流通マーケティング学科の丸谷です。27回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行っていくのか)を専門分野にしているので、海外に出張に行くことが多く、このブログでもインド、チリ、中国、ペルー、米国の出張の模様をこれまで取り上げてきました。
今回は2017年度より科学研究費を頂いて行っている「ネット小売普及以降の小売国際化現地化戦略モデル構築のための研究」というテーマで、ネット小売が今後小売業の国際展開の在り方にどのように影響を及ぼすのかという研究のために、アルゼンチンを取材したので報告いたします。
ネット小売の取材になぜアルゼンチンと思う人もいるでしょうが、アルゼンチンからは中南米のネット小売を牽引する企業メルカードリブレ(スペイン語で「自由な市場」を意味する)が輩出されているのです。
ネット企業らしいメルカードリブレの社内の様子 |
メルカードリブレは1999年にブエノスアイレス出身のマルコス・ガルペリン(Marcos Galperin)氏によって設立されました。創業時彼は後にあのスティーブジョブス氏が今や伝説ともなった講演を行うことになるスタンフォード大学のビジネススクールに在学中でした。スタンフォード大学はシリコンバレーの中心地にあり、IT起業家を多く輩出する名門校です。
メルカードリブレは1999年創業当初から積極的に海外に進出し、アルゼンチンだけではなく、ブラジル、メキシコにおいて事業を開始し、翌2000年にはコロンビア、ベネズエラ、チリへも事業を拡大しました。
2001年には世界最大のインターネットオークションサイトを運営するイーベイ社と戦略的提携を締結し、イーベイ社のブラジル支社を買収して基盤を固め、2002年にはブラジルでオンライン取引プラットフォームを展開するLokau.comを買収しました。
当時のブラジルは長期の経済的な不振からようやく復活の兆しを見せ始め、BRIC(ブラジル、ロシア、インド、中国)sという新興国の一角として世界に認知され始めていました。同社の成功は隣国でのブラジル市場での成功によるところが大きいのです。
2003年にはラテンアメリカ発祥の初の電子決済プラットフォームであるメルカード・パーゴ(Mercado Pago)を設立しました。2005年にはウルグアイにも進出しました。
2006年にはラテンアメリカ域内のライバルであったDeRemate.comのブラジル、コロンビア、エクアドル、メキシコ、ペルー、ウルグアイ及びベネズエラの事業を買収しました。
さらに、2006年には中米のコスタリカ、パナマ、カリブ海のドミニカ共和国へと事業を拡大し、2007年にはナスダックにIPOを行い、ラテンアメリカにおけるネット小売のリーダーとしての地位を確立しました。2010年にはポルトガルでも事業を開始しました。
さらに、2006年には中米のコスタリカ、パナマ、カリブ海のドミニカ共和国へと事業を拡大し、2007年にはナスダックにIPOを行い、ラテンアメリカにおけるネット小売のリーダーとしての地位を確立しました。2010年にはポルトガルでも事業を開始しました。
今回のインタビューでは、発展の経緯や現状を伺った上で、今後の方向性についてもいろいろ取材させて頂きました。
メルカードリブレにて取材した際の様子 |
彼らによれば、現在メルカード・リブレに出店する多くの企業に提供する機能面での強化に注力しているそうです。具体的には、ネット取引及び広告(mercado libre)、フィンテック(mercado pago)、ロジスティックス(mercado envio)、ネットシステムの支援(mercado shops)といったネット小売全般のソリューション事業を行っているそうです。
アルゼンチンのネット小売の地方への普及に関しては、物流を担う運送業界などの労働組合の存在が障害になっており、大都市以外での普及やサービスの改善を難しくしているそうです。このことはアルゼンチンのネット小売関係者がみな語ることであり、労働組合が伝統的に強いアルゼンチンの特徴を如実に示しています。
さらに、地方の現状を確認するために、今回は南米のパリといわれるブエノスアイレスだけではなく、地方都市の実情も取材しました。
特に印象深かったのは、アルゼンチンの地方都市クロリンダでの取材でした。クロリンダはパラグアイとの国境近くの都市です。クロリンダ近くで一番大きな都市フォルモサの空港からチャーターしたタクシーで取材地に向かいましたが、その車窓はひたすら何もない風景が続きました。
フォルモサの空港にて |
空港からほとんど何もない車窓の風景 |
到着したクロリンダはバイクが多く走り、東南アジアの田舎町のようでしたが、私が取材し続けてきたウォルマートが低所得階層向けに展開する倉庫型ディスカウントストアを少しでも用地が安く確保できる町外れに出店していました。
バスターミナルやホテルがある市街地には昔ながらの市場や地元スーパーと家電量販店がムシムンドが営業していました。
この取材では取り残されたネット普及とは程遠い地方の実態と地方にもビジネスチャンスを見つけるいくつかのたくましい企業の存在が確認できました。
(文責:丸谷雄一郎(流通マーケティング学科 教授)