流通マーケティング学科の丸谷です。50回目の執筆です。経営の主導権が外資であるウォルマートからネット大手楽天に段階的に変化している西友について書きます。私は1970年代から最寄り駅の西友を利用し続け、大学院に入学した1994年以降、ウォルマートの研究をしてきました。愛知大学での8年間の勤務を経て東京に戻ってきた後も最寄りには西友があり、今でも週1くらいでは通う身近なお店です。
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最寄りの西友外観(ウォルマート傘下時2019年11月時点) |
西友は1980年代までは子会社無印良品を生み出すなど新たな取り組みにも積極的でありながら、新たに開発された住宅街の駅前に店舗を増やし、順調に成長してきました。しかし、バブル経済崩壊後同じ総合スーパーであるダイエーなどとともに経営不振に陥り、2008年に世界最大の売上高を誇る小売業者ウォルマートの完全子会社となりました。
ウォルマートは赤字体質であった西友の経営再建を行っていきましたが、期待ほどの成果をあげられず、2021 年 3 月にウォルマートが持つ全株式のうち、米国発投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に65%を、楽天の子会社DXソリューションに 20%を売却しました。ウォルマートは15%の株式を引き続き保有していますが、経営陣も大幅に変わり、2021年3 月 1日付で新 CEO に大久保恒夫氏が就任しました。KKRは投資ファンドであり、投資が目的で小売業者でもないですから、西友の経営主導権はウォルマートから楽天に移りました。
なお、西友の経営主導権移転の経緯について詳細は東京経済大学紀要の東京経大学会誌 経営学312号(https://repository.tku.ac.jp/dspace/bitstream/11150/11667/1/keiei312-05.pdf)をご覧ください。
ちなみに、紀要は出版する大学に所属する先生が研究成果を発表する機関誌のことです。普段なかなか大学の先生の研究成果に実際に触れることは少ないでしょうが、紀要には皆さんが今後教わるあるいは今教わっている先生のかなり最近行っている研究が多く発表されており、先生の関心や考え方を知るのにいい資料となります。最近の研究に関しては、ホームページにも原則公開されているので、履修を検討する前にみてみるといいかもしれません。
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楽天主導に変わっても重視されるプライベートブランド「みなさまのお墨付き」 |
私の専門のグローバル・マーケティングでは、世界中で同じことを行う標準化と現地に合わせる現地化のバランスが重要といわれています。楽天以前に主導権を握っていたウォルマートは世界最大の小売業者であるにかかわらず、お店の名前に関してはこれまで愛されてきた西友というブランド名を維持し、消費者に実際に商品への満足度を調査して商品導入の可否を決める「みなさまのお墨付き」というプライベートブランドを積極的に転嫁したことは現地に合わせるという意味では現地化といえるでしょう。
ウォルマートは現地化と同時に同社の強みである低コストや多様性を実現する世界中で採用されているノウハウ導入を行う標準化も行ってきました。例えば、ウォルマートの世界最大の売上高を利用した規模の経済性を活かした安価なプライベートブランドの導入、世界中に拠点があることを活かした仕入れ先の多様化、社員やアルバイトがいろいろな仕事をこなせるようにするマルチタスク化といったことです。
西友の経営主導権の移転から約1年経ち、西友の変化が消費者にも具体的に見えるようになってきました。分かりやすいのは推奨カードの変更です。
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ウォルマートセゾンカードから楽天カード西友デザインへ |
ウォルマート主導時代推奨されてきたウォルマートセゾンカードは日本ではVISAなどと比べるとそれほどメジャーとは言えないアメリカン・エキスプレスが付帯し、カード利用での低コストを前面に打ち出してきましたが、楽天カード西友デザインでは電子化を意識し、基本的にはポイント付与などをアピールすることで手続きも消費者自身にネットで行わせています。私が実際カードの入会をしようと店舗の案内の方にどうすれば聞くと、イオンなど多くの量販店が行っている店頭での手続きの支援などはほとんど行っておらず、とにかくネットでできるのでという一点張りでQRコードが書かれた紙を渡そうとしてきました。カードを利用してみようと店舗を訪れると、とにかくセルフレジが大部分となった店内で、店員の方が戸惑う高齢者の方に楽天カードを作ったほうが得ですよという声かけを行っていました。
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店員さんに聞いてなんとか発見したウォルマートが世界展開するプライベートブランドジョージ |
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楽天との連携を強く打ち出すPOP |
コロナ禍でなかなか細かく見れなかった食品以外のフロアもくまなく歩いてみたのですが、ウォルマート主導時代あれほどあった全世界で販売されてきたウォルマートのプライベートは一部の例外はあるもののほとんど影を潜め、現地化の方策として導入された「みなさまのお墨付き」が前面に打ち出されていました。目立っていたのは従来より価格重視から品質重視が目出つPOPと楽天との連携を強く打ち出す表示でした。売り場の改編の過渡期のようで食品以外のフロアは在庫処分が非常に多く、ウォルマート主導時代コスト削減のため店員はほとんどいなかったのですが、顧客はあまりいない階にも作業をする店員が多くみられました。
ウォルマートは日本だけではなく、英国、ブラジルも株式の大部分を売却し少数保有としています。コロナ禍でなかなか海外調査に行けないのですが、今後もウォルマートの株式の少数保有を継続しつつ、楽天というネット小売大手主導で経営改革を行う西友に関して、どのように変化していくのか注目していきたいです。
(文責:流通マーケティング学科教授 丸谷雄一郎)