2018年6月4日月曜日

パナマを知るための70章(第2版)

流通マーケティング学科の丸谷です。24回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行っていくのか)を専門分野にしているので、海外の経済やビジネスについて取材して記事を書いてくれという依頼がたまにあります。

今回は一般の皆さんに、なかなかなじみの薄い地域に関して依頼された仕事がかなり充実した一般向けの書籍『パナマを知るための70章(第2版)』として明石書店より出版されたので、紹介していきます。

皆さんパナマと聞いて何を思い浮かべられるでしょうか?
グーグルで検索すると、関連ワードの順番はパナマ文書、パナマ運河となっています。

パナマ文書に関しては、私がたまたま担当することになり、第49章においてコンパクトに解説しております。簡単に言えば、パナマ文書とは、201643日にパナマ市内に事務所を置くモサック・フォンセカ法律事務所が国外のサーバーからのハッキングを受け漏洩した機密内部文書(2.6テラバイト(文書現物にするとトラック1000台分)であり、この機密文書漏洩を契機にして、タックスヘイブン(租税回避地)への関心が急激に高まることになりました。

           旧モサック・フォンセカ法律事務所(国本伊代撮影) 

パナマ運河に関しては、私の担当章ではないですが、第Ⅲ部、第Ⅳ部、第Ⅴ部で詳細に解説されており、2016626日に足掛け9年かけて、当初の予定より2年遅れて拡張工事が完成したことによって関心が高まっています。

パナマという国の成り立ちに関しては、この運河建設と切り離すことができないのです。パナマは現在中米の南端の国という認識が一般的になっていますが、1903年に独立するまでは南米コロンビアの北部地域にすぎなかったのです。この独立にはパナマ運河建設計画が大きくかかわっており、パナマ運河の利権が欲しかった米国が当時コロンビアの地方であった現在のパナマにあたる部分の分離・独立の動きを支援することによって独立したのです(詳細は、第19章と第20章参照)。

独立後米国はその見返りに、パナマ運河の利権を独占することになり、パナマ運河の権利がパナマに返還されたのは独立後約100年を経た1999年末でした。


今回の依頼は改訂であったので、最近のパナマのビジネスに関して5章分くらいでした(最終的には4章分となりました)。書籍を出版した明石書店は、世界の様々な地域に関する書籍を出版している出版社です。

特に『・・・を知るための』という名称で出版されているエリアスタディーというシリーズは、地域の図書館などにも所蔵されている定番シリーズとなっております。20181月末現在161冊出ています。私はこれまでにも2011年に『現代メキシコを知るための60章』、2013年に『ドミニカ共和国を知るための60章』、2017年に『カリブ海を知るための70章』(詳細は、経営学部ブログhttp://tkubiz.blogspot.jp/2017/07/70.html)』という3冊に参加させていただきました。

当初はメキシコなど有名な諸国を扱ったシリーズでしたが、ネットを通じた情報発信が充実していく中で、最近はマニアックな諸国に関する信頼性が高い情報を求めるニーズが高まったようで、それにこたえる形でかなりドミニカ共和国といったマニアックな国やカリブ海世界といったように、より細かい地域を扱った内容が増えてきています。そして、ある程度有名なパナマに関しても、2004年の初版発行から13年を経て第2版といった形でより詳細な新しい情報も付け加える形になっています。

原稿テーマを考える事前取材では、これまでの3冊同様まずは図書館等で日本文と英文を中心に書籍やデータベースを当たり、ある程度テーマを絞った段階で、JICA(国際協力機構)によって海外派遣されている支援を行う皆様や様々なNGO、個別に情報発信を行っている旅行社の皆様など、ネット情報を確認しました。 

私が今回担当した章は、以下の4章となりました。

43章 パナマ独自の小売産業の発展――地元資本による緩やかな近代化
44章 マグロの養殖という新たな産業――パナマにおける近畿大学の挑戦
47章 パナマ運輸産業の発展――立地を生かして発展を目指すコパ航空
49章 タックスヘイブン――「パナマ文書」が明らかにした租税回避地

どの章も執筆している自身にとっても非常に興味深く、特にインタビューさせて頂いた近大マグロで有名な近畿大学の水産研究所の澤田好史教授のパナマでのマグロ養殖の挑戦のお話は知らない事実ばかりで大変興味深かったです。

パナマは、名前は知っているけれど、なかなかなじみの薄い国だとは思いますが、今回出版した拙著が関心の高まりの1つのきっかけとなれば幸いです。

(文責:丸谷雄一郎(流通マーケティング学科 教授)