2024年12月16日月曜日

特別企画講義「鉄道で考える社会インフラ整備・管理の未来」の受講生アンケート結果から見える東京経済大学の学生(後編)

 経営学部の三和雅史です.

 今回は,10/7のブログに続いて,特別企画講義「鉄道で考える社会インフラ整備・管理の未来」の終了後に行った受講生アンケートの結果と,そこから見える東京経済大学の学生の姿を考察した結果の後編を紹介します.

 この特別企画講義では,鉄道会社や国の機関からお招きした講師の方々に社会インフラとしての鉄道の現状や課題,そして未来への展望について,様々な観点から紹介して頂きました.講義終了後,受講生に講義に関するアンケートへの協力を依頼したところ,全受講生(178人)の77%にあたる137人から回答を得られました. 10/7のブログでは,「受講状況(受講者数,受講率)」の他,「①受講の動機」,「②受講して発見したこと」,「③関心をもったキーワード」に関するアンケート結果を紹介しました.後編の今回は「④印象に残った講義」,「⑤社会インフラ業界の仕事への関心」,「⑥現場見学会,講師との直接的な意見交換会への参加希望」に関するアンケート結果を紹介します.


〇アンケート結果の概要と分析

④印象に残った講義

 幾つかの選択肢から選ぶ形(複数回答可)で回答してもらいました.回答者割合が高かった6つの講義を図に示します.どの講義も様々な話題に触れられており,講義内容をワンフレーズで表すことは難しいため,図中の各会社名の横に示した()内の説明は主な話題を表しています.なお,アンケートには印象に残った理由を記載する自由記述欄を設けたので,以下では,その内容を踏まえて考察しています.


 図から,「まちづくり」に関する講義への印象が深かった受講者が多いことが分かります.図中に示す広島電鉄,江ノ島電鉄,阪急電鉄の他,東急電鉄の講義にも「まちづくり」に関する内容が多く含まれていました.いずれの講義も,鉄道が「まちづくり」に果たしてきた役割や意義,「まちづくり」で重要な考え方等,「まちづくり」に関心のある受講生には大いに参考になる内容だったと思います.また,JR四国の講義も交通の利便性向上に関する話題が多く,「まちづくり」との関連性が強いものでした.特に,地方交通の今後の在り方を示唆するようなアイデアに富んだオリジナリティの高い内容は,受講生には大きな刺激になったようでした.
 JR東日本の割合が高いのは,身近で親近感がある鉄道会社であることに加え,特に保線(線路の維持管理)業務での課題に対し,様々な情報技術や新しいシステムの導入による解決事例,取り組みの紹介があり,将来の社会インフラの在り方を明確にイメージできたことが印象深かったようです.
 JR貨物については,走行する貨物列車しか見たことがない受講生には謎の会社だったようで,講義に大変多くの発見があったという感想が何件も見られました.何を,どこからどこへ運んでいるかという話から,各種輸送手段との連携による物流の効率化,高品質化,環境対策といった取り組みまで,どれも新鮮で印象深かったようです.

⑤社会インフラ業界の仕事への関心
 鉄道を例に社会インフラ業界の実情や未来を講義により知った上で,自らが将来仕事をする場としてどう捉えるか聞いてみました.
 まず,社会インフラ業界,鉄道業界の仕事を自分の将来の職業とすることへの考えを聞いた結果を表にまとめました.この表には,受講前後で関心に変化があったかを聞いており,「×」は将来の職業の検討対象として考えない,興味がないことを表しており,「〇」は将来の職業の検討対象になる,興味があることを表しています.「◎」については,受講前は「〇」であったのが,更に高まった場合を表しています.この表のデータを用いて受講前後の考えや興味,関心の変化を状態推移図としても示しました.


 受講前に将来の職業の検討対象分野でなかった受講生のうち,社会インフラ分野については約48%が,鉄道分野については約34%が,今後は検討対象にすると答えています.逆に,受講前には検討対象分野だったのが,受講後に対象外となったのは,社会インフラ分野では2.9%,鉄道分野では2.2%に過ぎませんでした.これらのことから,本講義は社会インフラや鉄道の仕事に関心をもち,将来の職業の対象として意識する機会になったと考えられます.また,技術の仕事への興味についても聞いたところ,受講前には興味がなかった受講生のうち,約45%が興味をもったと回答しました.社会が必要としている文理総合人材の育成という観点では,とても好ましいことだと思います.7/22のブログに書いたように,社会インフラのような技術と社会にまたがるシステムでの課題の解決や未来の創造には,技術開発だけでなく,開発された技術をどこでどのように運用するのか?といったように,多くの立場やアイデアが総合される必要があります.経営学部で学ぶ知識も勿論,社会インフラの持続可能性を向上するのに大きく貢献します.
 それでは,将来の仕事として検討する対象になった受講生は,どんなことに関心をもったのでしょうか?10/7のブログで全受講生を対象にして示したのと同じ図を,授業後に検討対象となった46人を対象に作成してみました.


