2018年9月18日火曜日

「先生、参考文献がありません!」:本当に必要な情報を手に入れるための文献検索法

 経営組織論担当の山口です。夏休みも残り少なくなりました。東経大では、9月20日から2期の授業が始まります。
 東経大では、1年間のゼミの研究成果を報告する「合同ゼミ報告会」が毎年12月に開催されるため(今年は12月8日(土)開催予定)、2期になるとゼミでの研究活動がかなり活発になります。
 さて、ゼミで研究活動を進めるにあたり、多くのゼミ生がつまずくのが、「文献検索」の問題です。「え?ググればいいんじゃないの?」と思うかもしれませんが、実は、今の技術では、ググるだけで「目当ての」文献が発見できる確率は非常に低いのです。(だからこそ、みんな「先生、参考文献がありません!」とかけこんできたり、「一応文献は見つかったけど、この本で本当にいいのかな?」と不安になったり、苦労するわけです)

 そこで今回は、「本当に必要な情報(文献)を手に入れる方法」について、解説していきましょう。
 今回伝えたいメッセージを先にまとめておくと、以下の2つになります。

1.高度情報社会である現代を生き抜くためには、自分にとって本当に必要な情報だけを取り出す「検索スキル」が必要不可欠。それを身につけるには砂金採り式文献検索法」が有効である。

2.「砂金採り式文献検索法」を身につけるには「研究」が最適。大学に入ったら、是非ゼミに入って「研究」に取り組もう。
 
 以下、より詳しく見ていくことにしましょう。

1.「砂金採り式文献検索法」とは?

 まず最初に、以下の問題について考えてみて下さい。

 あなたは、川で砂金を採ろうとしています。できるだけ多くの砂金を短時間で効率よくとりたいのですが、あなたは以下のAとBのうちどちらの方法を採用しますか?

 A:川底の砂をザルでざっとすくい、不要な砂を振るい落としていく方法
 B:砂金だけを採りたいので、川底をよく見て、砂金っぽい粒を狙って1粒拾い、違った
  ら捨てて、次の1粒を狙って拾う・・・という方法

 おそらく、Bのほうが早く多くの砂金が取れそうだ、という人はあまりいないのではないでしょうか?(実際、砂金採り体験ができる施設の「砂金採りの方法」を見てみると、基本的にAの方法を採っているようです→写真参照)

出所:土肥金山ウェブサイト

 ところが、文献検索では、Bの方法をとってしまう人が多いのです。
 つまり、ネットの検索結果の中から砂金っぽいものを1粒(1冊)だけ選び、それを何日もかかって全部読んでゼミで発表し、先生やゼミ生に「それって『砂』じゃない?(あなたの研究テーマに関係ないんじゃない?)」と言われてしまう、という人です。
 悲しいことに、「本を読むのは得意じゃないから、できるだけ読む本を少なくしたい(できれば1冊だけにしたい!)」という人ほど、このようにしてムダな本ばかり何冊も読む羽目に陥ることが多いです・・・。

 実は、文献検索は砂金採りと同じ砂金(目当ての文献)を手っ取り早く見つけるには、最初から1冊だけ選ぼうとするのではなく、最初は砂も含めてたくさんの文献をすくいあげ、砂をザーっと振るい落として、砂金だけに絞り込む、というプロセスをふんだほうがよいのです。
 このことを、私のこの夏の文献探しのエピソードを紹介することで、示していきましょう。

(1)いかにして必要な情報にたどりついたか?:体験談1

 私は、今年の夏休みに、『マクロ組織論』というテキストの「組織プロセスとコミュニケーション」という章を書くという課題を与えられました。
 「え?先生はこのテーマについてよく知っているのでは?」と思うかもしれませんが、このテーマについて、私は10年以上研究しておらず、最近どんな議論がなされているかよく知りません。また、テキストを書くのは今回が初めてだったので、どのような情報を盛り込むべきか、自分の頭の中にある知識だけでは決められませんでした。そこで、テキストを書くのに必要な情報を入手すべく、以下のような手順で文献探しをしました。

手順1:どんな文献が「目当ての文献」かを明確にする
 まず、「組織プロセスとコミュニケーション」というタイトルや、『マクロ組織論』全体の章構成を見ながら、「編者の先生は、『組織においてコミュニケーションがどのような役割を果たしているか』を書いてほしいんだろうな」とあたりをつけました。そこで、「組織コミュニケーション」について説明している文献を検索することにしました。

手順2:検索する
 東経大図書館のOPACで、「組織コミュニケーション」で検索しました。
 ・・・ところが、ここでヒットしたのはたったの2冊。1冊は関係なさそうで、もう1冊はあまり参考にならないということがわかっている(すでに知っている)本でした。
 そこで、もっとヒットする件数を増やすために、「組織 コミュニケーション」で検索し直しました。その結果、ヒットする件数は50件に増えました。

手順3:検索結果から参考になりそうな文献をピックアップする
 ここで、検索結果をプリントアウトし、関連しそうな文献に丸を付けました。ただし、この段階では本のタイトルしか検索結果に出てこないため、本当に目当ての内容が書いてある本かどうかがわかりません。そこで次に、丸を付けた文献のタイトルをクリックして、目次をチェックし、本当にその本が使えそうかどうかを見ていきました。
 その結果、実物を見る価値がありそうなのは2冊にしぼられました。ただ、この2冊も「砂」である可能性はぬぐえず、検索は行き詰ってしまいました。

手順4:手順1に戻る
 そこで、もう一度検索の方針を立てなおしました。どうも、直接このテーマについて解説した本はなさそうです。そこで、「組織」「コミュニケーション」の2方向で捜索範囲を広げることにしました。第1の方向は、最初から「組織コミュニケーション」についての本を探すのではなく、より広く、組織論の主要なテキストの中に「コミュニケーション」について書かれた章がないかどうかを探すというものです。もう一つは、「コミュニケーション」について書かれたテキストの中に、「組織コミュニケーション」という章がないかどうかを探すというものです。検索したところ、合計で100件以上がヒットし、関連しそうな文献として丸を付けたものの中から、目次に組織コミュニケーションの項目がある本が10冊以上見つかりました。そこで、それらの実物を見てみることにしました。

手順5:関連文献の実物をチェックし、「砂」と「砂金」をふるいわける
 手順3で書いたように、この段階では、本の検索結果は全てプリントアウトし、関連のありそうな文献には全て印をつけてあります。そこで、それを見ながら図書館内をまわって本をピックアップしたり、自動書庫から出してもらったりして、集めた本を全て机の上に積み上げます。私の場合、この段階では30冊くらいは集め、1冊2~3分で内容をチェックし、「砂金」と「砂」をふるい分けていきます。
 1冊2~3分でどうやってふるい分けるかですが、まず、目次を確認して、組織コミュニケーションに最も関連しそうな章や節を特定し、そこだけをざっと読むのです(役に立つ記述が見つかったら、後でその部分がわかるように、付箋をはっておくといいでしょう)。別に全部読む必要はなく、(関連する部分の)最初だけ読んで「知りたかったことが書いてありそうだ」という感触があれば、「砂金」として分類し、「あまり関係なさそうだ」となれば「砂」として分類します。ここで注意すべきは、少しでも「砂金」の可能性のある本を「砂」と分類しないようにすることです。「砂」として分類された本はその後2度と読まないからです。なので、残そうかどうしようか迷ったら、残すほうに入れておきます。
 なお、「砂金」と「砂」を全て分類し終えたら、両方の背表紙を並べて写真を撮っておきます。(後で、「砂」をもう一度手に取らないようにするためです)
 私の場合、何度も図書館に行くのは面倒なので、少なくとも手順2~5までは、3時間くらいかけてまとめて1日で行ってしまいます。

手順6:「砂金=目当ての文献の中の、論文に関連しそうな部分」を熟読する
 今回の場合、この段階で、読むべき本は10冊くらいにしぼられました。といっても、1冊全部読む必要はなく、私が知りたい情報について書いてあるのはその一部なので、10冊全部足しても、本1冊読むより少ないくらいの分量にしかなりません。これをコピーして、重要な部分に線を引きながら熟読していきます。(もちろん、この段階で「これは関係ない」となったら、「砂」に分類してどんどん捨てていきます)

