2024年6月24日月曜日

先生、レポートの書き方がわかりません!:経営学的に正しいレポートの書き方

 経営組織論やケース分析(実際の企業がどのような戦略で高業績を獲得したのかを分析する授業)を担当している山口です。

 4月に入学した1年生も、授業が始まって2カ月たち、大学生活に慣れてきたことと思います。ただ、この時期そろそろ気になってくるのが、7月の期末試験(定期試験)や、期末レポートではないでしょうか。

 そこで今回は、よいレポートを書くためには何が必要なのか、「ビジネスの現場で活かせるような」レポート執筆スキルを身につけるには、何に気を付ければよいか、について解説したいと思います。


1.クイズ:以下のどちらが優れたレポートでしょう? 

 まずは、以下の2つのレポートの、どちらがより優れたレポートか、考えてみて下さい(※今回は、2つの解答例の対比を明確にするため、レポートの字数をかなり少なくしていますが、実際のレポート課題の字数はもっと多いです)。

レポート課題:以下の課題文を読み、あなたの考えを400字以内でまとめなさい。

課題文:社会人になるまでに、日本人全員が実用英語を使いこなせるようにしなければいけない。その背景の一つは、情報技術(IT)革命の爆発的な進行である。国際的にインターネットを利用するには英語が不可欠になっており、英語ができないということは、国際的な情報社会における孤立を意味している。それゆえ、日本の経済が衰退しないためには、日常的な英語の使用が必要なのである。例えば、英語を公用語としたシンガポールの経済発展がそのことを例証している。したがって、日本もまた、英語を第二公用語とする方向に向かわなければならない。

(出典:野矢(2001)140-141ページ)

解答例①

 私は、この課題文の著者の意見に反対である。

 その理由は2つある。第1に、英語を第二公用語とすると、日本の文化が失われる危険があるからである。言語は単なる情報伝達の手段ではなく文化であり、日本語には、日本人のものの見方や世界観が織り込まれている。したがって、日本人にとって、英語は決して日本語と対等のものにはならないし、そのようなことを目指すべきでもない。

 第2に、現在のような国際社会でも、仕事によっては、英語をほとんど使わない者もいるからである。私の兄は、大学までは英語の学習に力を入れており、就職活動では履歴書にTOEICの点数も記載したが、企業に就職してから英語を使う仕事は全くしていないといっていた。

 以上から、私はこの課題文の著者の意見には反対である。(40字×10行=400字)

解答例②

 私は、この課題文の著者の意見に反対である。

 その理由は、著者の挙げる理由に2つの問題があるからである。第1に「IT革命が進行する中では、英語ができないと国際的な情報社会において孤立し、日本経済が衰退する」という理由は成り立たない。日本人「全員」が英語ができないと国際的な情報社会で孤立するのであれば、現在も日本は孤立しているはずであるが、そうはなっていないからである。また、それがどのように日本経済の衰退につながるのかも明確ではない。

 第2に、シンガポールの経済発展が、英語を公用語としたことによるものかどうかが明確でない。もし別の要因で経済が発展したのであれば、日本が英語を第二公用語としても、シンガポールのようには経済発展しないだろう。

 以上から、私はこの課題文の著者の意見には反対である。(40字×10行=400字)

 さて、皆さんは、どちらのレポートが「優れた」レポートだと思いましたか?

 もしかしたら、「どちらもそれぞれに優れている」と迷ってしまった人もいるかもしれません。しかし、実は、このレポート課題の出題意図を考えてみることで、この2つのうちどちらかは全く評価されないものだということがわかります

 以下では、その点について解説しましょう。


2.クイズの解説

 まず、このレポート課題では、「以下の課題文を読み」とあるので、課題文に関する自分の考えを述べなければならないことがわかります。さて、このとき、課題文に対する自分の考えをきちんと述べているのは、どちらでしょうか?

