流通マーケティング学科の丸谷です。15回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行っていくのか)を専門分野にしているので、海外で活躍される日本人の方にお話を伺うことも多いです。
今回は日本のテレビ局が制作した日本の伝統文化を紹介するテレビ番組を、メキシコの大手テレビ局で放映してもらい、日本に観光客を呼び込むビジネスを立ち上げた起業家である株式会社Tokyo Divertido の西側社長にお話を伺う機会を得たので紹介したいと思います。
みなさんインバウンドビジネスって聞いたことあるでしょうか?
インバウンドビジネスとは、外国の方を国内に来てもらう事業のことです。日本政府もここ数年非常に力をいれており、中国などから来られた観光客の方が銀座で爆買いをなさる姿が取り上げられたりして、一時期ものすごく話題になりました。
私の担当するグローバル・マーケティング論の講義でも、履修者の方々からインバウンドや爆買いについても取り上げて欲しいという要望がここ数年増加しています(私の授業では基本的にはインバウンドとは反対の、日本企業が海外に向けて行うマーケティングであるアウトバウンドを中心に授業を行ってきました)。
懸案となっていたインバウンドに関して、ようやく2016年6月22日に外部スピーカーとして、『爆買いを呼ぶおもてなし―中国人誘客への必須15の常識・非常識』を静岡新聞社から出版された静岡産業大学の柯麗華先生に、爆買いについてお話して頂き、講義終了後も多くの質問がなされ、関心の高さが確認されました。
静岡産業大学の柯麗華先生の講演風景
私はこの好評を受けて2017年度の特別企画講義を企画し実施することになりました。東京経済大学では教員が学生さんのニーズなどを踏まえて講義を特別に企画する制度があります。私も2016年4月にコミュニケーション学部の遠藤先生が企画された講義に講師として参加したことあります(詳細は私が6月に執筆した経営学部ブログ「特別企画講義「オリンピックから現代をみる」の中でブラジル経済ビジネスに関して講義する。」(http://tkubiz.blogspot.jp/2016/06/blog-post.html)を参照)。
今回の西側社長への取材は、私が企画するインバウンドビジネスに関する特別講義の講師の一人である元外務省専門調査員の大澤先生のご紹介で実現したものです。インバウンドビジネスの対象は現在までのところ中国の方の爆買いにみられるように、アジアが中心ですが、インバウンドビジネスの対象は別にアジアだけに限られたわけではありません。
西側社長は総合商社のラテンアメリカカリブ地域担当を経て、ラテンアメリカ地域での日本文化への関心度の高さを感じ取り、ビジネスを立ちあげました。当初、現地でも人気の日本アニメをメキシコの現地テレビ局に売り込む予定でしたが、メキシコでは肥満問題が深刻化し、政府がお菓子メーカーのCMが規制されてしまい、子供向けのコンテンツの売り込みは難しいと判断したそうです。
メキシコ現地事務所
西側社長は商社出身ならではの行動力によってこの局面を打開していきます。上記のビジネスを構想する中で作っていた人脈を生かして、大阪の毎日放送が製作し、既に中国で放映実績がある京都の伝統文化を丁寧に取り上げたドキュメンタリー「Made In Kyoto」を放送するビジネスを構想し、実現させました。
西側社長が経営するTokyo Divertidoはメキシコに常駐する社員がいらっしゃり、番組を製作した大阪の毎日放送とメキシコの大手テレビ局テレビアステカのグループのテレビ局Proyecto 40との間に入り、「Made In Kyoto」をスペイン語版の「Echo En Kyoto」に翻訳吹き替えて放送できる状態にします。
その上で、番組中に4回、訪日旅行ツアーの案内を告知し、テロップにて現地日系旅行代理店ビアヘス東洋の問い合わせ先を映し、日本への観光すなわち日本へのインバウンドへとつなげ、このツアーの収益から利益をあげます。
Echo En Kyotoの予告映像©株式会社毎日放送
さらに、標的となる視聴者が日本に興味がある、経営者やマネージャー層といった高所得が対象であることを活かして、現地の日系自動車メーカーや航空会社をスポンサーにCM枠を販売した収益から利益をあげます。
つまり、日本にメキシコ人の富裕層を呼び込むインバウンドビジネスを促進すると同時に、CM枠販売を通じて日本企業の現地での知名度も高める効果も狙い、そこから利益を生み出すことを実現しようとしているのです。
これまでに前例があまりないビジネスなので、ラテンアメリカ事業ならではの困難や立ち上げたばかりの事業で一般的な資金繰りの問題など、多くの困難はあるとのことでしたが、今後の展開を伺うと、毎日放送制作の新シリーズの配給、別のコンテンツへの取り扱い、日系企業のCM製作、コロンビアなどメキシコ以外の諸国への展開と可能性は多岐にわたっているとのことでした。
メキシコで生まれた私としては、日墨交流が促進されるこのビジネスが成功することを期待すると同時に、元商社マンの若い起業家のバイタリティに刺激を頂き、応援したいなと感じました。
文責 丸谷雄一郎(流通マーケティング学科 教授)