2018年7月23日月曜日

【学問のミカタ】Amazonが覆しつつある常識・・・

2018.07.23

 東京経済大学で、流通論及び流通マーケティング演習を担当している本藤です。
 先週月曜日7月16日正午から翌17日まで「Amazonプライムデー」が行われました。
Amazonの売価設定は、基本的にネット内で優位性のある価格帯になるように管理されていますが、年に一回のスーパーセールが開催されました。期間中は、アクセスできなかったり、カートに商品追加できなかったりなどのシステム・トラブルなどあったようですが、過去最高の売上と新規会員獲得を記録したとの発表がありました。さすがAmazonです。


 Amazonは、僕が大学院の頃(15年くらい前)は書籍のネット通販でしたが、どんどん取り扱いカテゴリーを拡大して、昨年4月には、日本のAmazonでも「Amazonフレッシュ」が立ち上がり、生鮮食料品の扱いを始めています(対象地域限定)。これはレシピからのプロモーションもあり、非食品以上に関連購買を促せそうな印象です。
 更に、近年はネットにとどまらずリアル店舗への布石も打ち始めています。


 ちょうど1年前くらいに「Amazon Go」についてはブログでも取り上げましたが、レジもなく、専用アプリを通して個人認証されて入店するリアル店舗です。センサーで買い物商品を認識し、代金決済は登録している口座から引き落とされます。したがって、スーパーマーケットでよく目にするレジ待ち行列がないようです。もうすぐ(この秋には)同じシアトル内に2号店を出店する予定になっているということです。Amazonは走り続けます。


 昨年8月には、「Amazonがホールフーズを1.5兆円で買収した」というニュースが流れてきました。ホールフーズは、米国内では安定した地位を獲得している高級スーパーですが、この買収によって他の小売企業の株価が下がるくらいのインパクトでした。これは、Amazonが関与するホールフーズが強くなるという思惑なのか、Amazonがネット小売としてリアル店舗を凌駕してくるという思惑なのか定かではありません。


 日本の生活者は、欧米の生活者と異なって、先進国の中でも断トツに(ネットよりも)リアル店舗の利用率が高いという消費者特性があります。これは、ずっと継続する傾向なのでしょうか?
 人口減少が深刻化している日本では、今後減少する人手不足解消策として「働き方改革」へとハンドルがきられており、今後も「ネット通販よりリアル店舗」の傾向が続くのか予断を許しません。


 この「働き方改革」では、女性や高齢者の労働力を活かせる社会を実現するという方針が盛り込まれています。既に「専業主婦」は激減しており、少なくとも「兼業主婦」が大半を占めているように感じます。更に、正社員の副業を受け入れる企業も増えつつあり、人口減少の中で、社会全体における生産人口(勤労者)を捻出する方法を模索しています。このような社会的なパラダイムシフトは、小売業ビジネスに大きな影響を与えます。

 多くの家庭のなかで「働ける人は働く」という状況になると、日中にスーパーマーケットで買い物をする人がいなくなってくることは明らかです。必然的に、仕事帰りや週末に買い物をする人が増えてくることになります。そうなると、小売店舗の立地として駅ナカや駅前立地が有利になってくることが考えられます。もっと時間がなくなってくると、リアル店舗に買い物に行かず、生鮮食料品も「Amazonフレッシュ」のようなネット通販で購入する購買行動が主流になってくる可能性が高まってきます。

 そこで問題が生じてきます。日中に買い物をする人がいなくなるということは、同時に日中に在宅している人もいなくなる可能性が高まるのです。そのような家庭では、どのようなニーズが出てくるでしょうか?
 これに対してのサービスとして、自宅前に宅配ボックスを設置する方法が広がりつつあります。最近は、冷蔵宅配ボックスなども発売されていますが、これが駅ナカに設置されている駅もあります。このほかにも、最寄駅や最寄バス停などに近接出店しているコンビニエンスストア、スーパーマーケット、ドラッグストアなどが商品受取窓口として機能することも考えられます。特に、コンビニエンスストアは、今のところ24時間営業を継続しているので、宅配受取窓口としては好都合な小売業態と言えます。


 ここで、再びAmazonが買収したホールフーズの話に戻ります。
 ホールフーズは、米国を中心に440店舗を有していて、主に富裕層の住宅近辺に展開するスーパーマーケットチェーンです。生鮮食料品の受取チャネルとしては適格な条件を備えているとも考えられます。しかも、ホールフーズだからと言って、必ずしもスーパーマーケットの品揃えに縛られる必要はありません。Amazonは、好立地の小売店舗を大量に獲得したということになります。※このあたりは今後の動きを注目したいところです。


 Amazonのビジネスモデルは、膨大な購買データを戦略的に活用するビジネスモデルであり、レコメンデーション(推奨販売)や定期配送などの生活提案を個々の顧客に対して行っています。Amazonが積み上げ続けるこのビッグデータが差別的優位性として活かされているのです。現時点では、食料品カテゴリーの購買データは潤沢とは言えない状況で、ホールフーズの購買データを入手して、アッパー(富裕)層のデータを収集できる環境が整備されたとも捉えることができます。このデータの蓄積に伴って、生鮮食料品カテゴリーにおいても提案力を強化し、ネット受注してリアル受渡しされるようなO2O(オンライン・トゥ・オフライン)を導入することが予想されます。スーパーマーケットで配布されているレシピを片手に、商品を探すのは時間のない買い物客にとっては煩わしい作業かもしれません。特に、日本では仕事帰りに買い物するとなると、いかにショートタイム・ショッピングを実現させるかが大切なポイントになってきます。それを考えると、ネット上でレシピに一括購入ボタンがあれば、買い物時間は大幅に効率化できてしまうのです。


 それだけでなく、近年盛り上がりを見せながら、なかなか成功事例にたどりつかないオムニチャネル構想への布石にもなります。ネットからリアルに送客するだけでなく、リアルからネットに送客する選択肢も提供するものです。翌日や当日配送を実現しつつあるAmazonであれば、ロングテールと呼ばれる売れ筋ではない商品も対応できてしまいます。Amazonのデータ量であれば、このような多角的複合的小売業態も夢物語と言い切れず、数年後には実現させてしまうことも十分に考えられます。

 Amazonは、ビッグデータを推進力として、ネット通販とリアル店舗を様々な形で進展させていける要素を集めまくって、突如として物凄い小売業態を現実化させてしまうかもしれません。


文責:本藤貴康(担当科目:流通論、流通マーケティング演習)
本藤ゼミナールBLOG http://hondo-seminar.blogspot.jp/


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