2017年7月3日月曜日

カリブ海世界を知るための70章

流通マーケティング学科の丸谷です。18回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行っていくのか)を専門分野にしているので、海外の経済やビジネスについて取材して記事を書いてくれという依頼がたまにあります。

今回は一般の皆さんに、なかなかなじみの薄い地域に関して依頼された仕事がかなり充実した一般向けの書籍『カリブ海世界を知るための70章』として明石書店より出版されたので、紹介していきます。

皆さんカリブ海世界と聞いて何を思い浮かべられるでしょうか?
『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのジョニー・デップさんが演じるジャック・スパロウなどの海賊が支配する世界といったイメージでしょうか?近年増加する巨大船によるクルーズでしょうか?私も最初カリブ海世界を訪れた際には、南国の島々をイメージしていました。

しかし、原稿依頼を受けてよくよく調べてみると、この地域はコロンブス到着以降スペイン、英国、フランス、オランダ、米国といった欧米列強による勢力争いの中で非常に複雑な歴史をたどった結果、これらの諸国の影響を色濃く受けた多様性を帯びる地域となったのです。ジャック・スパロウ自体は架空の人物ですが、彼にもモデルがいるといわれ、彼らが引き起こす物語の多くはこの地域の歴史に依拠した内容なのです。

なお、17回執筆の上海ディズニーランド現地取材報告でも一部紹介させていただきましたが、この時期のカリブ海世界は冒険の舞台として魅力的であり、上海ディズニーで最新の技術で表現された「カリブの海賊」の世界観(「パイレーツ・オブ・カリビアン:バトル・フォー・ザ・サンケン・トレジャー」(Pirates of the Caribbean Battle for the Sunken Treasure))は素晴らしかったです。


今回依頼されたのはカリブ海諸国のビジネスに関して5章分くらいといった依頼でした(最終的には6章分となりました)。今回の書籍を出版した明石書店は、世界の様々な地域に関する書籍を出版している出版社です。

特に『・・・を知るための』という名称で出版されているエリアスタディーというシリーズは、地域の図書館などにも所蔵されている定番シリーズとなっております。今回の本でなんと157冊目です。私はこれまでにも2011年に『現代メキシコを知るための60章』、2013年に『ドミニカ共和国を知るための60章』といった2冊に参加させていただきました。

当初はメキシコなど有名な諸国を扱ったシリーズでしたが、ネットを通じた情報発信が充実していく中で、最近はマニアックな諸国に関する信頼性が高い情報を求めるニーズが高まったようで、それにこたえる形でかなりドミニカ共和国といったマニアックな国や今回のカリブ海世界といったように、より細かい地域を扱った内容が増えてきています。

私も2013年『ドミニカ共和国を知るための60章』の原稿依頼を受けた際に、「ドミニカ共和国で60章?」という印象でしたが、今回は1か国では書籍化が難しい地域で70章というように、さらにマニアックな依頼になっています。

原稿テーマを考える事前取材では、まずは図書館等で日本文と英文を中心に書籍やデータベースを当たり、ある程度テーマを絞った段階で、JICA(国際協力機構)によって海外派遣されている支援を行う皆様や様々なNGO、個別に情報発信を行っている旅行社の皆様など、ネット情報を確認しました。ネットを通じた情報発信の充実ぶりには、改めて驚きました(後述の61章ではブログ執筆者に連絡を取らせていただき、写真を提供いただきました)。

なお、私は多くの情報を発信されているJICA派遣者する研修に10年弱携わらせて頂きました。私が研修を担当する中南米地域においても、かつてはメキシコ、ブラジル、パラグアイなど中南米の主要国への赴任国研修の依頼が多かったのですが、従来の支援先の多くは新興国として発展し、支援の必要性が相対的に下がったようです。現在では今回書籍で取り上げたカリブ海の小国への派遣される皆様への研修依頼が増え、一般の方にとっては、クイズでしか聞かない小国であるハイチ、セントクリスファーネヴィス、セントルシアなどに変化してきているようです。今回の依頼に関しても、上記の研修の際に取材した内容がかなり役立っています。

今回依頼された書籍がとりあげた、カリブ海諸国には16か国の独立国があり(下の地図に番号がついています、なお下記の地図は『カリブ海世界を知るための70章』17頁の地図を加工したものです)、独立国以外にも英領、米領、フランス海外県、オランダ海外県と自治領、米国の自由連合州など多様な統治形態の場所があります。
   
   
私が今回担当した章は、以下の6章となりました。

57章 カリブ海諸島のラム酒 旧宗主国の伝統を受け継ぐ地場製品
58章 海島綿(シーアイランドコットン) カリブが世界に誇る最高級コットン
59章 カリブ海域のバナナ産業 グローバル化に翻弄される熱帯の特産物
60章 カリブ海域の会員制ホールセールクラブ 存在感を保つプライススマート社
61章 知られざる地下資源保有諸国 ボーキサイト・ニッケルから石油まで
63章 世界を動かすタックスヘイブン その歴史と実態 

どの章も執筆している自身にとっても非常に興味深く、改めてカリブ海世界の多様性にふれる有意義な時間だったのですが、特にインタビュー取材から得た専門家の皆さんからの知見や情報は有益でした。

特に57章執筆で取材させて頂いた日本ラム協会と第58章執筆で取材させていただいた西印度諸島海島綿協会でのインタビューは興味深く話に引き込まれていきました。日本ラム協会では、かつて植民地にしていた旧宗主国や現在も統治を続けている英仏蘭などの影響が強いことなどを伺い、西印度諸島海島綿協会では、英国エリザベス一世も愛用した海島綿という最高級コットンを普及させる多様な試みを伺いました。

カリブ海世界は、なかなかなじみの薄い地域だとは思いますが、多様性を有するカリブ海世界にふれる今回出版した拙著がその1つのきっかけとなれば幸いです。


文責:丸谷雄一郎(流通マーケティング学科 教授)