2013年10月31日木曜日

Cool Japan! 日本のソフトパワー


 こんにちは。
 経営学部教員の加藤みどりです。みなさま、はじめまして。
 学部では、1年生が全員履修する「基礎経営学」、企業とは?を学ぶ「企業論」、研究開発や生産のマネジメントを考える「生産管理論」を担当しています。私自身の専門は、イノベーション論、経営戦略論といったところですが、今回はそれをややはずれて、2008年から企業論の講義で取り上げている"Cool Japan"、日本のソフトパワーについて「さわり」をお話ししたいと思います。

 Cool Japan という語が広まったのは、2002年にDouglas McGray が発表した"Japans Gross National Cool"という論文からとされています。 Gross National Cool とは、Gross National Product(国民総生産)をもじったもので、「国民総かっこよさ」ということになります。

 McGrayいわく、
  日本は80年代の経済力以上の文化的スーパーパワーを示している
   ポップミュージック、家電、建築、ファッション、アニメ、料理....
   国の「かっこよさ」はソフトパワー、文化影響力、GNP同様国力として認知されるべき

 ソフトパワーとは、アメリカの政治学者ナイ教授が、軍事力、経済力などの強制力を持つハードパワーとは対照的に、他国を静かに味方につける国力として提示した概念で、価値観や文化などが相当します。
 日本にいると当たり前すぎて気づきづらいのですが、海外から見ると日本のハイテク、ポップカルチャー、若者の自由なファッション、「おもてなし」は相当Coolなソフトパワーのようです。


 最近はマスコミでも盛んに取り上げられ、また「海外の反応」を扱うブログも急増し、さらには話題の対象も広がりました。しかし、こうしたCool Japanの先駆けはやはりマンガやアニメでしょう。AKIRAや攻殻機動隊は、ハリウッド映画に多大な影響を与えたとされていますが、1960年代から、日本のアニメ(と特撮もの)は海外で放映されていました。
 しかし、当時は日本の放送関連機器と共に輸出されていたため(機器のおまけ扱いですね)、コンテンツの非専門家が著作権をあまり考慮せずに取引し、契約もフィルム回収もなかったとされています。これにより、海外の放送局は日本のアニメを使い勝手のいい低コストコンテンツとして繰り返し放送したため、その認知度は非常に高くなりました。

 メッシ、トーレス、トッティ、ロナウジーニョといった世界的サッカー選手が「キャプテン翼」の大ファンだったのも、イタリア女子バレーが「アタックNo.1」放映後に強くなったのも、よく知られた話です。
 しかし、こうした経緯をひきずって、日本のアニメビジネスは、人気の割には収益性が高くないのは大変残念なことです。

シンガポールのショッピングセンターで
独ニュルンベルグ(A代表清武選手の所属チームがある街)
の書店にあったフリーペーパー


バンコクのアニメイベントで、コスプレ美女たちとタイ版カメラ小僧
バンコクではコスプレした若者がショッピングセンターを多数闊歩している


 さて、ユネスコから無形文化遺産への登録勧告があった「和食」ですが、懐石料理をハイカルチャー(文化の中でも正統で高尚なもの)とすれば、ラーメン、カレー、お好み焼き、とんかつなどはポップカルチャーに相当するかもしれません。今や日本の外食チェーンの海外進出は華々しく、おいしさでしっかり顧客を獲得しています。

 しかし、こうした日本の大衆食に早くから関心を持った人の多くは、マンガやアニメで登場人物が食べるのを見て「ずっと食べたいと思っていた」そうです。お弁当もそのひとつで、amazon.comamazon.frbentoで検索すると、日本製のお弁当箱が多々ヒットします。youtubeでは、お弁当、さらにはキャラ弁の作り方の再生回数はかなり多く、世界中からコメントがあります。

バンコクの「しゃぶし」、しゃぶしゃぶ+寿司
回転寿司のレーンにしゃぶしゃぶの具材と寿司が乗ってくる
(寿司はそのまま食べます)
どの店にも長い行列が!


 このように、コンテンツは波及効果を持ちます。アニメやマンガを好きになり、関連商品の購入に留まらず、日本文化に関心を持ち、日本語をマスターしたいと思う海外の人たち、特に若者が非常に多くなっています。マスコミのような一方向でなく、双方向のコミュニケーションが可能なインターネット、文字で説明するより伝わりやすいyoutubeのような動画投稿サイトの影響も非常に大きいです。

 JTBは2008年から、アニメファンをターゲットに、オタク-アニメアドベンチャープログラム(OTAKU-ANIME Adventure Program)という商品を販売しています。これは、秋葉原や中野ブローウェイなどファンにとっての「聖地」や、外国人全般に人気の原宿のダイソーなどを、local train、つまり私たちが日常的に乗っている電車で回るというツアーです。ツアー客にはSuicaが渡されます。
 Suicaに導入されたFelicaの技術は香港やシンガポールなどアジアの交通機関他に輸出されていますが、世界広しと言えども、1枚のカードで全国の公共交通機関に乗れる国はありません。毎日使っているとありがたみに鈍感になりますが、異文化の目で見ると嬉しい再発見があります。

ゼミの学生と一緒に行ったシンガポールのダイソー
日本の商品ばかりで、日本より品揃えも豊富
どの店も人があふれ、かごの中はいっぱいで、私たちも大興奮!
かごを覗くと日本での買い物と似たり寄ったりでしたが、すき間テープなど便利グッズが人気かも
ゼミ生は、ご祝儀袋の使い方を聞かれたそうです

 コンテンツが始まりとは断言できませんが、ひとつのきっかけとして、日本企業の海外進出を後押ししているのは確かなようです。例えば日本食が世界に広まれば、利益は外食企業に留まりません。
 今や、世界中の大都市ならほぼ回転寿司店を見ることができるようになっています。それを支えるのは、日本の食品ロボット、回転寿司レーン(コンベア機と言います)、オーダー/会計システムです。また、醤油や味噌の消費も増えます。
 逆に日本に来る外国人が増えれば、私が海外出張する度にホテルに早く導入してと思う洗浄機能付き便座やハンドシャワーも、日本でその便利さを知った旅行客が自国に広めてくれるでしょう。



 経営「学」と聞くと、難解なイメージを持つかもしれません。確かに研究を行ったり論文を書くのは大変な作業で、私のゼミ生たちも四苦八苦しています。しかし、一方でこのような私たちの日常も、非常に興味深い研究対象になります。

 ゼミでの研究は、チームを組んで行うことが多いですが、学生たちは力を合わせてひとつのものをつくりあげて行きます。一人で考えるより、それぞれの立場から意見を述べ合い多面的に考察した方がいいものになるのは間違いありません。

 皆さんも東経大経営学部で、仲間とわいわい、自分の疑問を追求してみませんか?経営学部の教員が、全力で皆さんをサポートします!

文責:加藤みどり(経営学部教授)