流通マーケティング学科の丸谷です。23回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行っていくのか)を専門分野にしているので、海外に出張に行くことが多く、このブログでもインド、チリ、中国の出張の模様をこれまで取り上げてきました。
今回は継続的に取材を続けている南米の小売産業に関する追加取材のため、ペルーへ取材に行ったので、その中で取材したペルーの日系人が経営する企業について報告いたします。
ペルーリマ海外沿いのモールからみえる美しい夕日 |
最近海外で活躍する日本人を取り上げるテレビ番組が多くなっていますが、ペルーにおける日系人の活躍は非常に顕著です。その先駆的存在の一人が日系人大統領となったアルベルト・フジモリ氏です。彼については影響力が強い政治家だけに功罪があり、その評価は定めらない部分もありますが、彼が現在でもペルーにおいて特に低所得階層から一定の評価を受けていることは彼の娘さんであるケイコ・フジモリ氏が大統領候補として今も常にあげられることからも異論はないでしょう。フジモリ氏も輩出したペルー日系人社会について、私も理解してはいましたが、実際に多くの日系人の方々にお会いし取材する機会を得て、その影響力の強さを実感しました。
非常に立派な日秘文化会館 |
今回は政治家ではなく、ペルーの日系人実業家が経営する家電量販店ヒラオカを取り上げたいと思います。ヒラオカはペルーのヨドバシカメラのような家電量販店であり、店舗数は4店舗のみですが、家電量販店だけではなく、店舗を有する小売業全体で2016年の小売シェアは第7位であり、1%のシェアを獲得しています(各国の小売シェアを確認するのによく用いるユーロモニター社の提供するデータによれば)。1%というと少ないと考える人もいるかもしれませんが、ヒラオカより上位の企業はペルー小売を先導するチリ大手小売業者や地元の有力財閥がほとんどであり、4店舗のみの展開でこの小売シェアはかなりであり、中間層が拡大する同国での今後の展開余地を考えると、影響力の大きさは計り知れません。
家電量販店ヒラオカの外観 |
同社は家電というカテゴリーに留まらず、ペルーのカテゴリーキラー(特定の分野に特化した量販店)全体でトップを走っています。現在先進諸国を中心に軒並みネット小売の浸透で家電量販店の経営が困難になる中で注目すべき存在といえます。ヒラオカの特徴は低所得階層を顧客に取り込むための戦略的工夫と、丁寧な接客と充実したアフターサービスといった戦術的工夫をうまく組み合わせているところにあります。
テル・ヒラオカ・ナベタ氏と現地幹部とともに
今回取材させて頂いた3代目のテル・ヒラオカ・ナベタ氏によれば、ペルーの低所得階層や中間層を標的とするために、立地はコストを下げつつ、既に家電購入の意思がはっきりしている顧客のみが来店する、不便ではないがショッピングモールなどではなく単独で巨大店舗を出店できる場所にしているそうです。こうした立地戦略は、私が研究してきたウォルマートのメキシコの店舗でも採用されています。ウォルマートのメキシコでの立地戦略は一時的に値段を下げて衝動買いを促すのではなく、同社が全体として安いから来る「目的買い」の顧客のみを標的とするという方針に基づいています。
また、低価格階層も取り込むために、顧客の求める適切な品質のプライベートブランドMIRAYを中国で委託生産することによって相対的に安価で導入している点も、規模の経済性を上手く引き出し、将来の顧客を確保する意味でも有効な戦略となっています。
プライベートブランドMIRAY |
丁寧な接客と充実したアフターサービスといった戦術的工夫に関しては、商品購入前にメーカー別比較をしっかり行い、実際に手に取って操作し商品機能を確認するといったペルー人の要望に沿って、同社は商品を全て箱から出し、実際に電源を入れ、消費者とともにしっかり商品が使えるか確認するところまで対応しています。そのために販売員を増やし、各社員の商品知識を高めるための研修もしっかり行っています。購入後もプライベートブランドを扱うことで獲得した修理・部品交換といった他の小売店舗では獲得が難しいノウハウを活かして長期間使いたいという地元消費者のニーズに対応しています。こうした工夫はかつてのパナソニックが展開したパナショップにも通じるところがあり、日系人ならでは顧客重視の特性を反映しているといえるかもしれません。
今回の短時間の取材を通じても、取材をコーディネート頂いた藤本雅之ジェトロ(日本貿易振興機構)・リマ事務所長が「ヒラオカ」メソッドと述べる「日本型」手法は(『ジェトロセンサー』2015年1月号55頁)、ヒラオカの3代目だけではなく、ペルー人幹部や各社員にもしっかり受け継がれている様子が多く垣間見られました。「ヒラオカ」メソッドは、かつての高度成長期を彷彿とさせるペルー社会にはマッチしているようである。このメソッドがネット小売が経済成長期に普及する同国において、今後も有効であり続けるのか注目していきたい。
ペルー代表チームの久々のサッカーワールドカップ出場で好調の大型テレビ販売に注力 |
文責:丸谷雄一郎(流通マーケティング学科 教授)