2024年5月7日火曜日

経営学と日常と

 今回のブログは,本年度,東京経済大学経営学部に着任したての新米教員 寺本直城(てらもとなおき)が担当します。

本学では主に経営戦略論を担当しています。

新米教員とはいっても,大学の教員になって今年で10年目なので,正直あんまり若くないですし,フレッシュ感はありません。アラフォーのおじさんです。


で,着任早々にブログの担当を言い渡されまして,いやいや東京経済大学のこと,まだあんまり知らないし,などと思いながら…。

まあ,東京経済大学のいいところなんかは,ほかの先輩教員たちにお任せして,とりあえず自己紹介でも,と思い立ってみました。しかしながらですよ,アラフォーのおじさんの自己紹介に興味を持ってくれる人なんて,そうそういないような気もするわけで…。今回は,経営学の面白い(と私が勝手に思っている)ところを,私の経験談を交えながら書いてみる,そんな記事にしてみようかと思います。そうすれば,なんとなく,私という人間についても語れるし,経営学部の面白いところも語れますしね。うん一石二鳥。



「経営」との出会い,そして「経営学」との出会い

「経営学の研究をやっている」「大学で経営学を教えている」と言うと,かなりの頻度で「自分で起業しないんですか?」とか「自分で会社経営しないんですか?」と聞かれます。

高校生だった寺本青年は,ちゃんと会社の経営者になるつもりでいました。起業も考えてみましたし,いやいや大企業に入って出世していつかは経営者になってやろうというのも考えてみましたし,実家が自営業だったのでそこを継ぐのはどうだろか?とも考えてみました。この青年が高校生だった当時,「カリスマ経営者」という言葉が流行し,「カリスマ経営者」と呼ばれる人々が一世を風靡していました。例えば,楽天の三木谷社長や,ソフトバンクの孫社長などは今でもおなじみでしょうか。ほかにも,当時はライブドアの堀江社長という方もカリスマ経営者なんて呼ばれていましたね(遠い目)。


そんな華々しい人々をマスコミを通してみて,自分もあんな存在になれるのだろうか?という憧れがあり,そんな存在になるためには,何をしなければならないのか?ああ,会社を経営すればよいのか!というあまりにも浅薄な高校生らしい考えから,「経営」という概念に出会いました。そして,同時に,実家が自営業であったことから,「経営」という言葉をリアルに考えるようにもなりました。ならば,大学で勉強すべきは経営学だろうと,青年が大学で専攻する分野が見定まった瞬間でした。


そして,大学に入学し,青年は「経営学」に出会います。さて,ここで困ったことが起きます。経営学が思ってたんと全然違うのです。青年はもっと技術的なこと,つまり「会社を作るにはどうしたらいいか?」とか「成功する経営手法」みたいなものが学べると思っていたのに…。実際の経営学の講義は,「そもそも経営とはどのような概念か?」とか「経営理論がどのように発展してきたのか?」とか,そんなんばっかりだったのです。思ってたんと違うのもあるし,わけわからんわけです。まあ,浅はかな高校生・大学生の考えそうなことですね。

専門を選ぶ(=ゼミを選ぶ)段になって,経営組織論の専門とする先生のゼミを選びました。会社に就職するにしても,自分で会社を作るにしても,組織については勉強しといたほうがいいだろうと考えたからです。また,そこでも,わけがわからないことの連続でした。


こんな感じで,青年は「経営学」に出会ったわけですが,つまり経営学とのファーストコンタクトの印象は「わけわからん学問」だったわけです。しかし,これが青年の将来を変えてしまいました。「わけわからん」と思い続け,何とかわかろうと勉強と研究を続けていたら,いつのまにか大学院まで出て,研究者になっていたのでした。めでたしめでたし?



大学生活と経営

上の部分を読むとさぞや真面目な学生であったと勘違いされそうなので,ちゃんと書いておくと,この青年は勉強や研究にものすごく真面目というわけではありませんでした。青年の大学生活は,部活とアルバイトとちょっと勉強・研究くらいで占められていました。全体を10とすると,部活4,バイト4,勉強/研究2 くらいな感じでしょうか。とはいっても,単位を落としたことはほとんどありませんし,その意味で,部活やアルバイトにかまけて勉強しないというほど不真面目でもなかったのですが…。青年の大学生活の大半を占めていた部活動やバイトでの出来事も,また経営学(経営戦略論や経営組織論)をしっかりと研究しようと思うようになった契機になりました。


まず,部活動から。大学の部活動は,少なくとも私が所属していたところは,日々の練習から,後輩への指導までかなり学生の主体性に任されていました。つまり,クラブという組織の運営の多くを学生が主導していたといえます。しかし,まあうまくいかない。誰かが遅刻すると,ただでさえ厳しい練習がさらに厳しくなるというのに,それでも遅刻してくる常習犯,なかなか集まらない新入部員,集まってもすぐ辞めていく新入部員,たくさん練習しているのに結果がでない大会 などなどなどなど。これらは全部,組織運営の方法,つまり経営組織の在り方や経営戦略の作り方がおかしいが故に起こる諸問題であったのです。そんなことを考えながら,あー経営(学)って面白いなーとなんとなく考えていたそんな学生時代でした。


次にバイト。青年は塾講師のバイトをしていました。教材は塾から配布されるし,生徒への勉強の教え方もある程度教えてもらえるので,自分自身そんなに問題のある先生ではなかったと勝手に思っています。ただ,不思議に思っていたことがありました。講義が終わると,報告書を書かないといけないのですが,それが先生によって完成にかかる時間も質も違いすぎるということでした。授業終了後,早々に書き終わって,終わりのミーティングを待っている先生もいれば,いつまでも報告書が書きあがらない先生もいました。ついには,終わりのミーティングを待っている先生の圧に負けて,塾長が報告書を書き終わってない先生に一旦作業を中断させミーティングをする,なんてことが日常茶飯事でした。問題はこの報告書。非常にわかりやすい報告書を書いて,引継ぎを潤滑にできる先生もいれば,要領を得ないものを書いて,周りを困らせる先生もいたのです。よくよく考えてみれば,授業の仕方は研修などで教えてもらっても,報告書の書き方なんてほとんど教えてもらったことがなかったのです。そこは先生たちの個人的な経験と知識とちょっとした才能によって左右される代物でした。授業のやり方も,塾にとっては大切ですが,報告書の書き方も,塾の経営には大切なはずで,なんでこれが経営上重要な問題なのに無視されているんだろうと,ずーっと腑に落ちないまま,結局なにもいいださずやめてしまいました。



この二つの話,もしかしたら,ん?と思う方もいらっしゃるかもしれません。経営や経営学という言葉はどうしても企業に限定されるもののように勘違いされている場合が多いのです。が,実はそんなことはなく,日常における組織の運営や生活にも関係する学問分野であるともいえるのです。私たちの生活やこの現代社会は,企業ふくめ多くの組織によって成り立っているのであり,この組織の仕組みを理解することが私たちの生活をよりよいものにするためには非常に役に立ちます。別に,企業や起業に興味がなくても,社会の仕組みを知って,自分の人生をよりよいものにしたいとなんとなく思っている方には,是非,「経営学を学ぶ」という選択肢を検討してもらえると嬉しいなあと思います。


終わりに

まあ,まだ書きたいことはたくさんあるのですが,ここで全部書いてしまうと,今後ネタ切れを起こしそうなので(というメタい理由から)今回はここまでにしたいと思います。進路に迷っている高校生や,大学生活にまよっている学生に,ちょっとでも参考になれば幸いです。

そして,こんなことを考えながら生きてきたのが,今回のブログ執筆の担当者 寺本直城という人間でした。

以後,お見知りおきをー。


文責:寺本直城