 そうです、解答例②なんですね。

 解答例①は、課題文をほとんど読まなくても(第一文だけ読めば)書けます。単に、英語第二公用語化に対する自分の意見を書いているだけだからです。

 それに対し、解答例②は、課題文全体をよく読んで、「課題文は、どのような理由・根拠に基づいて、英語を第二公用語化しなければならないと言っているのか」を読み取り、それを分析して、課題文の問題点を述べています。

 要するに、解答例②のほうが、課題文の分析の精度が圧倒的に高く、その点で課題の趣旨に沿った優れたレポートといえるのです

 ちなみに、解答例①のように、ある主張と対立するような主張を立論することを、「異論といいます。

 解答例②のように、ある立論の論証部(根拠や理由)に対して反論すること(対立する主張までは出していない)を「批判といいます。


3.経営学的に正しいレポートとは?

 大学、特に経営学部で重視されるのは、実は「批判」の能力ですなぜなら、社会に出てからは、「批判」を通じて、主張の根拠が正しいかどうかをしっかり吟味できる能力が重要になるからです。

 例えば、ある企業における「今後、我が社の業績をより向上させるために、戦略Aと戦略Bのどちらをとればよいか」という問題について考えてみましょう。戦略AとBのどちらが正解かは、究極的にはやってみないとわかりません。しかし、どちらの戦略をとるかは、やってみる前に決めないといけないわけです。

 この場合、「戦略Aと戦略Bがどのような根拠に基づいて提案されたのか?」を検討し、より適切な根拠に基づく戦略を採用するしかありません

 判断の根拠となる情報やデータが間違っていたら、正しい判断はできないからです。

 

 この時、重要になるのが、「批判的思考力」=それぞれの立論の論証部(根拠・理由)について反論すべき部分を見つける能力です

 企業組織のメンバーが、この能力をしっかり身につけていれば、以下の4段階のプロセスを通じて、皆で協力しながら、適切な根拠に基づくよりよい決定ができるようになります。

(1)戦略Aと戦略Bのそれぞれについて、その戦略を採るべきだと主張する根拠を提示してもらい、それぞれの根拠について、皆で「批判」を行う

(2)「批判」を通じて明らかになったそれぞれの根拠の問題点をカバーできるような、より説得的な根拠を皆で考える

(3)新たな根拠について、また皆で「批判」を行う(これを必要なだけ繰り返す)

(4)より説得的な根拠に基づいて提示された戦略案を採用する


山口ゼミでのディスカッション:慶応や青学などとの6大学合同ゼミに向けて、
企業の事例分析をよりよくするために話し合っているところ


 上記のレポート課題も同様で、「英語を第二公用語化すべきだ」という主張に対し、解答例①のように、「そんなことはすべきではない」と言ってみても、話はすれ違うばかりで議論になりません

 しかし、解答例②のように、「英語を第二公用語化するべきだという意見の根拠2つには、○○、××という問題がある。だからあなたの意見は採用できない」と、相手の根拠の問題点を指摘してやれば、相手はそれに対してより説得的な根拠を考えることもできます

 逆に、「批判」をした側が、「英語を第二公用語化すべきではない」という主張を、根拠も併せて提示してくれれば、相手はそれに対して「批判」をすることもできるようになります。

  こうした「批判」ができるようになると、組織的に(=メンバー全員の叡智を結集しながら)、一人では考えつかなかったような説得的な根拠に基づいて、よりよいアイデアを選べるようになるわけです

 これは、一人では考えつかないようなイノベーションのアイデアを生み出すことにもつながります。

 一般的には、「批判」をすると、相手と「対立してしまう」と思っている人が多いのですが、こうしてみると、「批判」は「対立」ではなく、むしろ相手の「援護」にもなっていることがわかるでしょう。なぜなら、「批判」によって相手は自分の根拠をより良いものにするきっかけを得ることができるからです

 むしろ、相手と、解決できないほど深刻な「対立」を生むのは、「異論」だけを主張して相手の意見を聞かない姿勢のほうなのです。


4.経営学部のレポート・ゼミ論文・卒論を通じて何を学ぶか? 

