2022年12月12日月曜日

日本一新大久保に詳しいもーちぃさんを外部スピーカーとして招聘

 流通マーケティング学科の丸谷です。54回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論を専門とする教員であり、専門科目としてグローバル・マーケティング論を半期2コマ担当すると同時に、2年生から4年生まで3年間履修できるゼミも担当しています。教員は講義に実際に実務を行っている起業家の方や外部の有識者を外部スピーカーとして招くことができる制度があります。

今回は現在各種メディアで「日本一新大久保に詳しい」としてご活躍されている丸谷ゼミOGでもあるもーちぃさんにグローバル・マーケティング論の授業内の外部スピーカーとしてお話しいただいたので取り上げます。

もーちぃさんが携わった書籍

新大久保は言わずと知れたコリアンタウンですが、韓流ブーム以降韓国の文化を日本国内で享受できる街として認知されています。もーちぃさんは地元出身ということを十分に活用し、書籍も発表しメディアに出るようになり、書籍も発表しています。

もーちぃさんの報告資料より抜粋

今回はグローバル・マーケティング論の授業内かつ本学OGという彼女の個性を活かして、彼女が韓国の制服を日本で受け入れられるようにアレンジして学生時代に起業した韓国制服のレンタル事業の話や新大久保の文化を幅広く発信する活動ととともに、起業経験やライターとしての活動や就職活動についてお話しいただきました。世代が近い先輩からのお話は興味深ったようで履修者の皆さんはいつも以上に真剣に授業を受け、リアクションペーパーにも多くの質問や意見が書かれていました。

もーちぃさん報告資料より

なかなかコロナ禍で外国に行くのは難しい状況ですが、彼女が情報を発信するコリアンタウン新大久保へは本学の最寄駅国分寺駅からは電車1本で行けます。機会があれば新大久保で、韓国にもともとあった「タッカルビチーズトッピング」を、当時流行していた“動画映え”にヒントを得てアレンジされた「チーズタッカルビ」(授業内で彼女に教わりましたが)など、海外文化に触れてみてはいかがだろうか?

(文責:流通マーケティング学科 丸谷雄一郎)









2022年10月24日月曜日

コストコの東北初の店舗かみのやま倉庫店を訪れて

流通マーケティング学科の丸谷です。53回目の執筆です。私はグローバル・マーケティングを専門として研究を行ってきました。私の主な研究対象は世界最大の売上高を誇る小売企業ウォルマートですが、ウォルマートも苦戦した日本市場で継続的に成功しているのが世界でもウォルマート、アマゾンに次ぐ第3位の売上高を誇るコストコです。今回はコストコの東北地方初出店の店舗となった山形県のかみのやま倉庫店を訪れる機会を得たのでとりあげます。

コストコかみのやま倉庫店外観

コストコは19994月の福岡県糟屋郡久山町に1号店出店以降、10年程は年間1店舗というゆっくりとしたペースで大都市郊外を中心に出店していきました。20118月の10号店である前橋倉庫店出店以降、出店出典ペースが3倍程度に加速し、東北地方初の店舗かみのやま倉庫店は21号店ですが、この加速した時期に出店されました。同店舗開店日2015820日翌日の821日には、22号店野々市倉庫店が石川県金沢市郊外に、翌々日822日は23号店射水倉庫店が富山県の新たに開発された工業団地「小杉インターパーク」内に開店しました。コストコにとって3店舗の3日連続出店の経験はこれ以降もなく、北陸から東北南部の一帯を一気に商圏に取り込む新たな試みとして話題にもなりました。

2015年8月に3日間連続開店した北陸・東北でのコストコの店舗

3日連続出店の3店舗はいずれも高速道路インターチェンジ近くの立地であり、まとめ買いのための自動車での来店を基本とする同社にとっては好立地ではありました。しかし、従来の出店場所に比べると、周辺人口は明らかに少なく周辺県も含めた広域からの集客が必要とされます。しかし、この頃からコストコの集客力が地方自治体からも高く評価され始めたようです。

実際、2012年頃からコストコについて取り上げたムックが多く定期的に出版されるようになり(鳥羽(2020)、12頁)、2013年出版の中沢明子、古市憲寿著『遠足型消費の時代 なぜ妻はコストコに行きたがるのか?』朝日新聞出版において、コストコへの買い物は遠足のように適度な「非日常」を提供するともいわれるようになっていきました。今ではコストコでの買い物の模様はジャンクスポーツなどのゴールデンタイムの番組でも一般的なコンテンツとしても多く取り上げられるようになっています。

コストコかみのやま倉庫店の周辺の風景

かみのやま倉庫店出店に際しても、地元からの期待は当然大きかったようであり、今回の取材で周辺を歩いてみても歩道は数分歩いただけで砂利が靴に何回も入る状況であったが、歩道の横を走るコストコの前の道路は山形新幹線と比べても不釣り合いなくらいにしっかりと整備されていました。