手順7:「いもづる式読書」で効率よく「砂金」を増やす
 なお、熟読していくうちに、「この部分についてもっと詳しく知りたい!」ということが出てくる場合もあるでしょう(結構よくあります)。その時は、その本がその部分で引用している参考文献をチェックし(よく、文章の終わりに(占部, 1974, p.220)などと書いてある、あれです)、それを読んでいけば効率よく「砂金」だけをピックアップできます。

 以上のようにすれば、「自分の研究テーマに関係のない本を何日もかけて読む」というムダなことをせずに、必要な情報だけをじっくり時間をかけて読むことができます。
 それだけではありません。「砂金」と「砂」をふるい分けるプロセスで、同じテーマについて書かれた複数の本を読み比べることにより、その分野の議論に土地勘をもてますし、「よい本」と「よくない本」を見分ける「目」をつくることもできます。
 「本を読むのは得意ではないので、できるだけ読む量は少なくしたい」「参考文献を探してみたけれど、この本で本当にいいのかどうか自信がない」という人は、是非上記の方法を試してみてください。
 

(2)「砂金」が「砂」に変わる!?:体験談2

 さて、私の場合、手順1~6までのプロセスでピックアップした本は、確かに全て「組織コミュニケーション」に関する本ばかりで、「砂金」であったのは間違いないのですが、全部熟読したうえで、「参考文献としては使わない(=砂)」として捨て去ることになりました。これらを読んでいるうちに、「従来の組織コミュニケーションの説明は、動機づけなどのミクロ組織論に寄りすぎているか、一般的なコミュニケーションの話に寄りすぎているかのどちらかで、マクロ組織論的に説明しているものがないじゃないか!」という問題意識を持ってしまい、「マクロ組織論の観点から、これまで書かれてこなかった組織コミュニケーションの話を書きたい!」という新たな目標が出てきてしまったからです。
 結局、この目標に向けて、もう一度文献検索のプロセスをやり直すことになりました。
 このように、論文の執筆プロセスは、テーマ設定→文献検索→文献熟読→執筆→完成という線形の(一方向的な)プロセスにはなりません。勉強が進むにつれて理解が深まり、それがテーマ設定の変更につながることもあるからです。(私の場合は、文献熟読まで来て「振り出し(テーマ設定)」に戻りました・・・)
 ですから、研究は早めに取りかかり、上記のプロセスを行ったり来たりしながらよりよいものを目指したいものです

2.自分は「研究」がしたくて大学に行くんじゃないんだけど?という人へ

 この「砂金採り式文献検索法」は、研究にしか役に立たないように見えましたか?
 そんなことはありません。
 現代は、膨大な情報があふれる高度情報社会。自分にとって不要な情報を振り落とし、必要な情報だけを入手する「検索」能力があるかないかで、何をするにも差が出ます。例えば、海外旅行に行くとき、研究者に「安くていいホテルに泊まれるプラン」を探させると、「どこから探してきたの?」と思うくらいいいプランを見つけてきてくれたりします。研究者は、別に旅行の検索ばかりしているわけではありませんが、普段から研究に必要な文献やデータの検索をしまくっているので、情報の検索及び取捨選択に慣れているのです。
 今や、就職活動も「情報戦」の様相を呈しています。「就活ではこうすべき!」という情報に振り回され、どうしていいかわからなくなって混乱してしまう人もいれば、必要な情報だけを効率よくとりこんで余裕をもって就活に臨む人もいます。
 研究を通じて「情報検索能力」を高めておくことは、現代社会に生きるどんな人にも必要な「教養」なのではないでしょうか?



注)なお、今回は図書館のOPAC(蔵書検索システム)を使った「書籍」の検索方法に焦点を当てて情報の検索方法を解説しましたが、研究では、図書館の蔵書だけでなく、他の書籍・論文・国などが公表しているデータなど、あらゆる種類の文献を参照します(もちろん、上記のテキストの執筆でも、図書館の蔵書以外の多くの文献・論文を参考にしています。)論文の検索方法などについても、基本的な考え方は同じです。上記の方法は私が自分で考えてきたものですが、これを参考に、皆さん一人ひとりに自分なりの検索方法を編み出してもらえれば、と思っています。

参考文献
土肥金山ウェブサイト(https://www.toikinzan.com/play/)2018年9月17日閲覧.


(東京経済大学経営学部准教授 山口みどり)