアメリカ研究所」に改称)として設立され、ラテンアメリカを対象に調査研究を行うと同時に、成果を研究者や市民に情報発信され続けています(第18回は上記のラテンアメリカの楽器に関するテーマでの講座でした)。


今回オファーを頂いた講演会も研究成果の情報発信の一環であり、今年度の第19回ラテンアメリカ教養講座「いま「ラ米映画」が面白い ~映画でひも解くラテンアメリカ世界~」で19回目の取り組みです。本来なら昨年度に行われる予定でしたが、新型コロナウィルス蔓延に伴い延期となり、オンラインでの開催となりました。

私は全5回のうち第2回担当「ネット配信普及でアクセスしやすくなったメキシコ・中米映画」というタイトルで以下のような概要の講演をしました。

1.はじめに                  

2.ネット配信でアクセス可能な代表的メキシコ・中米映画

3.ネットフリックスの代表的成功作となった『ローマ』

4.グアテマラ映画『ラ・ヨローナ伝説』

5.結びに変えて

「はじめに」では、ネットフリックス、アマゾンプライム、Huluといったネット配信が普及したことにより、従来よりも簡単にアクセスできるようになった現状をお話した上で、「ネット配信でアクセス可能な代表的メキシコ・中米映画」として人気がが高いネットフリックス作品である『1994 権力、反乱、犯罪、メキシコ激動の年』『ナルコスメキシコ編』『いつか君と』などを紹介しました。

さらに、ネットフリックスの代表的成功作となった『ローマ』では、上記潮流の契機となったネットフリックスの代表的成功作『ローマ』を取り上げ、その前提となった2010年代米国アカデミー賞監督賞を2013年~2018年の間に3人で5回受賞し世界の映画界を席巻したメキシカンニューシネマ(El Nuevo Cine Mexicano)についても解説した。

その後、「グアテマラ映画『ラ・ヨローナ伝説』」ではグアテマラ映画『ラ・ヨローナ伝説』が注目されるハイロ・ブスタマンテ監督についても取り上げ、「結びに変えて」では、コロナ禍で報告が1年延びたことを踏まえて、最近の注目作として、2020年メキシコアカデミー賞(アリエル賞)最優秀作品賞受賞『そして、俺はここにいない(Ya no estoy aquí)』、2019年アリエル賞4部門受賞作『グッド・ワイフ』などについて取り上げた。

オンラインでの開催ということもあり、全国からラテンアメリカ映画に関心がある方だけではなく、ラテンアメリカ地域の様々な領域の研究者の方々から、ラテンアメリカ文化に関心がある方々やマイナー映画に関心がある方まで多様な皆様が参加頂き、講演中に募集したチャットからの質問をみても、かなり多様な視点を提示して頂いた。


こういった機会を頂くと、自身の関連研究分野について改めて振り返る機会にもなり大変ありがたいのだが、今回も見ようと考えてなかなか見れていなかった多くの秀作を鑑賞できた。なかなか不自由な状況ではあるが、触れる機会が秀作も多く生み出されるメキシコ・中米映画について鑑賞してもらえればと思います。
(文責:流通マーケティング学科 丸谷雄一郎)


2021年4月19日月曜日

メキシコ現代史の一端を見せるメキシコ映画『グッド・ワイフ』

 流通マーケティング学科の丸谷です。43回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行なっていくのか)を専門分野にしているので、グローバル・マーケティングにおいて重要である海外事情について学習できる映画について紹介してきました。今回はDVDソフトが2021年2月3日発売されたメキシコ映画『グッド・ワイフ』について取り上げます。
 この映画のあらすじは以下の通りです。「1982年、メキシコシティの高級地区ラスロマス。実業家の夫との間に3人の子供に恵まれたソフィアは、高級住宅街にある美しい豪邸で満ち足りた生活を送っていた。セレブ妻たちのコミュニティに女王のごとく君臨していた彼女は、証券会社の社長を夫に持つ、垢抜けない“新入り”アナ・パウラの出現が気に入らない。だが、歴史的なメキシコの経済危機が到来し、富裕層を直撃。突如として、ソフィアの完璧な世界は崩壊し始める…」(今回画像など素材を提供いただいた同映画の配給元ミモザフィルムのホームページより抜粋)。
 
生まれながらのセレブのソフィア

 
新興セレブのアナ・パウラ

 この映画は一見すると、日本語タイトルである『グッド・ワイフ』、メキシコ版アカデミー賞アリエル賞4部門(主演女優賞、衣装デザイン賞、メイクアップ賞、音楽賞)受賞、宣伝に用いられているセレブ奥様を写したキービジュアルゆえに、単なる新興国のセレブ映画とも受け取れます。私も2020年7月の公開当時コロナ禍でのオンライン対応に追われ、公開されたことはわかっていたのですが、見に行くことがなく公開が終わってしまっていました。
 しかし、ソフトが発売され鑑賞してみると、強く押し出している側面と異なる部分に目が行き、少し異なる印象の映画でした。映画が描く当時のメキシコの状況を理解していたからだと考えられます。簡単にでもメキシコ現代史の転換期となった1980年代のメキシコ経済危機について理解し、そのことを踏まえて見てみてください。
 私は1970年この映画の舞台であるメキシコシティに生まれ、この映画の背景にあるメキシコ経済危機の直前に当たる1981年の時期にメキシコを訪れたことがあります。私が生まれた時期の状況に関しては、ネットフリックス作品でありながら、第91回米国アカデミー賞10部門にノミネートされ、外国語映画賞、監督賞、撮影賞を受賞した当時のメキシコ中流家庭とその家政婦の日常が描かれた『ローマ』に描かれています。合わせてみるとメキシコの現代史を理解するのに非常に有益です。
 この映画はメキシコ経済危機を、『ローマ』で描かれた伝統的メキシコセレブにとっては安定の時代の没落という視点から描いています。日本で見られている多くのメキシコ映画やドラマは、どうしてもメキシコから米国への移民や麻薬組織との関わりについて描かれたものが多く、『ボーダーライン』『カルテルランド』『ノー・エスケイプ』がその代表ですし(詳細は以下で示す拙著参照)、ネットフリックスのドラマシリーズの『ナルコス』はエンターテインメントとしても面白いため、イタリアのマフィアを題材にした映画や、日本でかつて仁侠映画が流行ったのと同様に理解できます。
 
拙著『現代メキシコを知るための70章(第2版)』明石書店、2019年より。

 メキシコ現代史の側面を切り取った傑作『ローマ』と同年の公開であったこともこの映画にとって少し不運だったのかもしれません。メキシコ版アカデミー賞では『ローマ』が主要賞の多くを獲得し、『グッド・ワイフ』も健闘したものの、『ローマ』と同じ年でなければ、もっと評価されたかもしれません。結果的に、『ローマ』よりも評価された主演女優や彼女の衣装やメイクアップをアピールすることにつながったのかもしれません。
 この映画が描いた1980年代後半冷戦構造が崩壊後始まった経済のグローバル化も約40年を経てコロナ禍で一段落しつつある現在、経済のグローバル化の起点となった冷戦構造崩壊を日本ではあまり注目されてこなかった側面から見つめ直すことができるこの映画を見つつ、当時の状況を学習してみるのもいいかもしれません。 
                  (文責:流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎)

2021年3月22日月曜日

スターバックス・コーヒー・ジャパンの多摩地区における新たな取り組み

 流通マーケティング学科の丸谷です。42回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行なっていくのか)を専門分野にしているので、海外に出張に行くことが多く、このブログでも米国、インド、中国、チリ、ペルー、ブラジル、ケニア、ガーナの出張の模様を取り上げてきました。しかし、コロナ禍で海外出張はしばらく難しそうなので、これまでやろうと考えていてできていなかった日本に進出している外国企業について取材しています。今回はスターバックスコーヒーの日本における最近の取り組みのうち、大学に立地する多摩地区で行われている工夫について取り上げていきます。

 スターバックスに関しては、2016年に同文舘出版より出版した『小売&サービス業のフォーマットデザイン』という拙著において「カフェ業界」を取り上げた際に、今やサードウエーブコーヒーの日米の代名詞となった丸山珈琲(過去の丸山珈琲取材に関してはhttp://tkubiz.blogspot.com/2017/12/blog-post.htmlを参照)とブルーボトルコーヒーを取材した際に取り上げて以降継続的に注目し取材してきました。

スターバックス・コーヒーの日本進出は1995年で北米以外初の海外進出であり、アフターヌーン・ティーやキハチ(KIHACHI)の展開で飲食での実績があるサザビー(現サザビーリーグ)社と合弁で参入しましたが、2014年にはサザビーリーグ社との合弁を解消し、スターバックス・コーポレーションの完全所有子会社となっています。完全子会社後は米国本社との一体感をさらに強めながら、20155月には最後の未出店県鳥取県に出店を果たしています。

 1つ目にとりあげるのは、スターバックスコーヒーnonowa国立店での取り組みです。このお店は聴覚に障がいのある従業員を中心に、主なコミュニケーション手段として手話を採用したサイニングストアで、この国立店が5店舗となるそうです(その他にマレーシア2店舗、アメリカ1店舗、中国1店舗)。

スターバックスコーヒージャパンnonowa国立店の外観

 店内に入ると、すぐに目に入ったのが多くの手話での会話を促す工夫と実際に手話で会話する顧客の姿でした。注文しようとレジに向かうとレジ前に手話での会話を促すPOPがあり、レジにも実際にどのように手話で注文するか書かれたPOPがありました。

手話での会話を促す手書きPOP

 今回の注文では、注文カウンター担当者はたまたま健常者、受け取りカウンター担当者は、視覚障害者だったのですが、商品受け渡しの際には店内に整備された番号が出る電光ボードを使うのかなと思いレシートの番号を確認して待っていたのですが、お客さんが並んでいなかったこともあるのか、1つ1つ商品を掲げて示し商品を渡した上で、私が返すのを忘れそうになっていたソイラテ注文用者を確認するための小さなボードを、小さな箱に戻してください指示を分かりやすく身振りで行ってもらいました。

受け取りを容易にする電光ボード

 店内にも聴覚を使わずに視覚で確認できる様々な工夫がなされており、このお店の位置づけを示し、自社の取り組みをアピールするための工夫がなされていました。

並ぶ際の足元の店内サイン

取材も多いので人権配慮の注意のためのPOP

2つ目にとりあげるのはスターバックスコーヒー西東京新町店での取り組みです。この店舗の取り組みは地域に愛されてきた老舗「珈琲館 くすの樹」にあった樹齢約300年のクスノキ(西東京市保存樹木)を保存し、伝統を意識しつつ新たなコミュニティの中核となるための工夫です。

スターバックスコーヒー西東京新町店の外観

「珈琲館 くすの樹」は食べログでも3.5越えの高評価(3.56)を獲得する老舗喫茶店であり、2019415日に閉店するまで、昭和、平成の40年間地元で愛されていました。老舗喫茶店の閉店に関しては、20203月のこのブログでもゼミでの相談などで協力して頂いていた吉祥寺のナローケーズ、moi、近江屋の老舗三店舗についてかつて取り上げました。こうした老舗喫茶店はお店の雰囲気を構成する空気自体がお客さんのそれぞれの想い出、例えば私の場合には就活やその前後の不安や悩みを語る学生さんの姿とつながっており、かけがえのない場所として記憶されています。

今回の取り組みはこうした想い出の場所をリニューアルしつつも維持したことに強い意味があり、スターバックスが掲げるサードプレイス(自宅と職場以外にくつろげる第3の場所)というコンセプトにも合致した取り組みといえます。

くすのきの説明

訪れて最初に目がいくのが「珈琲館 くすの樹」の象徴ともいえる樹齢約300年の「クスノキ」であり、このクスノキにインスパイアされて建築された店舗は、ドライブスルーやペットとの来店といった現代的ニーズに対応しつつも、スターバックスが2017年の『京都二寧坂ヤサカ茶屋店』開店以降進める現地へのより強いリスペクトが現れる店舗の建築の流れに即したものでした。店内の天井は高く、内装も木の温かみを強く打ち出した雰囲気でした。

 

しっかり整備されたドライブスルー・レーン

 
愛犬との散歩に対応した外の席の様子

 グローバル・マーケティングでは、世界中で同様の取り組みをすることによって効率性を求める標準化(世界的標準化)と各市場にきめ細かく対応することによって現地での顧客満足を追求する現地化(現地適応化あるいは適合化)をいかにして両立するのかということと、世界に展開するからこそ獲得できる知識やノウハウをいかに活用するのか(知識やノウハウの相互移転)が重要です。

