2024年8月26日月曜日

ゼミ生と私の夏休みは充電期間か、成長期間か?(小木ゼミ通信 vol.44)

 マーケティング論、ソーシャル・マーケティング論、消費者問題担当の小木です。44回目のブログになります。

 8月19日に飛び込んできたニュースに驚きました。なんとセブン&アイHD(時価総額4兆6000億円)がカナダのコンビニエンス大手、アリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けていると発表しました(日経新聞によれば2020年にも買収の打診を受けていたとのこと)。まだ、拒否する場合もありますし、独禁法の壁はあるやなしやなど、どうなるかは全く分からない状況ですが、完全買収には、少なくとも5兆円以上が必要とされ、実現すれば海外企業による日本企業買収としては最大級となります。

 アリマンタシォン・クシュタールは、クシュタールやサークルKといったブランドで北米や欧州を中心に世界30か国で約17,000店を展開する小売店です。2024年4月期の売上高は692億ドル(約10兆円)と、セブンイレブンの約11兆円(2024年2月期)とほぼ同じ規模です。一方、セブン&アイHDには、セブンイレブンをはじめ、イトーヨーカードー、デニーズ、ロフト、ぴあ、タワーレコード、赤ちゃん本舗などを含む、大大グループ会社です。今回の提案は、現段階では、拘束力のない友好的な初期的な買収提案でありますが、断れば同意を得ないままにTOB(株式公開買い付け、いわゆる敵対的買収)に乗り出す可能性もあります。

 個人的な単純な想いとしては、セブンはこのままでいてほしいと思うのですが、ついに、日本の大手企業が外国企業による買収の草刈り場としての対象になる時代がやってきたかと、しみじみ思う由です。こうならないように、ローソンは株式非公開とし、三菱商事とKDDIによる共同で経営する体制を整えたことはある意味先見の明があったのかもしれません。

 さて、今回は、24年のゼミ生と私の夏休みを紐解いてみたいと思います。


 ゼミ生と私の夏休みは充電期間か、成長期間か

 本学では、これまでも「ゼミする東経大」をスローガンに、ゼミに力を入れてきました。ここではじめて言いますが、9年ほど前、前学長と国分寺駅までの道のりをご一緒してゼミについて相談された際、私は「ゼミの○○大と言っているところがありますが、われわれも全く負けていません。ゼミをフォーカスしたキャッチーなフレーズを東経大も打ち出しましょう」と進言しました(もう少し過激に進言しましたが)。それで出てきたのが「ゼミする東経大」だと個人的には思っています(手前味噌ですが、経営学部の「アカデミックコンパス」という科目名も私が考案しました)。ちなみに、2025年カリキュラム改定により、2025年度入学生からゼミに入って活動をしっかりすれば、1年あたりゼミ履修4単位+演習アウトプット2単位の計6単位をもらえることになり、演習ゼミ(+演習アウトプット)はこれまで以上に魅力的な科目になります。

 そんなゼミですが、夏休み期間は、ゼミ生と教員(私)は何をしているのでしょうか。少しばかり覗いてみたいと思います。

 まず、私からです。教員は各々で本当に様々な夏休みを過ごしているかと思いますが、今年の私は7月末に成績評価と講演1回、8月に講演・研修講義の2回と、調査出張1回、学会の常任理事会、論文審査2本、そしてこのブログ1回以外は、すべて単著出版のためにずっと書斎に籠っています(パリオリンピックは結構見ました)。外の仕事をできるだけ断り、家族旅行も私抜きで行ってもらい、ひたすら資料読みと執筆活動に勤しんでおります。9月に入ると、研修、調査、ゼミ合宿などが目白押しで、そうこうしているうちに後期授業に突入することになるでしょう。というわけで、私の今年の夏休みは、単著出版のために、それに対してのチャージ期間だったと言えます。

 ゼミ生はどうでしょうか。夏休みに入ってからも、幾人らとZoomで打ち合わせを断続的にしていてそれとなく夏休みの状況を聴いてみたところ、2年生はゼミ合宿での出し物、研究発表報告の準備、コンペへの準備をしているようですが、基本的にはアルバイトや旅行に時間を費やしている人が多いようです。3年生は夏合宿での出し物や葵祭出店の準備、インターンシップや某講座への参加、消費者教育学生セミナーへの参加、アルバイト、旅行など、人にもよりますが、それぞれが充実した期間を過ごしているようです。4年生は就活も終え、夏合宿での後輩への就活イベントや出し物の準備などはやっていますが、かなり伸び伸びと過ごしているようです(本当は卒論もやってほしいところですが)。ゼミ生には「夏休みはとにかく集まりを少なくして、自分の成長の期間に充てて下さい」と言っている手前、あまり強くは言えず、後期に向けた準備をお願いするのも控え気味ではあります。ただ、夏合宿は、ゼミ全体をぎゅっと団結させる絶好の機会ですので、後々、ゼミ合宿は大事だったということがゼミ生にも分かってくれると信じてやっております。とにもかくにも、各ゼミごとで違うかと思いますが、ゼミ生にとっての夏休みは、成長するための準備・充電時間だったのかもしれません。きっと、その充電期間は無駄ではないと思う由です。

 夏休みも終わりに近づいてきました。どこのゼミ生にとっても、チャージしたものを後期に存分に発揮できることを願ってやみません。


追記です。

消費者教育学生セミナーの最優秀賞、優秀賞チームで小木ゼミ生が大活躍!

8月30日に、国民生活センター、消費者教育支援センター、消費者教育学会の共同主催の「消費者教育学生セミナー」がオンラインで開催されました。小木ゼミからは3年生を中心に9名が参加。十数大学・大学院生の合計40名が集まり、7チームにランダムに分かれて、消費生活上におけるトラブルや世界規模の消費者問題を解決すべく、制限時間の3時間で、チーム内でディスカッションし、提案書とPPT資料を作成し、プレゼン発表するというものです。最優秀賞チーム(6名中2名東経大・小木ゼミ生)、優秀賞チーム(6名中2名東経大・小木ゼミ生)において、小木ゼミ生が提案書、資料作成、プレゼンで中心的な役割を果たしました!対外試合で自身の力をいかんなく発揮でき、副賞の第一生命からのディズニーグッズも獲得できて、参加者のゼミ生は喜びにあふれていました。

2024年8月20日火曜日

記録の歴史と大学生の休暇の過ごし方

経営学科 会計コースの板橋です。

今日は記録の歴史についてお話したいと思います。

現代の企業は自らの財産や、経営成績の記録に複式簿記を用いています。

複式簿記の起源は諸説がありますが、13世紀末期から14世紀初頭のイタリアが起源であると考える説が有力視されています。

ですが、もちろんそれよりも前の時代においても記帳の必要性はありました。

複式簿記ほど精緻な仕組みは採用されていませんでしたが、古代ローマ時代において既に会計帳簿に関する言及は記録されています。

例えば、BC234からBC149にかけて活躍した監察官Caton氏は『農業について』という本の中で「現金、倉庫内穀物、まぐさ、酒、油の会計を行うべし。売ったもの、支払ったもの、受け取るべきもの、さらに売却すべきものを記帳すべし」というように記しています。

このように、人々の活動が組織化され大規模化してゆくと、そこには記録の必要が生まれ、その記録を集計化し、責任者に報告するという活動が生まれていきます。

この活動は文字が異なっても、記録形態が異なっても起こってきました。

例えば、インカ帝国ではキープと呼ばれる、紐に結び目を付けて数値を記述する方法が採用されました。

キープは、単色、もしくは複数に彩色された紐で作られ、さまざまな形の結び目がついています。そして、結び目の位置によって、一、十、百、千、万の位が表されていました。

このような記録方法は結縄と呼ばれ、実は世界的にも様々な場所で見られます。中でも有名なのが、このインカ帝国のキープと沖縄の藁算(わらざん)です。

藁算は文字通り、稲藁などを結んで数の記録や計算の道具として用いるものですが琉球王国時代から明治の中頃まで、王府の命令で読み書きを学べなかった農民や庶民を中心に沖縄県の各地で使われていました。

納税事務や取引計算、家族数,金額,出欠などの記帳に使われていたそうです。

さて、インカ帝国のキープ、実は、数値記録以外にも結び目を使って出来事などを記録していそうだという認識はされていたのですが、数字以外のメッセージや文化情報がキープの中に記録されているのだとしても、その意味は現代の学者には不明瞭でした。

これが部分的に解読されたのは2016年、その主役はなんと当時大学1年生で経済学を専攻していた一人の学生の研究によってでした。

大学の講義でキープについて興味を持った彼は、春休みにその研究に自主的に取り組み、一部とはいえこれまで誰も解読できなかったキープの謎を解く鍵を発見したのです。

これは、大学の先生が何年間にもわたって研究しているような難しい課題も、新しいアプローチで取り組むことで大きな発見がもたらされることがある、というお話でもありますし、

大学生の休暇期間の過ごし方についてのお話でもあります。

皆さんも、まとまった時間がとれる休み期間には、大学での講義を通して興味を持ったことに是非取り組んでみてください。

歴史に残る発見ができるかもしれませんよ。

(文責:経営学科 板橋雄大)

2024年8月5日月曜日

高校数学は何に使うのか?

経営学部で企業金融論や経営統計を担当している木下です。

夏休みに入りましたが、受験生の皆さんは勉強を続けられていると思います。

今回は高校数学がどのように拡張、応用されていくのかをお話します。

誰しも一度は「こんなことを勉強して何の役に立つのか?」と思ったことがあるはずです。

私自身もそうでしたが、専門家になった後で振り返ってみると、高校数学が知識の土台として極めて厳選されたコンテンツになっていることが分かります。

今回はその中でも「二次関数」に焦点を当てます。

二次関数に確率論を導入したり、多変量に拡張することでリスク管理やデータ分析の技術が開発されています。二次関数の考え方を理解していると、細かい理論的なことは分からなくても「どうせこんな感じのことをやってるんだろ?」という直観を持つことができるようになります。研究者も自分の専門分野ど真ん中以外の内容に関しては、そういった直観で大枠を理解しているだけです。


以下のような問題を考えてみましょう。

これは二次関数を使って

を最小化する問題だとみなすことができます。
高校生1年生で習う方法で求めることができますが、もっと簡単な方法があります。
ABCDの平均値を取ると1/2となり、これが解となります。
このように統計学での平均値と二次関数がつながっていることが分かります。

ここまで理解すると、更なる発展を考えたくなりますね。上記の問題は数直線上で最適な点を求めるものでしたが、平面上で最適な直線を求めることもできます。
これが統計学の主要なツールである回帰分析であり、二次関数と平均値の拡張概念です。
これを使えば、従業員数が売上高に与える効果、投資が将来の利益に与える効果、金利が為替レートに与える効果等を測定することができます。例えば、以下の図は上場情報通信業の2023年度の従業員数と売上高の関係を表したものです(専門家が見るとツッコミどころがあると思いますが、あくまでも例ということでご容赦ください)。

このように二次関数だけを取り上げても、現実への応用につながっています。


大学と高校の両方に言えることですが、授業で与えられているコンテンツは「先に走っている専門家が最適だと考えたもの」です。当然これをしっかり身に着けておくことで発展的な内容を効率的に学習できます。先にも述べましたが、高度な手法でも雰囲気が分かるようになります。

逆に「その時点の専門家が考える最適プラン」でしかないことにも注意が必要です。
時代の移り変わりによって重要性の薄れるものもありますから、そういったものに対する取捨選択はむしろ若者のセンスが大事になることもあるでしょう。

最も伝えたいことは、高校での勉強は皆さんが考えている以上に未来につながっているということです。私が高校生に戻れるのならば、間違いなく勉強に時間を使います。

高校数学と統計学やファイナンスの関連性は語っても語りつくせないほどの内容がありますが、ご縁があれば東京経済大学でお話したいと思います。