2024年1月1日月曜日

メキシコ生まれの私がお勧めするメキシコを知るための映画3選

流通マーケティング学科の丸谷です。62回目の執筆です。今回は東京経済大学図書館よりTKU Library Lunch-time Sessionのスピーカー依頼を受け、「メキシコ生まれの私がお勧めするメキシコを知るための映画3選」というテーマでお話しさせてもらったので、講演の内容をとりあげます。 

TKU Library Lunch-time Sessionのポスター
TKU Library Lunch-time Sessionは継続的に東京経済大学図書館がお昼休みを利用して行っているイベントです。今回が12回目です。テーマは図書館の利用促進につながれば、自由とのことでした。しかし、年度内開催という希望があり、時間もなかったため、詳細は、経営学部ブログ202017月(https://tkubiz.blogspot.com/2021/07/)で紹介した京都外国語大学ラテンアメリカ研究所からご依頼を頂いて行った講演内容をアレンジしました。

講演の様子

今回は30分という短い時間だったのでメキシコの変化を象徴する『ローマ』、『1994』、『そして俺は、ここにいない』3本に絞りました。

現在のローマ地区の街並み
 『ローマ』は2015年に『ゼロ・グラビティ』でラテンアメリカ人初の米国アカデミー賞監督賞受賞者となったアルフォンソ・キュアロンが自身の幼少期(1970年代前半)の想い出を、巨額をかけて思い入れたっぷりに白黒の美しい映像で作ったところにあり、当時の中流家庭とその家政婦の日常が描かれます。2000年まで続いた長期与党政権の中期に当たるこの時期、冷戦下で認めれていた米国庇護下の保護主義の中で、伝統的な格差が固定され、格差への反発も一部起こっているという状況で、この映画で描かれる学生運動もその一部でした。描かれる中流家庭は当時メキシコシティに駐在していた頃の両親からおぼろげに聞いていた姿とも重なり、個人的にも思い入れも強い作品です。
 なお、この作品は第75回ヴェネツィア国際映画祭最高賞金獅子賞、第76回ゴールデングローブ賞外国語映画賞、監督賞、2019年第91回アカデミー賞同年最多の10部門にノミネートされ、外国語映画賞・監督賞・撮影賞の3部門を受賞しています。

1994』はそのタイトル通りメキシコが保護主義から新自由主義に変わり、グローバル化に一気に飲み込まれた瞬間を切り取ったドキュメンタリーのシリーズです。199411月に、NAFTA(北米自由貿易協定)が発効し、『ローマ』で描かれたある意味固定された格差はさらに広がり、メキシコのある意味よい中流は没落していきます。このシリーズの中でも、米国による関与で大統領にしてもらったサリーナス元大統領が本人にまつわる疑惑に関して出演して当時を語る部分は、メキシコに強い「さすがネットフリックス」だなと感心させられます。メキシコにとって象徴的な年1994年というタイトルも潔いですし、的を射ています。
モンテレイの風景
『そして俺は、ここにいない』は、『1994』によりメキシコでも影響が強まったグローバル化に強く影響を受けたアメリカと、安定が失われたメキシコの国境沿いの街モンテレイという現在のメキシコを象徴する都市を舞台に繰り広げられる物語です。私はモンテレイに数回現地調査で訪れ、上記の写真のような風景を多く見ましたが、その時に感じたグローバル化の中で新たに建てられた空虚な街という感じを、非常にうまく表現できています。主人公が南米コロンビア沿岸地方に伝統的に伝わるリズムと舞曲であるグンビアを独特の衣装で踊る姿はもの悲しさとともに、無理に希望を見せることもないところは、日本の大学生にも感じるグローバル化の中での閉鎖感を感じさせます。

私は学生時代ミニシアターを中心に年間100本以上映画を見ていましたが、上記3作品はいずれもネットフリックスで鑑賞した作品です。かつてならミニシアターで放映された作品の多くは、ネットフリックスなどサブスクサービスで気軽にみられるようになっています。ミニシアターが減っていく現状を憂いつつも、ミニシアターの多くは都会にあったため、地方でも時間を気にせず見れるというメリットもあります。あまりにも選択肢が広い状況で今回は、私の個人的な想い入れも強い、メキシコを知るためのお勧めの3作品を紹介させてもらいました。少しでも参考なったらうれしいです。

(文責:流通マーケティング学科 丸谷雄一郎)