2024年6月3日月曜日

データで考えよう

経営学部の吉田靖です.経営財務論を担当しています.

学会がありました

このブログが掲載されるのは6月3日(月)ですが,直前の6月1日に日本統計学会の会計理事の任期が終わり,少しほっとしているところです.

さて,2024年5月25日(土)から26日(日)の2日間にわたって,これも私が会員になっている日本経済学会の春季大会https://confit.atlas.jp/guide/event/jea2024s/topが東京経済大学で開催され,本学でこの学会に所属する教員として,運営のお手伝いをしておりました.

 (日本経済学会開催中の国分寺キャンパス(奥の建物は図書館),筆者撮影)


いくつか担当しましたが,最後に担当したのが, 「国際貿易・直接投資・環境」のセッションでした.このセッションの座長はなんと新潟県立大学の学長兼理事長の若杉隆平先生でした.しかも,最後の報告への討論者もなさっていました.大学の学長が学会の座長をすることはあまりないと思いますが, 若杉隆平先生は前述の日本統計学会から経済統計分野の学会賞である中村隆英賞を受賞するなど,この分野の第一人者ですので,運営側として参加していた私も大変勉強になりました.

貿易のデータ

国際貿易というと経済学の分野でもありますが,具体例では原油の輸入,自動車の輸出,直接投資とは日本企業が海外に工場を建てたり,海外の企業が日本に工場を建てたりで,これらは主として企業の国際的な取引・投資行動によるものですから,経営学とのつながりもあります.みなさんも,「日本の貿易収支は3年度連続で赤字だった」というニュースなどは聞いたことがあると思います.実は私も大学院生時代にこれらの研究をしていたときもありました.研究するとなると必要になるのはデータですが,貿易に関しては財務省の貿易統計 https://www.customs.go.jp/toukei/info/index.htm という比較的詳しい公的な統計があります.例えば,2024年3月にシンガポールから生きているウサギを131.3万円輸入したというような品目・国・月別のデータが分かります.

その後この分野からは,遠ざかっているのですが,2022年から輸出入申告データ(いつ何をどれくらいの数量で金額はいくらで輸出入したかという申告毎のデータ,ただし,どの個人や会社かは隠してあります) を,学術的な研究で認められればある程度利用できるようになり,研究の対象が格段にひろがっています.現在までのところ,この輸出入申告データを個別企業に結びつけることはできないので,ファイナンスや会計の研究に直接的に利用することはあまりできないかもしれませんが,関係する研究は今後増えるかもしれません.

 

データで研究する

会計学の分野では,企業が不正にならない範囲で,ある程度意図的に利益の金額を調整しているかどうかを会計データを利用して研究することは重要になっています.これを株式投資に応用する例もあります.この研究で基本的になっているモデルは実は, 以前米国で貿易赤字が問題になったときに,日本からの輸出による悪影響の有無を調査した時期に,米国企業は実態以上に利益を減らす傾向が見られるという統計的研究がきっかけのひとつになっています.

 

データで投資する

 このようにデータを利用して,なんらかの傾向が見えるかどうかを分析することは様々な分野で重要です. 特に私の研究分野であるファイナンスでは,データを利用した株式投資モデルの構築が実務の世界でも活発に行われています.以前はファイナンスの研究に使うデータというと企業の決算などの財務データや経済指標が主なものでしたが,近年では企業の報告書の文字データ,衛星写真による設備の稼働状況,スマホの位置情報による人流データ,さらには記者会見の顔の表情など,身の回りのあらゆるデータが場合によってはAI(人工知能)を使って分析に利用されています.


 (東京証券取引所,筆者撮影)

データの正しい利用方法を勉強しよう!

これらの分野は今後もますます発展するでしょうから,高校生・大学生の将来あるみなさんの活躍の場としてお勧めします.本学としても,経営学部としても,また特に経営学科のファイナンスコースとしても,データサイエンス教育に力を入れて,カリキュラムを作成して,みなさんをお待ちしております.https://www.tku.ac.jp/ds/ 高校でもDXハイスクールが始まっていますが,そのお手伝いも準備しつつあります.