流通マーケティング学科の丸谷です。53回目の執筆です。私はグローバル・マーケティングを専門として研究を行ってきました。私の主な研究対象は世界最大の売上高を誇る小売企業ウォルマートですが、ウォルマートも苦戦した日本市場で継続的に成功しているのが世界でもウォルマート、アマゾンに次ぐ第3位の売上高を誇るコストコです。今回はコストコの東北地方初出店の店舗となった山形県のかみのやま倉庫店を訪れる機会を得たのでとりあげます。
コストコかみのやま倉庫店外観 |
コストコは1999年4月の福岡県糟屋郡久山町に1号店出店以降、10年程は年間1店舗というゆっくりとしたペースで大都市郊外を中心に出店していきました。2011年8月の10号店である前橋倉庫店出店以降、出店出典ペースが3倍程度に加速し、東北地方初の店舗かみのやま倉庫店は21号店ですが、この加速した時期に出店されました。同店舗開店日2015年8月20日翌日の8月21日には、22号店野々市倉庫店が石川県金沢市郊外に、翌々日8月22日は23号店射水倉庫店が富山県の新たに開発された工業団地「小杉インターパーク」内に開店しました。コストコにとって3店舗の3日連続出店の経験はこれ以降もなく、北陸から東北南部の一帯を一気に商圏に取り込む新たな試みとして話題にもなりました。
2015年8月に3日間連続開店した北陸・東北でのコストコの店舗 |
3日連続出店の3店舗はいずれも高速道路インターチェンジ近くの立地であり、まとめ買いのための自動車での来店を基本とする同社にとっては好立地ではありました。しかし、従来の出店場所に比べると、周辺人口は明らかに少なく周辺県も含めた広域からの集客が必要とされます。しかし、この頃からコストコの集客力が地方自治体からも高く評価され始めたようです。
実際、2012年頃からコストコについて取り上げたムックが多く定期的に出版されるようになり(鳥羽(2020)、12頁)、2013年出版の中沢明子、古市憲寿著『遠足型消費の時代 なぜ妻はコストコに行きたがるのか?』朝日新聞出版において、コストコへの買い物は遠足のように適度な「非日常」を提供するともいわれるようになっていきました。今ではコストコでの買い物の模様はジャンクスポーツなどのゴールデンタイムの番組でも一般的なコンテンツとしても多く取り上げられるようになっています。
コストコかみのやま倉庫店の周辺の風景 |
かみのやま倉庫店出店に際しても、地元からの期待は当然大きかったようであり、今回の取材で周辺を歩いてみても歩道は数分歩いただけで砂利が靴に何回も入る状況であったが、歩道の横を走るコストコの前の道路は山形新幹線と比べても不釣り合いなくらいにしっかりと整備されていました。
今回平日である月曜日の開店直後に店舗を訪ねましたが、月曜日の開店直後から店内はかなり多くの家族ずれが来店しており、名物ともなっている店内試食を促す店員の周りにできる行列は店内に活気を生み出していました。飲食コーナーの横ではハロウィーンに向けて巨大な動く人形が展示販売され、東北の山の中に娯楽空間が設置されていました。
今回の現地調査のために前日かみのやま温泉に宿泊しましたが、温泉街のさびれた状況と、コストコやその周辺のジェネリック薬品工場などの活況はあまりにも対照的でした。あくまでも個人的な印象ではありますが、かなり物悲しく感じました。今や過疎に苦しむ地方の非日常空間を生み出す存在となった地方のコストコ、機会があれば訪れてみたはいかがだろうか。
(文責 流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎)