2014年6月24日火曜日

フィールドワーク―事件は現場で起きている―

こんにちは。経営学部、流通マーケティング学科教員の北村です。
今回は私のゼミで行っている「フィールドワーク」という調査課題についてご紹介します。調査には、本や論文を読み込んだり、統計資料やデータを集めたりするような調査もあります。しかしフィールドワークは、日本語で「現場調査」というように、実際に現場に足を運んだ上で行う調査です。

我がゼミでは、新ゼミ生を迎えた4月に、ゼミ生全員にこの課題を与えています。具体的には以下の3つのパートからなります。
1.フィールドワーク課題
2.フィールドノーツ課題
3.コメント課題

1.フィールドワーク課題

現場に出向き、五感をフルに使って、どんな人がそこにいて、何をしており、そこで売られている商品や売り方はどのようなものか、その場の様子や雰囲気を見たり聞いたり感じ取ったりする(加えて、必要ならば店員に質問したりする)課題です。

行き先の現場は、ゼミ生の話し合いで決まります。下記の条件を満たせばどこでもよいです。

a.このような機会がなければなかなか行きそうにないところ(近場、他の機会でも・自分でも行けそうな場、一部のゼミ生だけがなじみのあるような場はNG)

b.ゼミ生全員が同時に調査できるところ(小規模店舗等全員が押し寄せると明らかに迷惑をかけるところはNG)

今年度は、「小江戸」とも呼ばれる埼玉県川越市の風情ある街並みの中にある、駄菓子屋製造・販売店の集まったエリア「菓子屋横丁」に決まりました。ちなみに、これまでに調査したフィールドには、東京都府中市にあるJRAの「東京競馬場」、羽田空港国際線ターミナル「江戸小路」、JR秋葉原駅高架下にあるクリエイターの商品づくりの作業場と店舗が一体となった商業施設「2k540」などがあります。

こうして決まったフィールドに、ゼミ生全員で、同じ日時に出かけます。現場に着いたら調査エリアを決めて解散します。あとは個人での調査となります。

2.フィールドノーツ課題

フィールドワークの結果をまとめた報告書を作成する課題です。

多くの学生はその場で五感をフルに働かせ、見聞きしたこと、感じたことを記憶しています。加えて、簡単なメモや写真、現地でもらったフロアガイドやパンフレットなどの資料を取っている場合もあります。以上のような様々な情報を整理し、問題意識や調査テーマに基づいて構成を考え、文章や図表や写真を活用しながら調査テーマに関するひととおりの結論や考察をまとめた報告書が、このフィールドノーツです。

力作揃いのフィールドノーツです。

ゼミ生、特に新ゼミ生はここで初めて、茫然とします。同じ日時、同じ場所にいたはずなのに、出来上がったフィールドノーツの質・量には個人間で大差があるからです。後述する観察力や表現力の差が如実にノーツに表れているのです。

3.コメント課題

こうして完成したフィールドノーツを、今度はゼミ生で批評し合う課題です。

具体的には、各ゼミ生の問題意識、調査手法、考察内容、およびフィールドノーツの書き方などについて、匿名で評価します。
今年度は26名のゼミ生のうち、各自上位4名と下位4名と思うゼミ生に投票してもらいました。1位票の入ったゼミ生には4点を与え、2位票以下は3点、2点、1点を与えます。逆に、下位に選ばれたゼミ生は、ワースト1位から順に-4点、-3点、-2点、-1点となります。これを個人ごとに集計すると、ゼミ生ごとに評価点が出ます。厳しいようですが、優劣がはっきりします。今年度は、下記のようになりました(氏名はA~Zに伏せてあります)。


左の軸が得票数、右の軸が得点です。

なお、上位、下位に投票したゼミ生は、これも匿名で、優れていると思った点とその理由、改善すべき点とどう改善すべきかに関する提案などをコメントしてもらいます。これを全員分まとめると、今年度のコメント集はなんと39ページになりました。



コメント集。非難ではなく批評です。



以上が課題の概要です。この課題には、以下のようなメリットがあります。

まず、自分の感度(アンテナ)が上がります。普段、皆さんがどこかに出かけて何かを買ったとしても、それは「なんとなく欲しかったから買った」としか思わないでしょう。しかし、店や街には、皆さんに立ち止まらせ、目を引くための工夫があったはずなのです。その工夫は買った商品自体にあるとは限りません。商品の置き方や照明の当て方、隣に置かれた商品、陳列棚の高さ、店員の掛け声、その場に居合わせた他の客の様子など、実は様々な影響を受けて、皆さんはその商品を買ったはずなのです。逆に言えば、店や街をつくる側はこのような要因をどう散りばめるかを考えなければならず、フィールドワークを行うと、こうした店や街側のねらいに気づけるようになります。物を見る際の感度が上がったということですね。

次に、それを報告書にすることで、表現力や考察力が磨かれます。現場で見聞きしたことや記憶したことは、頭の中には入っていても、他人に伝えるのは難しいです。この難しい作業にあえて挑戦することで、言葉の選び方や使い方、図や写真の効果的な用い方を磨くことができます。さらに、こうした調査結果のまとめを読み直すことで、「その場にいた人の過半数は女性だったのに、陳列棚は平均的な身長の男性の目の高さだったので良くない」「商品Aと商品Bは別のカテゴリーの商品のため売り場が別だったが、一緒に買っていた客が多かったので、この2つの商品は隣に並べるべきだ」などの考えに至ります。

ノーツやコメントは作成しなくとも、現場調査だけなら誰でもすぐにできるのがこの調査の特長です。まさに百聞は一見に如かず。良ければ挑戦してみて下さい。

なお、この課題は私が大学院生時代にお世話になった先生が与えてくれた課題とほぼ同じです。興味を持った人は、佐藤郁哉先生が書かれた「フィールドワーク」(新曜社)という本を読んでみて下さい。

文責:北村真琴(流通マーケティング学科 准教授)