経営学科 会計コースの板橋です。
今日は記録の歴史についてお話したいと思います。
現代の企業は自らの財産や、経営成績の記録に複式簿記を用いています。
複式簿記の起源は諸説がありますが、13世紀末期から14世紀初頭のイタリアが起源であると考える説が有力視されています。
ですが、もちろんそれよりも前の時代においても記帳の必要性はありました。
複式簿記ほど精緻な仕組みは採用されていませんでしたが、古代ローマ時代において既に会計帳簿に関する言及は記録されています。
例えば、BC234からBC149にかけて活躍した監察官Caton氏は『農業について』という本の中で「現金、倉庫内穀物、まぐさ、酒、油の会計を行うべし。売ったもの、支払ったもの、受け取るべきもの、さらに売却すべきものを記帳すべし」というように記しています。
このように、人々の活動が組織化され大規模化してゆくと、そこには記録の必要が生まれ、その記録を集計化し、責任者に報告するという活動が生まれていきます。
この活動は文字が異なっても、記録形態が異なっても起こってきました。
例えば、インカ帝国ではキープと呼ばれる、紐に結び目を付けて数値を記述する方法が採用されました。
キープは、単色、もしくは複数に彩色された紐で作られ、さまざまな形の結び目がついています。そして、結び目の位置によって、一、十、百、千、万の位が表されていました。
このような記録方法は結縄と呼ばれ、実は世界的にも様々な場所で見られます。中でも有名なのが、このインカ帝国のキープと沖縄の藁算(わらざん)です。
藁算は文字通り、稲藁などを結んで数の記録や計算の道具として用いるものですが琉球王国時代から明治の中頃まで、王府の命令で読み書きを学べなかった農民や庶民を中心に沖縄県の各地で使われていました。
納税事務や取引計算、家族数,金額,出欠などの記帳に使われていたそうです。
さて、インカ帝国のキープ、実は、数値記録以外にも結び目を使って出来事などを記録していそうだという認識はされていたのですが、数字以外のメッセージや文化情報がキープの中に記録されているのだとしても、その意味は現代の学者には不明瞭でした。
これが部分的に解読されたのは2016年、その主役はなんと当時大学1年生で経済学を専攻していた一人の学生の研究によってでした。
大学の講義でキープについて興味を持った彼は、春休みにその研究に自主的に取り組み、一部とはいえこれまで誰も解読できなかったキープの謎を解く鍵を発見したのです。
これは、大学の先生が何年間にもわたって研究しているような難しい課題も、新しいアプローチで取り組むことで大きな発見がもたらされることがある、というお話でもありますし、
大学生の休暇期間の過ごし方についてのお話でもあります。
皆さんも、まとまった時間がとれる休み期間には、大学での講義を通して興味を持ったことに是非取り組んでみてください。
歴史に残る発見ができるかもしれませんよ。
(文責:経営学科 板橋雄大)