 以上で見てきたように、大学で、「課題文を読み、あなたの考えをまとめなさい」というような課題が出されるのは、皆さんに、主張が正当な根拠に基づいたものかを的確に判断する能力やスキルを身につけてもらうためです。

 したがって、解答例①のように、ある意見の根拠をしっかり吟味することなく、自分の意見だけを(根拠も明確にせずに)ただ書いただけのレポートが、優れたレポートと評価されることはありません。

  企業経営については、「この企業が儲かっているのは○○だからだ!」などと、インターネットを検索すればさまざまな分析記事が出てきます。ゼミの研究で行き詰ったときなど、そうした分析記事の内容を鵜呑みにしたくなることもあるかもしれません。

 しかし、大学のゼミや卒業論文で研究をする意義は、

①大学の授業で身につけた批判的思考を使って、これまで言われてきたことが、適切な根拠に基づく信頼できる内容かどうかを吟味し、

②もしそれに問題があった場合には、授業で学んだ経営学の専門知識を使ってより適切な説明を考えられるようにすること

にあります

 こうした学習を通じて、批判的思考力、経営学の専門知識をしっかり身につければ、就職活動でも、「これからはこの業界がいい!」などの怪しげな情報を鵜呑みにすることなく、自分にとってどのような企業がよいのかを自信をもって選択することができますし、入社してからも、仕事でどのような判断をすればよいのかを、自分一人で、あるいは皆で協力し合って考えていくことができるでしょう。

 是非、レポート課題を、社会に出てから必要な「批判的思考力」を身につけるトレーニングの場ととらえて、1つ1つ大事に活用していただければと思います。

文責:東京経済大学経営学部准教授 山口みどり


参考文献:野矢茂樹(2001)『論理トレーニング101題』産業図書.

2024年6月17日月曜日

成績優秀者の皆さんおめでとうございます!(小木ゼミ通信 vol.43~小木ゼミからは経営学部10名+経済学部3名が成績優秀者に!~)

 マーケティング論、ソーシャル・マーケティング論、消費者問題担当の小木です。 個人的には、43回目のブログになります。しばらくブログ書きしておりませんでしたが、ブログのメンバーに入れていただき、再開することとなりました。どうぞよろしくお願いします。

経営学部・成績優秀者表彰&懇親会

5月15日㈬お昼、進一層館ロビーにて、2024年度の経営学部・成績優秀者表彰&懇親会が開かれました!

参加者は、2年生20名・3年生20名・4年生20名のおよそ60名で(20番目が同じ点数の場合があるので、実質的には60名は少し超えます)、前年度に優秀な成績をおさめた者とその指導教員です。成績優秀者は、前年度履修科目のGPAが高い者から選ばれ、表彰状と特典が授与されます。各学部ともに独自の方法で成績優秀者が選ばれますが(選抜者人数の違いはあるものの、基本的にはGPAで選ばれるのでほとんど変わらない)、経営学部では、各学年から学科の人数を勘案してGPA上位20名を選ぶことになっています(経営学科上位10名、流マ学科上位5名、残り5名は学科関係なく上位者)。また、2年生は上位2名、3・4年生は各学科から1名ずつ、トップオブ成績優秀者として、成績優秀者表彰とは別に、学長表彰と特典が別途授与されます。

5月15日の表彰式&懇親会では、成績優秀者の皆さんは実に晴れやかな顔をしており、2・3年生らは来年度も獲得して、ここに来るぞという気概をみせておりました。実際に、毎年、式典に参加していると分かるのですが、その多くは継続して獲得しており、知った顔も多かったように思いました。

成績優秀者は、その大学・学部の「顔」でもあり、何よりも1年間頑張ってきた「証」であって、何よりも本人の「自信」につながることも大きいかと思います。そもそもこうした制度があることを知らない学生(や東経大を目指す高校生)もいるかと思うので、その欠片に触れて頑張ろうと思った人たちは、これを機に勉学に勤しんで欲しいと思っています。

ちなみに、小木ゼミからは経営学部で10名、経済学部で3名の計13名の成績優秀者が選ばれました。これは小木ゼミとしても過去最高の数で、ゼミ別でみても断トツの人数です。日頃の成果がこうして日の目を見ると、私自身も大変嬉しく思います!と同時に、こうした学生をぜひ成長させてあげなければと身の引き締まる思いにもなっています。これからも皆さんで切磋琢磨して、東経大を盛り上げていってほしいと思っています。

