2020年5月11日月曜日

 大学教育とオンライン化

 税務会計論、簿記会計、会計プロフェッショナル入門を担当している板橋です。
   今年は、緊急事態の中、多くの大学で対面型の講義が全面的に中止され、オンライン型の講義への移行が進んでいますね。皆さんの中には、大学の講義のオンライン化について不安や心配もあると思います。
 そこで今回は、大学の教育とオンライン化について話をしたいと思います。ただ、アンケート調査をしたわけではなくあくまで私の事例の紹介ですので、その点は承知しておいてください。

 もともと、オンライン化への移行というのは大学ではかなり前から進んでいまして、おそらく一番一般的なのは、学習支援システムの導入だと思います。

 学習支援システムは、講義資料の配布、小テスト、レポート、プロジェクト(複数の学生でチームを作り課題を提出する)などを通しての学生一人ひとりの予習・復習・講義への参加状況を分析することが出来るシステムです。また、いわゆる掲示板機能がついているシステムでは、それを通じて、教員への質問や、講義へのコメントが出来、教員側からもそれに対して返答をすることが出来ます。本学でもmanabaという学習支援システムが、数年前から導入されています。
 この支援システムを活用することで、教材の配布、各回の課題の提出、採点、学生の学習状況の把握が出来ます。
 
 この学習支援システムは、 動画ファイルなどもアップできるものだったのですが、残念ながら今回の事態では、急激なシステム利用者の増加にシステムの増強が追い付かず、容量制限がかかってしまい、現在は、動画は外部にアップして、リンクを貼る形式にすることが勧められています。
 その他にも、利用者の増加によって、学習支援システムの反応が遅くなる事例が他大学では発生していますし、これが著しい場合には、システムが落ちてしまう(動かなくなる)危険性も指摘されています。

 そのため、私の場合は個人的にサーバーを設置し、moodleという学習支援システムをバックアップ用に準備しています。こちらでは、ファイルのアップ容量は1ファイル2GBまで、全体としてのアップ容量が50GBまで対応可能にしています。750kbpsであれば、90分の講義をフルに動画にしても0.5GB強ですから、一人の教員の半期のファイル容量としては十分な準備をしています。
 さて、このような学習支援システムですが、大学の学びというのは、「一方向」だけのものではありません。教員からの講義によって、知識を蓄えることと同時に、学生からのフィードバックや、学生相互の議論を通じて、多面的な物の見方を学び、自分自身の意見というものを構築することが重要です。しかし、学習支援システムでは、細かいグループ分けがしにくく、発言が全参加メンバーに見えてしまうことで、発言を避ける傾向が出てしまう場合があります。(学習支援システムの種類によっては、細かくグループ分けをすることが出来るものもあります。)

 そこで、私の場合は、少人数のゼミなどでは、chatworkというビジネス向けのコミュニケーションツールを使っています。これは、グループ分けが各参加メンバーで設定できるので、研究テーマごとに班を設定する作業や、その班の中で更に、小さいテーマごとに参加メンバーを設定することが簡単にできる特徴があります。ファイルも送信できるので、現在はプレゼンテーションの動画をアップして、それに対して参加者がコメントをチャットで送るということをしています。
 
 このプレゼンを動画で行い、コメントをチャットでというのは、比較的珍しいかもしれません。うちのゼミの場合は以前から、せっかくいいコメントをしてもらっても、記録がとれていない結果、忘れ去られてしまうという残念なことが起こっていまして、せっかくオンライン化するなら、その対策もちょうどいい機会なのでやってみようということで試行しています。
 他大学も含めて、ゼミでのディスカッション部分では、Zoom(リアルタイムメッセージングとコンテンツ共有が可能なビデオ会議システム)などを使うケースが、多いのかもしれません。

 このビデオ会議システムも注目されていますね。このシステムを使うと諸外国の大学との協働講義なども可能で、本学では2016年度に「スカイプを使用してタイの大学と協働授業」というものを行いました。
 タイ・バンコクの泰日工業大学と相互交流を行いながら異文化コミュニケーション能力を高め、自らのグローバルキャリアへの意識を高めることを目的に開講された特別講義「グローバルキャリア入門」では、来日前の4月にスカイプを使い、泰日工業大学(タイ・バンコク)と繋ぎ、顔合わせを成功させました。その後、実際に来日した段階では、スカイプでの直接対話を通じて親密な関係になっていたこともあり、合同研究作業は非常にスムーズに進行していました。

 そのほか、フレッシャーズセミナーという新入生向けの演習講義(ゼミ形式の少人数講義)では、Wordpressというホームページ作成システムを利用してもらい、実践的にオンラインでの情報発信スキルの育成にも取り組んでもらっています。今年は動画で行う予定ですが、図書の利用方法、プレゼン技法を実践的に学ぶためのビブリオバトルという書籍紹介の演習などもしています。

 このように、大学での学びは、オンライン化への対応が比較的進んでいますし、むしろオンライン化することによって、「情報として残り、学習効果が上がる」という面や、「諸外国の大学とつながることでより多様性のある学習ができる」というポジティブな面があります。

 その他、ここですべては挙げられませんが、本学では、教員相談員によるWEB学習相談(Zoomを使用)や英語学習アドバイザーへのWEB英語なんでも相談(Zoom使用)も在校生向けに5月11日(月)からスタートするなど、オンラインでも出来る限り学習を進めることの出来る取り組みもどんどんはじめています。

 今回の緊急事態がどこまで続くのか中々先が見通せない中で、心配なことも多いかと思いますが、その中でも各教員それぞれ出来るだけ良い講義、良い学習環境を提供できるように心がけています。 
 この記事が、大学でのオンライン教育の学びがどのように行われているかの一例として、参考になれば幸いです。

(文責:経営学科 板橋雄大)
 

 
  

2020年5月4日月曜日

ケース・メソッドで取り上げる「ムーミン・バレーパーク」を現地調査


流通マーケティング学科の丸谷です。36回目の執筆です。私は流通マーケティング学科の必修科目であるケース・メソッドを担当しています。ケース・メソッドは、企業(非営利組織を含む)が行っているマーケティング活動の事例(ケース)に対して、既存の知識や理論を当てはめたり、新しい知識や戦略を生み出したりする教育方法(メソッド)です。

ムーミン・バレーパークの正門前にて
この科目では企業が実際に取り組むマーケティング活動の事例を取り上げる必要があり、私はマーケティングの中でも、専門がグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行なっていくのか)なので、海外から日本に参入してきた企業のうちなるべく大学生にとって身近な題材を取り上げてきました。具体的にはマクドナルド、スターバックス、ネスレなどです。

ケースはなるべく新鮮な内容がいいと考え、数年に一度変更しています。ケースは自身で執筆する場合もありますし、販売されているケースを使用することもあります。今回は20195月に慶応ビジネス・スクールから出版されたアールト大学ビジネススクールのArto Lindblom教授と慶応ビジネス・スクール浅川和宏教授作の「日本でのムーミン・テーマパークの設立」を使用することにしました。

販売ケースを利用する場合には、事業を円滑に進めるために資料を収集したり、実際に商品を購入して使ってみたり、サービスを体感してみたりしています。今回は2020年度に新規ケースの題材となっている埼玉県飯能市宮沢にある「ムーミン・バレー」に取材に行ってきたので取り上げます。

「ムーミン・バレーパーク」は埼玉県飯能市宮沢327-6にあるフィンランドの著名画家トーベ・ヤンソンさんが生み出した有名人気キャラクターのムーミン一家を題材にしたテーマパークです。このテーマパークとともに北欧生活をテーマにしたショッピングモール「メッツァビレッジ」と呼ばれる郊外型レジャー施設も併設されてます。

パークに併設されたメッツァビレッジ外観
今回授業で取り上げるケースでは主に立地選定、日本での現地適応、ターゲット市場設定、価格戦略、競合への対応、日本市場参入の是非といった幅広い内容が取り上げられています。ムーミン自体はケースの中でも「日本は第二の故郷ともいわれている(ケース5頁)」と示しているように、非常に有名であり人気もあるため、多くの情報が示され、多くの考察もなされています。

今回の取材前にも多くの事前資料を読み現地取材を行ったのですが、実際現地調査をして理解できたことは多くありました。調査結果をすべて書いてしまうと、受講生の皆さんの授業課題作成に影響を与えてしまうので、今回は最初の立地選定に関して簡単に触れておきます。

立地選定に関してはテーマパークがある場所の地名ともなっている宮沢湖の存在が大きく、宮沢湖の自然にうまくムーミンの世界観を当てはめているということでした。

ムーミンの世界観を表現するのに適した宮沢湖
ムーミンの魅力のうち彼らが暮らす北欧の大自然での彼らの生活があります。1つの考え方としては、この世界観を完全再現する方法もあります。例えば、ディズニーのキャラクターを題材にしたテーマパークのように莫大な金額をかけてかなりの精度で再現することは可能かもしれません。

しかし、ムーミンの生みの親であるトーベ・ヤンソンの自然を大事にする考えにも反するように感じました。私が「ムーミン・バレー」を訪れて最も感じたのは、愛・地球博の際に名古屋郊外長久手でジブリアニメ「となりのトトロ」の世界観が再現されたパブリオン「サツキとメイの家」の世界観と通じるものでした。

ジブリの打ち出す世界観と「ムーミン・バレー」の世界観は類似しており、「三鷹の森ジブリ美術館」よりもかなり郊外にあり敷地も広大であることから「サツキとメイの家」を思い起こさせたのではと思います。

もちろん、パピリオンとテーマパークではコンセプトが異なるので、アトラクション、食事、展示など多少の商業主義は感じます。しかし、それらの商業主義は素朴であり、世界観を壊すほどのものではありません。

ムーミンの世界観を示すために湖に建てられた小屋
ムーミンの世界を再現した展示室
ムーミンの世界を示した食事
ムーミンの家に夜映し出されたプロジェクション・マッピング
2022年秋には、愛知の愛・地球博記念公園内「ジブリパーク」がオープンする予定ですし、テーマパークの新潮流を関東で感じられる「ムーミン・バレー」を訪れてみてはいかがでしょうか。

なお、新型コロナウィルス対応のために、「ムーミン・バレー」及び「メッツァビレッジ」はお休みしております。早くの再開ができることを個人的にも祈念しております。
(文責:流通マーケティング学科 丸谷雄一郎)