 全受講生を対象とした図と比べるとグラフの形が少し異なっています.そこで,図中には,全受講生を対象とした図に比べて回答者割合が増えた項目については「+」,減った項目については「-」を付けました.「安全,安心」,「まちづくり」,「労働力不足」の割合が他に比べて際立って大きくなり,「まちづくり」が最も高い割合になりました.労働力不足に大きな課題を抱えつつある鉄道業界に身を置き,安全,安心なまちづくりに携わることに,自分の将来の姿を見出せたのではないかと思います.また,「DX(デジタルトランスフォーメーション),ICT」の割合が増えたのは,先に考察したような技術に対する関心,興味の高まりが現れた可能性が考えられます.一方で,「組織,社員,働き方の変化」についても割合が増えたのは,実際に自分が働くとした場合を想定し,自らの職として向き合ったことが現れたのではないかと考えます.
 以上の結果を鉄道会社の方に見て頂いたところ,社員が「自己肯定感とやりがいを持ち,働きやすい職場」を実現することの重要性を再認識できる,極めて納得感のある結果だというコメントを頂きました.

⑥現場見学会,講師との直接的な意見交換会への参加希望
 今回は実施できませんでしたが,本科目で鉄道の現場の見学会を将来企画した際の参加希望の回答結果を表に示します.参加希望者は全回答者の半数を超えましたが,具体的な見学先を提示することで,希望者は更に増える可能性はあると思います.将来の活躍の場となる大学の外側の社会を見られる機会は貴重なので,こうした機会があれば,分野を問わず是非参加して欲しいところです.鉄道を将来の職業の検討対象にすると回答した70人については,その74%が参加希望という回答でした.実際の職場や働き方を見て体験することは,職業選択に大いに参考となると考えます.
 講師と直接話ができるような意見交換会を将来開催した際の参加希望の回答結果を表に示します.全回答者の約半数が希望し,魅力的な開催方法を具体的に示すことで,希望者は更に増える可能性はあると思います.ここでも,鉄道という分野で捉えるのではなく,社会の第一線で活躍する方々に様々な問いかけができ,自分の将来に役立つヒントを得られる機会だと考えて,積極的に参加してもらえるとよいと思います.鉄道を将来の職業の検討対象にすると回答した70人については,その60%弱が参加希望という回答でした.見学会と同様,職業選択に大いに参考になると思います.一方で,開催にあたっての課題として,各学生が多くの講師と話せるように運営方法を工夫する必要があると考えています.アンケートの自由意見の中に,もっと気軽に質問したいという意見があったことから,講師・学生間のコミュニケーションの方法については,よく検討したいと思います.
おわりに
 3回にわたり,第1期に開講した特別講義について,その内容,開講状況,そして受講生アンケート結果を紹介しました.多くの大学生にとって大学の次のステップは社会に出て仕事をする,貢献する,或いは自分のやりたいことを実現するということになります.今回の講義が,その社会を理解するきっかけとなり,受講生の皆さんに何か残せたものがあればと願っています.
 本講義では,鉄道関係各社,組織の皆様に多大なるご協力を頂きました.アンケートの自由意見にあった「今まで履修した科目の中で一番楽しかった」,「本当にためになった」,「また開講して欲しい」,「講師の方々の熱心な講義を聞いて,鉄道業界を就職先として考えるようになった」という言葉は,講師の方々に向けられた賛辞だと思います.ご多忙な中,ご協力頂いたことに,この場を借りて改めて心から感謝を申し上げます.
 最後に,2024年は間もなく暮れますが,今年は例年に増して鉄道の脱線事故が多かった印象があります.一般に,鉄道の事故は社会へ与える影響が大きいため,特に発生直後は色々な報道がなされます.その内容は様々であり,時として不正確な情報が発信されることもあるため,情報の受け手の姿勢が重要です.事故が起きたことをけしからんと言い続けるのではなく,発生の直接的,間接的原因を理解・想像して解決策を考える必要があり,今回の講義は,そのための知識にもなったのではないかと考えます.過去の経験に基づいて様々な安全対策や検査等の技術,方法が開発,導入され,鉄道の安全度は過去に比べて格段に高まりましたが,それでも事故は起きています.事故情報は鉄道会社どうしの横のつながりの中で共有され,業界全体での安全性の底上げが図られますが,5/20のブログに書いたように日本には200を超える鉄道会社があります.各社が抱える問題,課題には,個別の事情によるものもあれば,各社共通的なものもあります.本講義の中でも何度か話題になりましたが,競争から協調の時代になった今,監督する国も含め,関係者が一体となって安全で便利な鉄道を支えていく取り組みが,今後はますます重要になると思います.東京経済大学経営学部も,その一端を担えるよう,これからも活動していきたいと考えています.
















2024年12月9日月曜日

ゼミ活動紹介:関東学生マーケティング大会に参加しました!


広告論を担当している鴇田です。
鴇田ゼミでは、関東学生マーケティング大会に参加するため、グループで研究論文を執筆することを活動の大きな目標としています。

関東学生マーケティング大会とは、関東圏にある大学の学生がチームを組み、約半年間にわたり研究・プレゼンテーションを重ね競い合う大会です。
2024年度大会には、慶應義塾大学、嘉悦大学、早稲田大学、専修大学、中央大学、東洋大学、日本大学、明治大学、立教大学、千葉商科大学、埼玉大学の計13大学から19ゼミナールが参加しました。
ちなみに、同じ東京経済大学の森岡ゼミも同大会に参加しており、私自身も学生時代に森岡ゼミの一員としてこの大会に参加した経験があります。

6月に開会式を行い、9月に中間発表、10月に論文提出、11月に2回のプレゼン審査が開催されます。
学生たちはそれぞれの締切に合わせて、論文を執筆したり、発表用のプレゼンテーション資料を作ります。
鴇田ゼミは今年新しくできたばかりのゼミなので、経験者の先輩もおらず、研究の進め方やプレゼンテーションの方法にゼミ生たちが苦労している様子が伺えました。

各グループの発表タイトルは以下の通りです。
バンドリングという販売手法が持つ魅力ーカスタムバンドリングと固定バンドリングの視点からー
ご褒美消費が満足感に与える影響とその要因の解明
動画配信サブスクリプションサービスを利用する阻害要因の解明―マイリスト登録に着目して―
服のサブスクリプションサービスの利用を阻害する要因の解明

残念ながら4グループとも11月30日に行われた最終審査に進むことはできませんでしたが、やはり最終審査に進むグループは研究内容もプレゼンテーションも非常に優れており、納得の結果です。


↓当日の発表の様子



半年間頑張ってきた研究に最終的な順位がついてしまうことに対して、「酷だ」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、どこに改善点があったのか、何が足りなかったのかに気づくことができるこのような大会に参加することは、学生たちにとって非常に良い成長の機会となります。
さらに、自分たちが将来「就職活動」という場でライバルとなる他大学の学生たちの能力や取り組みを知ることは、就職活動に向けた意識を変えるきっかけにもなるでしょう。

↓大会終了後の立教大学にて


文責:鴇田彩夏

2024年12月2日月曜日

寺本ゼミ 北海道での活動報告

 


【外の世界へ】

経営学を勉強・研究していると,多くの場合,理論の世界と実務の世界を行き来することが重要になります。

いわゆる講義や大学内でゼミ活動をする場合,経営学やその他専門分野の理論の世界に深く入っていくことになります。

私自身は理論の世界が大好きなので,ややもするとこの理論の世界に留まってしまうのですが,本来それはよくありません。

自戒をこめて言うと,経営学は企業などの組織や事業を対象とした学問であるので,組織や事業の実務とは不可分です。

しかし,講義や大学内でのゼミ活動でそのような実務を触れ合うのは容易ではありません。

その意味で,経営学の勉強や研究を進めていくうえで,大学を飛び出して実務の世界をみてみるというのも非常に重要となります。


そんなわけで,寺本ゼミでも,ただ単に教室内で議論をするだけではなく,教室内で勉強したり自分たちが調べたりしたことを実地に出てみるという試みをできる限り行うようにしています。



寺本ゼミでは基本的に自分たちの好きな・興味関心のあるテーマに基づいてグループで研究してもらいます。

ただ,私自身,北海道仁木町のワイン産業や地域活性化をテーマに研究しており,同じく北海道やワイン産業に興味関心がある学生は,そのテーマについて扱うことも歓迎しています。


本年度は3グループ10名が北海道のワイン産業や仁木町の地域活性化にむけた研究に参加してくれました。

ただ,座学や図書館・インターネットでの調査に留まらず,実際に北海道仁木町に行って,研究に協力してくださっているワイナリーで活動を行いましたので,このブログで活動報告を行います。



【概要】

・北海道仁木町のワイン産業や地域活性化の振興施策を考える

・寺本が所属している研究チームのメンバーが勤める他の大学との共同プロジェクトです。

・具体的には,本年度は拓殖大学・東京経済大学・東京理科大学・北海学園大学・明治大学・目白大学(大学はアイウエオ順)の学生が参加しました。



【活動期間】

10/5(土)から10/6(日)


【仁木町のワイン産業について】

北海道仁木町は北海道の西部,海鮮や運河で有名な小樽や,ニッカウヰスキーの蒸留所があることで有名な余市のすぐ近くに位置します。

仁木町はサクランボやリンゴ,そしてブドウなどの果樹栽培が古くから盛んな町です。

日本では,特にワイン用のブドウの栽培は長野県や山梨県で盛んでしたが,ここ数年,北海道でもワイン用のブドウの栽培が増加しています。

そして同様に,ワイン産業自体も,日本国内では長野県・山梨県で盛んでしたが,最近では北海道で新規ワイナリーの設立が相次いでいます。

1970年代,当時アメリカで主流であったそこそこの品質のワインを大規模生産するという動きから,ワイナリーが管理可能な分だけ葡萄の生産を抑え,その代わり高品質のワインを追求するという,カリフォルニアを中心に始まった「ブティックワイナリー」という考え方があります。

北海道仁木町でも最近増えつつあるワイナリーはこういった「ブティックワイナリー」を模した形となっています。


北海度の活動では,ワイナリーの葡萄の収穫を体験したり,実際にワイナリー(醸造所)を見学させてもらったりします。




10月は各ワイナリーで葡萄の収穫がピークを迎えます。

いくら「ブティックワイナリー」といっても,特にこの収穫期は人手がいくらあってもよいくらいに忙しい時期となります。


ワイン産業というと,あたかも優雅なイメージがあるかもしれませんが,その本質は農業であり,この忙しい収穫作業を学生たちに体験してもらうことによって,机上の空論を超えたワイナリー経営の現実を体験してもらいます。

本来,この忙しい時期に作業に不慣れな学生が参加することは賛否が分かれるところですが,学生を受け入れてくださっているワイナリーの皆様には本当に感謝申し上げます。



こうやって文字にすれば当たり前のことですが,圃場(農地)ですから,

・虫もいます

・天気にも左右されます(今年は非常に天気には恵まれましたが,雨などでも作業は行われます)

・体力的にもきついです

・もちろん汚れます(土・泥・そしてブドウの果汁)


さらに,ワイナリーによって作業方法やこだわりのポイントが違います。



そんなことをただ机上で議論するのではなく,実際に体験しながら,そして学生同士で情報共有しながら,ワイナリー経営について身をもって知識を蓄えていきます。


【仁木町の地域活性化】

ただ個別のワイナリーについて知るだけでなく,仁木町を盛り上げるためにはどのようなことができるのか。

この北海道での活動では,ワイナリーを手伝うということと同時に,仁木町やその周辺地域にある地域活性化に使えそうな資源の発掘を行うということを行います。

仁木町のフィールドスタディ―です。


これは全くもって偶然なのですが,今年は仁木町内にあるフルーツパークにき で「しりべしの食祭りat農村公園フルーツパークにき」が開催されており,そういった催し物に実際に訪れたり,

 参考)https://www.shiribeshi.pref.hokkaido.lg.jp/ss/srk/kankou/200083.html


その他,仁木町のキャンプ場を訪れたり,さらには余市や小樽を散策する学生もいました。



このような実地での活動は,それ自体が楽しく,それだけで満足してしまうことが多いですが,それだけで終わってしまっては意味がありません。

この経験を次は教室に持って帰り,自分事として捉え,言語化することが重要です。

そして,そこからもともとの目的「北海道仁木町のワイン産業や地域活性化の振興施策を考える」を高いレベルで達成できると良いと考えています。


2024年11月25日月曜日

自分の買い物行動を考えたら見えてくるもの

流通論を担当している本藤貴康です。

大学で学ぶ学問領域としてマーケティングというのは非常に人気のあるテーマです。東京経済大学にはマーケティングを深く学ぶために流通マーケティング学科が設置されていますが、本学ほどマーケティングを専門とする専任教員が多い大学も珍しいと思っています。グローバル・マーケティング、サービス・マーケティング、インダストリアル・マーケティング、流通、マーケティング・リサーチ、小売経営、流通史、消費者行動、広告と、マーケティングに関わる授業は多岐にわたります。

高校生や大学生がマーケティングに興味を持つときに、興味のあるコトバとして「広告」とか「ブランディング」あたりが挙がってくることが多いと感じています。

流通論の授業で「商品の売上を増やすために、メーカーはどのようなことを考えると思いますか?」という質問をすると、必ず「広告宣伝を積極的に行う」という意見が出てきます。アメリカでも著名なマーケターたちが広告宣伝をどれだけ投入するかに注目しており、広告宣伝は重要な販売促進手法として位置づけられています。

では、本当に広告宣伝量が増えればヒット商品を生み出せるでしょうか?

自分の買い物行動を考えてみてください。

あなたがテレビCMSNSの広告を見たとします。自分が目にした広告を見て欲しいと思うことはどれだけありますか?

仮に「欲しい」と思ったとします。そこですぐにお店に行って買うことはありますか?

しかも、広告はテレビCMSNS広告だけではありません。新聞や雑誌の広告もあります。様々なアプリを使っている最中にも多くの広告を目にすると思います。これだけ多くの広告宣伝が溢れ返っている日常生活のなかで、あなたが抱いた「欲しい」という気持ちはどれだけの時間あなたの頭の中にとどまっているでしょうか?

まず生活空間のなかで発信されてくる無数の広告のなかでその広告を目にするハードル。次にその広告で情報提供されている商品名や商品特徴などの内容を認知するハードル。それから、あなたがその商品を「欲しい」と評価するハードル。そこからその商品をお店に「買いに行く」ハードル。このハードルは即時対応するのはなかなか難しいですね。そのあとに売場でその商品を買い物かごに入れるといハードルがあります。隣に同じような商品があったり、さらに低価格の商品があったりするなかでの意思決定になります。最後にその商品を買い物かごに入れたままレジ精算するまでのハードルです。なかなか多くのハードルが存在するのです。

その商品のブランディングを考えると、初回購入から二回目、三回目とリピート利用してもらう必要があります。これは更に高くそびえ立つハードルとなってくるのです。

つまり、広告宣伝をしてもそう簡単に売上に結びつくものではありません。

 一般に広告宣伝は助成想起の役割を果たしていると言われます。

自分の反応を思い返してみても分かると思いますが、何かしらの広告宣伝を目にしても、それを買いにお店に直行する消費者は稀なのです。それでも、買い物行動は日常的に発生するので、売場に訪れることは数多くあるはずです。

そして売場を歩いている最中に、「あれ?これってこの前広告で見た商品かな」と売場で何かしらのきっかけがあって商品を思い出すことがあります。それを助成想起と言います。

広告宣伝は直接的というよりも間接的に売上を支援する役割を果たしていますが、企業側はそのために広告宣伝費に巨大な予算を充てているといえます。それほど消費者の頭の中にブランドを食い込ませていくことは難しいのです。

文責:本藤貴康

2024年11月18日月曜日

横須賀初上陸&後期の小木ゼミの活動(小木ゼミ通信 VOL.45)

  マーケティング論、ソーシャル・マーケティング論、消費者問題担当の小木です。 45回目のブログになります。メニューとして、横須賀初上陸(教員はこんなこともしています)とか、小木ゼミ通信(最近のゼミ活動の様子)を書き綴っていきたいと思います。


横須賀初上陸

 8月札幌、9月山形、10月京都などなど、それぞれ仕事で行ってきましたが、直近の11月は横須賀に高校への出張講義で初上陸しました。

 11月の初旬、人生で初めて横須賀(神奈川県)に行ってまいりました。メインは、高校への出張講義(マーケティング講義)でした。当該高校は芥川龍之介も教鞭をとったことのある由緒ある高校で、先生方にも大変お世話になり、当日は授業後の自主参加にもかかわらず、たくさんの高校生が講義に参加してくれました。生徒さんは90分間熱心に講義に耳を傾け、質問もしっかりとしてくれて、こちらも大変熱が入りました。とても嬉しくも楽しく講義ができました。高校生の皆さんの進路に少しでも役立っていればと思う由です(東経大を選んでくれたのなら、なお嬉しいです)。

 さて、初めての地でしたので、かなり早めに現地に向かい、高校の所在を確認した後、横須賀の街を散策しました。米軍基地もあるため、沖縄以上に街にはアメリカの方が多く見受けられました(体感的には、驚くほど多いです)。実際には3万人近くいるようです。DOBUITA ST.を抜け、軍港巡りもしてきました。日米のイージス艦が10隻、潜水艦、駆逐艦、戦艦などたくさん停泊していて、実に壮観な風景でした。そのなかで、おやっと思ったのが韓国の軍艦が3隻入港していたことです。これは大変珍しく、普段はみられない光景で、レアキャラを見られたようです(2日ほどしか停泊していないそうです)。かなり異空間に感じましたが、とても興味深い散策となりました。この日は、大変充実した日になりました。

横須賀港の風景


小木ゼミ通信

 このブログのサブタイトルにも小木ゼミ通信とありますように、毎回、最近の小木ゼミの活動報告をしております。以下、簡単に紹介させていただきます。

●9月に、小木ゼミ(約40名)は、秩父にて夏合宿(2泊3日)を行いました。
メニューとしては、4年生による就職相談会、アイディアコンテストの発表、深夜のSPI、花火大会、BBQ大会、スポーツ大会、そして伝統行事の出し物大会(4時間)と続き、最後の〆は愛のエプロン(料理対決&小木に食事を作る会)と、もう本当に盛り沢山でした。毎年、夏合宿後は、まじめに倒れます。いつまでできるか心配ですが、体が続く限り、頑張ってやっていこうと思います。

●TFTコラボですが、東経大生協×小木ゼミ×TFT(テーブルフォートゥー)で行う「健康ランチ」が、第1弾11月25日~29日、第2弾12月2日~6日に提供されます。(下記の写真のメニューとなります)。TFTプロジェクトは、TFT×東経大生協×小木ゼミの女子による企業コラボです(小木ゼミの女子は33名もいるので、必然的に女子イベントが多くなります)。当該ランチメニューを購入いただくと、1食あたり20円分をTFTを通じてアフリカの子どもたちの給食に寄付する取り組みです。小木ゼミは、このTFTランチのメニューの考案とプロモーションを手掛け、毎年、前・後期で実施しています。詳しくは、下記チラシ、大学生協食堂のPOP、立て看板などでもご確認ください(すべて小木ゼミ作成)。この機会にぜひ食べに来てください!

【後期 第1弾】11月25日㈪~29日㈮ 【サーモンポキ丼】シャキトロ!SKT丼

サーモンポキ丼 11月25日~29日



【後期 第2弾】12月2日㈪~6日㈮ 【トマトキーマカレー丼】真っ赤なトマトのキーマカレー ブロッコリーも載せちゃって

トマトキーマカレー 12月2日~6日



●11月20日 東京都の方から説明を受け、東京都に向けて、消費生活の新たなアイディア提案を行う予定です。

●11月27日 NAGAOKAへの新商品の提案を、長岡社長に対して3つのプレゼンを行います。オープンゼミにもなっています。1年生の皆さん、ぜひ小木ゼミにいらしてください。

●12月7日 経営学部ゼミ研究発表があり、小木ゼミも報告させていただきます。

●12月11日 アイディアコンテスト決勝戦に臨みます。

●12月14日 多摩大学アクティブラーニング祭に、小木ゼミが招待され、小木ゼミの企業コラボについて発表してきます。

●12月18日 Xmas会&幹部交代式で1年を締めくくります。

●1月18日 小木OBOG会を開催します。


2024年11月11日月曜日

先生、アイデアが浮かびません!:レポート・論文を余裕をもって仕上げる方法(2)

 経営組織論を担当している山口です。東経大経営学部では、12月7日(土)13:00~「経営学部合同ゼミ報告会」が行われます。この報告会は、経営学部の各ゼミが、1年間のゼミ研究の成果を発表するものです。高校生の皆さんも、聞いていただくことができます。(詳細は、こちらの東経大ニュースをご覧ください。https://www.tku.ac.jp/news/2024/2024-1111-021.html

 山口ゼミでも、現在、この合同ゼミ報告会に向けて3チームが研究を進めているところです。

 さて、ゼミ合同報告会に向けて、研究をプレゼンにまとめていく際に学生の皆さんが苦労するのが、「アイデアが浮かばない」「結論がまとまらない」ということです。

 このようなとき、「アイデアが降ってくるまで待とう」とか「気が乗ったときに書こう」と放置してしまうと、締切ギリギリに無理矢理書く「一気書き症候群」に陥ってしまい、結果的にいいプレゼンができなくなってしまいます。

 そこで今回は、「どうしたらよいアイデアが浮かぶのか」について、考えていきたいと思います。

 

1.「アイデアを考えてから書く」は間違い!?

 まず、「よい研究を、楽に、生産的に行う方法」について研究しているボイス先生の実験を紹介しましょう(Boice, 1990, pp.81-84)。

 彼は、論文を書き上げるのに苦労している大学教員を27人集め、9人ずつ以下の3つのグループに分けました。

 そして10週間にわたり、①毎日どれだけ論文を書いたか、②新しいアイデアを何日に1回思いついたか、を調査しました。

  • A:「よほどのことがない限り書いてはいけない!」と、執筆を禁止されたグループ
  • B:「気が乗ったときだけ書けばよい」と言われたグループ
  • C:毎日の執筆スケジュールが与えられ、「毎日3ページ書かないとペナルティを与える」と言われたグループ

 Aは、「論文を書くのを禁止すると、かえって書きたくなってアイデアが浮かぶはず!」という考えに基づいています。

 Bは、「アイデアが降ってきたときに一気に書けば、楽にたくさん書けるはず!」という考えに基づいています。

 Cは、「書くという作業を強制すれば、アイデアが浮かんで書けるはず!」という考えに基づいています。

 ですので、AグループやBグループの人たちは、「この条件だったらいいアイデアが生まれそうだ」と喜んで実験に参加しました。しかし、Cグループの人だけは「一応何か書けるだろうが、こんなふうに強制されて、クリエイティブなアイデアなど生まれるだろうか・・・」としょんぼりしていたそうです。


 さて、皆さんは、A・B・Cのどのグループが、一番多く書いたと思いますか?

 また、新しいアイデアを一番多く思いついたのは、どのグループだと思いますか?


 結果は、以下の通りです。 

                             (Boice, 1990, p.83)

 なんと、1日の執筆量が一番多かったのも、新しいアイデアを一番多く思いついたのも、Cグループでした!

 書かないとペナルティが与えられるCグループは、気が乗ったときだけ書くBグループの3.5倍、執筆を禁止することでアイデアを生みやすくしたAグループのなんと16倍の量を執筆していました。

 なぜこれだけ多く書けたかと言えば、Cグループの方が新しいアイデアが多く浮かんだからです。Cグループでは、新しいアイデアが1日1回浮かんだのに対し、Bグループは2日に1回Aグループは5日に1回でした!


2.書くことでアイデアが生まれる!

 以上の実験からわかるのは、「アイデアが生まれたから書く」のではなく、「書くことでアイデアがうまれる」ということです。

 「え!?」と思うかもしれませんが、学生の皆さんも、締切ギリギリになれば何か書けるのは、書かざるを得ない状況に置かれればアイデアは何とか生み出せる、ということではないでしょうか?

 ボイス先生は、なぜこのような結果になったのかについて、二つの理由を挙げています。

(1)Cグループは書くことについて常に考えていたのに対し、他のグループはほとんど時間を使っていなかったから。

 つまり、書くことが一番の関心事になり、いつもそれについて考えていれば、新しいアイデアも浮かびやすくなるというわけです(実際、Cグループは、毎日書くことを強制されていたのですが、3グループの中で最も楽しんで、苦労せずにアイデアを生み出していたそうです)。

(2)論文を書くことは、アートなど他のクリエイティブな仕事と同様、複雑なスキルを必要とするので、毎日繰り返し行わないと思考プロセスが向上しないから

 プロの画家は、毎日たくさんの絵を描くことで、絵を描くスキルを向上させ、独創的な絵を描けるようにしています。研究やビジネスでのアイデア創造も、それと同じで、毎日コツコツやれば上達する、というわけです。


3.アイデア創造力を高める方法=「毎日書くこと!」

 「え?研究者でもないのに、毎日論文を書いたりプレゼンを作ったりするの!?」と思ったかもしれません。

 実は、ノースカロライナ大学の心理学者であるシルヴィア先生は、「最初は、週4時間で十分」(Silvia, 2007, 邦訳14頁)と言っています。1日あたり30分ちょっとです。これなら、大学生の皆さんでも宿題をする感覚でできるのではないでしょうか?


 そうです。「プレゼン」とか「論文」と思うから大変なのであって、それらを「経営学の理論についての教科書の要約」、「ケースの分析」・・・などの「作業」に細分化すれば、やっていることはゼミの宿題と同じなんですね。ですので、宿題と同じように進めていけばよいということです。(この「大きな仕事の細分化」については、前回(9月2日)の私のブログも参考にしてください。(https://tkubiz.blogspot.com/2024/09/1.html))


 実際に「毎日コツコツ法」を実践してくれた東経大生の事例を紹介しましょう。

 先週の卒論指導のとき、山口ゼミで卒論を書いている4年生が、たった2週間ですごくたくさんの文献を読み、論文全体の構想をA4用紙5枚にわたりびっちりまとめてきてくれて、内容もずいぶんよくなっていたので、「どうしたの?」と聞いてみました。

 彼女は、前回の私のブログを読んで、「作業を細分化すればいいんだ!」と気づき、毎日少しずつやるようにしてみたのだそうです。彼女によれば、「特に苦労したつもりはなかったけれど、気づいたら研究が結構進んでいた」とのことです。彼女は、国立国会図書館まで文献を探し行ったそうで、そこでよい文献がみつかったことで、研究がグーッと進んだようです。

 東経大図書館の図書館で文献を探す人は多くても、国立国会図書館まで行って文献調査をする人はなかなかいません。これなどは、時間に余裕があるからこそできることであり、締切ギリギリでやっていたら、このように文献調査に時間をかける余裕もなく、限られた文献で書かなければならないので、余計に卒論を書くのが大変になるでしょう

 「毎日コツコツ法」だと、本当に「苦労した」という感覚なしに、よりよいクオリティの研究ができるのだなあと、実感させてくれた事例でした。


4.「毎日コツコツ法」でアイデア創造力を高めよう!

 現在の日本は、経済成長のために、イノベーションの創出だけでなく、他の国よりも低い生産性を改善すべく、既存事業の改革にも取り組む必要があります。

 イノベーションの創出にも、既存事業の改革にも、新しいアイデアは不可欠です。

 東経大にも、「将来は起業したい」とか、「就職してから新商品の開発の仕事をしてみたい」という学生さんがたくさんいます。しかし、その中には「ビジネスや、製品のアイデアを創造するのに、何から手をつけていけばよいかわからない」という人もいるかもしれません。

 そういう人は、まずはゼミに入り、ゼミでの課題をこなしながら、研究を進めていくとよいでしょう。東経大には、

(1)現在の日本社会・日本企業の問題点を分析して、自分なりの解決策を考えるゼミ

もあれば、

(2)優れた経営者がどのような戦略や組織を創造して、高業績を実現していったのかを、経営学の理論を使って分析するゼミ

もあります。

 (1)のゼミは、コンテストに応募したり、企業とのコラボレーションをしたりして、高い成果を上げており、人気があります。

 ただ、山口ゼミは、こうしたゼミとの差別化も考慮し、あえて(2)を行っています。

 将棋のプロが①「定石」を学び、②その知識をもとに偉大な先人の棋譜を分析することで、独創的な手を考え出す力を養うように、優れた経営者も、最初から自分で問題解決のアイデアを考えているわけではなく、①経営学の「定石」を学び、②その知識をもとに優れたビジネスモデルを分析することで、独創的な経営方法を考えているからです。

 大学生には、経営の「定石」(経営学の専門知識)をしっかり学び、それをもとに優れた企業のビジネスモデルの分析(ケース分析)をすることで、社会に出ても通用するアイデア構想力を身につけてほしい、というのが山口ゼミの考え方です。

 amazonが経済学の博士号を持った人を大量に雇ってデータ分析に基づく経営を進めているように、世界では、「素人の思いつき」ではなく、専門知識に基づく高度なビジネスの構想力が重要になっています。「定石(経営学の専門知識)」をしっかり身につけ、他の学部出身者にはない経営学部出身者ならではの、より高度なビジネスのアイデアを考える力を身につけることが重要です。

 2年生からゼミに入り、卒業までの3年間、毎日30分ゼミの課題を中心に、経営学の理論を学んでノートにまとめたり、成功した企業の事例についての文献を読んで要点をノートにメモしたり、論理的思考法の問題を解いてみたり、プレゼンをまとめたり、論文を書いたり・・・という作業を続けたら、経営学の専門知識や、それをもとにアイデアを生み出す思考力などが、ずいぶん向上するはずです

 もちろん、毎日30分で書く内容は、自分の目標に沿って決めても構いません。例えば、起業したい人だったら、ビジネスプランの立て方についての本を読んで内容をノートにまとめる、優れたビジネスプランを調べてその特徴をメモする、自分でビジネスプランを考えてみる・・・などでもOKです。読むべき本などを先生に相談してみるのもいいですね。

 たった30分ですが、その積み重ねは侮れません。

 東経大の皆さん、「毎日コツコツ法」でアイデア創造力を高めていきましょう!

(文責:経営学部准教授 山口みどり)

参考文献

Boice(1990)Professors as Writers: A Self-Help Guide to Productive Writing, New

   Forums Press. 

ポール・J・シルヴィア(2015)『できる研究者の論文生産術:どうすれば「たくさん」書

  けるのか』講談社.

2024年10月31日木曜日

「選挙は買い」ってなに?不思議なアノマリーのお話。

 本日は、アノマリーについてお話ししたいと思います。

 10月27日に衆議院選挙がありましたが、この時、実に40年ぶりにあるアノマリーが崩れたことが話題になりました。

 それは「選挙は買い」というアノマリーです。

 アノマリーというのは、現在の理論の枠組みでは説明できなかったり、あるいは明確な理論的根拠があるわけではないのに、経験的に観測できる証券市場の規則性のことです。

 「選挙は買い」もそうしたアノマリーの一つでしたが、衆議院の解散前日と投開票日直前の日経平均株価を比較すると、1979年から過去15回はすべて値上がりだったのに対し、今回は値下がりになったそうです。

 アノマリーには面白いものもあり、「腕組みの法則」と呼ばれる、会社のホームページで社長が腕組みをしている企業は業績が伸びず、株価も下がるという法則だったり、サザエさん効果(日曜日に放送される「サザエさん」の視聴率が上がると株価が下がり、視聴率が下がると株価が上がる)、ジブリの法則(金曜日にスタジオジブリ作品が放送されると、週明けの株式相場が大幅に下落するという法則)なども知られています。

 ここまで来ると、いくら理論的に説明できない現象であるアノマリーとはいえ本当にそんな現象があるの?という疑問が湧きますが、サザエさん効果については、大和証券グループのシンクタンクである大和総研の2005年のレポートで報告され、2006年には『サザエさんと株価の関係―行動ファイナンス入門―』として出版され、そこでは、「サザエさん」の視聴率とTOPIXの関連性を見ると、NY株との関連性よりも強かったそうです。

 こうしたアノマリーが「現在の理論の枠組みでは説明できない」とされるのは、伝統的かつ標準的な経済学においては、「人はみな合理的な選択をする」というのが基本的な考え方の前提となっているためです。

 しかし、皆さんも実感があるでしょうが、人間というのは常に合理的な行動を採るわけではありません。

 そうした、現在の理論の枠組みでは説明できない行動や、明確な理論的根拠があるわけではない「非合理的」と思われる行動がもたらす現象について、「人は常に合理的に行動するとは限らない」という前提に立って考えていく学問を、行動ファイナンス理論といいます。

 例えば、あなたの目の前に、以下の二つの選択肢が提示されたとしましょう。

  選択肢A:100万円が無条件で手に入る。

  選択肢B:コインを投げ、表が出たら200万円が手に入るが、裏が出たら何も手に入らない。

 選択肢Bは50%の確率で200万円が手に入りますが、50%の確率でなにも手に入らないわけですから期待値は、200万円×0.5+0×0.5=100万円となります。

 つまり、実はどちらの選択肢も手に入る金額の期待値は100万円で同額なのです。

 しかし、この質問を実際に行うと、一般的には、堅実性の高い「選択肢A」を選ぶ人の方が圧倒的に多いとされています。

 これは、人間は目の前に利益があると利益が手に入らないというリスクの回避を優先するためであると考えられています。

 もちろん、人間には様々な性格がありますから、「自分は運が良い人間だ」と思える自信過剰な人であれば、仮に200万円が手に入るリスクが5%だったとしても、そちらを選択するかもしれません。逆に、「自分は運が悪い人間だ」という風に思う人であれば、期待値が低かったとしてもリスクの少ない方を選ぶかもしれません。

 このように、様々な心理的または感情的な要因に従って行動を選択する人間が存在する結果が、証券市場のアノマリーとして表れてくると考えられます。

 行動ファイナンスの登場は、従来の学問の理論的な枠組みから排除されていた人間や組織の非合理性であるが自然な反応を,学問の枠組みで再び考え直してみようという取り組みであると評価できます。

 世の中は多様性(ダイバーシティ)と受容性(インクルージョン)が重視されていますが、行動ファイナンスの登場は、学問の枠においても、この世界には多様な人間が存在することを受け入れ、それぞれの個性がどのような影響をもたらすのかを考えるようになってきたといえるかもしれません。

(文責:経営学科 板橋雄大)