今回平日である月曜日の開店直後に店舗を訪ねましたが、月曜日の開店直後から店内はかなり多くの家族ずれが来店しており、名物ともなっている店内試食を促す店員の周りにできる行列は店内に活気を生み出していました。飲食コーナーの横ではハロウィーンに向けて巨大な動く人形が展示販売され、東北の山の中に娯楽空間が設置されていました。

今回の現地調査のために前日かみのやま温泉に宿泊しましたが、温泉街のさびれた状況と、コストコやその周辺のジェネリック薬品工場などの活況はあまりにも対照的でした。あくまでも個人的な印象ではありますが、かなり物悲しく感じました。今や過疎に苦しむ地方の非日常空間を生み出す存在となった地方のコストコ、機会があれば訪れてみたはいかがだろうか。

(文責 流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎)

2022年8月31日水曜日

日本で定着する外資コストコ最新店舗栃木県壬生倉庫店を訪れて

流通マーケティング学科の丸谷です。52回目の執筆です。私はグローバル・マーケティングを専門として研究を行ってきました。私の主な研究対象は世界最大の売上高を誇る小売企業ウォルマートですが、ウォルマートも苦戦した日本市場で継続的に成功しているのが世界でもウォルマート、アマゾンに次ぐ第3位の売上高を誇るコストコです。今回はコストコの最新店舗を訪れる機会を得たので、コストコについてとりあげます。

丸谷雄一郎(2022)『ウォルマートのグローバル・マーケティング戦略(第3版)』創成社、11頁。
 コストコの日本1号店は19994月に博多駅から自動車で30分ほどの福岡県糟屋郡久山町に開店しました。最初の10年程は年間1店舗というゆっくりとしたペースで大都市郊外を中心に出店していきました。2011810号店の前橋倉庫店出店以降、ペースを3倍程度に加速し、201511月には24号店の岐阜羽島倉庫店を出店しました。2016年以降は出店ペースはダウンし、20164月の25号店富山倉庫店、20179月の26号店浜松倉庫店出店以降出店は中止されました。
 
コストコの全国30店舗と31号店の壬生倉庫店
 しかし、20207月の木更津倉庫店出店以降出店を再開し、20214月に熊本御船倉庫店と北海道石狩倉庫店を、20217月名古屋守山倉庫店を開店しました。20226月に31号店として栃木県宇都宮郊外のベットタウン壬生町に壬生倉庫店を開店しました。ちなみに、コストコは当初関東への出店が多く、2013年7月の16号店つくば倉庫店出店までに栃木県以外には出店済みで唯一関東で未出店の県だったので、9年を経た今回の出店で関東は全ての都道府県に出店を果たしたことになります。

コストコ壬生倉庫店外観

 壬生倉庫店は宇都宮の旧市街にある東武鉄道宇都宮駅から約15分のおもちゃのまち駅からバスで8分ほどの場所にありました。そもそもバスで来る人はあまりいないロードサイド立地のためバスの本数は非常に少なかったです。コストコのとなりはホームセンターのカインズ、正面にはヤマダ電機があり、ダイソー、マクドナルドも隣接しており、典型的なロードサイド立地です。

コストコ壬生最寄りのバス停の時刻表

なお、おもちゃのまちの由来は現在タカラトミーとなったトミー工業の創業者富山栄市郎の働きかけで玩具製造関連会社が集積する工業団地「おもちゃのまち」が1965年に作られたことにあるようです。工場はその後多くが撤退したようですが、壬生町にはこの歴史を踏まえておもちゃ博物館が作られ、コストコのすぐ近くにもバンダイおもちゃミュージアムが移転してきており、おもちゃのまちの伝統は宇都宮のベットタウンとなった今も続いているようでした。

 コストコが展開する唯一の業態は会員制ホールセールクラブと呼ばれる業態なのですが、ホールセールとは本来卸売という意味なのです。しかし、私のような一般消費者も年間4000円少しの会費を払えば会員になれるので、日本では小売として広く認識されています。最近神戸物産が展開する業務スーパーが成長していますが、卸売とか業務とかいうと大容量で低価格のイメージがわきますし、少し似た印象を感じます。

 実際、今回の訪問でも大部分の顧客は一般消費者のようでした。平日午後の時間帯であったにもかかわらず、家族なら子供は入れるということで、多くの一般消費者とみられる家族ずれの皆さんがレジャー感覚で店舗を訪れているようでした。店頭のトレジャーと呼ばれる大型お買い得品の大型テレビなどの列を過ぎ進んでいくと一番目につく場所に栃木県の老舗メーカー米菓メーカー丸彦製菓のおかきが置かれていました。

 時間帯が夕方に近づくにつれて試食コーナーが店内のいたるところで即席に設置され、ワイン、パン、肉、スイーツ、シロップまでいたるところで試食できます。子供なら試食だけで満腹になるほどでした。試食も常に一定の場所で行っているわけではなく、突然始まり一定数の試食が終わると終了するようでした。商品の購入単位が大きいので試食の意味は大きく、名物となっているクロワッサンは試食した人の多くが購入していました。

 コストコは売り場面積10000㎡の大規模駐車場を備えた倉庫店で自社の会員に向けて各カテゴリーのアイテム数は厳選しながら、大容量低価格商品を販売し定着してきました。出店ペースは無理をしないペースを維持し、2020年以降再び出店ペースを少し上げてきています。近年では未出店地域をカバーするためにネットでの販売も活用し始めるだけではなく、コストコの商品を取り扱う別資本の店舗とも連携しています。

コストコ商品販売店であるstockmart下北沢の外観と店内の様子

 今回改めて店舗を訪れて会員を強く意識し、無理して成長しない姿勢を垣間見ることができた。ウォルマートですら撤退した日本においてしっかり定着するための工夫に関しても今後さらに注目していきたい。

(文責:流通マーケティング学科 丸谷雄一郎)


2022年7月4日月曜日

コロンビアの庶民に尽くした偉大な父に翻弄されながら成長する息子の物語

流通マーケティング学科の丸谷です。51回目の執筆です。私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行なっていくのか)を専門分野にしているので、グローバル・マーケティングにおいて重要である海外事情について学習できる映画について紹介してきました。

若き日のコロンビアの庶民に尽くした偉大な父

今回は2022720日に東京都写真美術館ホールやイオン日の出、イオンシネマ春日部などイオン系列全国9館で公開される南米コロンビアを舞台にした映画『あなたと過ごした日に』について取り上げます。この映画はコロンビアで人権擁護家として知られるゴメス博士とその息子エクトルの物語であり、息子エクトルが父との思い出を描いた小説が原作となっている。

物語の舞台はネットフリックスで放映されてドラマ『ナルコス』で麻薬カルテルの本拠となったコロンビア第2の都市メデジンである。このように聞くと何かバイオレンスな映画と勘違いされてしまいそうだが、この映画は『ナルコス』で描かれた時代の少しの前の語り手でもあるエクトルの幼少期に当たる1970年代初頭から始まり、最後の部分で1980年代半ばにひどくなった少し暴力的な描写もあるが、大部分はコロンビアの山岳地帯の地方都市の日常の描写に充てられている。

コロンビアの地方エリートである家族

保守的な地方都市のエリートして育った博士は医師や大学教授として活躍するだけではなく、コロンビア国立公衆衛生学校を設立した人権指導者となり、取り残された庶民のために実用的な公衆衛生プログラムの開発に尽力したが、彼のこうした行動は地方エリートの利権に抵触するために自身と同じ出自の保守派に嫌われ、保守派が支配する大学を追われたりしながらも、庶民のために尽くす姿勢を貫いている。

父を尊敬する息子

 特に息子の視点で進むエピソードのうち印象的なのは博士の正義感が現れたシーンである。エクトルが周りに流されてユダヤ人の家の窓に石を投げて壊すシーンへの対応に表われており、博士は溺愛する息子をユダヤ人の家に連れていき、しっかりと謝罪させている。

 この映画の魅力は多くのコロンビアを扱った映画で描かれる部分とは異なる。コロンビアを扱った多くの映画が、同国において命が軽く扱われる状況について描いてきた。この映画はそれに対し、軽視されてきた庶民のために尽力する父を単なる偉人として描くのではなく、個性的ゆえに欠落した部分に翻弄される息子の視点からユーモラスに描いたところにある。専門家は私も含め欠落した部分があるが、息子の視点から欠落した部分も愛情をもって描くことで、どこか憎めない側面が垣間見え物語に厚みが出ている。バイオレンスイメージが強いこれまで公開されたコロンビア映画とは異なる側面を繊細に描いた作品として、ぜひご覧いただきたいコロンビア映画である。

(文責:流通マーケティング学科 丸谷雄一郎)

2022年5月16日月曜日

ウォルマートから楽天主導に変わる西友

  流通マーケティング学科の丸谷です。50回目の執筆です。経営の主導権が外資であるウォルマートからネット大手楽天に段階的に変化している西友について書きます。私は1970年代から最寄り駅の西友を利用し続け、大学院に入学した1994年以降、ウォルマートの研究をしてきました。愛知大学での8年間の勤務を経て東京に戻ってきた後も最寄りには西友があり、今でも週1くらいでは通う身近なお店です。

最寄りの西友外観(ウォルマート傘下時2019年11月時点)

西友は1980年代までは子会社無印良品を生み出すなど新たな取り組みにも積極的でありながら、新たに開発された住宅街の駅前に店舗を増やし、順調に成長してきました。しかし、バブル経済崩壊後同じ総合スーパーであるダイエーなどとともに経営不振に陥り、2008年に世界最大の売上高を誇る小売業者ウォルマートの完全子会社となりました。

ウォルマートは赤字体質であった西友の経営再建を行っていきましたが、期待ほどの成果をあげられず、2021 3 月にウォルマートが持つ全株式のうち、米国発投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に65%を、楽天の子会社DXソリューションに 20%を売却しました。ウォルマートは15%の株式を引き続き保有していますが、経営陣も大幅に変わり、20213 1日付で新 CEO に大久保恒夫氏が就任しました。KKRは投資ファンドであり、投資が目的で小売業者でもないですから、西友の経営主導権はウォルマートから楽天に移りました。

 なお、西友の経営主導権移転の経緯について詳細は東京経済大学紀要の東京経大学会誌 経営学312号(https://repository.tku.ac.jp/dspace/bitstream/11150/11667/1/keiei312-05.pdf)をご覧ください。

 ちなみに、紀要は出版する大学に所属する先生が研究成果を発表する機関誌のことです。普段なかなか大学の先生の研究成果に実際に触れることは少ないでしょうが、紀要には皆さんが今後教わるあるいは今教わっている先生のかなり最近行っている研究が多く発表されており、先生の関心や考え方を知るのにいい資料となります。最近の研究に関しては、ホームページにも原則公開されているので、履修を検討する前にみてみるといいかもしれません。

楽天主導に変わっても重視されるプライベートブランド「みなさまのお墨付き」

 私の専門のグローバル・マーケティングでは、世界中で同じことを行う標準化と現地に合わせる現地化のバランスが重要といわれています。楽天以前に主導権を握っていたウォルマートは世界最大の小売業者であるにかかわらず、お店の名前に関してはこれまで愛されてきた西友というブランド名を維持し、消費者に実際に商品への満足度を調査して商品導入の可否を決める「みなさまのお墨付き」というプライベートブランドを積極的に転嫁したことは現地に合わせるという意味では現地化といえるでしょう。

ウォルマートは現地化と同時に同社の強みである低コストや多様性を実現する世界中で採用されているノウハウ導入を行う標準化も行ってきました。例えば、ウォルマートの世界最大の売上高を利用した規模の経済性を活かした安価なプライベートブランドの導入、世界中に拠点があることを活かした仕入れ先の多様化、社員やアルバイトがいろいろな仕事をこなせるようにするマルチタスク化といったことです。

 西友の経営主導権の移転から約1年経ち、西友の変化が消費者にも具体的に見えるようになってきました。分かりやすいのは推奨カードの変更です。

 

ウォルマートセゾンカードから楽天カード西友デザインへ

 ウォルマート主導時代推奨されてきたウォルマートセゾンカードは日本ではVISAなどと比べるとそれほどメジャーとは言えないアメリカン・エキスプレスが付帯し、カード利用での低コストを前面に打ち出してきましたが、楽天カード西友デザインでは電子化を意識し、基本的にはポイント付与などをアピールすることで手続きも消費者自身にネットで行わせています。私が実際カードの入会をしようと店舗の案内の方にどうすれば聞くと、イオンなど多くの量販店が行っている店頭での手続きの支援などはほとんど行っておらず、とにかくネットでできるのでという一点張りでQRコードが書かれた紙を渡そうとしてきました。カードを利用してみようと店舗を訪れると、とにかくセルフレジが大部分となった店内で、店員の方が戸惑う高齢者の方に楽天カードを作ったほうが得ですよという声かけを行っていました。

店員さんに聞いてなんとか発見したウォルマートが世界展開するプライベートブランドジョージ


楽天との連携を強く打ち出すPOP

コロナ禍でなかなか細かく見れなかった食品以外のフロアもくまなく歩いてみたのですが、ウォルマート主導時代あれほどあった全世界で販売されてきたウォルマートのプライベートは一部の例外はあるもののほとんど影を潜め、現地化の方策として導入された「みなさまのお墨付き」が前面に打ち出されていました。目立っていたのは従来より価格重視から品質重視が目出つPOPと楽天との連携を強く打ち出す表示でした。売り場の改編の過渡期のようで食品以外のフロアは在庫処分が非常に多く、ウォルマート主導時代コスト削減のため店員はほとんどいなかったのですが、顧客はあまりいない階にも作業をする店員が多くみられました。

ウォルマートは日本だけではなく、英国、ブラジルも株式の大部分を売却し少数保有としています。コロナ禍でなかなか海外調査に行けないのですが、今後もウォルマートの株式の少数保有を継続しつつ、楽天というネット小売大手主導で経営改革を行う西友に関して、どのように変化していくのか注目していきたいです。

(文責:流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎)


2022年3月28日月曜日

新・北海道現象を起こすかコーチャンフォー

 流通マーケティング学科の丸谷です。49回目の執筆です。今回は北海道発の注目複合書店チェーンのコーチャンフォー(Coach&Four)を取り上げます。店名は4頭立ての馬車を意味し、書店、文具、ミュージック、飲食という4分野を組み合わせた複合書店を北海道で6店舗展開した後、2014年に多摩ニュータウンの最新開発地域の東京都稲城市の京王相模原線の若葉台駅の近くに道外初店舗を出店しました。

コーチャンフォーの北海道での店舗網
 私は若葉台駅のとなりの永山駅近くに20年間住んでいたこともあり開店時注目したのですが、北海道の物産を取り扱うといったニュースを聞く程度で忘れていました。コロナ禍で海外調査もできないことが確定する中で、コーチャンフォーに関する大ニュースが入ってきました。8年ぶりの道外2号店を今度は近年開発が進むつくばエクスプレス研究学園駅から2キロの場所に202210月に道内外併せて8号店として出店することが決まったそうです。
コーチャンフォー若葉台店周辺の状況

 アマゾンなど書籍のネット販売普及にコロナ禍という状況を踏まえると、複合書店チェーンは厳しい状況に置かれている中、なぜだろうと考え調べてみると、同チェーンは大手複合チェーンでは唯一二桁成長を果たしていることが分かりました。日経MJが毎年調査し紙面で公表している第49回日本の専門店調査業種別書籍・文具部門(2021811日紙面より)では、14位にランクインし、3大都市圏出身以外のチェーンでは、新潟出身でありながら1990年代から蔦屋書店を関東でもフランチャイジーとして多く展開するトップカルチャーに次いで2位であり、独自店名で複合書店を展開するチェーンとしてはトップです。大手複合書店チェーンが軒並みマイナス成長に陥る中、地道な努力を積み重ね、トップ20の中で唯一12.6%の売上増を達成していたのです。

 コーチャンフォーを展開するリラィアブルは1978年にミスタードーナツのフランチャイジーから飲食事業を立ち上げ、1990年に書籍販売、1992年にCD販売、1997年に文具・雑貨事業と取扱商品を拡大し、1997年に現在のコーチャンフォーの基盤となる巨大複合店舗1号店を札幌に開業しました。同社が1号店開業当時の北海道はバブル経済崩壊のダメージを受け北海道経済を支えてきた北海道拓殖銀行が破綻し大変な状況でしたが、同社は2001年に同社が最初に事業を開始した釧路に2号店を出店して以降2011年までに道内に6店舗(札幌3店舗と釧路、北見、旭川各1店舗)を出店し、書籍・文具販売では北海道最大の複合店チェーンとなりました。今回取材したのは2014年に7店舗目として初めて道外に出店したコーチャンフォー若葉台店です。

コーチャンフォー若葉台店の外観

 コーチャンフォー若葉台店が出店する京王相模原線若葉台駅周辺は多摩ニュータウンの中でも近年開発が進む地域であり、駅北口には家電量販店のケーズデンキとヤマダ電機、ホームセンターのユニディ、ドラッグストアのツルハドラッグなどの量販店だけではなく、医療モールのクリニックモール若葉台やテレビ朝日若葉台メディアセンターなど巨大施設が乱立していました。コーチャンフォー若葉台店は駅から徒歩圏内ではあるが605台駐車可能な巨大駐車場を確保できる駅から少し離れた場所にあり、車社会北海道出身らしく同社が北海道でも標的としている自動車で来店するファミリー層を意識しているようです。今回実家に用事がありついでに週末で賑わう店舗を訪れたのですが、親子連れだけではなく、祖父母と孫の組み合わせの来店も目立っていました。

十分に取られた通路幅

 巨大な店舗内は通路がかなり広くとられており、座り込んで絵本に集中するお子さんや並んで本を選ぶ孫子のペアもいたのですが、容易にすれ違えるようになっていました。

見やすい陳列

 

しっかり印刷された表示

 本棚をみて特徴的だったのはPOPであり、最近多い手書きPOPは全く見当たらず、印刷された表示が分かりやすく、棚の内容を分かり示し、棚の置き方も棚のテーマを見て棚を見ると推薦本が見やすく上段に置かれると同時に、下段にはかなりマニアックな本もしっかり置かれていました。取り扱っているテーマはやみくもに幅広くするのではなく、標的としているファミリー層を意識しているようであり、大学教員である私が専門書を見に行く丸善やジュンク堂ととも、趣味の本が多い幅広くラインナップされている蔦屋書店などとも異なっていました。

コーチャンフォーのランキング

 私の専門に近い分野では、今話題のSDGs、格差問題、街づくりに関係するデザイン系の本などに関しては少し硬い本やバックナンバーまでかなり充実していました。コーチャンフォー独自の文庫のランキングが123位という中途半端な数まで示されているのも興味深かったです。

成城石井セレクション

 本以外ではかつては文具では本同様用途ごとの展示がなされると同時に、特集的にちょっとマニアックな商品も広いスペースをとって展示されていました。かつて人を集めたと考えられる音楽のコーナーではアーティストごとの見やすい陳列が特徴的であり、食のコーナーでは北海道の物産が多く展示されると同時に、提携する成城石井の商品が多く並んでいました。カフェに関してはドトールが入っており、ドトールの展開は旭川店と北見店に次いで3店舗目です。

  小売業界ではバブル経済崩壊後に全国で最も厳しい状況に置かれた北海道札幌に本社を置く小売上場企業の強さに注目が集まり、北海道現象という言葉がはやったことがあります。その代表が規模拡大を目指し島忠の買収合戦で話題となった家具・インテリア製造小売のニトリとホーマック(現DCMホールディングス)や若葉台店にも買収譲渡引き受けを繰り返し全国チェーンとなったドラッグストアのツルハホールディングスでした。複合書店業界が厳しい状況の中で、今度は規模以外の要素で北海道から関東へ出店地域を拡大する同チェーンの動向に注目していきたい。    

                   文責:流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎



2022年2月7日月曜日

こだわりのコーヒーをデパート屋上で~ブルーボトルコーヒーの自販機による展開の試み~

流通マーケティング学科の丸谷です。48回目の執筆です。今回は第46回に続いてサードウエーブコーヒーの代表的チェーンであるブルーボトルコーヒーの日本における取り組みについて取り上げます。同社は2015年に日本を最初の進出先として以降店舗網を拡大し現在までに大都市部を中心に24店を出店してきました。第46回では大都市以外への初の出店であった前橋への出店について取り上げましたが、今回はコロナ禍の自粛が続く中でユニークな接点を増やすために「クイックスタンド(正式にはBlue Bottle Coffee Quick Stand)」という名称で東京中心部のスキマ立地に展開を開始した同社製品専用自販機の展開のうち、初の屋内への設置事例について取り上げます。

クイックスタンド 東急百貨店 吉祥寺店
スッキリとした味わいのブルーボトルコーヒーの缶コーヒー

こだわりのコーヒー豆

コーヒーと意外とあう羊羹も

「クイックスタンド」1号機は新型コロナウィルス第2派の最中の202087日に渋谷駅近くの三井不動産リアルティが展開する時間貸駐車場である三井のリパーク内に設置されました(現在は運営会社が変更されエコロシティが展開するエコロパークとなっている)。この駐車場は駐車料金がなんと10600円で一部サイトでは日本一高い駐車代のパーキングと噂される程の超優良立地でした。

同社1号店は多くの海外出身飲食チェーンが展開する銀座や青山などの誰もが知る超一等地にではなく、カフェ通が愛する店が多い清澄白河にするなど立地にはこだわってきました。クイックスタンドの立地も同チェーンならではのこだわりを見せたといえます。立地へのこだわりは維持されており、1号機のパートナーであった三井不動産リアリティの数ある立地の中でも、六本木、白金台、二子玉川、駒沢公園、自由が丘とコーヒーへのこだわりが強い階層が多く利用する場所に厳選されている。クイックスタンドは東京の12機に加えて、クイックスタンド梅田茶屋町カフェとクイックスタンド京都カフェも設置され、現在14機を設置済みです(詳細は同社ホームページ(https://store.bluebottlecoffee.jp/pages/bluebottlecoffee-quickstand参照)。

 

クイックスタンド吉祥寺パルコ店

吉祥寺には現在クイックスタンドは2か所あり、屋外立地の「クイックスタンド吉祥寺パルコ店」は、吉祥寺の新たなランドマークとなりつつある吉祥寺に特化した地域密着型が売りでたびたびメディアにも取り上げている「ユニクロ吉祥寺店」の向かい側に立地するパルコ吉祥寺店の1階に面した場所に立地している。ここでの自販機設置は唯一の23区外の出店ではあるが、23区外では代表的な繁華街の好立地への展開であり、従来のこだわりの屋外立地とあまり変わらない特徴を持つ場所での展開といえる。

一番左がクリスベーカリーのオリジナルデザイン自販機

もう一台の「クイックスタンド 東急百貨店 吉祥寺店」は、屋内立地の先駆的事例として注目すべきです。ここでの補充オペレーション業務運営を行うのは株式会社スキマデパートです。「「小さなスペースから、世の中を面白くする。」それがわたしたち、スキマデパートです。」と代表取締役の芳屋昌治氏が述べるように、同社は都市にあるスキマ立地に、同社は自社が展開する自販機を、「世の中を面白くする商品を販売する機械」という意味で「自由販売機」と命名しいろいろなスキマ立地に展開してきました。今回の東急百貨店のブルーボトルコーヒーの自販機のすぐ近くにも、東急百貨店吉祥寺店の3階に初めて支店を出店した府中に本店のあるクリスベーカリーのオリジナルデザイン自販機を展開していました。この自販機ではクリスベーカリーのこだわりのパンを販売していたので、ブルーボトルコーヒーのこだわりのコーヒーと一緒に食べることもできます。

クイックスタンド東急百貨店吉祥寺店が設置されたのは20211月に「太陽の広場」と名付けられた昭和感あふれる遊戯コーナーとペットショップがあった屋上を整備したフリースペースの屋内部分です。屋外部分では床面の半分以上に敷かれた人工芝の上では子どもたちが走り回れ、天気が良い日には富士山も見えます。

東急百貨店吉祥寺店「屋上太陽の広場」の説明

自販機はコロナ禍で非接触かつ長時間販売できる特性が見直されています。かつてコカコーラが自販機チャネルを全国展開し日本市場を席巻しましたが、カフェの新規出店が容易でない中で、米国出身のブルーボトルコーヒーが自販機に目を付け、日本市場で現地化に向けた試行錯誤を行っている状況は興味深いです。

皆さんも機会があれば、640円と少しお高いですが、こだわりのコーヒーを気軽に味わってみてはいかがでしょうか。個人的にはサードウエーブコーヒーならではのすっきりとした味わいを楽しみながらぽかぽかした日差しを浴びながら見た富士山には癒されました。

文責 流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎


2022年1月1日土曜日

2021年度を振り返る(小木ゼミ通信vol.43 経営学部ゼミ研究報告会、ゼミ活動報告など)

 マーケティング論、ソーシャルマーケティング論、消費者問題担当の小木です。 43回目のブログになります。2022年の初回を書かせていただきます。

 前回ブログを書いたのが、「鬼滅の刃」の400億円の話題で2021年の年末。そして今や世の中は2022年12月24日封切りの「呪術廻戦0」の話題で持ち切りになっていました(この1年は本当に早かった)。名古屋駅構内は、呪術廻戦でジャックされていました。

 ゼミ生から教えてもらったのですが「単行本中では0巻が一番良いです。今回の映画も0巻ベース。先生、もし0巻を読んでないで呪術を語るのは厳禁ですよ。」と可愛くたしなめられました。「なるほど。。では、0巻を買って読もうではないか」と思ったのですが、「ない!」映画の影響もあり、とにかくどこも売り切れ。唯一の方法は、フリマで0巻を含む全巻を総買いするしかなく(抱き合わせ販売だよね、これ)、思い切って全巻購入。ようやく手に入れました。同ゼミ生曰く「10巻くらいまで読んだ後、0巻を読むのですよ」と呪いをかけられたので、素直にそれに従い、10巻あたりまで読んで、0巻を読みました。雑誌ではほぼ読んでいたのですが(0巻分は読んでいなかった)、続けて読むとなかなか疲れますが、とても興味深いことばかりでした。0巻は確かに良かった。「持論なんだけどね。愛ほど歪んだ呪いはないよ」、、深い、深いかも。いい大人が振り回されるこのパワーはただものではない感じです。ということで、学期が始まるまでは、マトリックス、99.9、呪術廻戦0と、毎朝、家からほど近い映画館に通いたいと思います。

名古屋駅は呪術廻戦ですべてジャックされてました


 さて、2021年の経営学部のゼミ活動や小木ゼミの活動を振り返り、今年の抱負を述べてみたいと思います。

  本日のラインナップは次の感じです。
 1.経営学部ゼミ研究報告会 
 2.小木ゼミの活動報告
  などなどです。

  1.経営学部 ゼミ研究報告会
 
 2021年12月11日㈯午後に経営学部ゼミ研究報告会がZoomで開催されました。今年は経営学部の17ゼミから55もの研究報告が8会場で発表されました(ほぼ昨年と同じ)。
 私は第1会場を管理担当していましたが、昨年と比べても、研究報告は皆さん落ち着いていて、各ゼミとも本当に上手に発表していました(小木ゼミ生も良かったです)。これから就職活動もリモートを使った面接があるはずなので、Zoomなどを活用は、就職活動において必須になるかもしれないので、いまから普通にできることは強みになるかと思います。特に、1・2年生の皆さんはこれまで遠隔授業が多かったので、このあたりのスキルはかなり上がっているのでないでしょうか。
 全体として研究発表の内容もとても良かったですし、なんといっても対面時に比べて参加者が多くなっていることも注目すべき点です。東経大を目指す、高校生なども地元にいながら参加してくれたようで、もちろん対面での研究発表はそれはそれでいいのですが、リモートによる発表もメリットは大きかったようです。


   2.小木ゼミの活動報告 
  
 ①.西武信金主催の知的財産を活用したアイディアコンテストの決勝戦
 2021年12月10日㈮午後に、西武信金主催の知的財産を活用したアイディアコンテストの決勝戦が開催されました。東経大からは、学内選考を突破した小木ゼミ2チームと北村ゼミ1チームが出場しました。小木ゼミは、他の活動やゼミ研究発表と時期的に被っていたので大変でしたが、無事なんとか最後まで走りぬきました。結果は、審査員特別賞を小木ゼミ・バイオカメ二郎チームが獲得しました。東経大としては5年ぶりの入賞でした。小木ゼミは、昨年に初めて参加したのですが、昨年の悔しさを2年生チームが晴らしてくれました。おめでとうございます。私も学内の会議と重なってしまい、全部見ることはできませんでしたが、とても勉強になりました。もう少しだけ、しっかりと指導してあげれば良かったなと反省してます。

 ②.多摩大学アクティブラーニング祭への招待ゼミとしての参加
 12月11日㈯午前に、4年連続で、多摩大学のアクティブラーニング祭に参加いたしました。招待ゼミとしての参加であり、企業とのコラボ活動の発表を行いました。こちらも、我々小木ゼミはZoomでの参加でしたが、現地会場はたくさんの来場者がいたようです。
 今年もコロナの影響であまりコラボ活動がしっかりできなかったのですが、活動した部分をしっかり報告してきました。

 ③.「国分寺物語」活動報告及びニッポニアニッポン代表による講演(オープンゼミ)
 12月15日㈬2時限に、「国分寺物語」の21年度の活動報告と、ニッポニアニッポン代表による講演会が開催されました。コロナ禍で大変な中、今年もよく頑張ったかと思います。当日は、オープンゼミにもなっており、何人かの1年生の皆さんも見に来てくれました。講演会後、1年生との相談会も行いましたが、お昼休みにはゼミのクリスマス会の前夜祭としてプレゼント交換会も対面で行われました。

小木ゼミ クリスマス会 プレゼント交換


 ④.「お菓子コラボ」いよいよ!
 こんなお菓子いいなプロジェクトは、3年生を中心に行ってきまして、夏休みに企画を提出、そして修正を経て、いよいよ来年秋に鈴木栄光堂より発売するに到りました(国分寺ブルーベリーを使用したお菓子です)。今回は、JAむさしを加えての複数コラボとなっております。12月8日㈬2時限には、この1年間の経緯を、鈴木栄光堂、JAむさしから報告していただき、21年度の活動を締めくくりました。

 ⑤.個人研究発表完走
 忘れてはいけないのは、2年生、3年生ともに、個人研究の発表を各人前後期1回ずつ発表を見事行うことができ、全員が十分な力を付けることができました。3年生は研究ノートを、4年生は卒業論文を全員が提出することができました。見る方は大変でしたが、皆さんよく頑張ったと思います。この努力は、就活や社会人の時に必ず活かされるはずです。

 ⑥.TFT(テーブルフォートゥー)の健康ランチ企画・販売
 TFTは、小木ゼミの女子中心のコラボ活動です。健康ランチを企画して、生協で販売するものですが、その一部をTFTを通じてアフリカの子供たちの給食に寄付する活動です。21年度は、前期2週間、後期2週間の健康ランチ企画・販売で多額の寄付をすることができました。皆さんのご協力を感謝申し上げます。

 ⑦.その他
 21年度の夏合宿はやはりできませんでしたが、ゼミが対面で多くできたことや、Xmas会やOBOG会などの行事はZoomで行うことができました。Xmas会のプレゼント交換は対面で行いましたが、ゼミ生の面々を見て「やはり行事は対面の方が良いかな」とひとりごちました。

 といったように、21年度もまだまだコロナの影響は大きかったのですが、少しずつ各方面で対面も増えてきて、22年度はいろいろなことに期待が持てそうです。何となく、新入ゼミ生もよさそうな感触だし、コロナ禍でも頑張ってきたことが、1年生にも評価されているような感じで、21年度は頑張ったかいがあったような気がします。総じて、21年度は良い年でした。22年度もよろしくお願い申し上げます。