2026年2月24日火曜日

なぜSHEINの服はこんなに安いの?

「物流論」・「流通情報システム論」を担当する宮武です。


前回は、アパレルのネット通販物流ということで、

  • どんなサイトで服を買うのか

  • その服はどこから送られてくるのか

  • 誰が運んでいるのか

といった話をしました。


最後に少しだけ触れましたが、

「なぜこれらの商品が、ましてやSHEINのように国外から運ばれているにも関わらず安いのか」

という疑問が残っていたと思います。


今回は、この「なぜそんなに安くできるのか」という点にしぼって、お話していきます。

※SHEINのアプリのロゴ


1.安く作って、一気に運ぶ

だいたいの方がイメージするように、シンプルな理由のひとつは
大量生産と一括輸送です。

船での輸送は、国際的な競争が激しいうえに、一度に大量の貨物が運べます。
時間さえかければ、人件費の安い地域で生産した商品を、比較的安いコストで世界中に運べるしくみになっています。

だから、世界のいわゆるファストファッションブランドは、安価な商品を提供しやすいのです。

特に、自分たちで生産から販売まで管理する SPA(製造小売業) と呼ばれるアパレル企業はこの傾向が強く、

  • UNIQLO

  • GAP

などが代表例として挙げられます。

みなさんの服を見てみると、タグに「○○製」と書いてあるはずです。
これを書いているときに私が着ていた服は、「ベトナム」「インドネシア」「中国」製でした。

ただし、船で数か月かけて運ぶと問題になることがあります。
それは、消費者のニーズとずれてしまう可能性があることです。

流行を追いかけようと思うと、とてもではありませんが、
「デザインを決めてから数か月待って、ようやく店頭やサイトに並ぶ」というスピードでは間に合いません。

そのため、こうしたファストファッションの中でも、

  • 定番のデザイン

  • 毎年ある程度売れることが分かっているアイテム

の比率が高くなりがちです。
一方で、「流行最前線」を攻めるには、もう少し違うやり方が必要になります。



2.作った商品を素早く市場に投入するには?

ここまで見てきたように、

  • 安く作る

  • まとめて船で運ぶ

というやり方は、「定番品」を長く売るには相性が良い方法です。

一方で、最近のファッションの世界では、

  • SNSで急に流行が生まれる

  • インフルエンサーが着たアイテムが一気にバズる

といったことが当たり前になりました。

そうなると、

「数か月かけて船で運んでいるあいだに、流行が終わってしまう」

というリスクが大きくなります。

そこで出てくるのが、いわゆる「スピード重視」の作り方と運び方です。


ちなみに、ファストファッション系でも「ZARA」はこの運び方をしています。

ファッションの流行拠点であるヨーロッパを中心とした生産拠点を持ち、

飛行機で運ぶというやり方をしているので、物流系の教科書的な書籍でもよく取り上げられる事例です。


また、スピード重視といえば、注文からなるべく早く届ける、ことが求められるネット通販でしょう。

ZARAの例では店舗向けの輸送になるので、飛行機とはいえある程度まとまった量で運ぶことになります(まとめるほど、「コスパ」は良くなりやすいです)。


ところが、ネット通販の注文単位では、一度に運ぶ量がかなり少なくなります。


ということは、国外向けのネット通販(越境EC)で安い服を扱うのは難しい?ということになりますが、

そこで現在世界中で幅広く展開している企業が中国のSPA型越境ECサービスである「SHEIN」を思い浮かべる人もいるかもしれません。




3.SHEINの生産の工夫

お手頃価格の商品を速く運ぶためにはどうすればよい?という解決策として、

売れ筋商品をしっかり売って、無駄な生産をしない、という言うのは簡単だが難しい方法があります。


SHEINでは、次の方法でそれを実現しています。

  • 作る量を最初からドカンと大量に決めてしまうのではなく、まずは少ない量だけ作って「試しに売ってみる」。

  • その売れ行きを見ながら、本当に人気が出たものだけ増産する。


こうすると、

  • ハズれたデザインを大量に余らせるリスクを減らせる。

  • 当たりのデザインには、生産と輸送のリソースを集中的に回せる。

というメリットがあります。


ただし、これを世界中のお客さん相手にやろうとすると、

  • どこで作るのか(工場・生産地)。

  • どこに在庫を置くのか(倉庫の場所)。

  • どれくらいのスピードで運ぶのか(船か飛行機か)。

といったことを、セットで考えなければなりません。


SHEINは現在、世界中に商品の保管拠点を設置していますが、

そこに商品をたくさん置きすぎると、上に書いたような柔軟な対応が難しくなります。


じゃあ、世界中に生産拠点を置けばよい、という話になりますが、

多くの消費国では人件費が高く、とてもでないですがSHEINの商品のような安価での販売ができなくなります。


柔軟性を重視すればコストがあがり、コストを抑えると柔軟性が下がる、

そんなトレードオフな関係をSHEINがどう解決しているのか、という鍵は

中国におけるネット通販に特化した生産拠点「EC村」の存在です。



4.中国の「EC村」(「SHEIN村」):安さを支える生産地

SHEIN のビジネスモデルを語るときに、よく出てくるキーワードが
「EC村」や「SHEIN村」 といった言葉です。

中国の一部の地域では、

  • 縫製工場や小さなアパレル事業者がびっしり集まっている。

  • ネット通販向けの少量多品種の注文を、短納期でこなすことに特化している。

ようなエリアが生まれています。


SHEIN以外の中国発越境ECサイトの「Temu」なども、このEC村に支えられているといわれています。


イメージとしては、

  • 生地の調達

  • 裁断・縫製

  • プリントや刺繍

  • 検品・簡易な撮影

  • 梱包・出荷

まで、ネット通販向けの工程がぎゅっと集まった地域です。


こうした場所は、中国の主要都市から若干離れた地域にあり、

  • 都市部よりも地価や家賃が相対的に安い。

  • 家族経営など、小規模な事業者が柔軟に仕事を受けられる。

  • ネット通販プラットフォーム(SHEINなど)から、細かい注文が大量に流れてくる。

といった要素が重なり、「安く・早く・たくさん作る」ための土台ができています。


SHEIN は公式にも、需要に合わせて小ロットで素早く生産する

「オンデマンド型」のサプライチェーンを強調しており、

在庫を持ちすぎないことでコストを抑えていると説明しています




5.SHEIN村の現実:BBCが報じた長時間労働

しかし、この「SHEIN村」のような地域で、
働く人たちの労働条件が本当に適切なのか? という点については、多くの指摘があります。

英BBCが行った調査をまとめた記事や、市民団体のレポートによれば、

  • 広州周辺のSHEIN向け工場で、週あたりおよそ75時間前後働いている労働者がいること。

  • これは中国の労働法が定める上限を大きく超える長時間労働であること。

  • 「月に31日あれば31日働く」「1日10〜12時間は当たり前」といった証言があること。

などが報じられています。



BBC News Japan「週75時間労働も……SHEINの格安衣服を作る工場をBBCが取材」※英語ニュースですが、日本語字幕もあります。


また、スイスのNGO「Public Eye」などの調査では、

  • 非常口や通路がふさがれた危険な作業環境

  • 社会保険の未払い

  • 出荷枚数に応じて支払われる出来高制の賃金で、生活賃金を下回る収入

といった問題も指摘されています。


SHEIN自身は、

  • サプライヤーに対する監査の強化

  • 労働時間や安全基準の改善

  • 子どもを働かせていた工場との取引停止

などを行っていると説明していますが、

それでもなお、国際機関や人権団体からの批判は続いています。

ここで大事なのは、

「生産の工夫で安くなっている部分」と、 

「極端に低い人件費や過酷な働き方で安くなっている部分」

を、きちんと区別して考える必要があるということです。


ただ、これらはSHEINに限った問題ではなく、

20年ほど前からいわゆるファストファッション系の生産体制で問題提起されてきたことでもあります。



6.「安さ」の裏側をどう考えるか

高校生のみなさん、というか大半の消費者からすると、

「安くてかわいい服が手に入るなら、それでいいじゃないか」

という感覚も、もちろんあると思います。


一方で、BBCのような報道が問いかけているのは、

「その安さは、そこで働く人たちの時間や健康をどこまで削って成り立っているのか?」
「それは、労働の対価として適切と言えるのか?」

という点です。


大学の授業やゼミでは、

  • 企業のビジネスモデル

  • 物流のネットワーク設計

  • 労働条件や環境負荷、税制や規制のあり方

などを一緒に見ながら、こうした問いを少しずつ掘り下げていきます。


私の場合は物流あたりが専門領域ですが、

授業やゼミの担当の先生によって、焦点を当てる場所が違うのが大学の勉強の面白さであり、難しさかな、と思っています。


その勉強を、東京経済大学の経営学部で、

さらに私の授業やゼミで一緒に考えることになれば嬉しいです。




(文責:宮武宏輔)