2024年10月7日月曜日

特別企画講義「鉄道で考える社会インフラ整備・管理の未来」の受講生アンケート結果から見える東京経済大学の学生

 

 経営学部の三和雅史です.

 今回のブログでは,5/20,7/22のブログで紹介した,本年第1期に開講した特別企画講義「鉄道で考える社会インフラ整備・管理の未来」の終了後に行った受講生アンケートの結果と,そこから見える東京経済大学の学生の姿や志向を次回のブログ(12月予定)との2回に分けて紹介します(講義の詳細については,シラバス

https://portal.tku.ac.jp/syllabus/public/pubShowSyllabus.php?sno=176914&rlcd=12425-001&mt=0&year=2024

をご覧下さい).

 この特別企画講義では,鉄道会社や国の機関から計13人の講師を招き,社会インフラとしての鉄道の現状や課題,そして未来への展望について,様々な観点から紹介して頂きました.講義終了後,受講生に講義に関するアンケートへの協力を依頼したところ,全受講生(178人)の77%にあたる137人から回答を得られました.受講生たちが何を思い,考え,また受講前後でどう変わっていったのか,回答から考察してみました.

受講状況
 この科目は,東京経済大学の経営学部だけでなく,全学部,全学年の学生が受講できる形で開講しました.学部,学年別の受講者数と受講率(=受講者数/所属学生数)を示します.


 (1)受講者数
 学部別では経営学部の受講者数が55人で,他学部の受講者数より約10人多い状況にありました.また学年別では2~4年生の受講者数が多く,特にコミュニケーション学部の2年生で多い傾向にありました.
 (2)受講率
 コミュニケーション学部,法学部で高く,特にコミュニケーション学部の2年生と法学部の2~4年生で高い傾向にありました.コミュニケーション学部には,メディア社会学科と国際コミュニケーション学科があり,後者の方が若干高い受講率となりました.この学科の説明として,大学案内や学部のwebページには「現代社会を,ヒト・モノ・コトが国境を越えて移動する『移動/モビリティ』の観点から考察」とありますので,「移動」というキーワードが「交通」とつながり,受講に至った学生が多かった可能性が考えられます.また,法学部については,公共性の高い社会インフラを通して実社会の仕組みを理解しようというモチベーションが学生にあったと考えられます.これらの点については,2章「①受講の動機」で考察したいと思います.

アンケート結果の概要と分析
 アンケートでは主に以下の項目に関する問いを設定しました.
  ①受講の動機
  ②受講して発見したこと
  ③関心をもったキーワード
  ④印象に残った講義
  ⑤社会インフラ業界の仕事への関心
  ⑥現場見学会,意見交換会への参加希望
  ⑦その他(自由意見等)
 今回のブログでは,①〜④の回答の概要と分析結果について示します.

①受講の動機
 幾つかの選択肢から選ぶ形(複数回答可)で回答してもらいました.結果を以下に示します.


 図から,「社会インフラ」,「鉄道」,「まちづくり」への興味が動機となった受講生が多いことが分かります.同じ図を学部別に作成してみたのが以下の図です.
 図から,受講動機は学部によって若干異なることが分かります.経済学部,経営学部の受講生では「社会インフラ」,「鉄道」の割合が高いのに対し,コミュニケーション学部と法学部の受講生では「まちづくり」の割合も高くなりました.更に,法学部の学生については,「実社会を知りたい」の割合も高いことが分かります.私は,この傾向は大変興味深く,好ましいと感じました.というのは,自分の所属学部の観点から,またその学部を選んだ自分の興味・関心を踏まえて,自分は何を学びたいか?何を学ぶべきか?を大変よく考えて履修科目を選択していると思えたからです.「とにかく楽をして必要単位数を取得し,卒業できればよい」という考え方とは対極をなす姿勢であり,東京経済大学の学生が自らの学びを真剣に考えて履修科目を選択していることが,この結果に現れていると思います.


②受講して発見したこと
 自由記述形式で回答してもらいました.回答内容をまとめたものを以下に示します.


 様々な回答があったため,この図は全ての回答内容を反映したものにはなっていませんが,「視野,視点の拡がり」,「社会構造の理解」,「職業としての意義」という3点に回答を集約できました.講義を通した体験として,哲学の祖であるソクラテスの言葉にある「無知の知」,即ち「自分がいかに社会インフラ(鉄道)のことを分かっていないかへの気づき」に始まり,そして新たな知識を毎週獲得しながら社会の仕組みについて考えるようになり,更に仕事内容と社会貢献性への理解が進んで将来の職業の候補になるまでに至った学生が何人もいたと理解できます.つまり,本講義により「職業選択」という自分の将来に向けた「行動」の一歩手前に到達したと考えられ,本講義は東京経済大学のコピー「考え抜く実学」の1つの実践事例になったと思います.

③関心をもったキーワード
 幾つかの選択肢から選ぶ形(複数回答可)で回答してもらいました.結果を以下に示します.


 「安全,安心」,「まちづくり」,「労働力不足」,「利便性向上」,「防災」の5つのキーワードは他に比べて関心が高い結果になりました.この結果には,社会インフラの存在意義と課題への関心の高さが現れていると考えられます.
 鉄道輸送は利用者や荷物を目的地に運ぶことを基本とするサービスですが,そこで何より優先されるのは「安全」です.講義では,殆どの講師が「安全」を強調していたことから,多くの受講生が関心をもったものと思われます.また,「防災」は「安全」に近いキーワードです.毎年のように発生する水害,そして地震への社会的な関心が高まる中,私たちの見えないところで進む様々な災害対策を知ることで,社会インフラをどう守るかを考える機会になったものと思います.
 「まちづくり」と「利便性向上」も比較的近いキーワードです.「利便性向上」は,「鉄道」という「まち」を構成するシステムをどのように生かすかという具体的な課題の1つです.講義では,鉄道をバス,トラック,船等と連携させた事例が幾つか紹介され,公共交通の在り方という観点で「まちづくり」を考える機会になったと思います.
 一方,「労働力不足」は,今後の社会インフラの維持,継続のために大変大きな課題となっており,多くの講師が話題にしました.その深刻さ,そして解決の重要性を理解することで,強く関心をもった結果,回答者割合が2番目に大きくなったと思います.

 今回のブログでは,ここまでの紹介とします.
 アンケート項目の④以降では,印象に残った講義,社会インフラ分野の仕事への関心等について質問しています.これらの回答の概要と考察については,12月に担当予定のブログで更に紹介したいと思います.