流通マーケティング学科の丸谷です。46回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行なっていくのか)を専門分野にしているので、海外に出張に行くことが多く、このブログでも米国、インド、中国、チリ、ペルー、ブラジル、ケニア、ガーナの出張の模様を取り上げてきました。しかし、コロナ禍で海外出張はしばらく難しそうなので、これまでやろうと考えていてできていなかった日本に進出している外国企業について取材しています。今回はブルーボトルコーヒーの日本における最近の新たな取り組みについて取り上げていきます。
ブルーボトルコーヒーに関しては、2016年に同文舘出版より出版した『小売&サービス業のフォーマットデザイン』という拙著において「カフェ業界」を取り上げて以降継続的に注目し取材してきました。ブルーボトルコーヒーはサードウエーブコーヒーのフロントランナーのカフェチェーンとして米国では有名であり、海外進出の最初の国として日本を選択し、2015年2月6日に東京都江東区清澄白河にロースタリー&カフェとして開店した。その後は同年3月6日には青山にカフェのみの店舗を、2016年3月25日にはJR新宿駅新南口に開業するNEWoManに3号店を出店し、以降店舗網を拡大し、今回取材した前橋の白井屋カフェは24店目となります。
ブルーボトルコーヒー白井屋カフェの外観 |
今回わざわざ取材を行った理由は今回の店舗が初の地方都市前橋への出店だからです。ブルーボトルコーヒーの立地へのこだわりは強く、工場跡地の焙煎所付の1号店、表参道のブランドショップの2階という大都市中心部の単独店舗、新宿という巨大ターミナル駅直結の商業施設、六本木の緑豊かな美術館が多く立地する周辺の商業施設、ワークショップスペースを設置した中目黒、羽田ともつながる新幹線停車駅品川駅商業施設アトレといったように、都会の中のえりすぐりの場所にこだわってきた。関東の最近の店舗20号店も渋谷の中でも感度の高い顧客対象のアパレルショップが集まるエリア内にある北谷公園内の店舗です。
北谷公園内に立地するブルーボトルコーヒー渋谷カフェ |
こうした傾向は関西出店を開始して以降も続いており、2018年3月の関西初出店は築100年を超える伝統的な京町家をリノベーションした店舗、神戸元町旧居留地、京都南禅寺近くのいけばな発祥の地六角堂といったように、立地を厳選しながら展開を進めてきた。
ブルーボトルコーヒー京都六角カフェ |
こうした立地に応じた店舗展開は米国と同様の手法であり、コーヒーへのこだわりは変えないが、それ以外に関しては立地ごとにブルーボトルの価値観にあった意味のある出店を意識してきたと考えられる。結果的に従来は関東では東京、神奈川、関西では京都、神戸、大阪といった大都市に出店都市は限定されてきた。
今回出店した前橋はこれまでの立地とは全く異なる。前橋は群馬県の県庁所在地ではあるが、正直県内でも新幹線が止まらない取り残された感じの印象の街である。今回の取材においてもJR前橋駅前にはマクドナルドが鎮座し、少し離れた中心地市街地の商店街は昔ながらの感じで、地方都市のさびれた感じが漂う。郊外のショッピングモールに客を奪われたのだと容易に推測できた。ちょうど取材したのが週末だったこともあり、イベントを行い集客しているようだが、イベント参加者以外の人はまばらであった。
イベントで集客する商店街 |
前橋への出店が発表されて以降、都会の洗練されたイメージのブルーボトルコーヒーがなぜさびれた地方都市に出店するのかずっと気になっていた。出店場所は2020年12月に老舗旅館を再生したこだわりのデザイナーズホテルである白井屋ホテルの敷地内である。この再生事業には地元出身のジンズホールディングス社長の田中氏がかかわっているなど、調べると面白そうな情報が出てきた。だからといって納得できたわけではなかった。
白井屋ホテル外観 |
そんな中ようやく緊急事態制限も解除され、早速取材してみて少し納得できる部分もあった。点だけで見ていると実感できないのだが、前橋市は「水と緑の健康都市宣言」を行っていることにも表れているように、広瀬川の流域であり、ブルーボトルコーヒーの面する馬場川通りの横には水路があり、遊歩道として憩いの場になっている。
馬場川通り横の遊歩道 |
この川沿いにはブルーボトルコーヒー以外にもカフェが立地しており、川沿いを歩いて散歩していくと商店街にぶつかる。商店街に入るとすぐに今回ブルーボトルコーヒーに限定スイーツを提供している地元で菓子店「和む菓子なか又前橋本店」があり、店頭には若者が数人訪れていた。
和む菓子なか又前橋本店 |
地元菓子店とコラボしたスイーツとそれに合うとお勧めされたコーヒー |
ブルーボトルコーヒー自体は非常にこじんまりしており、イートインスペースも若干あるが、テイクアウト主体の店舗であることがわかった。店内を少し観察していると、地方ならではとも思える光景が目に入った。若い子供連れの親子に店員が積極的に話しかけ、コーヒーを入れる特徴的な部分を写真に収めようとする際には店員がピースサインで嬉しそうに応じていた。大部分の店員さんもとにかくお客さんとコミュニケーションをとろうとしており、多摩ニュータウンにあるスターバックスの郊外店の風景を思い出させた。
こじんまりした店内の様子 |
店内と周辺取材後おなかもすいたので、こだわりのデザイナーホテルのラウンジで、ブルーボトルコーヒーとホテル内のフルーツタルト専門店がコラボで開発した10月まで期間限定のグレープフルーツとコーヒーのタルトを頂いた。
ホテル敷地内のタルト専門店とコラボで開発した限定タルトをホテルラウンジで |
ラウンジ内の空間は独特の都会的な雰囲気で世界観が作りこまれており、この地域のランドマークとなる可能性は感じられた。今回の地域活性化に向けた新たな取り組みの成否によっては、ブルーボトルコーヒーの出店地域の拡大の可能性があるだけに今後も注目していきたい。
文責 流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