2017年7月25日火曜日

【学問のミカタ】大学の先生のお仕事は?


 こんにちは、経営学部教員の柴田高です。
 【学問のミカタ】のシリーズは、これまで本藤先生が書かれていたのですが、今回からもっといろいろな教員が交代で執筆することになり、私がトップバッターを仰せつかりました。実は今年の7月前半、私は中国の北京にある本学の協定校、対外経済貿易大学でも授業を行ってきました。対外経済貿易大学と本学の間には、教員や学生の相互交流の歴史があります。私にとっては2回目の北京での授業だったのですが、今回は対外経済貿易大学のサマースクールへの派遣教員として、同校の学生に向けた「Product Development in The Japanese Firms(日本企業の製品開発)」という英語の授業を2週間担当してきました。以下の写真が、学生との記念写真です。


 というわけで、今回は改めて大学教員の仕事についてご説明いたしましょう。

 大学に勤務している専任教員の場合、仕事の種類は大きく3つに分かれます。
 教育 -授業を行い、学生を指導して、試験を行ったり、学生に論文を書かせる仕事です。
 研究 -自分の専門分野で新たな発見を含む研究を進め、その成果を公表する仕事です。
 校務 -上記の2つ以外に、大学運営に関わる(雑用を含めた)さまざまな仕事です。
 これらはいずれも大事な仕事で、優先順位はつけ難く、また複数の要素が融合する仕事の場合もあります。対外経済貿易大学への派遣教員というのも、教育と校務の両方の要素を含む仕事でした。

<教育の仕事>

私の場合、本来の教育分野の仕事としては、1年生向けの基礎科目の「会社入門(前期開講)」と「基礎経営学(後期開講)」と、2年生以上向けの重点履修科目「経営戦略論」が主な担当科目で、このほかにゼミや卒業論文の指導などが加わります。これまで、私がこのブログに書いてきた内容も、以下のようにこのゼミでの活動が中心でした。
http://tkubiz.blogspot.jp/2017/05/blog-post_21.html

 経営学部の教員として、学生の教育を担当していると、どうしても悩むことがあります。経営学部では、企業活動の生きた姿を学ぶことを主眼としていますが、高校までのカリキュラムでは経営学に相当するようなものがなく、入学したばかりの学部1年生では、会社勤めの経験もないため、会社というものがどのような存在か、なかなか理解できません。そこを何とか会社という存在を実感味を持って理解して欲しい、という思いから始めた科目が「会社入門」です。さらに、経営学分野の有名な研究者の有名な理論を取り上げて、内容を体系的に理解してもらうための科目が「基礎経営学」です。1年生で、これら経営学の入門編の科目を学んだ後に、2年生から本格的な専門科目に入ります。私の担当する「経営戦略論」は、長期的な競争優位という概念をもとに、企業や組織のトップである経営者の意思決定プロセスを学ぶ科目です。対外経済貿易大学の英語の授業も、「経営戦略論」を具体的事例を通じて解説するものです。家電製品や自動車など、第2次世界大戦後の日本経済の牽引役となってきた産業の中で、なぜ次々とユニークな製品が生まれてきたのか、また21世紀に入ると、これらの産業で元気がなくなっている理由はなぜか、ということを多くの事例に基づいて英語で解説しました。私自身が元々高度成長経済時代のオーディオ少年で、乗り物マニアであり、成熟化社会の中で家電メーカーの商品企画や事業計画の担当者を務めてきました。実際に自分の目で見てきたことを語る、というのは面白い経験ですし、少しは実感を持って学生に伝えることができたかな?と思います。

<研究の仕事>

次に研究分野の仕事ですが、私の場合10年ほど前からサービス業の経営管理に興味を持っており、研究を進めています。本学経営学部の卒業生の場合、流通サービス業に就職する人の割合が多い、というのが研究を始めたきっかけです。このような研究の成果は、学会で発表したり、論文にまとめるわけですが、大学は定期的に「紀要」という出版物を刊行していますので、そこに掲載することが多いわけです。「紀要」掲載の論文は、インターネット経由で皆さんに読んでいただくこともできます。たとえば、以下のようなものです。
http://hdl.handle.net/11150/7633

 また、研究成果を本にまとめることもあります。実は今年6月、同友館から『サービス経営学入門』という本を出版しました。昔の大学院生時代の指導教官を中心に、門下生仲間で分担してまとめた本です。上に書いた「基礎経営学」のように、私たちが教室で教えるような経営学は、20世紀に入って大量生産の進んだ製造業の大企業を対象として研究が進められてきました。たまたま1部上場の家電メーカーに勤めていた私のような場合は「分かる、分かる。よーく分かる。」と感じる部分が多いのですが、サービス業にそのまま適用しにくい面があり、別の論議の枠組みが必要です。そこで門下生一同でサービス業に即して、手分けしてまとめたのがこの本です。ご興味のある方は、ぜひ一度お読みください。


<校務の仕事>

3つ目の校務の仕事ですが、今年3月末まで国際交流委員を務めており、本学のグローバル化のお手伝いをしておりました。上記の対外経済貿易大学での英語の授業も、その一環で決まったものですが、自分が海外に出かけるだけではなく、中国や韓国にある本学の協定校・友好校から本学に短期留学してくる学生の皆さんと、私のところのゼミ生との交流を通じて、企業の国際経営について少しずつ考えてもらう試みを続けています。今年2月には、Japan Study Programの様子をこのブログでご紹介しました。
http://tkubiz.blogspot.jp/2017/02/japan-study-program.html

 実は、今年7月中旬にも同様のJapan Study Programが行われ、中国や韓国にある本学の協定校・友好校から19人の短期留学生が来学しました。時間が限られていたのですが、国際経営論担当の山本晋先生にもお手伝いいただいて、私のところのゼミ生と一緒に、コンビニエンスストアや外食産業などを例に、日本や中国・韓国に展開しているチェーン店のビジネスの仕組みの違いについて考え、発表してもらいました。以下の写真は、その発表の様子です。

<北京で感じたことを>

今回、13年ぶりの北京滞在でした。前回は北京オリンピックの前で、あちこちで大規模な工事中でしたが、今回はずいぶんきれいな町並みになったと感じました。また、大きな変化は、政府がエネルギー消費を抑え、環境破壊を減らすために、EV(電機自動車)の普及を促進していることでした。電池とモーターで動くさまざまな乗り物が走っていて、電動バイク、電気三輪車、小型の電気自動車(四輪車)など目を見張るものがありました。電動バイクや電気三輪車などはナンバープレートもなく、多分無免許で?運転しているようで、日本人の感覚からは無茶苦茶と思えるような走り方をしています。歩道の上にも平気で入り込んできますし、エンジンがないため、本当に静かに近寄ってきて、ヒヤリとさせられます。以下の写真が、歩道上に駐車して充電中の電気三輪車です。



 日本人からは「この変な乗り物は、いったい何なのだ?」と首を傾げたくなりますが、これだけ広く普及しているのを見ると、別の考えも浮かんできます。経営戦略論、とりわけ製品開発の分野では、従来とはまったく異なる方式で登場し、いつのまにか従来のビジネスを根底から覆すようなイノベーションを「破壊的イノベーション」と呼んでいます。C.クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』によると、このような「破壊的イノベーション」は、最初きわめて下位の稚拙とも思えるニーズを満たし、それに成功すると、上位のニーズを満たすために急速に改良が進み、市場を席巻することになります。  「Product Development in The Japanese Firms」という授業を進めながら、このようなEV(電気自動車)を見ていると、もしかするとこれが「破壊的イノベーション」になるのかも知れない、という思いを強く感じました。

【学問のミカタ】Link
経済学部-科学における理論・モデル・エビデンス-経済学の「理論」とは
コミュニケーション学部-異文化でのフィールドワーク 
現代法学部ー法学と「時代の遠近感」ー 
総合教育センター-We did it !



(文責:経営学部 柴田 高)