流通マーケティング学科の丸谷です。67回目の執筆です。私は「グローバル・マーケティング論」を専門としており、海外でどのようにマーケティングを行うかについて研究しています。年2回ある授業休止期間を利用し、海外現地調査のために出張し、このブログでも多くの国々での出張について取り上げてきました。今回は2025年8月にフランスで行ったコストコ現地調査を取り上げます。
日本でも人気のコストコはアメリカ出身の企業ですが、会員制の倉庫型店舗を日本以外の国にも展開しています。同社の国際展開はこれまで日本に進出してきた流通企業に比べてもゆっくりであり、市場機会をどん欲に求めるというよりは、石橋を叩いてわたるペースです。私はこの進出ペースを、漸進的(ぜんしんてき)という表現で示してきました。
コストコのヨーロッパでの展開は1993年に同社の前身企業が既に進出していたアメリカの旧宗主国であるイギリス以外では2014年のスペイン進出までなされてきませんでした。スペイン進出以降2017年アイスランドとフランス、2022年スウェーデンと少しずつ進みましたが、各国での出店ペースはスペインでの展開に比べてゆっくりで、今回現地調査したフランスのみがパリ周辺に2店舗目を出店した以外は1店舗のみでした。この出店ペースは2014年進出のオーストラリアが15店舗、2019年進出の中国が7店舗と比較してもゆっくりとしたペースといえるでしょう。
![]() |
フランスのコストコの出店場所 |
フランスは2025年年末までにドイツとスイスとの国境近くのミュルーズに3店舗目を出店することが発表されており、英国、スペインに次ぐ出店ペースといえ、英国とスペインでは既に現地調査を行ったので(英国現地調査に関しては、https://tkubiz.blogspot.com/2023/09/blog-post.htmlを、スペイン現地調査に関してはhttps://tkubiz.blogspot.com/2025/03/を参照)、今回フランスで現地調査を行った。
![]() |
パリ到着翌日時差ボケが残る中でしたが、早速ホテルから相対的に近いコストコのフランス2号店(コストコポントー・コンボー倉庫店)に向かいました。宿泊したホテルの目の前のパリ市庁舎を意味するオテル・ド・ヴィル駅から地下鉄で2駅のリヨン駅でパリ近郊の大都市圏と郊外を結ぶ高速鉄道のネットワークであるエール・ウ・エールのA号線に乗り換え、9駅目のシャンピニー駅まで22分乗車しました。
![]() |
パリ中心部からコストココポントー・コンボー倉庫店までの行程と周辺の店舗 |
シャンピニー駅は中央線の各駅は停車するが、電車の乗り換えはない豊田駅や日野駅という感じの駅であり、駅前に数路線が走るバス停がありました。駅前のバス亭からレ 4 シェンヌ・ショッピング・センター(Ccial Les 4 Chênes)行きのバスの終点まで40分乗車すると、コストコポントー・コンボー倉庫店につきました。
この店舗は2021年8月15日に開店した店舗であり、物流が容易な郊外の幹線道路D4(県道4号線)沿いに立地し、巨大ショッピングモールの中核をなすテナントとなっていました。駅からコストコまでのバス沿線には郊外型の住宅が建設され、駅とコストコが入居する巨大モールの間には、フランス発祥で日本にもかつて進出したことがあるカルフールなどが出店する中規模モールも立地しており、バスの終点に立地するレ 4 シェンヌ・ショッピング・センターは近隣の住民向けというよりは、より広域からの集客を期待して建設されたモールのようでした。
![]() |
閑散とした店内の様子 |
広大なモールの外観を1周した後、世界共通の会員証を機械にかざして入店すると、会員はまばらで数えるほどしかおらず、英国、スペイン、オーストラリア、メキシコのどのコストコよりも売場に活気は正直全く感じられませんでした。当然会員が少ないので、配置された試食担当の店員さんも手持無沙汰であり、当然やる気も感じられず、非常に静かな店内でした。
![]() |
駐車場が満杯のリドル |
平日昼間という時間帯のせいかなと考え、モールに入るその他のテナントもくまなく回ってみたところ人はまばらでしたが、隣接するハードディスカウントストアのリドルはコストコよりこじんまりした店内が多くの顧客で賑わい、駐車場もほぼ満杯であり、レジに人が多くならび、店内にも活気がありました。少なくともこうした郊外立地ではハードディスカウントストアの方があっていることが明らかでしたし、駐車場や併設されたガソリンスタンドの稼働状況をみても広域からの集客も少なくとも大成功しているとはいえなさそうでした。
![]() |
フランス1号店ヴィルボン・シュル・イヴェットの一定の活気がある店内の様子 |
数日現地競合店を現地調査した後、2017年6月22日に開店したフランス1号店ヴィルボン・シュル・イヴェットも現地調査しました。1号店はホテルから10分ほど歩く地下鉄サン・ミッシェル・ノートルダム駅からエール・ウ・エールのC号線に30分程乗車し、エピネイ・シュル・オルジュ駅で下車し、さらに駅前のバス停から30分程バスに乗り到着しました。1号店も2号店とパリ中心部からの方向は異なるが、エール・ウ・エール沿線からバスで30分程度という立地であり、幹線道路も近いことから広域集客を意識した立地であることはわかる。
1号店も訪ねたのは平日午前中でしたが、2号店に比べると会員が店内に多くおり、英国やスペインの店舗ほどではないが、2号店ではみられなかった、カートに大量の同社のプライベートブランドであるカークランドのPB商品を積む顧客が散見され、店員も手持無沙汰ということもなく、自身の仕事をもくもくとこなしていた。
コストコのフランスでの出店ペースは1号店から2号店出店まで約4年、さらに3号店出店予定まで約4年である。今回の現地調査で確認できたように、1号店と2号店を比較すれば明らかに1号店の方がにぎわっているし、オペレーションもしっかり構築されているようであった。1号店での一定の成果を踏まえて2号店も出店したがあまりうまくいってない状況を踏まえると、パリ近郊へのこれ以上の出店は厳しいと考えるのは合理的判断といえよう。3号店は大都市パリの近郊とは全く異なる初の地方出店であるだけに、フランスで一定程度蓄積した経営資源をいかに地方で活用するかにも注目し、機会を見つけて現地調査してみたい。
(文責 流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎)