こんにちは。流通マーケティング学科の北村です。
今日は、今年度のゼミ2年生のうち6名が2学期(後期)に取り組んだ、産学コラボリサーチの成果を紹介します。
今回のリサーチテーマは、「香りの使用によりスポーツの成績は向上するのか?」です。昨年度に引き続ぎ、ハーブ・アロマ関連のリーディングカンパニーである「株式会社生活の木」さんとのコラボとなりました。昨年度のリサーチ(香りは学習時の集中力を変えるのか?)については、こちらをお読み下さい。
生活の木によると、スポーツ選手の中には、練習時や試合時に香りを取り入れている人がいるそうです。例えば、スキージャンプの船木和喜さん、卓球の福原愛さん、大相撲の貴乃花部屋などが取り入れていると報道されています。そこで今回は、データを取って効果の裏付けをしてみよう、ということになりました。
2年生がおこなった作業は、次の通りです。
先行研究のレビュー(類似のテーマでのリサーチや研究事例の確認)、香りの種類や特徴を含むアロマテラピーに関する勉強、リサーチの方法や内容の検討、本学体育会本部(各部の代表の集まり)での趣旨説明、興味を示してくれた部活への個別説明とリサーチ日時の調整、プレ調査(リサーチの予行練習)と本調査、統計学および統計解析ソフトの使い方の勉強、本調査で得られたデータの分析、結果の考察と生活の木へのプレゼン。
今回のキックオフは9月でしたので、それからわずか数か月で以上の作業を進めたことになります。本当によくやってくれました。
今回、調査に協力してくれたのは、弓道部、ゴルフ部、陸上部の皆さんです。弓道部では射的、ゴルフ部ではパッティング、陸上部では100m走でデータを取りました。以上の競技の前に、香りをかがない場合とかいだ場合で、結果に差が出るのかどうかを調べたのです。
なお、部活動選定基準は、結果が対戦相手や当日の天候等に左右されにくく、個人競技であり、覚醒・興奮状態よりも鎮静・集中状態になることが必要な競技、というものです。用いた香りは、鎮静・集中効果があるとされるラベンダーでした。
肝心の結果ですが、成績向上効果はやや見られたものの、有意水準には達しませんでした。有意水準とは、統計的に「成績が向上した」と言ってよいとされるレベルであり、具体的には、「香りを用いた方が香りを用いない場合よりも成績がよい」という仮説は95%の確率で正しそうだ、というレベルです。リサーチでは、成績のほか、競技前後の脈拍についてもデータを取ったのですが、競技後の脈拍の落ち着き方についても同様の結果でした。
ただし、より詳しく分析してみると、香りを普段から用いている人や、今回用いたラベンダーが好みの香りだと回答した人は、成績向上効果が高いことが判明しました。
これらの結果を、先日、生活の木の社長および商品開発担当者にプレゼンしてきました。また、スポーツの前や最中に使用できるような、香り付きの制汗剤およびブレスレットという2つの商品案も提案してきました。これに対して、両氏からは、「ラベンダーは好き嫌いが分かれやすい香りである」「今回の対象者は男子学生が大半だったことから香りを普段使いする人が少なく、香りをかいだという状況事態が不自然(いつもの競技環境とは異なる)で脈拍が上がった人もいるだろう」などのコメントを頂きました。また、商品提案については、特にブレスレットについて高評価を頂き、事前に香りがセットされた商品よりも本人が後付けで好きな香りをセットする商品の方がよいだろう、などのコメントを頂きました。
ハーブやスパイスなど香りを放つものは、世界中で伝統的に用いられてきましたが、その効能・効果が必ずしも検証されたものばかりではありません。しかし香りは、当ゼミで取り組んだスポーツの成績向上や学習時の集中力向上のみならず、近年は認知症予防に効果があるという研究も進んでいます。嗅覚は五感のうち脳との関係性が最も強いためです。科学的な根拠を伴いながら、五感に訴える商品やマーケティング手法の開発は、今後も注目を集めそうです。
文責:北村真琴(流通マーケティング学科 准教授)