流通マーケティング学科の丸谷です。55回目の執筆です。私はグローバル・マーケティングを専門として研究を行ってきました。私の主な研究対象は世界最大の売上高を誇る小売企業ウォルマートですが、ウォルマートも苦戦した日本市場で継続的に成功しているのが世界でもウォルマート、アマゾンに次ぐ第3位の売上高を誇るコストコです。同社は2022年10月27日現在世界13か国・地域(台湾を含む)に、店舗や売り場面積の差はあるもの標準化された1つのフォーマットで842店舗を展開しています。海外展開は北米、英国、東アジア(台湾、韓国、日本)への出店をゆっくりと進めた後、2009年のオーストラリア出店以降若干積極的となり、スペイン、フランス、アイスランド、中国、ニュージーランドと出店国を拡大し、2022年10月には北欧初のスウェーデンにも出店を果たしましたが、あくまでも出店は先進諸国にほぼ限定されています。
出所)コストコが提供するデータなどに基づいて作成。 |
出店に際しては、同社の日本法人ホームページでは出店計画を明示し、物件情報が欲しいというメッセージとともに、①高所得層マーケット、②半径10kmの人口が50万人以上、③企業が多い地域、④敷地面積10,000坪以上(ガスステーション用敷地を含む)、⑤建築面積約4,500坪、⑥半径10km=人口50万人以上、⑦用途地域=準工、商業、近隣商業(売り場面積1万㎡超)、⑧駐車場収容台数800台以上、⑨車のアクセスの良い物件、⑩購入・定期借地(40年以上)・建貸といった明確な基準が提示しています。実際コストコの人気が高まるにつれて、多くの自治体が上記の条件を充たすために多様な取り組みを行っています。コストコ側がかなり有利な条件で出店交渉を行える状況になってきているようです。
私が今回注目したのは2021年以降拡大し、2022年になりその地域が急激に拡大しているコストコ商品が売り上げの多くを占める再販店の拡大です。2021年までは一部の企業がコストコ未出店県や大都会の隙間に店舗を出す程度でしたが、出店地域が東北から鹿児島まで広域となり、複数店舗を展開する事例も散見されるようになりました。
今回は宮城県の塩釜水産物仲卸市場内に開店したコスト商品再販店である「グッドリテイル」について取り上げます。
塩釜水産物仲卸市場の外観(入口付近にグッドリテイル開店を知らせる看板があります) |
仲卸市場内の一番奥の14号売場に立地する店舗 |
ジャパン交通代表横井氏 |
今回快く取材に応じてくださった店舗の出店を行ったジャパン交通代表横井氏によれば、コロナ禍の行動制限で本業の貸切バス事業が厳しい折、店舗が立地する仲卸市場の前にキッチンカーを出店後、今回のコストコ再販店を出店した14番売場の横の7号売場でこだわりのコーヒーが人気の「アンダードックカフェ」を出店することになり、空いていた隣の敷地に当時以前このブログでも取り上げた東京下北沢で既に人気となっていたコストコ商品再販店を開店することになったそうです。
今回取材させて頂いたグッドリテイルから仕入れ先であるコストコ富谷倉庫店は自動車で40分くらいの場所にあり、仕入れに毎日行くことは可能な距離ですが、なかなか個人で店舗に行くとなると大きな店舗での買い物やその後のレジ清算の時間も含めて考えると半日がかりになってしまうため、頻繁に行くことは難しいようです。そのため、開店後まだ時間がたってはいませんが、土日には平均250人程度の来店があるそうです。他の店舗同様コストコのオリジナル商品のパンなどが人気だそうですが、それ以外の商品でもコンビニより安く販売が可能なダノンのオイコスブランドのヨーグルト1個を買われていくお客様もいるようです。コロナ禍という厳しい状況の中で、コストコからの適度な距離を活用した地域活性化にもつながる地方のやる気のある経営者の新たな取り組みの話をうかがいとても励まされました。
なお、同様のコストコ商品販売店として、東京経済大学の最寄駅国分寺駅からバスで1本の府中駅の近くにも、2022年8月30日に2020年から既に下北沢で店舗を営業してきたストックマートが2号店を出店しました。こうした戦略はグローバル企業の展開をうまく利用した興味深い取り組みであり、機会があれば利用してみてはいかがでしょうか?
(文責:流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎)