流通マーケティング学科の丸谷です。63回目の執筆です。私は「グローバル・マーケティング論」を専門としており、海外でどのようにマーケティングを行うかについて研究しています。大学の年2回ある長期休みに海外現地調査のために出張してきました。このブログでは、米国、インド、中国、チリ、ペルー、ブラジル、ケニア、ガーナ、英国など、多くの国々での出張について取り上げてきました。最近は各国のコストコについて取材を開始しており、今回は夏休みに現地調査した英国に続き、メキシコのコストコについて取り上げます。
今回現地調査したコストコ |
コストコのメキシコ市場参入は古く、コストコの前進であるプライスクラブが1992年に当時の現地大手小売企業の一角を占めていた小売企業コメルシアル・メヒカーナ(コメルシ)との合弁により参入しました。なお、2012年に同社から株式を買い取るまで合弁は20年間続きました。今回の現地調査では日程と急激な物価高騰と円安の影響もあり、メキシコシティ周辺に限定はされてしまいましたが、1号店も含めて3店舗のコストコと現地での競合企業の店舗を現地調査できました。
ソウマヤ美術館の真向かいに立地にするコストコ・ポランコ倉庫店の外観 |
コストコ・ポランコ倉庫店の顧客購買行動を観察してみると、日米英に比べても購入点数は相対的に少なく、各国で人気のパンや青果があまり売れていないようでした。コストコ現地調査前後に、ポランコ店と隣接する既述の元同じコメルシ傘下であったシティ・マーケットと、同一モール内に立地するハイパーマーケットのチェドラウィ・セレクトを観察してみると、ポランコ倉庫店の立地に関する1つの仮説が思い浮かびました。
コストコは同店を出店した1998年当時国際展開に対して現在ほど積極的ではなく、経験もなかったため試行錯誤の時期でした。そのため、現地のパートナーであったコメルシの意向が一定程度作用し、同社の当時の主要顧客であったメキシコの中間層や高所得階層に、高級スーパー、ハイパーマーケットとうまく使い分けて利用してもらうように近接させたのでないかという仮説です。経営母体が変わっているため、今となっては確認することも難しいですが、3店舗は明らかに経営が変わった現在でも品揃えを商品領域ごとにすみ分けていることが観察できました。
コストコのメキシコ1号店(サテライト倉庫店)の外観 |
2店舗目は1992年にコストコの前進であるプライスクラブとして開店したコストコ1号店のサテライト倉庫店です。同店が立地するサテライトはメキシコシティに隣接するメキシコ州に立地し、日本でいえばさいたま新都心くらいの場所です。今回は地下鉄6号線と7号線の終点エル・ロサリオ駅からタクシーを使い、20分くらいかけて向かいました。周辺には大型商業施設が多くあり、週末であったこともあり、駐車場はすべて埋まっていました。品揃えはポランコ倉庫店とはかなり異なっており、ポランコ店では周辺店舗と棲み分けがされているように見えましたが、サテライト店では青果、パン、魚にも注力していることがわかりました。購入量も日本や英国ほどではないが、ポランコ店よりは多いようでした。こうした傾向はなんとか最終日に少し訪れることができた3店舗目のアルヴァーロ・オブレゴン倉庫店(1店舗目よりは都心に近いが、2店舗目の1号店よりは都会に近い店舗)でも同様でした。
日本よりもこの業態の展開の歴史が長く、競合も厳しい状況を踏まえると、メキシコシティ以外の都市圏でも品揃えに関する工夫があると考えられるので、機会を見て確認していこうと考えています。
ウォルマートと同一モールに出店するサムズクラブの外観 |
なお、コストコのメキシコでの市場地位は、メキシコ小売市場全体を主導するウォルマートが展開する会員制ホールセールクラブのサムズクラブの業態別シェア65.5%に次ぐ第2位の30.3%です。会員制ホールセールクラブとしては、既述のソリアーナ社が展開するシティ・クラブも存在するが、業態別シェアは4.2%であり、ウォルマートやコストコのパートナーであったかつてのライバルのコメルシとの競合上展開しているに過ぎないといえます(業態別シェアはユーロモニター社による2021年のデータによります)。
実際、コストコ・サテライト店が大盛況であった同日にシティ・クラブを訪れましたが、シティ・クラブが出店するスケートリンクが正面にある郊外型巨大モールには家族やカップルの顧客が多く週末に訪れていたが、シティ・クラブは平日よりは少し顧客が入っていたものの店内は閑散としていました。
シティクラブの入るParque Via Vallejoの外観 |