小木ゼミ通信

このブログのサブタイトルにも小木ゼミ通信とありますように、毎回、ゼミ活動において活動宣伝及び活動報告をしております。以下、簡単に紹介させていただきます。

2024年4月~6月の小木ゼミ活動

●小木ゼミは、新入ゼミ生を迎え、2年生12名、3年生13名、4年生14名の計39名で新たにスタートいたしました。現在、各人が個人研究発表をプレゼンしております。今年からはかなり研究内容などの許容範囲を広め、幅広い研究ができるようになりました。個人研究は、研究ノート、卒業論文などにつながり、なによりプレゼン&ディスカッションを通じて就活力を養うことを意図しております。

●国分寺物語、TFT(テーブルフォートゥー)、お菓子コラボのコラボ活動もキックオフしました。NAGAOKAコラボや学外コンペもまもなくスタートする予定です。

●上記のTFTコラボですが、東経大生協×小木ゼミ×TFTで行う「健康ランチ」が6月4週目(24日~)と7月1週目(5日~)に提供されます(下記の写真のメニューとなります)。TFTプロジェクトは、小木ゼミの女子イベントになります(小木ゼミの女子は33名もいるので、必然的に女子イベントが多くなります)。詳しくは、大学生協食堂のPOP(小木ゼミ作成)や立て看板などでもご確認ください。


 ●6月24日㈪~28日㈮ さらっと流し込め! ネギトロ出汁茶漬け 

2024年6月13日木曜日

会計プロフェッショナル・プログラム

 会計プロフェッショナル・プログラム


 経営学科 会計コースの板橋です。本日は、本学の「会計プロフェッショナル・プログラム」と、私が担当している「会計プロフェッショナル・プログラム入門」という講義について、お話ししたいと思います。

 まず、本学には、アドバンストプログラムという、少数精鋭で、より高度な資格や語学力の習得にチャレンジするプログラムがあります。会計プロフェッショナル・プログラム(以下、会計PPとします)はこうしたアドバンストプログラムの一つで、「公認会計士」「税理士」「国税専門官」といった会計系の資格の習得にチャレンジするものです。
 
 この会計PPに合格するとどんなメリットがあるのかというと、受講料が全額大学負担で提携専門学校に通えたり、「大倉公認会計士会」「税理士葵会」という本学OB組織からのアドバイスや進路相談、インターンシップの紹介といった手厚いバックアップを受けることができます。
 
 こうしたバックアップの結果として、例えば2022年度公認会計士試験では会計PPから5名が合格(うち3名は在学中合格)しました。税理士試験では5名がのべ7科目に合格しています。
 
 会計PPの定員は各年度で50名、その選考は6月と11月に行われています。その選考基準は、日商簿記検定の2級と、本学の独自選考試験の点数となっています。今年度の本学独自選考の日程は6月25日(火曜日)となっていますので、会計PPへの合格を目指している学生さんは、今まさに、最後の追い込みを頑張っています。
 
 さて、ここで本学の独自選考試験とはなんなのかということをお話ししたいと思います。これは、日商簿記検定とは異なる、記述解答力を確認するための試験です。記述解答形式にすることで、会計についての体系的な知識と、正確な理解、そして日本語力を確認することができるのです。日本語力は、公認会計士試験、税理士試験はもちろん、首尾よく合格した後の勤務においても必須となるスキルですので、正しい日本語で記述解答ができるかは非常に重要です。

 特に、公認会計士や税理士としての勤務が始まってしまえば、いくら簿記の知識があっても、それを日本語で正しく伝えることができないのでは、職責を果たすことはできません。そのため、本学では、日商簿記検定と、記述力を重視した独自選考試験の2本立てで選抜を行っているのです。

 とはいえ、会計PPの受験生は大学1年生か、2年生です。いきなり、会計PPに求められるレベルの記述力を発揮できる学生さんは、そうは居ません。そのために、本学では「会計プロフェッショナル・プログラム入門」という講義を設けており、私を含む2名の教員による添削を軸として記述力の底上げを図っています。4月の最初の講義では四苦八苦だった受講生も、毎回の添削を通してぐんぐん実力が上がり、例年今の時期には、見事な記述ができるようになっています。

(文責:経営学科 板橋雄大)





 

  
  
 
 

2024年6月3日月曜日

データで考えよう

経営学部の吉田靖です.経営財務論を担当しています.

学会がありました

このブログが掲載されるのは6月3日(月)ですが,直前の6月1日に日本統計学会の会計理事の任期が終わり,少しほっとしているところです.

さて,2024年5月25日(土)から26日(日)の2日間にわたって,これも私が会員になっている日本経済学会の春季大会https://confit.atlas.jp/guide/event/jea2024s/topが東京経済大学で開催され,本学でこの学会に所属する教員として,運営のお手伝いをしておりました.

 (日本経済学会開催中の国分寺キャンパス(奥の建物は図書館),筆者撮影)


いくつか担当しましたが,最後に担当したのが, 「国際貿易・直接投資・環境」のセッションでした.このセッションの座長はなんと新潟県立大学の学長兼理事長の若杉隆平先生でした.しかも,最後の報告への討論者もなさっていました.大学の学長が学会の座長をすることはあまりないと思いますが, 若杉隆平先生は前述の日本統計学会から経済統計分野の学会賞である中村隆英賞を受賞するなど,この分野の第一人者ですので,運営側として参加していた私も大変勉強になりました.

貿易のデータ

国際貿易というと経済学の分野でもありますが,具体例では原油の輸入,自動車の輸出,直接投資とは日本企業が海外に工場を建てたり,海外の企業が日本に工場を建てたりで,これらは主として企業の国際的な取引・投資行動によるものですから,経営学とのつながりもあります.みなさんも,「日本の貿易収支は3年度連続で赤字だった」というニュースなどは聞いたことがあると思います.実は私も大学院生時代にこれらの研究をしていたときもありました.研究するとなると必要になるのはデータですが,貿易に関しては財務省の貿易統計 https://www.customs.go.jp/toukei/info/index.htm という比較的詳しい公的な統計があります.例えば,2024年3月にシンガポールから生きているウサギを131.3万円輸入したというような品目・国・月別のデータが分かります.

その後この分野からは,遠ざかっているのですが,2022年から輸出入申告データ(いつ何をどれくらいの数量で金額はいくらで輸出入したかという申告毎のデータ,ただし,どの個人や会社かは隠してあります) を,学術的な研究で認められればある程度利用できるようになり,研究の対象が格段にひろがっています.現在までのところ,この輸出入申告データを個別企業に結びつけることはできないので,ファイナンスや会計の研究に直接的に利用することはあまりできないかもしれませんが,関係する研究は今後増えるかもしれません.

 

データで研究する

会計学の分野では,企業が不正にならない範囲で,ある程度意図的に利益の金額を調整しているかどうかを会計データを利用して研究することは重要になっています.これを株式投資に応用する例もあります.この研究で基本的になっているモデルは実は, 以前米国で貿易赤字が問題になったときに,日本からの輸出による悪影響の有無を調査した時期に,米国企業は実態以上に利益を減らす傾向が見られるという統計的研究がきっかけのひとつになっています.

 

データで投資する

 このようにデータを利用して,なんらかの傾向が見えるかどうかを分析することは様々な分野で重要です. 特に私の研究分野であるファイナンスでは,データを利用した株式投資モデルの構築が実務の世界でも活発に行われています.以前はファイナンスの研究に使うデータというと企業の決算などの財務データや経済指標が主なものでしたが,近年では企業の報告書の文字データ,衛星写真による設備の稼働状況,スマホの位置情報による人流データ,さらには記者会見の顔の表情など,身の回りのあらゆるデータが場合によってはAI(人工知能)を使って分析に利用されています.


 (東京証券取引所,筆者撮影)

データの正しい利用方法を勉強しよう!

これらの分野は今後もますます発展するでしょうから,高校生・大学生の将来あるみなさんの活躍の場としてお勧めします.本学としても,経営学部としても,また特に経営学科のファイナンスコースとしても,データサイエンス教育に力を入れて,カリキュラムを作成して,みなさんをお待ちしております.https://www.tku.ac.jp/ds/ 高校でもDXハイスクールが始まっていますが,そのお手伝いも準備しつつあります.