2024年10月31日木曜日

「選挙は買い」ってなに?不思議なアノマリーのお話。

 本日は、アノマリーについてお話ししたいと思います。

 10月27日に衆議院選挙がありましたが、この時、実に40年ぶりにあるアノマリーが崩れたことが話題になりました。

 それは「選挙は買い」というアノマリーです。

 アノマリーというのは、現在の理論の枠組みでは説明できなかったり、あるいは明確な理論的根拠があるわけではないのに、経験的に観測できる証券市場の規則性のことです。

 「選挙は買い」もそうしたアノマリーの一つでしたが、衆議院の解散前日と投開票日直前の日経平均株価を比較すると、1979年から過去15回はすべて値上がりだったのに対し、今回は値下がりになったそうです。

 アノマリーには面白いものもあり、「腕組みの法則」と呼ばれる、会社のホームページで社長が腕組みをしている企業は業績が伸びず、株価も下がるという法則だったり、サザエさん効果(日曜日に放送される「サザエさん」の視聴率が上がると株価が下がり、視聴率が下がると株価が上がる)、ジブリの法則(金曜日にスタジオジブリ作品が放送されると、週明けの株式相場が大幅に下落するという法則)なども知られています。

 ここまで来ると、いくら理論的に説明できない現象であるアノマリーとはいえ本当にそんな現象があるの?という疑問が湧きますが、サザエさん効果については、大和証券グループのシンクタンクである大和総研の2005年のレポートで報告され、2006年には『サザエさんと株価の関係―行動ファイナンス入門―』として出版され、そこでは、「サザエさん」の視聴率とTOPIXの関連性を見ると、NY株との関連性よりも強かったそうです。

 こうしたアノマリーが「現在の理論の枠組みでは説明できない」とされるのは、伝統的かつ標準的な経済学においては、「人はみな合理的な選択をする」というのが基本的な考え方の前提となっているためです。

 しかし、皆さんも実感があるでしょうが、人間というのは常に合理的な行動を採るわけではありません。

 そうした、現在の理論の枠組みでは説明できない行動や、明確な理論的根拠があるわけではない「非合理的」と思われる行動がもたらす現象について、「人は常に合理的に行動するとは限らない」という前提に立って考えていく学問を、行動ファイナンス理論といいます。

 例えば、あなたの目の前に、以下の二つの選択肢が提示されたとしましょう。

  選択肢A:100万円が無条件で手に入る。

  選択肢B:コインを投げ、表が出たら200万円が手に入るが、裏が出たら何も手に入らない。

 選択肢Bは50%の確率で200万円が手に入りますが、50%の確率でなにも手に入らないわけですから期待値は、200万円×0.5+0×0.5=100万円となります。

 つまり、実はどちらの選択肢も手に入る金額の期待値は100万円で同額なのです。

 しかし、この質問を実際に行うと、一般的には、堅実性の高い「選択肢A」を選ぶ人の方が圧倒的に多いとされています。

 これは、人間は目の前に利益があると利益が手に入らないというリスクの回避を優先するためであると考えられています。

 もちろん、人間には様々な性格がありますから、「自分は運が良い人間だ」と思える自信過剰な人であれば、仮に200万円が手に入るリスクが5%だったとしても、そちらを選択するかもしれません。逆に、「自分は運が悪い人間だ」という風に思う人であれば、期待値が低かったとしてもリスクの少ない方を選ぶかもしれません。

 このように、様々な心理的または感情的な要因に従って行動を選択する人間が存在する結果が、証券市場のアノマリーとして表れてくると考えられます。

 行動ファイナンスの登場は、従来の学問の理論的な枠組みから排除されていた人間や組織の非合理性であるが自然な反応を,学問の枠組みで再び考え直してみようという取り組みであると評価できます。

 世の中は多様性(ダイバーシティ)と受容性(インクルージョン)が重視されていますが、行動ファイナンスの登場は、学問の枠においても、この世界には多様な人間が存在することを受け入れ、それぞれの個性がどのような影響をもたらすのかを考えるようになってきたといえるかもしれません。

(文責:経営学科 板橋雄大)



2024年10月21日月曜日

高校数学は何に使うのか?(2)

 経営学部で企業金融論や経営統計を担当している木下です。

前回に引き続き、高校数学の大学あるいは社会での応用についてお話させていただきます。

高校での勉強のモチベーションの一つになれば幸いです。

前回の記事はこちらです。

https://tkubiz.blogspot.com/2024/08/blog-post.html

前回は「対数」というものを説明せずにデータ分析に使っていました。対数は高校2年生の内容ですが、少し説明します。

「2を3乗すると8です。」を数式で書くと

となります。逆に「2を何乗すると8になりますか?3です。」を数式で書くと

となります。

このように、対数は何乗したらxになるか?という数のことで、対数と指数は表裏一体です。詳しい説明は高校の数学の先生に聞いてみましょう。我々のような応用で数学を使っている人間よりも数学のプロに聞く方が間違いがありません。


さて、データ分析では「対数」そのものに興味があるわけではなく、「やりやすいから対数

スケールで分析を行って、後で元のスケールにも戻せばいい」という発想を取ることが頻繁にあります。どういうことか、応用例を見てみましょう。


左の図は、2024年度決算の小売業の上場企業の従業員数のヒストグラムです。

右の図が従業員数の対数値のヒストグラムです。対数を取った方が左右対称に近く、統計学で扱いやすそうですね。ここでの対数とは自然対数のことですが、すごく使いやすい数、ぐらいのイメージを持っておきましょう。

次に、一人当たり資産と一人当たり売上高の散布図を見てみましょう。

元のスケールでは左下にデータが集まっていて、かつ直線には見えません。

対数を取ることで直線に近くなります。直線での分析は高校の数学の教科書の「データ分析」でも紹介されています。そこで、対数スケールで分析を行ってから後で元に戻すような分析方法を使うわけです。そうすることで左の図でも当てはめ曲線を引くことができます。

これを拡張していけば、売上高、従業員数、総資産の3つの関係性も見ることができるようになります。


こういった分析を行うときに、「対数」を理解していれば、混乱することなく分析を行うことができます。


では、数学ができれば経済経営データ分析はできるのか?というと、答えは完全にNoです。データ分析の結果を活かして何をするか?ということを考えるのが経営学や経済学の役割です。また、人間行動の結果として集まってくるデータは、実験研究のような理想的な集まり方はせず、偏りのあるデータとなります。数学だけを武器に経済経営データ分析に挑むと多くの落とし穴にはまることになります。

経済経営の分析にはデータ分析だけでなく、損得計算を中心とした人間の行動原理を踏まえた分析が必要となります。これは簡単なものではなく、だからこそ高校生の間に汎用性のある知識を広く身に着け、大学で自分の領域の専門的な能力を身に着ける必要があると言えます。





2024年10月14日月曜日

SNS総フォロワー290万人以上ゼミOG「くぼたび」さんをお招きして

 流通マーケティング学科の丸谷です。67回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論を専門とする教員です。本学には教員が自身の講義に実務家や外部の有識者を外部スピーカーとして招くことができる制度があります。今回は丸谷ゼミOGで旅に生きるアラサー夫婦としてSNS総フォロワー数290万人の大人気ユーチューバーのクボタビさんを外部スピーカーとしてお招きしたので取り上げます。ゼミOGの講演を取り上げるのは20221212日に取り上げた「日本一新大久保に詳しい」としてご活躍されているもーちぃさんに次いで2人目です。


クボタビさんは202012月からSNSで夫婦する旅しながら動画をアップし始め、コロナ禍で全国の観光地が疲弊する中でルールをしっかり遵守した上でリアルな情報を伝える動画が人気となり、47都度府県全てが主役になることを目指して、魅力があるのにしっかり情報が伝わっていない地域の情報を伝える仕事をされています。自身が出演するだけではなく、インフルエンサーチームを運営する、SNSコンサルティングを行うなど多彩な活動をされています。20246月にはこれまでの活動やお勧めの旅先を盛り込んだ書籍『くぼたび流暮らす旅のしおり(株式会社KADOKAWA刊)』も出版され、既に5刷となっています。

講義は簡単な自己紹介の後、ご自身のアップされた大洗ホテルのショート動画(https://www.tiktok.com/@kubo_tabi/video/7416633001179761937)をみてもらい、どのようなSNSのテイストなのか理解してもらった上で始まりました。