今回取り上げたスターバックスコーヒー・ジャパンの2つの店舗での取り組みは標準化された店舗の全都道府県出店完了と日本進出を支えたきた日本企業との合弁解消後の取り組みであり、nonowa国立店の取り組みは、世界中に展開するチェーンだからこそ可能である外国の先行ノウハウの導入事例ですし、西東京新町店の取り組みは、標準化の後に重要視している現地化の取り組みです。

緊急事態宣言が解除されたタイミングで感染対策をしっかり行いつつ、大学からもそう遠くない多摩地区でのグローバル・マーケティングの2つの新たな取り組みの場所に足を延ばしてみてはいかがでしょうか。

                (文責:流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎)




2021年1月18日月曜日

フランス発外資の巨人再び幕張に

 流通マーケティング学科の丸谷です。41回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行なっていくのか)を専門分野にしているので、海外に出張に行くことが多く、このブログでも米国、インド、中国、チリ、ペルー、ブラジル、ケニア、ガーナの出張の模様を取り上げてきました。  
 海外出張では小売業者の店舗調査を行うためにショッピングモールをよく訪れます。そんな時に日本ではあまり見かけないけれど海外では頻繁に見かける店舗として「デカトロン」について取り上げ、最後に関東初出店をしたという情報を紹介しました。情報を紹介しておきながらコロナ禍で遠方への取材は自粛していたこともあり、約半年間現地取材に行けていなかったのです。しかし、ようやく現地取材に行けるようになったので取材した内容の一部を紹介します(なお、今回の現地取材は2020年10月に行っています)。
デカトロン関東1号店周辺の地図
 デカトロン関東1号店は「イオン幕張店」が入るショッピングモール内にあります。イオンの幕張といえば、「イオンモール幕張新都心グランドモール」が日本有数の小売業者総本山としてあまりにも有名であり、私が1年生対象として担当する「流通マーケティング入門」でも日本を代表するショッピングモールとして取り上げているほどです。ちなみに、イオングループの本社は海浜幕張駅の目の前にあり、本社近くの大規模モールということでイオングループの新たな試みの多くがこのモールを使ってなされてきたようです。
デカトロン関東一号店が入居するイオン幕張店外観
 イオン幕張店は「イオン幕張新都市店」に併設する巨大モールの近くに立地し、今や地味な存在に見えますが、私はかつてここを取材したことがあります。イオン幕張店は2000年にフランス出身の巨大小売業者として鳴り物入りで出店したカルフール日本1号店の跡地にイオンが出店した店舗なのです。
 カルフールは私が研究してきた世界最大の小売業者ウォルマートの長年のライバルであり、ウォルマートが西友を買収し参入したのと近い時期に、コストコなどともに参入した世界の小売業界の巨人です。フランス発の世界的スポーツ専門店デカトロンはなんと同じフランス出身小売の巨人が日本1号店を出店したモールに関東1号店を出店していたのです。
 私も情報を確認していてデカトロンの出店場所が「イオン幕張新都市店」が入るモールではない近くのモールであることは理解していたのですが、カルフール日本1号店の跡地であることに気が付いていませんでした。思い込みとは怖いもので改めて現地取材の大切さを感じると同時に、自粛中に鈍ってしまっている部分がだいぶあると感じた瞬間でした。
 
カルフール時代からあるスロープ

デカトロン1号店はイオン幕張店が入るモールの1階部分の大部分を占有していました。

1階の大部分を占有しているがわかる店内図


デカトロン関東一号店レイアウト

平日の昼間ということもあり店内はすいており、多く配置されている店員の皆さんはウインターシーズンに向けての準備や多く配置された体験ゾーンのメンテナンスを行いつつも、ゆったりと店内で歓談する姿が多くみられました。何人かに話しかけてみると明るくフレンドリーであり、雰囲気はアップルストアと少し似ている感じました。

体験するスペースが充実

しばらく観察しているとファミリー層が多い立地ということもあり、小さな子供が店内に置かれたキャンプのテントに入る姿や、最近はやりの子供用のキックボードを店内で試す姿が散見されました。店員さんによるとイベントもようやく行えるようになってきたそうで、「こんなイベントがあるんで」とチラシとともに紹介されました。

頂いたイベントのチラシ

店から直接つながる屋外スペースでも週末などにはでられるとのことで、かなり巨大な店舗をゆったりと使っているようでした。

日本への対応がかなと考えられる野球のティーバッティング体験などもあり、試行錯誤しながら日本市場を学習している状況が垣間見えて興味深かったです。

(文責:流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎)