経営組織論を担当している山口です。東経大では、「セメスター制」といって1年を1期と2期に分けて授業が行われていますが、9月後半から2期の授業が始まります。
1期と2期の最大の違いは、2期にはゼミ論文や卒業論文の締切があるということです。
今回は、2期の開始にあたり「締切までに、質の高い論文(レポート)を、余裕をもって仕上げる方法」について考えていきたいと思います。
※以下では、レポートよりも長期的・計画的取り組みが必要となる「論文」(ゼミ論文・卒業論文など)に焦点を当てますが、レポートにも応用可能な話をしていきます。
1.質の高い論文・レポートの特徴
ゼミ論文や卒業論文の取り組み方は人によって様々で、
(1)締切の数日前に余裕をもって提出する人
(2)締切の数日前にいったん提出してから、締切までに何度か提出し直す人
(3)締切当日の時間ギリギリに提出する人
など、色々な人がいます。
さて、皆さんは、質の良い論文を出すのは、(1)、(2)、(3)のどのタイプの人だと思いますか?
私の経験上、論文の質の良さは、(1)≧(2)>(3)となることが多いです。
締切ギリギリまでたっぷり時間をかければよい論文ができそうな気がしますが、なぜか(3)の論文は、内容もいまいち(本人も納得できていない)で、誤字脱字や参考文献の抜けなど、形式面の不備も多い傾向にあります。
こうなってしまう代表的な原因は、2つあります。1つは「先延ばし症候群」、もう1つは「一気書き症候群」です。今回は、これらの2つのうち、1つ目の「先延ばし症候群」を克服する方法を紹介していきます(2つ目の「一気書き症候群」の克服法については、次回11月18日のブログに書く予定です)。
2.先延ばし症候群への対処法
先延ばし症候群とは、「論文をやらなければいけないと頭ではわかっているのに、できる限り避け続け、締切ギリギリになってから慌てて書き始めて、乱雑なまま提出してしまう、というやり方」です。
※「先延ばし症候群」という名称は、今回私が作った名称です。
このやり方だと、提出者側の学生も達成感どころか徒労感しか残りませんし、こうした論文を読まされる教員側もどのように修正させればよいか頭を悩ませることになります。関係するあらゆる人を暗い気分にする、なかなか破壊的なやり方といえるでしょう。
ただ、実は私も(そんなに乱雑なものを出したつもりはないですが)、最近まで締切ギリギリに取り掛かるタイプだったので、こうなってしまう気持ちはよくわかります。
こうした経験から、先延ばし症候群を克服するための方法については、私も色々本を読んで調べてきました。その中で「なるほど」と思い、今でも先延ばししそうになった時に役立てているのが、ハーバード・ビジネススクールのポーゼン先生の3つの対処法です。
- プロジェクトを細分化しよう!
- 誘惑を断ち切って、プロジェクトに集中できる環境を作ろう!
- 失敗の恐怖を克服しよう!
①プロジェクトを細分化しよう!
プロジェクトの規模や複雑さに怖気づいて、なかなかスタートを切れないこともあるだろう。その怖さに打ち克つには、プロジェクトを小さな部分に分解し、最初の一歩を踏み出そう。はじめの一歩が踏み出せれば、あとは簡単になる。
②誘惑を断ち切って、プロジェクトに集中できる環境を作ろう!
気が散りやすく、いつもほかのことに向かってしまうなら、とにかく集中できるように、容赦なく仕事環境を変えるべきだ。溜まっているものを片付け、重要なプロジェクトに割く時間を作り、SNSやゲームへの接続を断ち切ろう。
③失敗の恐怖を克服しよう!
「最終的なアウトプット(論文)が、絶対に満足ゆくものにならない」と思いこむなど、心に深く根づいた失敗の恐怖におびえて取りかかれない場合は、セラピストの助けを借りるなどして恐怖心に立ち向かおう。
(Posen, 2013, 邦訳52-53をもとに筆者作成)
これらを論文執筆にあてはめると、以下のような形になります。
①については、「論文を書く」という大きなプロジェクトを、今すぐ取りかかれるくらいの簡単な仕事に細分化していきます。例えば、「第1章の問題意識を書こう」などと章ごとに細分化してもいいですし、もっと細かく「今日は、論文の参考文献リストを作ろう」(あるいは「参考文献リストに3つ文献を付け加えよう」などでも可)、「今日は、論文の第2章の前半部分について、教科書の50~60ページまでを読んで要約しよう」などと細分化してもよいです。
締切まで余裕があるほど、プロジェクトを細かく細分化できるので、早い段階で計画を立てて細分化していくとよいでしょう。
②については、私も考えに行き詰まったりすると、そのストレスで急に掃除をしたくなったり、ネットショッピングをしたりして、時間を浪費してしまうことがあります。そうならないように、私の場合はPCのLANケーブルを抜いてネットに接続できないようにしたり、掃除機を目の届かないところに片付けたりして、論文しかできない環境を作っています。
(どうしても集中したいときは、必要なものだけ持って図書館に行くのもいいでしょう。ただし、スマホを目に付くところに置くのは厳禁です!)
③の恐怖の克服は、一人ではなかなか大変かもしれません。要するに「どうせいいものは書けなさそうだから、やりたくない」と思って、なかなか取りかかれない状態になっているわけです。私も、大学院時代に指導教員の先生から何度もダメ出しされて、最後の方はこのような気持ちになったことがあるので、これで書けなくなる気持ちはよくわかります。
こういう時に必要なのは、「アイデアに共感してもらって自信をつけること」です。厳しいことを言わなさそうな人や、同じように論文で苦労している友達などに、「こんなこと書こうと思っているんだけど」と話を聞いてもらい、一言「いいと思うよ」と共感してもらっただけで、結構筆が進んだりします。
実はこういう時、ゼミの先生に相談するのも効果的です。私も、これまで何人も「こんなこと書いていいのかな?」と迷っているゼミ生を見てきました。このタイプの人は、書きたいネタがある分、「それで大丈夫だよ」と不安を取り除いてあげればグーンと論文が進むようになります(意外と、「論文のテーマはこうでなければならない」などと、自分でハードルを高くしすぎてしまっている場合も多いので・・・)。ですので、こういう不安がある人は早めに先生に相談するとよいでしょう。
その他、東経大では、学生相談室でカウンセラーに個別に話を聞いてもらえたり、学習相談室で様々な分野の教員に個別に相談できたりする制度があるので、それを利用するのもよいと思います。
東経大には、このように、学生の皆さんが学習に集中的に取り組めるようにするための様々な制度が用意されているので、それらを最大限活用して、自分が最高の成果を出せるような環境を作りましょう!
3.論文を書く経験は、就職や仕事に役立つ!?
ここまで読んできた方の中には、「あれ?この話って、論文だけでなく、時間をかけて計画的に取り組まなければならないプロジェクト(仕事や資格試験など)全部に当てはまるのでは?」と気づいた方もいらっしゃるかもしれません。
そうなのです。ポーゼン先生の①~③は、論文に限らず、どんなプロジェクトにも当てはまる話です。
元々、経営学部でゼミ論文や卒業論文を書く本来の意義は、これまで講義で学んできた経営学の理論を、現実の企業が抱える問題の分析や、その解決策を論理的に考えることに「使える」ようにすることです。せっかく大学で経営学を学んでも、それを現実の企業の経営に使えなかったら、意味がないからです。
しかし、ゼミ論文や卒業論文を書くことには、それ以上の意味があります。自分で一つのプロジェクトを立ち上げ、完遂するという経験を積めることです。
(ゼミ論文か卒論かによって違いますが)半年~1年間という長期にわたるプロジェクトを、1人でテーマを考えて立ち上げ、計画的に遂行し、締切までに「論文」の形で完成させる、という経験は、社会に出てから仕事をする際に必要な「計画力」や「思考法」だけでなく、大きな「自信」を与えてくれるはずです。さらに、ゼミ論文や卒業論文で考えたビジネスプランを、就職活動で企業に売り込めば、卒業後に企業の中でバックアップを得ながら実現していくことも可能になるかもしれません。
このように、ゼミ論文や卒業論文には様々な効果があるので、東経大では、これらの論文執筆を促進するための色々な制度を用意しています。ここでは、それらのうち2つをご紹介します。
(1)研究ノート
東経大の経営学部には、3年生の2期から卒業論文の準備をしていくことができる「研究ノート」という科目があります。
この科目について、詳しくは、こちらのシラバスを読んでみて下さい(https://portal.tku.ac.jp/syllabus/public/pubShowSyllabus.php?sno=175628&rlcd=12148-001&mt=0&year=2024)。
私のゼミでは、3年生にはこの研究ノートを履修してもらい、2期から個人でテーマを決めて研究を始めてもらって、個別に論文指導をしています。大変そうに見えるかもしれませんが、この科目を履修している3年生の満足度は意外と高く、「3年生の時から卒論の準備を始められるので、就職活動で『自分は今、卒論でこういう研究をしている』ということをアピールしやすかった」とか、「3年生の研究ノートではうまく分析できなかった部分を、4年生の時に1年間かけて納得のいくように分析し直せたので、卒論の満足度が上がった」という意見が寄せられています。
(2)卒論のハードカバー製本
これはあまり知られていないかもしれないのですが、東経大では、卒業論文を書いた学生が希望すれば、大学が、卒業論文を下記の写真のような立派なハードカバーに製本して、卒業式の日に渡してくれます。
このように、東経大ならではの論文を書くメリットもたくさんあるので、是非、「東経大で論文を書く」というプロジェクトを、多くの人に完遂してほしいと思っています。
(東京経済大学経営学部准教授 山口みどり)
参考文献
ロバート・C・ポーゼン著(2013)『ハーバード式「超」効率仕事術』早川書房.