2025年7月28日月曜日

試験、成績評価と統計学の視点

 経営学部で企業金融論や経営統計を担当している木下です。


学期末には定期試験とその後の成績評価がありますが、試験や課題を作るときに(統計学を理解している)教員が何を考えているのか、をお話します。


理想的な成績評価とは、極めて優秀な学生、優秀な学生、そうではない学生をまんべんなく見分けがつけられるようなものです。そのため、難しい問題から簡単な問題を広く出題することになります。平均値、標準偏差、四分位点といった統計学のツールを使ってこれらをコントロールしているわけです(しようとしているが、完ぺきにはできない)。

また、時間制限のある定期試験だけではその日の調子次第でミスをすることもありますし、時間をかければ正しく解答できる能力と、時間制限内に速く解答できる能力の両方を評価する必要があるでしょう。そこで、日々の課題と期末試験の両方で成績評価を行うのです。

平たく言えば、学生の学習成果が適切に反映されるような試験と評価方法を教員は考えているのです。成績評価を行った後に、100点の学生と0点の学生だけになってしまったら、それは学生の潜在的な学習成果を抽出するような試験にはなっていない、と考えられます。

ですが、一見いびつに見えてもそれが望ましい結果である可能性はあります。その理屈を後述します。


言うまでもないことですが、成績評価の分布以外の観点から重要な懸念事項があります。それは大学で学んだことや試験で出題された問題が、実社会において本当に有益な内容になっているかどうか、です。どのような能力が現代社会において有用なのか、ということは正確なところは誰も分かりません。実際に社会で生み出された価値を観測できれば、学習効果を測定できますが、そんなデータの収集は困難ですし、社会は変化しますから、再現性のある測定は不可能に近いものです。

データ分析においては、トレーニング用のデータとテスト用のデータを別で用意しなければ再現性に関して信憑性が薄れてしまう、という話があります。トレーニング用のデータに当てはまるようにモデルを作ったとしても、それは過剰当てはめの可能性があるのです。一方で、トレーニング用のデータとテスト用のデータに分けてしまうと、トレーニングに使えるデータが少なくなってしまってもったいないという見方もできます。そのため再現性とトレーニング効率にはトレードオフ(一方を重視するともう一方を犠牲にする)があるのです。これは理論上必ず生じるもので、統計学ではその調整方法が日々研究されています。

大学では、担当教員が授業内容を決定し、成績評価もその教員が行います。これは上記のデータ分析と同様の観点から考えると、特定の教員の授業内容に対する過学習が生じていて、それを評価している可能性があります。したがって、再現性という観点からは望ましいものとはいえないかもしれません。

さて、では何故このような方法が採用されているのか、を考えてみましょう。これは極めて簡単な理屈で、専門家である教員こそが授業内容と評価方法の両方に関して精通していると考えられるから、です。

ある試験において、ある問題の正答率がゼロだったとしましょう。これは、教員の作問や授業が悪いのかもしれませんし、学生の理解が悪いのかもしれません。

このときに、教員と学生のどちらが実社会に関する情報を持っているか、という観点に立つと、やはり教員の判断を重視することになるでしょう。では、授業を行う教員と試験を行う教員を別にする、という案はどうでしょうか。これにはやはり再現性とトレーニング効率のトレードオフ問題があります。これらの総合的な観点から、現状の大学ではトレーニング効率と教員の専門性が重視されて、担当教員に一任する、という方法が受け入れられていると考えられます。

学生から見ても、他の教員から見ても何が重要なのか分からない、専門性の高い(高いように見える)分野であるほど、教員が好き勝手できてしまう、という問題が生じてきますが、その話は専門家に譲ることにします。


制約のある問題では必ずトレードオフの問題が生じます。例えば、80点以上を合格、と決めてしまうと優秀な学生だけを採用できる一方で、採用できる人数が減少したり、不安定になったりします。また、数学の配点を上昇させると、それ以外の科目を相対的に軽視することになります。上述のような、授業と成績評価における再現性とトレーニング効率のトレードオフがあるように、最終的には上手くバランスをとるための程度問題の評価が重要になります。

こういったロジックは、有限の予算における投資における企業選択、企業の従業員の採用活動等においても同様に使うことができます。


このような様々な対象に関する評価方法、その裏側にある(損得に関する)人間行動のメカニズム、情報のやり取り、意思決定のロジックを学ぶのが経営学部の一連のカリキュラムです。身近なテーマの延長線上にあるロジックですが、落とし穴に落ちないための思考の訓練や、程度問題を適切に評価するための技術の習得によって様々な意思決定を有利に進めることができるのです。


