流通論を担当している本藤貴康です。
大学で学ぶ学問領域としてマーケティングというのは非常に人気のあるテーマです。東京経済大学にはマーケティングを深く学ぶために流通マーケティング学科が設置されていますが、本学ほどマーケティングを専門とする専任教員が多い大学も珍しいと思っています。グローバル・マーケティング、サービス・マーケティング、インダストリアル・マーケティング、流通、マーケティング・リサーチ、小売経営、流通史、消費者行動、広告と、マーケティングに関わる授業は多岐にわたります。
高校生や大学生がマーケティングに興味を持つときに、興味のあるコトバとして「広告」とか「ブランディング」あたりが挙がってくることが多いと感じています。
流通論の授業で「商品の売上を増やすために、メーカーはどのようなことを考えると思いますか?」という質問をすると、必ず「広告宣伝を積極的に行う」という意見が出てきます。アメリカでも著名なマーケターたちが広告宣伝をどれだけ投入するかに注目しており、広告宣伝は重要な販売促進手法として位置づけられています。
では、本当に広告宣伝量が増えればヒット商品を生み出せるでしょうか?
自分の買い物行動を考えてみてください。
あなたがテレビCMやSNSの広告を見たとします。自分が目にした広告を見て欲しいと思うことはどれだけありますか?
仮に「欲しい」と思ったとします。そこですぐにお店に行って買うことはありますか?
しかも、広告はテレビCMやSNS広告だけではありません。新聞や雑誌の広告もあります。様々なアプリを使っている最中にも多くの広告を目にすると思います。これだけ多くの広告宣伝が溢れ返っている日常生活のなかで、あなたが抱いた「欲しい」という気持ちはどれだけの時間あなたの頭の中にとどまっているでしょうか?
まず生活空間のなかで発信されてくる無数の広告のなかでその広告を目にするハードル。次にその広告で情報提供されている商品名や商品特徴などの内容を認知するハードル。それから、あなたがその商品を「欲しい」と評価するハードル。そこからその商品をお店に「買いに行く」ハードル。このハードルは即時対応するのはなかなか難しいですね。そのあとに売場でその商品を買い物かごに入れるといハードルがあります。隣に同じような商品があったり、さらに低価格の商品があったりするなかでの意思決定になります。最後にその商品を買い物かごに入れたままレジ精算するまでのハードルです。なかなか多くのハードルが存在するのです。
その商品のブランディングを考えると、初回購入から二回目、三回目とリピート利用してもらう必要があります。これは更に高くそびえ立つハードルとなってくるのです。
つまり、広告宣伝をしてもそう簡単に売上に結びつくものではありません。
一般に広告宣伝は助成想起の役割を果たしていると言われます。
自分の反応を思い返してみても分かると思いますが、何かしらの広告宣伝を目にしても、それを買いにお店に直行する消費者は稀なのです。それでも、買い物行動は日常的に発生するので、売場に訪れることは数多くあるはずです。
そして売場を歩いている最中に、「あれ?これってこの前広告で見た商品かな」と売場で何かしらのきっかけがあって商品を思い出すことがあります。それを助成想起と言います。
広告宣伝は直接的というよりも間接的に売上を支援する役割を果たしていますが、企業側はそのために広告宣伝費に巨大な予算を充てているといえます。それほど消費者の頭の中にブランドを食い込ませていくことは難しいのです。
文責:本藤貴康