2018年10月1日月曜日

アマゾンの2種類の実験店舗があるシアトルを訪れて


流通マーケティング学科の丸谷です。26回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行っていくのか)を専門分野にしているので、海外に出張に行くことが多く、このブログでもインド、チリ、中国、ペルーの出張の模様をこれまで取り上げてきました。 

今回は2017年度より科学研究費を頂いて行っている「ネット小売普及以降の小売国際化現地化戦略モデル構築のための研究」というテーマで、ネット小売が今後小売業の国際展開の在り方にどのように影響を及ぼすのかという研究のために、世界のネット小売を牽引するアマゾンの最新店舗を取材したので報告いたします。 

世界のネット小売を牽引してきたアマゾン・ドットコムは1994年米国ワシントン州シアトルにて創業し、現在も本部をシアトルにおいています。同社は米国だけではなく、イタリア、インド、オーストラリア、オランダ、日本、カナダ、スペイン、ドイツ、ブラジル、フランス、メキシコ、英国、中国、現在14カ国向けにネット小売を展開しており、昨年はアマゾンが通信規制の緩和に伴うスマホの急激な普及にあわせて積極的な展開をはかるメキシコにおいて取材を行いました。 

取材を行う中でやはり国際展開の方向性にも影響を与える先端的な取り組みの確認が必要だと考えるようになりました。先端的な取り組みの多くは一般的に状況のよくわかった本拠の近隣の店舗で行うことが多く、アマゾンも本部のあるシアトルで先端的な取り組みの多くを行ってきました。 

ちなみに、私は長年日本では西友を経営するウォルマートいう世界最大の売上を誇る小売業者にグローバル・マーケティング戦略について研究してきたのですが、ウォルマートも創業の地米国アーカンソー州に現在も本社を置き、実験的な取り組みの多くも本社近くで行うことが多いのです。



『ウォルマートのグローバル・マーケティング戦略(増補版)』創成社、2018年。


今回取材したネット小売を主に展開するアマゾンが実験的に展開を開始したアマゾンゴーとアマゾンブックスという2種類の店舗もシアトルから展開が始まっています。 

アマゾンゴーは無人コンビニです。無人店舗自体はこれまでも多く展開されており、日本でもミニストップなどの大手小売が自販機を使った形態の無人店舗を展開してきたり、最近では中国で最先端のスマホやアプリの技術を用いた無人コンビニがたびたびとりあげられています。 

アマゾンゴーの取り組みも一見すると、従来の取り組みとそれほど変わらないのかと考えがちですが、従来の取り組みの多くが有店舗を主に展開する企業が実店舗の補完的な存在として展開してきたのに対して、アマゾンゴーは発想が根本から異なります。アマゾンはあくまでもネット小売から始めており、ネット小売の補完的な存在としてのリアル店舗という発想です。 

視点の方向性の違いについては、アマゾンゴーを実際に訪れてみて強く実感しましたし、改善が進んだ2号店を訪れてさらに強まりました。 


無人店舗というと人員削減が目的と考える人も多いと思いますが、今回はアマゾンゴー1号店近くにホテルがとれたため、朝昼夕と時間をかえてある程度長い時間店舗をかけて観察してみると、人が担当した方が現状効率的な部分のみを人が行うという発想が垣間見れました。 

まず現状では顧客もなれていないため顧客自体が無人店舗になれていないため、顧客を誘導したり、問題が起こらないようにお酒売り場のIDをチェックしたり、次々売れていくファストフードなどの商品補充を迅速に行ったりしていました。
IDをチェックする店員さん
商品を補充する店員さん

アマゾンゴー1号店出入口
顧客がこの方法になれ、商品補充のやりやすさも追及できれば現在のような多くの人員は必要なくなるとは考えられますが、アマゾンはネット小売側の視点からリアル店舗の意味を突き詰めていることがわかりました。 

2号店はちょうど訪れた直前に開店したようなのですが、早速商品補充の改善などのためと考えられる多くの改善がみられました。特に大きな変更は1号店で分かりづらかった出入口の並びをしっかりとわけたことと、売れ筋商品を補充しやすいようにレイアウトを工夫したところのようです。2号店に関しては、1号店よりも詳細な観察は時間の制約でできなかったのですが、数時間の滞在でも立地の違いにあわせた品揃えの絞り込みなどの工夫も確認できました。

 
アマゾンゴー2号店出入口(入口と出口が別になっている)

視点の方向性の違いは、シアトルのワシントン州立大学に隣接するモールの入り口にあるアマゾンブックスでも実感しました。

モール入口にあるアマゾンブックス

店内には多様な工夫がみられました。ネット上で示されたレビューの結果を表示したり、子供が実際に本と触れ合えるスペースを用意するなどしたり、この本を読んだ人へのおすすめ本を確認できるなど、実際の店舗だからこそできる展示方法を模索したりしていました。


ネット上のレビューを店内表示

子供が本と触れ合えるスペース
この本を読んだ人へのおすすめ本

その他にもネットで得られた大量の情報を踏まえたセレクションがなされていたり、なるほどと思う発想が垣間見られました。



シアトルはアマゾンだけではなく、スターバックスの本部もあり、スターバックス1号店やイタリアのパン屋さんとコラボした焙煎の設備を備えた店舗なども見学できました。新たなビジネスチャンスの種を生み出す都市シアトル機会があれば訪れてみていかがでしょうか?
(文責:丸谷雄一郎(流通マーケティング学科 教授)