ご夫妻は全国を旅する中でコロナ禍魅力があるのに疲弊する地方の実情を憂い、SNSを最大限活用して状況を改善し続けています。ご夫妻の活動開始当初コロナ禍だったため、外国人観光客はほとんどいなくなっていました。しかし、現在では非常に多くなっており、日本語の発信だけではなく、最近はインバウンド客も意識した内容の情報発信も始めているそうです。私は講義ではアウトバウンドを中心に取り扱っているので、非常に有用でした。

講義内では疲弊する地方の実情や一部の観光地に人が集まりすぎている現状についてデータを用いて示した上で、SNSを活用する際の留意点や競争が激しいSNSの中で活動を維持するために重視している独自性について具体例をあげながら講義されていました。


特に感心したのは紹介する対象選定へのしっかりとしたこだわり、綿密な取材と下準備を入念に行った上での取材交渉、視聴者の反応データに基づく動画の改善といった部分でした。紹介する対象の選定ではいくら条件がよくても自身が紹介するに値しない内容は選ばないということが徹底され、取材交渉では自身のこれまでの活動をしっかりまとめた資料を持参し紹介すべき内容について語りながら綿密に交渉がなされ、動画の改善は動画から離脱した理由を徹底して分析されているそうです。5年の経験が実り現在に至っていることがわかる内容でした。


講義終了後質問タイムでは、東京経済大学の卒業生ならではの質問「東京経済大学の魅力をSNSを通じてアピールするには」といった内容もあり、豊かな自然環境と充実した施設をあげられており、ご夫妻の柔らかい雰囲気と相まって和やかな雰囲気でご講演は終わりました。

(文責:流通マーケティング学科 丸谷雄一郎)

2024年10月7日月曜日

特別企画講義「鉄道で考える社会インフラ整備・管理の未来」の受講生アンケート結果から見える東京経済大学の学生

 

 経営学部の三和雅史です.

 今回のブログでは,5/20,7/22のブログで紹介した,本年第1期に開講した特別企画講義「鉄道で考える社会インフラ整備・管理の未来」の終了後に行った受講生アンケートの結果と,そこから見える東京経済大学の学生の姿や志向を次回のブログ(12月予定)との2回に分けて紹介します(講義の詳細については,シラバス

https://portal.tku.ac.jp/syllabus/public/pubShowSyllabus.php?sno=176914&rlcd=12425-001&mt=0&year=2024

をご覧下さい).

 この特別企画講義では,鉄道会社や国の機関から計13人の講師を招き,社会インフラとしての鉄道の現状や課題,そして未来への展望について,様々な観点から紹介して頂きました.講義終了後,受講生に講義に関するアンケートへの協力を依頼したところ,全受講生(178人)の77%にあたる137人から回答を得られました.受講生たちが何を思い,考え,また受講前後でどう変わっていったのか,回答から考察してみました.

受講状況
 この科目は,東京経済大学の経営学部だけでなく,全学部,全学年の学生が受講できる形で開講しました.学部,学年別の受講者数と受講率(=受講者数/所属学生数)を示します.


 (1)受講者数
 学部別では経営学部の受講者数が55人で,他学部の受講者数より約10人多い状況にありました.また学年別では2~4年生の受講者数が多く,特にコミュニケーション学部の2年生で多い傾向にありました.
 (2)受講率
 コミュニケーション学部,法学部で高く,特にコミュニケーション学部の2年生と法学部の2~4年生で高い傾向にありました.コミュニケーション学部には,メディア社会学科と国際コミュニケーション学科があり,後者の方が若干高い受講率となりました.この学科の説明として,大学案内や学部のwebページには「現代社会を,ヒト・モノ・コトが国境を越えて移動する『移動/モビリティ』の観点から考察」とありますので,「移動」というキーワードが「交通」とつながり,受講に至った学生が多かった可能性が考えられます.また,法学部については,公共性の高い社会インフラを通して実社会の仕組みを理解しようというモチベーションが学生にあったと考えられます.これらの点については,2章「①受講の動機」で考察したいと思います.

アンケート結果の概要と分析
 アンケートでは主に以下の項目に関する問いを設定しました.
  ①受講の動機
  ②受講して発見したこと
  ③関心をもったキーワード
  ④印象に残った講義
  ⑤社会インフラ業界の仕事への関心
  ⑥現場見学会,意見交換会への参加希望
  ⑦その他(自由意見等)
 今回のブログでは,①〜④の回答の概要と分析結果について示します.

①受講の動機
 幾つかの選択肢から選ぶ形(複数回答可)で回答してもらいました.結果を以下に示します.


 図から,「社会インフラ」,「鉄道」,「まちづくり」への興味が動機となった受講生が多いことが分かります.同じ図を学部別に作成してみたのが以下の図です.
 図から,受講動機は学部によって若干異なることが分かります.経済学部,経営学部の受講生では「社会インフラ」,「鉄道」の割合が高いのに対し,コミュニケーション学部と法学部の受講生では「まちづくり」の割合も高くなりました.更に,法学部の学生については,「実社会を知りたい」の割合も高いことが分かります.私は,この傾向は大変興味深く,好ましいと感じました.というのは,自分の所属学部の観点から,またその学部を選んだ自分の興味・関心を踏まえて,自分は何を学びたいか?何を学ぶべきか?を大変よく考えて履修科目を選択していると思えたからです.「とにかく楽をして必要単位数を取得し,卒業できればよい」という考え方とは対極をなす姿勢であり,東京経済大学の学生が自らの学びを真剣に考えて履修科目を選択していることが,この結果に現れていると思います.


②受講して発見したこと
 自由記述形式で回答してもらいました.回答内容をまとめたものを以下に示します.


 様々な回答があったため,この図は全ての回答内容を反映したものにはなっていませんが,「視野,視点の拡がり」,「社会構造の理解」,「職業としての意義」という3点に回答を集約できました.講義を通した体験として,哲学の祖であるソクラテスの言葉にある「無知の知」,即ち「自分がいかに社会インフラ(鉄道)のことを分かっていないかへの気づき」に始まり,そして新たな知識を毎週獲得しながら社会の仕組みについて考えるようになり,更に仕事内容と社会貢献性への理解が進んで将来の職業の候補になるまでに至った学生が何人もいたと理解できます.つまり,本講義により「職業選択」という自分の将来に向けた「行動」の一歩手前に到達したと考えられ,本講義は東京経済大学のコピー「考え抜く実学」の1つの実践事例になったと思います.

③関心をもったキーワード
 幾つかの選択肢から選ぶ形(複数回答可)で回答してもらいました.結果を以下に示します.


 「安全,安心」,「まちづくり」,「労働力不足」,「利便性向上」,「防災」の5つのキーワードは他に比べて関心が高い結果になりました.この結果には,社会インフラの存在意義と課題への関心の高さが現れていると考えられます.
 鉄道輸送は利用者や荷物を目的地に運ぶことを基本とするサービスですが,そこで何より優先されるのは「安全」です.講義では,殆どの講師が「安全」を強調していたことから,多くの受講生が関心をもったものと思われます.また,「防災」は「安全」に近いキーワードです.毎年のように発生する水害,そして地震への社会的な関心が高まる中,私たちの見えないところで進む様々な災害対策を知ることで,社会インフラをどう守るかを考える機会になったものと思います.
 「まちづくり」と「利便性向上」も比較的近いキーワードです.「利便性向上」は,「鉄道」という「まち」を構成するシステムをどのように生かすかという具体的な課題の1つです.講義では,鉄道をバス,トラック,船等と連携させた事例が幾つか紹介され,公共交通の在り方という観点で「まちづくり」を考える機会になったと思います.
 一方,「労働力不足」は,今後の社会インフラの維持,継続のために大変大きな課題となっており,多くの講師が話題にしました.その深刻さ,そして解決の重要性を理解することで,強く関心をもった結果,回答者割合が3番目に大きくなったと思います.

 今回のブログでは,ここまでの紹介とします.
 アンケート項目の④以降では,印象に残った講義,社会インフラ分野の仕事への関心等について質問しています.これらの回答の概要と考察については,12月に担当予定のブログで更に紹介したいと思います.