まだまだ暑い日が続きますね。大学は夏休み中で、通常の授業はありません。
そのため、今回は前期の授業期間のお話しをさせていただきます。
経営学部では、入学したばかりの1年生全員に、前期授業で「基礎セミナー」
という科目(2015年度からは「フレッシャーズ・セミナー」と改称します)を
履修してもらいます。「基礎セミナー」の目的は,これから大学生として
学んでいく技術と力を身につけるために、経営学部の専任教員がそれぞれ
十数人の少人数クラスを担当し、さまざまな実習を通じて「学ぶ力」を
高めていくところにあります。内容としては、授業の受け方、ノートのとり方、
レポートの書き方、資料の収集・分析の方法、プレゼンテーションの実習
などを行い、その間に図書館オリエンテーション、人権に関する講習、
キャリアガイダンスなどのイベントも行います。
大学での授業は、どうしても大教室での多人数の学生に向けて、教員が
一方的に話しをする講義が多くなりがちですが、本来もっとも大学らしい
授業とは、学生が自分から進んでさまざまな問題について調査・分析し、
発表を行う、少人数のゼミ(演習)形式の授業を指すはずです。
東京経済大学では、2年生になると、ゼミ(演習科目)を履修でき、
さまざまな先生が開講するゼミの中から自分の希望するゼミを選んで
所属することになります。このブログの中でも、これまでに多くのゼミの
活動が紹介されてきました。「基礎セミナー」は1年生の皆さんにも
このような少人数でのゼミ(演習)形式の授業の雰囲気を味わって
もらい、大学らしい授業の良さをいち早く体験してもらうために
開講しているものです。各学生の時間割にあらかじめ指定されている
時間に、指定された教員のクラスに参加してもらいますが、この
「基礎セミナー」の中で具体的に、どのようなテーマでレポートを
まとめてもらうか、どのような課題で調査・分析を行ってもらうかは
それぞれ担当教員の比較的得意な分野から出題されるため、クラスに
より異なっています。
私の担当クラスでは、縁あって経営学部に入学した以上、経営学の大事な
概念のひとつである『業態』に注目して、「業態の違いを、実際にこの目で
確かめてみよう」というテーマで調査・分析を行い、レポートにまとめ、
プレゼンテーションを行ってもらいました。経営学部の1年生の授業では
「流通マーケティング入門」の中で、「業態」という概念が出てきます。
「業態」とは、小売業などでどのようなビジネスのしかた、売り方をするのか
という営業方法の違いを基準とした分類方法をさします。例えば全国的な
小売チェーン店であればコンビニエンスストア・スーパーマーケット・
百貨店・ディスカウントストアなどの違いが典型的なものです。
百貨店といえば、大都市の商業地の中心部や鉄道のターミナルビルに位置し、
高層棟の大きな建物を持っています。しかしコンビニエンスストアは
ほとんどの場合、平屋建てで、はるかに小さな店舗面積しか持っていません。
また、百貨店やコンビニエンスストアは定価販売が基本ですが、スーパー
マーケットやディスカウントストアは割引販売によって集客力を高めています。
さらにディスカウントストアでは廉価販売のためにコストを下げ、なおかつ
顧客のまとめ買いを促すために、駅前商店街などから少し離れた地価の安い
幹線道路沿いに、広い駐車場を併設した大型店舗を設けることが多いわけです。
このような語句だけの知識は、教科書などを読めはいくらでも得られますが、
そのような知識を「ああ本当にそうなんだ!」と実感を持って頭の中に
しみこませるには、自分の足で現場を見比べて「体で覚える」ことが大事です。
そのために、私のクラスでは、学生それぞれに例えば「○○社のXXXという
清涼飲料の500ミリリットルのペットボトル」というように、きわめて具体的に
商品を決めて、まったく同一の商品が、百貨店、スーパーマーケット、
コンビニエンスストア、ディスカウントストアでそれぞれいくらで売られて
いて、店のつくりや立地、販売方法など、教科書的な知識以上に気が付いた
違いを整理してもらっています。この一環として、授業の中で、大学から
国分寺の街を歩いて廻り、コンビニエンスストア、スーパーマーケット、
ディスカウントストアを見て行く、ということを行っています。残念ながら
国分寺には百貨店らしい百貨店がありません。(国分寺駅ビルにある丸井は
月賦百貨店で、かなり特殊な営業形態です。)しかし、それ以外の業態に
ついては典型的な店舗が見られます。大学を出て、駅に向かって歩いていくと
コンビニエンスストアのセブンイレブンとミニストップが、交差点の
角地立地の原則通りに立地しています。国分寺駅の南口にはマルエツ、
北口には西友の2軒のスーパーマーケットがあります。また北口では
都内でも珍しい2階建てのファミリーマートを見ることができます。
さらに北口から10分ほど歩いて行ったところにはディスカウントストアの
OKストアがあります。大学から各店舗の中を見ながら歩いていくと
どうしても1時間半近くかかり、最後のOKストアに着くころには
「もう疲れた」とか「そんなところまで歩くんですか?」とか不平不満も
飛び出してきます。でも教員としては「だから駅から離れた、地価の
安い場所でないと、ディスカウントストアに適した広い駐車場と店舗の
用地を確保できないのだということが、身に染みて分かるでしょう?」と
答えることにしています。ちなみに、下の写真はOKストアのすぐ隣に
あるお団子屋さんで、一休みして団子をほおばる男子学生です。
後ろに見えるのがOKストアの駐車場です。
経営学は、世の中の生きた姿を学ぶ学問です。このような、ちょっとした
体験を通じて経営学への理解が深まれば、教員としては望外の喜びに
なるわけです。
(文責:経営学部 柴田 高)