                                      木下 亮




2025年7月14日月曜日

経験価値マーケティングを思い起こさせたパフェ体験

 流通マーケティング学科の丸谷です。70回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行なっていくのか)を専門分野にしていますが、流通マーケティング入門も担当しており、マーケティングに関する事例も収集しています。

 

美しいフォルムのパフェ

 私はケーキ屋さん巡りが趣味でしたが、コロナ禍以降はイートインのお店が減少したこともあり、出来立てのスイーツを食べられるパフェ屋さんを頻繁に訪ねるようになっています。コロナ前より通っている定期的に通ってパフェの奥深さをいつも感じさせてくれるアサコイワヤナギ、食べるときの演出も楽しい上野毛のラトリエアマファソン、関西発チョコですが東京でもチョコの奥深さを感じさせてくれる東京駅のショコラティエパレドオール、自宅から近く数回に一度なるほどとうなる組み合わせを堪能できる西荻窪のの台湾風パフェが有名な金木犀茶店、名店シンフラがある志木駅近くに最近開店したCOLOLIEまでかなり幅広い多様な個性のお店がパフェを提供しています。今回はこ数回訪ねている南砂町にあるKUNON Baking Factoryで最近再び注目を集めている経験価値マーケティングにまつわる体験をしたのでとりあげたいと思います。

 

経験価値マーケティングの代表的研究者であるシュミットは、体験を意識的にデザインし、顧客価値を向上させることを提唱し、「経験」 を軸に企業がマーケティング戦略の構築や目標を定めるためのツールとして「戦略的経験価値モジュール(SEM)」を提示しました。このモジュールでは、経験価値の構成要素を、「SENSE (感覚的経験価値) , FEEL (情緒的経験価値)THINK(知的経験価値) , ACT(行動的/肉体的経験価値) , RELATE (関係的経験価値)」の5つに分類し、これらの要素を長沢・大津(2022)はキーワードや例をあげてわかりやすく示しています。

今回のパフェ屋さんでの体験から得られた経験価値を、上記の5つの価値に当てはめて私なりに考えてみました。

SENSEにあたるのが、パフェの美しさです。私の写真は技術が高いとは言えないですが、それでもパフェの写真を見ると、今回のパフェの造形が素晴らしいことはわかるはずです。パフェにとってインスタ映えすることは今や最重要なことかもしれず、素敵な写真をみるだけでいつも癒されてしまいます。

パフェのメイン食材クラウンメロン

FEELにあたるのが、素材の豪華さです。今回のメイン食材であるクラウンメロンは非常に高価な食材であり、店主の久野さんがその食材のすばらしさや豪華さについて教えてくれました。私はかつて愛知県の大学で勤務していた際に、静岡のメロン農家の息子さんがゼミ生だったので、クラウンメロンのすばらしさや豪華さについては個人的にも伺っていましたので、テンションがあがりました。

 THINKにあたるのが、店主さんの地元静岡の食材へのこだわりです。クラウンメロンだけではなく、店主さんは静岡の食材にこだわっており、前に伺った際にも出身地の食材にこだわってるのが非常に素敵だなと感じ、ファンになりました。

 

パフェの味を変化させる名脇役のワサビ

ACTにあたるのが、味変のトッピングとして用いるワサビを自身ですって適量トッピングする過程です。実際にワサビをするのは大変ですが、自身てすったワサビからは愛着も感じられますし、ワサビのすりかたやわさびのすった部分ごとの細かい味の違いが実感できました。

 RELATEにあたるのが、季節ごとに新たな経験をできる各回定員3人の限定した取り組みを継続的に行うことでこだわりパフェのコミュニティを構築しているといえます。

パフェの提供には1時間以上かかり、定員も各時間帯3名となっているため(前は4名だったみたいですが、今回3名でした)、予約が必須ですが、非常に魅力的な経験をできるお店でパフェを通じた素敵なコミュニティで楽しい時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。次回(7月12日から8月9日までの予定のようです)提供の「みしまマンゴーとスパイスのパフェ」も早速予約させて頂きましたが、素材を栽培する様子やパフェ提供過程を紹介するインスタグラムを拝見しながら楽しみにしています。


レトロな雰囲気が素敵な砂町銀座商店街

 お店自体は住宅街にありますが、すぐ近くにあるレトロな商店街である砂町銀座商店街も非日常的な空間で、有名なおでん屋さんもあり、お勧めです。

                  (流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎)