2025年1月6日月曜日

チリの現状を明解に描く巨匠によるドキュメンタリー『私の想う国』

 流通マーケティング学科の丸谷です。68回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行なっていくのか)を専門分野にしているので、グローバル・マーケティングにおいて重要である海外事情について学習できる映画について紹介してきました。今回は授業でも毎年デモとりあげている南米チリの現状を描いた映画『私の想う国』をとりあげます。

本作は201910月に起こった大規模デモと従来の既存政党の支援を受けずに誕生したボリッチ政権誕生までを描いたドキュメンタリー映画です。チリは南米初のOECD加盟国であり、OECD加盟は先進国の仲間入りと言われる中で、新自由主義を採用した南米の優等生としてみられてきたチリの負の側面について描いた作品です。

デモに参加する女性たち

© Atacama Productions-ARTE France Cinema-Market Chile

巨匠パトリシオ・グスマン監督は19731990年のチリピノチェト軍事独裁政権を批判する作品をこれまで発表してきました(詳細は、経営学部ブログTKU Business Weekly Blog・・・東京経済大学経営学部ブログ: 映画『夢のアンデス』:チリ軍事独裁政権の遺した新自由主義の負の側面について描くを参照)。

精力的に作品を発表し続ける巨匠パトリシオ・グスマン

© Atacama Productions-ARTE France Cinema-Market Chile


『私の想う国』では、ピノチェット軍事政権後の30年間でたまった民衆の不満が巻き起こしたチリの女性たちの姿を描くことで、当事者間が薄れることで従来の彼の作品に比べて、目線が客観的となり、彼女たちへのエールを感じる、わかりやすい作品となっています。

熱狂の中誕生したボリッチ政権は映画で描かれる大規模デモの成果として設置された憲法改正のための制憲議会による憲法改正案が国民投票で2022年9月に否決されるなど、なかなか成果を出せていません。

しかし、家父長制という多くの中南米諸国において現前と維持されている状況を理解するのに有用な作品と言えます。グスマン映画の最高傑作はいうまでもなく、263分の超大作『チリの闘い』ですが、さすがに長尺かつかなりハードなシーンがあるため、少しハードルが高いかもしれません。

『私の想う国』は83分とコンパクトであり、内容も皆さんにとっても身近な地下鉄料金値上げといった出来事をきっかけとした学生や女性たちによるデモであったりして、グスマン作品の入門編として共感しやすく、良質な作品です。

(文責:流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎)