2020年3月2日月曜日

「先生、ゼミで伸びる人ってどういう人ですか?」:ゼミでの学習を効果的にする方法

 経営組織論、ケース分析等の講義を担当している山口です。東経大では、もうすぐ来年度のゼミメンバーの選考が行われます。ゼミは、通常の講義とは異なり、エントリーシート・レポート・面接など、各ゼミが設定した選考を通った人でないと受講することができません。人気ゼミになると、18人の募集に50人以上が殺到するということもあり、どのゼミに応募するか、新2年生、新3年生の中には悩んでいる人もいることでしょう。

 さて、今回書きたいのは、ゼミで成長するためには、「どのゼミに入るか」だけでなく、「ゼミに入った後何をするか」も重要だということです。
 なぜこういうことを書くかといえば、「よいゼミ」に入れば自動的に誰でも高い能力を身につけられる、というわけではないからです。同じゼミで同じ内容を学習していても、どれだけその内容を身につけて成長できるかは、人によって違います。
 したがって、優秀な学生が殺到するようなゼミで落ちこぼれてしまった人よりも、第二希望のゼミに入ってもそこで中心的メンバーとして非常に努力した人のほうが、1年後により成長している、ということだってあり得るわけです。
 そうだとすれば、「どのゼミに応募するか」だけでなく、「そこでどうやって自分の実力を伸ばすか」を考えておくことも、ゼミでの1年間を有意義なものにするための非常に重要なポイントになるでしょう。
 そこで今回は、ゼミに入ったときに、そこで自分の能力を伸ばすためにはどうしたらよいか、について書いていきたいと思います。

1.ゼミを通じて能力をのばした人の特徴


 まず、「ゼミを通じて成長できた」と語る、2人の東経大卒業生の事例を紹介しましょう。彼女たちは、いずれもゼミを通じて、有名大学の学生も多く応募する人気企業に就職できるほどの力をつけた人たちです。(事例は個人が特定されないよう若干デフォルメしています)

(1)Aさんの事例
 Aさんは、1年の時から広告業界に就職したいと考え、2年の時に広告関係のゼミ(今は退職された先生のゼミ)に入りました。しかし、広告関係のゼミに入っただけでは、就職活動で有名大学の学生との競争に勝てないと考えた彼女は、広告に関連する授業は全て、コミュニケーション学部の専門科目も含めて履修し、広告についての知識を深めました。
 知識が蓄積されるにつれ、ゼミでも活躍できるようになったため、思い切ってゼミの先生に「広告業界に就職したい」と相談したところ、広告会社でアルバイトすることを勧められました。そこで、ゼミや授業での勉強と並行して、ある広告会社でのアルバイトを始めたところ、その知識の深さを評価され、「是非うちに来てほしい」と言われるようになりました。
 こうして、彼女は、通常の就職活動なしで、大学入学時から希望していた広告業界への就職を決めることができました。

(2)Bさんの事例
 Bさんは、ケース・メソッドによってマーケティングを学ぶゼミ(今は退職された先生のゼミ)に入りました。ゼミでケースを面白いと感じたBさんは、色々な企業のマーケティングを分析する能力を高めたいと考え、3つのことを行いました。
 第1に、企業の分析に必要なマーケティングに関する授業の履修です。いずれも優秀な成績を修めてマーケティングの知識を深めました。第2に、企業の分析スキルの向上です。流通マーケティング学科の「ケース・メソッド」の授業に加えて、経営学科の学生向けの「ケース分析」(当時は流通マーケティング学科の学生も履修できました)の授業も履修するなど、東経大で履修できるケース・メソッド関連の授業をいくつも受講し、企業の分析スキルを高めました。第3に、このようにゼミと授業を通じて高めた知識・スキルを使って、アルバイト先のカフェのマーケティングを考え、店内のポップなどについて、売上向上のための提言を行い、実行しました
 こうしてゼミだけでなく、授業もゼミに関連するものにしたことで、実際の企業経営に応用できるくらいまでマーケティングの知識・スキルを高めた彼女は、就職人気ランキングで常にトップ20に入るような、世界的に有名な企業に就職し、自分の知識を活かせる仕事をしています。

 さて、この2人の事例からは、ゼミを通じて、社会でも通用する力をつけるくらいまで成長するには、あるポイントがあることがわかります。
 「ゼミで本当に成長するには、ゼミ以外の時間(授業やアルバイト)も、ゼミとベクトルを合わせた活動をしたほうがよい」ということです。

2月1日の慶応大学などとの合同ゼミで、100名の前で堂々とプレゼンするゼミ生(2年生)。
9月には直立不動で原稿を読むだけでしたが、最後は研究内容を完璧に理解し、原稿なしで身振り手振りも加えて聞き手に話しかけるプレゼンができるようになりました!
(彼は、ゼミを頑張りつつ、ゼミの関連科目も履修し、プレゼン前には家族の前でも練習したそうです)


 「えーっ!?そこまでしなければいけないの?」と思った人もいるかもしれません。
 しかし、よく考えてみれば、これは別に特別なことではないのです。例えば、公認会計士や税理士を目指している人にとって、資格試験予備校だけでなく、大学の授業やゼミでも資格試験に関連のある科目を履修するのは当たり前のことでしょう。彼らは、家でも試験勉強をするなど、1日のほとんどの時間を資格試験用に使っているはずで、こうして1日の時間のほとんどを資格試験にベクトルを合わせて使っているからこそ、他の大学生には得られないほどの高度な専門知識を4年間で獲得できるわけです
 同じように考えれば、経営組織論のゼミであれ、マーケティング論のゼミであれ、ゼミに入っている間は、そのゼミで学ぶ内容に関連した分野を集中的に学び、その分野についての知識を総合的に深めていくことが、他者に負けない専門能力の獲得に重要であることがわかるでしょう。

2.ゼミで誰よりも能力を伸ばす方法:ゼミの関連科目を集中的に履修すること

 
 ゼミで成長するには、ゼミだけを頑張るのではなく、ゼミ以外の時間をどう使うかが重要だという話をしてきました。
 特に、ゼミの関連科目を集中的に履修することの重要性は、強調しておきたいと思います。というのは、過去に、非常に残念な経験をしたことがあるからです。
 山口ゼミでは、後期に数チームに分かれて、自分たちの好きな企業の事例を分析します。その際、あるチームに「この本を読んで、この企業の戦略について書かれた部分を要約してきたら?」とアドバイスしたところ、チームメンバーが「戦略」という用語の意味をきちんと理解できず、全く関係ない部分を抜き書きしてきたことがあったのです。
 「戦略」など、1年生の基礎経営学などで学ぶ非常に基本的な用語の一つひとつについて、ゼミで逐一解説していたら、ゼミが「基礎経営学」の授業になってしまい、ゼミ独自の活動ができなくなってしまいます。しかし、そうした基本的な用語がわからなければ、いくらゼミでテキストを読んでもその内容をしっかり理解できないでしょうし、ましてやそれを使って企業の事例分析をするのは不可能です。
 そのため、こうなると結局、「ゼミで頑張ったのに、あまり力がつかなかった」という不幸なことになってしまうわけです。
 ですので、「経営学の知識について、自信がないなあ」と思う人は、ゼミと並行してゼミ活動に関連した科目を中心に履修できるよう、是非、今から履修計画をしっかり考えておきましょう!
 なお、もし「どれがゼミに関連する科目かわからない」という場合は、山口ゼミではTwitterなどで「履修推奨科目」を公表していますし、ゼミの先生に相談すれば教えてくれると思います
 是非、ゼミに入った1年間を充実したものにできるよう、最適な学習環境を自分で作っていってください!

3.「まだ自分の興味のある分野が何かわからない」という人へ

 
 「まだ自分が何に興味があるかわからないから、そんなにゼミの活動に関連した部分だけに特化して勉強したくない。もっと広く興味のある分野を探したい」という人もいるかもしれません。
 そういう人にも、ゼミに入ったら、あえて、その分野に集中して深く勉強することを勧めます。これまで色々な学生を見てきましたが、広い分野をちょっとずつかじった結果、好きな分野を見つけた人は意外と少ないように感じるからです。おそらく、広い分野のどれも取り組みが中途半端になった結果、「どれも自分に合っていない」と感じることが多くなりやすいからだと思います。
 山口ゼミの過去のゼミ生で、マーケティング系のゼミに落ちて二次募集で山口ゼミに来た学生がいました。自分の一番望む分野ではなかったかもしれませんが、ゼミでは私の解説を毎回逐一メモをとるくらい熱心にゼミに取り組み、ケース分析レポートも毎回1番よいものを書いてくるくらい頑張った結果、ゼミで議論した資生堂と小林製薬の事例が自分は大好きだということに気づきました。そこで、「両社のような流通の工夫についてより詳しく勉強したい」と、3年時に別のゼミに移り、最終的に自分の好きなその業界の有名企業からいくつも内定を獲得し、就職しました。
 彼は、2年の時から別のゼミで活動してきた学生よりも1年遅れて入った分、苦労したかというとそうでもなかったようで、むしろそのゼミの学生が知らない経営組織論・経営戦略論の知識に基づいて、他の学生とは違う観点からの意見を言えることがアドバンテージになったようです(実際、そのゼミの後輩が、私のところに「何を勉強したら、あんな優れた意見を言えるようになるか教えてください」と翌年聞きに来ていました)。ある分野についてしっかり学んでおけば、それを他の分野に応用することも可能なわけです。
 以上から、「何に興味があるかわからない」という人は、とりあえずある分野を(中途半端にではなく)がっつり勉強してみると、「自分はこれが得意だ」とか、「いや、これではなく、こういうものが好き」というのが見えてきやすくなると思います。
 大学生を見ていると、まだ自分の得意分野が何か、自分が好きなことは何かについて、気づいていない人も多いようです。それをみつける近道は、「探す」のではなく、「まず何か気になることをやってみること」です。「これは違う」「苦手」と気づくことから、自分のことがよく見えてくることもあるのです。
 今回紹介した3人の東経大卒業生のように、ゼミを通じて、自分の得意分野・好きなことを「発見」し、その分野の知識・スキルを深めていけたら理想的だと思っています。
(文責:経営学部准教授 山口みどり)